閑話 クイーンホーネット2
ユキの協力によって理想の土地を手に入れたクイーンホーネット。
これから巣の拡大やハチミツ作り、配下の教育など忙しくなると将来について考えていたらユキが助言をしてきた。
「この森に住むなら偉い人に挨拶したほうが良いんじゃないですか~?」
たしかにユキの言う通りだ。名もなき森とは言え誰かの領地のはず、ハチミツを税金代わりに納めるのが筋だろう。
ドラゴンを倒せるほど強くなったとは言えクイーンは魔獣。会話が出来ないので通訳を名乗り出たユキと共に近くの街へ飛んできていた。
「あ、あの城なんて偉い人が居そうじゃないですか~?」
(たしかに、この近くで一番大きな城です。行ってみましょう。ユキさん、通訳お願いしますね)
空を飛ぶクイーンと、クイーンに掴まって飛んでいるユキが魔王の居城に突撃した。
「だ、誰だ!?」
「魔獣、キラーホーネット? いや銀色?」
そこには2人の魔族が居た。
魔王『バル』と執事『ゾイ』だ。
近くに別の魔力は感知できない、どうやら2人だけのようだが好都合だった。
大人数相手だと話し合いの前に戦闘になっていただろう。肝心なのは第一印象だ!
「ブーン(初めまして。クイーンホーネットと申します。この度、東の森にホーネットの王国を作ろうと思いまして挨拶に来ました。領地として貸していただけませんか?)」
クイーンがブンブン飛び回り挨拶をすると、ユキが翻訳を開始した。
「愚かな魔王に告げる! 東の森は我々ホーネット族が支配した! 今後一切の立ち入りを禁止する!」
クイーンの言っている事と多少表現に差があった。
「ブーンッ!(ちょっとユキさん! ちゃんと翻訳してくださいよ。それじゃあ敵対する気、満々じゃないですか!)」
「「ひぃっ!」」
何も知らない魔王達からすれば宣戦布告しにきたキラーホーネットが怒って飛び回っているのだ。
『東の森はドラゴンが住処にしている』という情報は入手していたので、この銀色のキラーホーネットはドラゴンを倒したということになる。
魔王といっても国を統治しているだけで、戦闘能力が低いバルにはドラゴンなんて雲の上の存在だった。
それを倒した? まずこの時点で敵対はない。
「よ、要望を聞こう」
バルは精一杯の勇気を振り絞り、魔王としての威厳を保ったままクイーンに話しかける。
「ブーン(我々としては平和に暮らせれば満足なので、魔族や冒険者が襲ってこないようにしてもらえれば嬉しいです。その代わりに定期的にハチミツを納めようと思います。あ、量は要相談しませんか? 今はちょっと少ないんですよね。
もちろん魔獣はこちらで退治しますし、迷い込んだ人が居れば森の外まで連れていきます)」
お互いに歩み寄って、平和で末永いお付き合いをお願いするために来たのだ。
「もし我々の森に踏み込めば命の保証はしない! 魔獣も魔族も関係ない、迷い込んだという言い訳でハチミツを狙う輩も同じだ。
とは言え貴様にも立場があるだろう。なので定期的にハチミツを少量差し出そう。それ以上望むなら・・・・わかるな?」
ユキはユキなりに一生懸命通訳をしているらしい。
しかし正しく伝わっていない。
「つ、つ、つまり。東の森には立ち入らないようにすれば我々は助かると?」
元々ドラゴンの住処である森に近寄ろうとするバカは居ない。現状と何も変わらないはずだ。
「ブーンっ!(ユキさん! はぁ・・・・いえ我々に害がなければ通り道にしてもらっても良いですし、魔獣退治のお手伝いもしますよ。
ハチミツの受け渡しは清潔な人だと嬉しいです。って伝わらないんでしょうね・・・・)」
「東の森を支配していたドラゴンを倒した私に敵はない! 力試しをするなら掛かってくるがいい! 私の視界に入ったときが戦闘の合図だ。よって我が森に侵入するのはオススメしない。
ハチミツの受け渡しは清らかな処女のみが行え、それ以外は敵対と見なす」
((やっぱりドラゴン倒したんだ・・・・))
魔王バルと執事ゾイは改めて目の前の脅威に恐れおののいた。
「も、もちろんあなた方に不快の無いよう心掛けます!」
クイーンに見られた瞬間、戦争になると言う。ドラゴンが居た時よりも厳しい条件だが守れない話ではない。
ハチミツの受け渡し役は王城に居るメイドの中から厳選すれば良いだろう。
「ブーン(自己紹介がまだでしたね。私はクイーンホーネット。キラーホーネットから進化した女王です。たぶん長生きなので末永いお付き合いをよろしくお願いします)」
「我が名はクイーンホーネット! キラーホーネットから進化した女王! 全てのホーネットは我が命令に従う! 永き付き合いとなるであろう。精々機嫌を損ねぬよう気を付けろ」
「「ははぁっ!」」
土下座する魔王と執事。
一応は意思の疎通に成功して平和協定を結べたので森へ帰るユキとクイーン。
(もしかしてユキさん。私の言葉がああいう風に聞こえてたんですか?)
