四十三話 誕生パーティ
本編を覚えてる人がどれだけ居るのか・・・・
ルークが目を開けると元の小部屋に戻っていた。
神様との対面時間は終わったようだ。
「いかがですか? 自分の中に魔力を感じますか?」
魔力どころか魔術も神託の前から使えていたので変わった様子はないが、秘密にするために演技をする。
「はい。これが俺の魔力なんですね。まるで別人になったみたいです」
「それは素晴らしい、アルディア様に感謝しなさい。そして信者として神殿に通い、寄付をするのです」
この神父は・・・・。
金の亡者と一緒に居たくないので早々に部屋を出る。
「終わったのかい?」
「おかえりなさい、御無事でなりよりです」
「これで一人前の魔術師ですね~」
フィーネとユキは俺が特別な力を得るために精神世界に行ってた事を理解してるみたいだ。
「じゃあ帰るか」
早速、年に一度の神力を試したかった。
俺が魔力を使える事は全員が前々から知っていたので、別に歓迎される事はなかった。
「わかってたけどちょっと寂しいな」
「大丈夫ですよ。食事はエルが腕によりをかけてパーティ料理を作ってますから」
どうもフィーネは俺が「誕生日にしては何のイベントも無くて寂しい」と言ったと勘違いしている。
「いやそういう事じゃないんだ。アリシア姉は魔力量が多くてみんな驚いてたじゃん。そういうのが欲しかったな~って」
俺も『新しい力を授かった盛り上がり』みたいなのがしたかったんだ。
ほら漫画とかだと「な、なんだこの力は!?」とか「あれは選ばれし者だけに現れる紋章!?」とかオーバーリアクションで解説するキャラ居るじゃん
でも俺にはそういう楽しい仲間居ないな~って少しセンチメンタル・・・・。唯一の希望のユキは料理の手伝いで居ないし。
一応5歳って区切りの歳だから盛大に祝うらしい。
でもまだ学校に行ってないから招く友達とか居ないんだよな。
(友達。アルディア様を呼ぶか? 無理だな)
初めての神降臨が子爵次男の誕生祝いって・・・・。
夜に身内だけのパーティが開かれた。
「私が頑張って作りましたよ!」
そう言ってエルが料理を披露する。
『ステーキ』『ハンバーグ』『から揚げ』『アンパン』『ポタージュスープ』『かき氷』
全部俺が教えた料理だったよ。
嬉しいんだけど、なんか喜べない。新作料理で驚きたかったな。
でもエルが自信を持ってオススメ出来る料理なんだから美味しかったし、気に入ってくれたみたいなので嬉しかった。若干アレンジも加わっていてそこは楽しめた。
「僕と母さんからはコレだよ」
父さん達からのプレゼントは貴族の礼服。
「ありがとう。でもパーティには出席しないよ?」
どうせ真っ黒な貴族社会のパーティに出ろって事だろ。絶対に御免だ。
「大丈夫だよ。学校に行けば嫌でも出席する機会が増えるから」
「汚れた社会へようこそルーク」
親が子供にする話じゃないぞ。
レオ兄、来年までに貴族社会を変えてくれ。
「私達はコレよ!」
「俺とアリシア様から共同のプレゼントだ」
アリシア姉からは稽古用の木剣。
マリクと一緒に考えた結果、必要になる剣にしたらしい。
「これを手に取ったら明日から訓練しないといけないんだよね?」
「「もちろん!」」
プレゼントってもっと・・・・こう・・・・さ。
ね?
「僕はこれだよ」
レオ兄が取り出したのは小さな鳥のラペルピン。
王都に転入試験で行ったときに見つけたらしく、男が付けても違和感のないデザインだ。
貴族ならワンポイントのアクセサリーが女性との会話の切っ掛けに出来るからと言っていた。
(そのテクニックでどれだけの女子を口説いてきたんだ)
イケメンはプレゼントまでイケメンだった。
なんだよラペルピンって、男用ブローチみたいな存在を初めて知ったぞ。
「ありがとう、唯一嬉しいプレゼントだよ。でもパーティには出ないからな!」
レオ兄は「だろうね」と笑っていた。
家族のセンスを知っていたからこその「だろうね」なのか、「パーティには出なよ?」ってレオ兄なりの皮肉だったのかは知らない。
どちらにしてもレオ兄も通ってきた道なのだろう。
「コレは私達からニャ」
「誕生日は特別だから」
「頑張ったんだよ!」
猫一家からは手作りワンホールのフルーツケーキを貰った。
「う~、私が作りたかったです!」
エルが悔しそうにしている。リリ達が出来ることは限られるので、とっておきのデザートは譲ったみたいだ。
「ハチミツは私からのプレゼントですよ~。極上なのを採ってきましたよ~」
ユキも協力しているらしい。
早速食べてみる。
「うまっ! 砂糖とハチミツと果実が絶妙なバランスだ」
俺が一口食べた後はみんなで食べて、やっぱり同じような反応をする。
この世界にスイーツが流行るのも時間の問題だろう。
「前に美味しいデザートを聞いてたのはコレを作りたかったからか」
「ニャ」
「また作って欲しいなら考える」
「わたしとお姉ちゃんとお母さんが山で果実を集めたんだよ」
ニーナの顔が真っ赤だ。
つまり「べ、別にアンタのためじゃないんだからね、勘違いしないでよ! でも言ってくれたら作ってあげるから・・・・」ってことだろ? ツンデレさんなんだろ?
