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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四章 スラム

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閑話 黒猫の心

 わたしは名前のない黒猫。


 汚れているから茶色い黒猫?


 とにかく猫人族。



 旅の途中で拾った母猫と娘猫と一緒にスラム街で一生を終えるはずだった。


 でも食事をくれたフィーネが助けてくれた。



 そして治療されたはずのわたしは知らない場所に居た。


(ここは? わたし死んだの?)


 何もない真っ白な空間で、辺りを見回していると声をかけられた。


「こんにちは。黒猫さん」


 振り返るといつの間にか目の前に綺麗な女性が居た。


 全身真っ白でサラサラの長い髪と雲のようにフワフワしたドレス、透明な羽衣を身につけた女性が立っている。


「はじめまして、神様です。安心してください、あなたは生きていますよ」


 別にどうでもよかった。


 でもわたしだけ死ぬのは嫌だった、生きる時も死ぬ時も3人一緒だ。




 わたしが生きているのだとしたら、神様が何故わたしの前に居るのかわからない。


「あなたにお話があったので会いに来ました」


(話? なんだろう)


 私に知り合いは居ないし、言葉も上手に喋れないので前にいつ会話したかも覚えていない。


 間違えた。フィーネから食事を貰った。あとは妹としか話したことがないかもしれない。


「随分と不幸な人生を歩んでいますね。でも『彼』に関わった事で変わりますよ」


(彼って誰の事を言ってるの? わからない)


「まぁ時間はたっぷりありますから、この映像を見ながら話していきましょう」


 そう言って神様は人間の男の子を映し出した。


(これが彼?)



 その男の子の成長過程が流れる。



「彼はルークという人物です。あなたが目覚めたら傍に居ると思いますよ」


 そして神様は映像を見ながら色々語ってくれた。


 どんな人物か、どんな人生を歩んでいるのか。エルフや精霊との出会い、魔道具開発、食材の調理方法。


「あなたは自分に感情が無いと思っていますね。それは違います。自分で封じ込めているだけですよ」


 感情があると精神が耐えられなかったと、生きるために感情を殺していたと、神様は言った。



 よくわからないけど、神様が言う通りなのかもしれない。


 でも生きようとはしていなかった。


「心の奥底では必死に生きようとしていますよ。だからこそ感情を押し殺していたんです。

 これから少しずつ引き出していけばいいです」


 感情を取り戻すことが必要だと言われた。


(なぜ?)


「彼との生活で必要だからですよ。これからあなたは、いえあなた達は彼と過ごすのですから」


 フィーネからは自由に生きるように言われている。


 元気になったら、わたしに出来る仕事を探そうと思っていた。


「仕事は彼が紹介してくれますよ。でもあなたは彼から離れようとしないでしょうね」


(わたしが離れようとしない? 何故そう言い切れるのかわからない)


「神様ですからね。なんでもお見通しですよ。

 あなたは彼が好きになる、傍で尽くしたくなる、離れたくなくなる」


 よくわからないけど、そんなわたしじゃない。


 誰かに指示されたり、命令されるのは自分じゃない。操られているようでイヤだ。


「これから彼の暖かさに触れて感情を取り戻して、普通の生活をするだけですよ」


 わたしはそうならないと思う。家族3人で過ごすつもり。




「そうそう、妹さんが近々5歳になります。その時に魔力が暴走しますけど大丈夫ですから安心してくださいね」


(暴走? フィーネは元気になるって言ってた)


「今は誰にもわかりませんよ。私が魔力を授けて初めて覚醒するんです」


 今は普通より魔力の弱いただの獣人だけど、5歳になったら膨大な魔力を授かるらしい。


(なんで今わたしに言うの?)


「あなたが傍で手を握っていないと危険だからですよ。フィーネとユキが治療するのでその間ずっと妹の手を握っていてください」


(わかった。それで妹が助かるの?)


「そうです、必要なのです。彼と一緒に手を握ることが」


(2人で手を握るのが大切?)


「妹さんが生きようとする力を与えられるのは貴方達ですからね。ユキの魔術を通じで大切に思う心が伝わりますよ」


(それとわたしが彼を好きになるのは関係ない)


「いえ、妹さんを通じて彼の気持ちがあなたにも伝わってきます。そして好きになる、恋をする」


(それはイヤ、自由に生きたい。好きになりたくない)


「なら妹さんが死にますね。助かりませんよ?」


(それはもっとイヤ。私が彼を好きになれば助かるの?)


「それは違いますよ。ただ彼の心を感じ取って理解した時、知らない感情が生まれるはずです」


(それが恋?)


「あなたの気持ち次第ですけどね。でも彼から目が離せなくなります。もっと色々な感情を教えてもらいたくなる。彼の存在が心の中で大きくなります」


(絶対にそんな事にはならない)


「フフフ。どうでしょうね~」


 神様はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。




「彼の役に立つための生き方を教えておいてあげますね。もちろん行動に移すかはあなたの自由です」


 そう言って戦闘訓練の方法や運動メニューを教えてくれた。


 つまりこの行動をしなければ良い。


 わたしは絶対に彼を好きにならない。



「では幸多き人生になることを祈っていますよ~。

 あ、私と話したことで感情が溢れてきますからね~」


(妹のことを教えてくれてありがとう)


 最後になんて言ったのか聞こえなかったけど。




 そしてわたしは目覚める。


 神様の言った通りルークは傍に居た。

 

(あとは・・・・・・コイツを嫌いになるだけ)



 名前を付けると言うのでそれは受け入れることにした。


 これからの生活には必要不可欠なものだ。


 自由な猫になるように『ニーナ』と付けられたけど、言われなくても誰かの言うことを聞く気はない。



 わたしが身の上話をした後、ルークは母の猫語が気になったみたい。


 ニャ? わたしは別に普通に話せる。


 でもルークは母がニャと言う度に喜んでいる。


 何故か心がザワザワした。これが神様が言っていた恋をする前兆なのかもしれない。


 落ち着かない。とにかく落ち着かない。


「斜めに並んだ鍋」


 気が付くと母に対抗するように喋っていた。


 もちろん喜ばせるつもりはないので「ニャ」なんて言わない。


 彼はこちらを見て「ニャって言いたくなるだろ?」と話しかけてきた。


 そんなに猫に「ニャ」と言わせたいのだろうか?


 ここで素直に「ニャ」って言えばどんな顔をするだろう?


 別に気になったわけじゃない、どうでもいい。


「斜めに並んだ鍋」



 わたしが思い通りになるなんて思わないで。



 それから神様の言う通り、妹のヒカリが倒れた。


 ちゃんと治療する時は手を握っている。これで大丈夫なはず。


 生憎とルークもしっかり握っている。


 ヒカリの治療は無事に終わった。



(別に何も流れ込んでこなかった? これでわたしはルークを好きになんてならない、恋なんて感情は必要ない)



 彼女は気が付いていなかった。



 ルークと初めて会った瞬間から恋をしていた事に。


 彼女が生まれて初めて意識した人間である事に。


 まるで雛鳥が初めて親を認識した時のような気持になっていた事に。



 すでに感情を取り戻している事に。




「フフフ~。今回も1人の黒猫さんに完璧な神託を授けました~。

 あ、手を握っていますね~。これでメロメロですね~」


 駄女神の適当な神託によってニーナが恋を知るのはしばらく先の事になる。

もちろんニーナもヒロインの1人です

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