五百二話 変わる魔道具1
「「「うわぁぁぁ~~~」」」
新たな同志のために魔道具の話をしようとした矢先、女性陣がおもわず喜びの笑みを溢す朝食が運ばれて来たので、強制的に打ち切られてしまった。
そんな急ぐ話じゃないし俺も腹を満たしたいと思っていた所なので異論はない。ないのだが……。
「――っ」
俺は目の前に出された皿を見て凍り付いた。
ハチミツとアイスとチョコがたっぷり乗ったハニートースト。飲み物はおそらく甘々な果実汁。
これを見て喜べるのは相当な甘党のみだろう。
そして今、食堂に居る女子or老婆は全員それだったと。
やはり女性はいくつになっても甘い物は好きらしい。
半分は1000歳前後にも関わらず、この『美味しさとはカロリーであり、甘さである!』と主張し、日々カロリー制限に苦しむ方々に喧嘩を売っているとしか思えない朝食を嬉々として受け入れている。
俺もそれなりに好きな方だけど、これは流石にやりすぎだ。渋めの紅茶やコーヒーと一緒じゃないと絶対胃もたれする。
「ねぇ、これまだあるかしら?」
「それとデザートも」
「っ!?」
そんな俺の不安とは裏腹に、異次元の胃袋を持つ戦士達はおかわりは出来るか確認し、さらなる甘味を求め始めた。
「おかわりするのは今あるのを食べてからで良いじゃん……思ったより重たくて残すかもしれないじゃん。
食べる前から過剰注文って、食べ放題で取り過ぎて残すタイプの人種がやる蛮行だよ?」
「「「え? 何が?」」」
「消えた!? Fカップと同じ質量を持つパンが一瞬で消えた!?」
特に気にしていたわけじゃないけど自然と上座下座が分かれていたらしく、俺は丁度真ん中に位置していた。
その俺の前にハニートーストが置かれた時には、すでに女性達の前には洗われたばかりのような真っ白な皿があるだけ。
配られたばかりのニーナやイブの方へ目を向けると、やはり真っ白な皿が。
もはやイリュージョンだ。
「胸のサイズは胸周りから算出されるから必ずしもFとは限らない」
その視線を自分に話を振っているのだと受け取ったニーナは、速食に失敗して口の周りにシロップを付けたままで女の常識を説く。
可愛い。
ってそうじゃない。
「変なツッコミしなくていいから何が起こったのか説明して!
い、いや、食べたのはわかるけど、その素早い消化方法とか、まだ来てないミナマリアさんを待たない理由とか、お前が何故それに気付いていないのかとか!」
「っ!!!」
慌てて卓上のナプキンで口を拭おうとしたニーナは思っていた以上にベッタリ付いていることに気付き、ここで拭いたら逆に被害を広げるだけではないか、と迷い始めた。
停止すること数秒。
「(ばしゃばしゃばしゃ)……ふぅ。最善の選択」
両手に水の塊を生み出して洗顔をしたニーナは満足気に頷き、何事もなかったかのように食事を再開……しようとしてまだおかわりが来ていなかったので、運ばれてくるまで無言待機となった。
たぶんだけど、おかわりより先にトイレに行くかタオルを持ってきてもらうべきである。
「す、凄いわね……ここまで滅茶苦茶な食事風景見たことないわよ……」
待ちきれなかったという理由で食事をした挙句、運ばれて来たおかわりを当然のように(たぶん胃袋へ)消していく少女達に戦慄していると、遅れて現れたミナマリアさんも俺と同じような反応をした。
アリシア姉やニーナに触発されたヘルガ、に触発されたルナマリア王女もお行儀悪く食べてるし。
徹夜の影響で思考停止しているイブ王女も本能で食料を口に運んでるし。
ヒカリを挑発してハニートーストの奪い合いを始めた精霊王も居る。
各王族が子供のように暴れる朝食は過去にも未来にもここだけだろう。
「あら? 今朝は甘味だったの? じゃあ仕方ないわね」
「いやいやいやいやっ、仕方なくないでしょ!? なに普通に受け入れてんの!? もしかしてルナマリアがこんな風に育ったの貴方の影響だったりします!?」
一瞬常識人かと思われたミナマリアさんも、甘さ盛り盛りのパンを見ると他の女性陣同様に嬉しそうに笑い、「やっぱり疲れた時には甘い物よね~」と言いながら空いている席に向かった。
ちなみに一番扉に近い下座。
それで良いのか女王よ……。
「良いのよ。食事なんて楽しければなんだって。
逆に私のために席を空けられてても両隣が気まずいでしょ? 自分の隣に座るの嫌なのかなぁ~って被害妄想抱くでしょ?」
俺の視線から全てを悟ったミナマリアさんは、皆に朝の挨拶をしながら答え、自らも洗い物いらずのイリュージョンを披露し始める。
カエルの子はカエル、か。
たしかに言いたいことはわかる。俺もそれされたら一旦トイレに行って何食わぬ顔で誰かの隣に場所移動するし、それで嫌な顔でもされようもんなら即泣いて帰る。
まぁトップであり当人であるミナマリアさんがそれで良いなら俺が注意する筋合いではない。
ただこれだけは言わせてもらいたい。
「何に疲れたですって? 日々の女王業ですか? 俺達の歓迎ですか? それとも昨日のかくし芸ですか?」
「全部よ」
ああ、そうだとも。普通なら歓迎する側は疲れるだろうよ。
でも俺は知っている。
「ざけんなっ! 俺達だけかくし芸やらされて自分は定例文で済ませるなんて許されるわけないだろ!
