閑話 ユキの一日
こっんにっちわ~。
みんなのアイドル、ユキちゃんですよ~。
ついに私メインの話がスタートします~。前書きまで私メインです「出ていけ」
はい。
ユキの朝は早い。
精霊のユキに睡眠が必要かどうかはさて置き、人として生きる以上は生活スタイルを合わせるようにしていた。
「今日は晴れですね~。何して遊びましょうかね~」
天候は精霊によって決まる。精霊と会話することが出来るユキは、1日の天気を知ることが出来るので寝起きにその日の予定を考えるのが日課だ。
もちろん気分屋なユキがその予定を守ることは少ない。
手早く寝巻の白いTシャツからメイド服に着替え、ユキは寝起きの顔を洗うために洗面所に行く。
「え~。まだオルブライトの人は誰も起きてないんですか~? お寝坊さんですね~」
傍から見るとただの独り言だが、ユキは水の精霊と会話しているのだ。精霊達が言うには今朝はルーク達が起きていないらしい。全員起きるとまず最初に顔を洗いにやってくるので間違いないだろう。
精霊と会話しながらユキは自分の仕事をする。
ユキの仕事は、トイレや風呂場など水周りの掃除。
マリクによって井戸から汲まれた水は毎日水温が違うので、精霊を操って一定の水温に変化させたり、周囲の湿気を完全に消し去って洗面所を綺麗にする。
このように魔術と精霊術を使って掃除にするのがユキ唯一の仕事なのだ。
洗面所を出たユキは屋敷内をウロウロしつつ、変わったものを探す。
先日は鳥の巣を見つけて子供達と一緒に観察した。
ウロウロしているとユキより早起きなフィーネと出会う。むしろユキの屋敷探索の終点はフィーネとの挨拶なのだ。
「おはようございます~。今日は1日いい天気ですよ~」
「おはようございます。では洗濯を済ませましょうか」
ユキの天気予報は確実だ。
フィーネはユキから聞いた天候に合わせて予定を変える。
ユキは最後の掃除場所である調理場へ向かう。
毎日ここを最後にしているのは、仕事とは別に目的があるからだ。
調理場ではエルが忙しそうに料理していた。
「おはようございます~。今日の朝食はなんですか~?」
「あ、おはよう。ねぇ聞いてよ! また友達が結婚したの! 私がドンドン取り残されていく~」
「おめでたいことじゃないですか~。お祝いの料理でも用意しますか~?」
「そうだけどさ~。お祝いか・・・・この前ルーク様から教えてもらったケーキがいいかな。あっ! ハチミツが買えない!? ねぇユキは安いハチミツって知らない?」
「知らないですけど、暇なのでハチミツ採ってきますよ~」
「本当っ!? ならお願いしていい?」
「お任せあれ~」
エルは料理する手を止めることなく雑談をする。ユキとエルは2人きりの時にタメ口で話すほど仲良くなっていた。ユキは誰にでも敬語なのでタメ口はエルだけだが。
ユキはお祝い料理について相談をしながら調理場を綺麗にしていく。同時に洗い物や料理など、エルの仕事を手伝うのが日課である。
ルークからはバカキャラとして扱われているユキだが、実は非常に有能なのだ。伊達に長生きしていない。
引き続き朝食の準備をするエルと別れ、ユキは庭にやって来た。
「今日も生意気な顔してますね~」
「グルーッ!」
日課になっているクロとの喧嘩を始める。
「遅いですよ~。弱い竜はただの鳥です~。あ、飛べないので鳥さんにも失礼ですね~」
「グルルーーッ!」
ひたすら攻撃するクロと避けるユキ。
ユキの手にはクロの朝食があり、ドンドン減っていった。
「完食まで5分20秒ですか~。まだまだ遅いですね。お肉以外も食べたいですか~?」
「グルー」
「フムフム、なるほど~。じゃあたまには甘い肉も用意しますね~」
毎日クロの朝食はユキが用意して食べさせる事になっていた。
「バイバイです~」
「グル~」
実はオルブライト家で一番クロと仲が良いユキは、軽くブラッシングをして別れた。
今度は庭で珍しい物探しを始めたユキは、早朝訓練しているニーナ達やマリクの訓練を眺める事にした。
「おはようございます~。ニーナさんはもっと全身で攻撃しないと威力低いですよ~。ヒカリさんは目に頼りすぎです~」
「「「おはよう」」」
たまに助言はするが手出しはしない。
ユキからすると全員まだまだ弱いが、一生懸命に動き回る訓練場を楽しそうに眺めている。
みんなで朝食を食べ終わると、今日の予定決めだ。
「ユキ。塩がそろそろ無くなるから採ってきてくれ。それが終わったら自由にしてくれていいから」
「わかりました~。今日は色んな場所に行きますから昼食はいりませんよ~」
ユキはたまにフラフラと居なくなる。そして大抵の場合は魔獣を持って帰ってくるので・・・・。
「魔獣退治っ!? 私も行く!」
このようにアリシアが食いつく。
「アリシアさん。知り合いに会うだけですよ~」
「なんだ・・・・ねぇ、その知り合いって強い?」
「秘密です~。フフフ~。ミステリアスな女性は魅力的なんですよ~」