ニーナがデレた。
ヒカリはいつも良い子だな。
きっと集めた果実をツマミ食いしたんだろう。その光景を思い浮かべてホッコリする。
俺の癒しのヒカリたん。
それにしてもレシピを聞いただけで作れるとは猫一家やるじゃないか。
自分で器用と言うだけはあって、将来は料理人でも生活できそうだな。
「しかし美味し過ぎじゃないか? なんでこんなに美味しいんだ?」
前世でもこんなに美味しいケーキは食べた事が無い。
俺の教えたレシピだから、店で作るより美味しいはずがないんだけどな。
「フッフッフ~。私が持ってきたハチミツと氷包丁のお陰です~」
ユキが自慢気に話す。
「凄かったニャ。味見が止まらなかったニャ」
「ホッペが落ちそうだったよ~」
ユキ、どんなハチミツ持ってきたんだよ。
包丁もたぶん素材の味を100%活かせる匠の技が光る一品なんだろ? あれだ、切ったらフルーツの糖分が上がったり、品種が変わったりするはずだ。きっと魚を切ると生き返るんだぜ。
「とっても嬉しいよ、ありがとうな!」
そう言ってニーナとヒカリの頭を撫でる。
ニーナにはすぐに振り払われたけど、本気で嫌なら最初から触れないだろう。彼女が全力で避けに専念したら触れないぐらいの実力差がついてしまっている。
(つまり撫でて欲しかったんだろ? 数秒止まってたのは知ってるんだぞ)
ヒカリは嬉しそうに「ニヒヒ~」と笑った。超プリティ~。
「最後は私ですね。プレゼントはこちらです」
フィーネは緑色の腕輪を取り出した。
前々から5歳の誕生日プレゼントとして準備していたらしい。
風っぽい彫刻の入った木製の腕輪だ。
「お、良いじゃん。ありがとう」
大きくなったら腕輪としては使えないだろうけど、触り心地も良いしアクセサリーとして使えるな。
「もちろんただの腕輪ではありませんよ。エルフ族に伝わる魔道具です」
フィーネも魔道具作れたんだな。よく見るとこの風の彫刻って魔法陣だ。
「魔力を込めると防壁が発動します。常に身につけるようにしてください。サイズは自動調整されます」
試しに魔力を込めると、腕輪がピッタリと張り付いた。
同時に一瞬で目に見えるほど強力な膜に覆われた。
「何それ!? フィーネ私も欲しい!!」
あの戦闘マニアなアリシア姉が飛びついたって事は凄いのか?
「なあマリク、あれ買うとしたらいくらになると思う?」
「わかるわけないだろ。大金貨は確実だろうな」
あれあれ? 大人達が不穏な会話をしているぞ?
大金貨って1枚1千万だよ?
「すごーい! 千里眼でもルークが見えないよ」
あのユキを見つけれる千里眼で魔力探知できないの?
「ふっ!」
ニーナが強化した爪で切り裂くけど全然傷つかないよ?
あとニーナ、突然攻撃するのやめて。怖いから。
「フィーネさんは加減を知りませんね~」
あのユキさん、この魔道具なんなんでしょうか?
「ルーク様を守るためには必要な物ですから」
あのフィーネさん、加減をしないとどんな魔道具が作れるんでしょうか?
「ルークさん、結界を発動する時に魔力をどれくらい使いました~?」
「え、ほとんど使ってないと思うけど」
たぶん風呂を沸かすより少ない魔力しか使ってない。同じ結界を10回は余裕で発動できる。
「ルーク、その少ない魔力でさっきからずっと防壁が展開され続けてるんだよ」
「ああ、しかも攻撃を受けたら瞬間的に修復してたぞ」
「ルーク様を守る盾が壊れたままでは意味がありませんから」
自動修復されるんだ・・・・。
「魔力を吸収するので、私の攻撃を吸収すれば数ヶ月は持ちますよ~」
「持久戦にも対応しなければ」
魔力吸収できるんだ・・・・・・・。
「フィーネ、ありがとう。
でももう作らないで・・・・俺の魔道具が意味なくなるからさ」
なんだよ。
最初からフィーネに作ってもらえば俺いらない子じゃんよ。
現代知識でヒャッホイしてたけどフィーネの方が凄いじゃんよ。
ソーラーパネルで熱を吸収して、とか自慢気に話したけど無限の魔力吸収できるんじゃんかよ。
(なんだよ魔力吸収する無敵な盾って、なんだよあの複雑な魔法陣、どうせ腕輪の強度も凄いんだろ)
こうして俺の誕生パーティによって俺の精神は崩壊した。
なんでお祝いされてる本人が傷ついてるんだよ・・・・・・。