あれ、エルフの里に伝わる紹介動画だってフィーネに聞いたぞ!」
ミナマリアさんが行ったかくし芸はエルフの歴史を振り返る映像。
映像技術をすでに完成させていたことに喜んだものの、昔の女王様が頑張って残しただけでミナマリアさんは作り方を知らないことが判明している。
「私が客人のことを知るためのイベントだから良いのよ」
しかし真実を知られても悪びれるどころか、「いや~疲れたわ~」と肩や目頭を揉んで露骨に頑張ったアピールをするミナマリアさん。
その行動が余計俺の神経を逆なでした。
「大体アンタこの5日間食っちゃ寝しかしてないじゃないか! エルフのお偉いさん達との話し合いも菓子食ってるだけだし、俺は歓迎らしい歓迎してもらってないし、どこに疲れる要素があるって!?」
「本来、私は老後の人生を送ってるはずなの。それが王座を継ごうとしない娘のために頑張ってるんだからそりゃ疲れるわよ。生きてるだけで過酷だわ」
「ア、アタシは、ほら……フィーネの監視があるし……」
「はぁ~~、誰か早く娘を貰ってくれないかしらね~」
「なんでこっちをチラチラ見るんですか? 俺は嫌ですよ。デート中に獣人愛について語ったら怒るような女なんて」
「「「普通は怒る」」」
なるほど、アリスは相当優しい女の子だったのか。帰ったら改めてお礼しよう。
「わたし達も……」
「ああ、そうだそうだ。別の女の話題を出されて不機嫌にならなかったニーナとユチもだな。
誰それの尻尾が良いとか、耳のピクッとなる感じが好きとか、そんな話ばっかりしてたけど盛り上がったもんな」
「盛り上がったのはルークだけ」
「そうだっけ? まぁ楽しかったじゃん」
「ん。また行きたい」
「……なにその話? 私知らない」
そこから俺が昼頃まで拘束されたのは言うまでもない。
「は~い、魔道具製作の候補生の皆さん、こんにちは~。
本日講師を務めるルーク=オルブライトです」
「アシスタント兼デートの約束をしたイブ=オラトリオ=セイルーン……です」
気が付いたらアリシア姉・ヒカリ・ニーナ・ミナマリアさんの4人が居なくなっていたけど、どうせエルフの修行場にでも行っただけなので、俺は残ったメンバーで精霊石の製作に取り掛かることに。
フィーネの付き添いでルナマリア。
俺に騙され……もとい快く承諾してくれたヘルガ。
さらにヘルガが強引に仲間にしたクララ。
必要な人材は揃っている。
次に必要なのは作業場所。
出来るだけ精霊が多い所がいいけど、聖域など何かあった時に本当に問題になる所は候補から外した上でフィーネ達にどこかオススメな場所は無いか尋ねたところ、紹介されたのが今居る大樹の頂上だった。
デートスポットに最適な公園っぽい場所だけど、大樹を加工すれば簡単に作業場に出来るとのことなので決定。
もしデートに来たカッポーが居たらムーディさは諦めてもらおう。
「ではまずこちらをご覧ください」
「? ウチの看板じゃない」
「そう! 皆さんにはこれに使われている照明の魔法陣を作ってもらいます」
客人が来たということで(俺じゃないよ。アリシア姉達ね)、宮廷料理人のモツさんは当分の間、副業が出来ないらしくすぐ貸してくれた。
しかしそのまま真似するのでは意味がない。
どう回路を繋げたらどんな反応が起こるか覚える必要があるのだ。
「ねえ、それって素人に出来る物なの?」
「普通は無理だ。でも君達は魔力・魔術・精霊術すべてに精通したエルフ! 普段使っている術の仕組みも理解しているはずだ。
それをこの鉄鉱石を使って表現すれば良い」
「それじゃあ個別の魔法陣になるじゃない」
「魔道具なんてそんなんで良いんだよ。出来もしない苦手分野を頑張るより得意分野で勝負出来るものを探すべきなのさ。
だから風と土が得意なエルフ族なら、その力を存分に活かせる魔法陣が使える道具を考えた方が建設的だな」
「ふ~ん。苦手なものをどう対処するかを考える戦闘とは違うのね~」
もちろん出来るに越したことはない。しかし可能性が無限にあり過ぎて最適解を見つけるのは難しいのだ。
なら形が決まっているパズルのピースがハマる場所を探した方が早い。というかそれをしないと時間がいくらあっても足りない。
実際、俺も結構後回しにしている道具があったりする。
「んでそれを繰り返すことで全体像が見えてきたりするから、『じゃあこれが必要なんだな』って新しいピースが探しやすくなるってわけ」
「「「へぇ~~」」」
ルナ・ヘル・クラの新米三人衆が声を揃えて頷く。
「私も初めて知った。いつも感覚でやってたから」
……才能ってやつは残酷だ。
どれだけ知識があろうと、適当にやって成功する人間に勝てるヤツなんて居るわけがない。