「え? 普通に聞こえてますよ~。さっきは私なりに気を聞かせて下に見られないように翻訳してみました~」
2人が帰った魔王城にて。
「なんだよ進化って! 聞いたことないぞ!!」
「クイーンホーネット。単体でドラゴンを超える力を持ち、今後増えるであろうキラーホーネット達を操れると。すでに我が王国より戦力がありそうですな」
「俺は嫌だぞ! あんな化け物と交渉するなんて無理だ!」
「バル様は人気ですからな~。引退は出来ませんぞ。頑張ってホーネット達と仲良くしてください」
「いぃーやぁーだぁーーーっ!! 引退する! ぜーったい魔王辞めるっ!」
ユキの余計な気遣いによって魔王の精神は限界まで追い込まれて引退騒動に発展した。近衛兵たちからは「バル様、老けたか?」と言われるようになる。
「ではお元気で~。私達はいつまでもお友達ですよ~」
(本当にお世話になりました。何かあればいつでも頼ってください。また会いましょう!)
ユキとクイーンホーネットの友好関係はいつまでも変わらない。
たまにハチミツを求めて会いに来る友を心待ちにするクイーンホーネットは、今日もハチミツ作りと部下の育成に励む。
ハチミツの受け渡し小屋、通称『ハチミツ小屋』に駐在している女性は語る。
「え? 怖くないのか? いやいや、ホーネットさん達は良い蜂ですよ。この前はキングベアーから助けてくれましたし、野盗からも守ってくれます。よく果実とか持って遊びに来るので、もう友達って感じですね。
魔王様から「いつも大量のハチミツをありがとう」って感謝されますけど契約より多く渡されるってだけで、実はこっそりお菓子作ってホーネットさん達と一緒に食べます」
コンコン。
「あ、ホーネットさんが来たみたいですよ。最近のブームはこのリバーシです。今日こそは負けませ、あ、いやいや魔獣なんかに負けたことありませんけどね!
楽しい職場ですよ。結婚できない? あぁ処女がどうこう言ってたのは勘違いだったらしくて、不衛生でなければ誰でも仲良くしてくれますよ」
産業の中心をハチミツにして以来、バル魔王領は栄えていた。
他の魔王から「キラーホーネットのハチミツを安定供給する方法を教えてほしい」と頼まれるが最重要機密となっている。
「フハハハハッ! 我が力を恐れたホーネット達が勝手に献上してくるのだ! 貴様らも出来るだけの力があると言うならやってみるがいい!!
・・・・・え? クイーンさんが来た? ホーネットが駐在したいからハチミツ小屋を広くしろ? すぐにやれっ!! いちいち許可取らなくてもクイーンさんについては事後報告で良いんだよ、何十年近衛兵やってんだ!」
パワーバランスは言うまでもないが、一応魔王の面目は保たれている。