全員から呆れられているが、ユキは自分が魅力的だと勘違いしていた。
「じゃあ海水を持ってきますね~」
「お願いな。俺は帰ってくるまでニーナ達と運動してようかな。いや、魔術の特訓もありか」
ルークが考え始める前にユキはアクアへ転移していた。
「あ~。高い場所に来ちゃいましたね~」
ユキは転移に失敗してアクア上空1000mの場所から高速で落下していたが全く慌てた様子がない。
「人に当たらなかったら大丈夫ですよね~。このまま潜りましょうか~」
何故か少し羽ばたいて大きな水しぶきと共に着水、さらに潜水。おそらく鳥の気分を味わっていたのだろう。
その日、アクアに様々な噂が飛び回った。
「隕石が落ちたんだ」
「いや魔術だ」
「人の形に見えた」
「神が降臨された」
落下地点に探索部隊が派遣されたが、当然海からは何の異常も見つからなかった。
本人が自覚しないだけで周囲に多大な迷惑を掛けているユキ。
もちろん反省なんて出来るはずがないので、またどこかで迷惑を掛けるだろう。
「ブラックシャークですね~。お土産に良いかもしれませんね。えいっ」
海水を集めている途中、軽い気持ちで浅瀬で最強の魔獣を仕留める。
「これだけあれば十分でしょう・・・・ただいまです~」
ユキは転移で一瞬のうちに帰ってきた。
その後、海水から塩を作って昼前にまた転移する。
今度の転移場所は魔界だ。
森の奥深くにあるキラーホーネット達の巣にやってきたユキ。
「どうも~。クーさん居ますか~?」
近くにいたキラーホーネットに尋ねる。
ブーンッ!
当然現れた馴れ馴れしい不審者に攻撃をするホーネット達だが、ユキの結界の前では数十匹が束になっても意味がない。
「やめてください~。針が痛みますよ~。クーさんは居ないんですか~?」
ユキの忠告も聞かず、ひたすら攻撃を続けるホーネット達。
数分の攻撃を耐えていると、別のキラーホーネットがやってきて周囲をブンブン飛び始めた。どうやら敵ではないと忠告しているようだ。
すると攻撃していたホーネット達が一斉に巣に戻っていった。
「あ、私を知ってるホーネットさんですか~? お手数おかけします~。クーさん居ます?」
攻撃を止めてくれたホーネットが頷いてどこかへ飛んでいったので待つことにした。
するとすぐに銀色の大きなキラーホーネットが現れた。
「あ、クーさん。お久しぶりです~」
ブーン!
「え? 自分はクイーンホーネット? 長いからクーさんで良いじゃないですか~。そっちの方が可愛いですよ~」
『クイーンホーネット』
黄色と黒の縞模様が通常のキラーホーネットだが、そこから進化した全身銀色の魔獣。
歴史上キラーホーネットの進化は確認されておらず、世界で唯一のクイーンホーネットとして群れを統べる女王。
個体としてCランクのキラーホーネットは、集団ではAランク近い戦闘力になる。その進化形態で群れを操るクイーンホーネットはもはや測定不能の強さである。
「実はハチミツが欲しくて来たんですよ~。あ、これお土産です~。海産物は食べれますか~?」
そう言ってアクアで仕留めたブラックシャークを取り出す。
ブーン
クイーンが指示を出すと一斉にホーネット達が群がり、一瞬で骨すら無くなった。
「食べれるんですね~。良かったです~。これにハチミツもらえますか~?」
そう言って手のひらサイズの壺を渡す。
ブーン
「え? そんなにいらないですよ~。お菓子を作るだけで十分です~」
ハチミツを大量にくれると言うクイーンを断って必要な量だけ受け取るユキ。
その後、昼食に森の果実を食べつつ思い出話に花を咲かせた。
「そろそろ帰りますね~。また会いに来ます~」
ブーン!
「は~い。クーさんもお元気で~」
そしてユキは消えた。
「ただいまです~」
「「うわっ!」」
ケーキの作り方を指導していたルークと、教わっていたエルが驚いてコケる。
2人が驚くのも当然だろう。
ユキは調理場の流し台の中に転移していたのだから。
「なんで倒れてるんですか~?」
「お前が転移する場所考えないからだろっ!」
「ビックリしたでしょ!」
エルは驚いて素が出ている。
「あれ? なんで怒ってるんですか~?
いつもの事じゃないですか~。慣れないといけませんよ~」
何故かルーク達が怒られていた。
「あ、エルさん。これ朝言ってたハチミツです~。どうぞ~」
「え? ありがとう! わぁ、すごい綺麗なハチミツ!」
「ウマッ! なんだこのハチミツ。今まで食べたハチミツで一番美味しいな」
おそらく人類史上初めてクイーンホーネットのハチミツを実食している2人。
そのハチミツを使った最高級のケーキをプレゼントされた新婚夫婦は涙ながらに食べたと言う。
「今日も楽しい1日でしたね~。明日は何をしましょうかね~。楽しみです~」
そしてユキは充実した1日に満足して眠りについた。
ロア商会の従業員達に無理を言って作らせた『特大冷蔵庫』の中に入って。




