五百一話 新しい仲間
以前、イブの兄クリフォード第1王子と会った時に言われたことがある。
イブの成長を妨げているのは俺なのだと。
得意分野において同等の存在がいることで、彼女は俺に置いて行かれないように、互いに刺激し合える関係であり続けられるように益々自分の殻に籠ってしまうのだと。
それによって様々な人と交流して社交性を養ったり、魔道具以外の楽しみを感じる機会を奪ってしまっているのだと。
衝撃だった。
あの超シスコンが真面目な話をしたのもそうだし、ある意味誰よりもイブのことを考えていたのにも驚いた。
世界を変えるような魔道具や知識を広めることが人生の目標であり楽しみだった俺にとっては普通のことでも、それ以外の楽しみを知らない王女にとっては一本道の人生を歩ませてしまっていたのだ。
人と接することが苦手だから自分1人で出来る魔道具作りに没頭し、それを俺や俺の作った魔道具が肯定してしまったことでさらに熱中させた。
もしかしたら彼女は俺のような人生を送りたかったのかもしれない。
人を幸せにする魔道具を作れば仲良くしてくれる人間も増える。友達も出来て、素直に笑えるようになって、魔道具を作る以外にも楽しいことが出来ると信じて。
もし俺と出会わなければ――。
自分の力に限界を感じて誰かの力を借りようとしたかもしれないし、それはセイルーン王家と交流のあるエルフだったかもしれない。この里にも自力で辿り着いて俺より先に精霊石を生み出していたかもしれない。
魔道具作りに飽きてワン達ととりとめのない話をして笑う学生になっていたかもしれない。
それともアリシア姉のように世界中を冒険? セイレーンのように歌って踊れるアイドル? シュナイダーのように執筆活動?
可能性はいくらでも考えれる。
俺は今すぐ彼女から魔道具を取り上げて『普通』の人生を謳歌させるべきなのかも……。
そう考えていた時期が俺にもありました。
「せ、精霊界を利用して自由に転移!? 世界中の人と一斉にお喋り!? お金の仮想化!? な、なにそれ……ルーク君の発想が留まることを知らない……すごい」
宴も終わり、皆が寝静まった深夜。
精霊石なんて世界を変えるブースターが生まれてしまったのだから、俺は当然のようにその可能性と今後の魔道具業界について考え始めた。
そんな俺と熱い語らいをしたいと名乗りを上げたのは、イブ。
フィーネ達も最初は付き合っていたけど、流石に飲み会後に数時間の空想話を聞き続けるだけってのには疲れたのか、気が付いたら部屋には俺達しか残っていなかった。
俺の話す非現実な空想にも羨望の眼差しを向け、涎を垂らさんばかりに興奮する少女を見ていると、とても一本道の人生を嘆いているようには思えない。
というか『これぞリア充!』って感じがする。
趣味を仕事にして毎日が楽しく、たまに会う同レベルの相手(俺)にどう自慢しようか考えてニタニタし、それをすることで皆から喜ばれる。家族は知らん。
「なぁ、時計作りも一段落したことだし魔道都市で暮らそうとか思ったりは……」
「しない。私はまだまだやることがある。今後も引きこもり続ける」
セイルーン王家の皆さんスイマセン。王女は新たな目標を見つけてしまったようです。
でも僕は悪くありません。
『世界中から集めた研究者より自分1人でやった方が捗る』なんて言える天才に産んでしまったガウェインさんとユウナさんの血と、それを可能にしている平和なセイルーン王国が悪いんだと思います。
取り合えず彼女は幸せそうです。
「さて、と……いつまでも将来の話をしてても仕方ないぞ」
「私はしてない」
「……俺達が今やるべきは、この里の皆に協力してもらえるよう魔道具の素晴らしさを広めることだ。そのためにもまずはエルフという種族について知らないといけない。
そこで明日は里の散策をしようと思う!」
「精霊石は?」
「ふふっ、イブは卵と鶏の話を知らないようだな」
「?」
小首を傾げるイブを可愛いと思いつつ俺は説明を続ける。
「今回の場合、大精霊が生み出した高純度の精霊石を調べるよりも、世間一般に使われることになるであろう精霊石を調べることの方が重要だ。
生成方法を確立させ、どのぐらいの力があれば生み出せるのかを知り、素材や純度によって魔道具にどのような影響が出るのか。それを調べるのに生まれながらの強者のエルフはまさに打ってつけの存在。
だからまず俺達がやるべきことは彼等の協力を得ること。そして精霊石作りをしてもらうこと」
「つまり循環参照ってこと?」
何でもかんでも難しい言葉にする人は嫌いです!
あと魔道具や魔法陣にしか興味ないクセにどんだけ雑学仕入れてんだよ! 俺の空想話にも割とついて来てたし!
「帝王学の賜物」
「ま、まさか、魔道具開発の傍ら勉学にも励んで、」
「ない。一度聞けば覚えられる」
ただの天才だったー。別に興味ないけど王族としてやらなきゃいけないことだから仕方なくやったら出来ちゃったただの天才だったー。
せめて趣味に生きることを許してもらうために寝る間も惜しんで勉強してた頑張り屋さんであって欲しかったよ……。
どうせなら人と接する方法を重点的に学ばせるべきだったな、セイルーン王家の皆さんよ。
……え? やったけどそっちはどれだけ教えても覚えてもらえなかった?
そ、そうですか……ってアンタ誰?
「ちょっとぉおおおおおおおおおっ!!!
私が寝てる間に何してくれてんのよ!? なんで起こしてくれなかったの!?」
翌日。
結局あれからも魔道具談義に花を咲かせてしまい、実質どころか完全に徹夜明けの俺を、12時間睡眠で元気ハツラツのヘルガの金切り声が襲った。
イブ達を朝早くから店まで来させるわけにもいかない、とモツさんが城へやってきて朝食を作ってくれてるんだけど、それを待っていたら誰から聞いたのか凄い勢いで転がり込んで来たのだ。
別に良いですけどね。旅館で食べようが近くの店で食べようが旅行先ってだけで楽しい体験なので。
「そ、そ、それで……それがそうなの?」
「ん? ああ、映像付き携帯? 今んところ携帯は俺のとイブのだけで、映像が出るのはこっちだけだな」
新しい物好きとしてはこの世紀の発明品誕生の瞬間に立ち会えなかったのは相当痛手らしく、早速俺達に通話させて飛び出る自分の姿にキャッキャと興奮し始めた。
「あ~、この分だと頼む必要なさそうだけど、今後これを作るのに必要な精霊石ってのが欲しくてさ」
「精霊石っ! 凄い名前じゃない!」
「まぁ落ち着け。昨日は大精霊に頼ったから今日はエルフの皆に挑戦してもらいたいんだよ。
ヘルガ暇だろ? 頼めるか?」
「はいっ、喜んでぇーーーっ」
やはりと言うか、ヘルガは最低限の説明を聞いただけで、満面の笑みと共に居酒屋店員みたいな返事でOKしてくれた。
まんぷく亭でウェイトレスやってたことあるんだろうか? いやあそこもこんな挨拶するような店じゃないけど。
「……導体内の断面を火4-2とすると、この断面を貫く魔力Iは、この点での密度Sに対してどうなる?」
「え? し、知らない……なに? 何の話?」
「なんでもない」
歓喜しているヘルガに魔法陣の式を尋ねたイブは、その返答を聞いて寂しそうに首を振る。
もしかして彼女を自分と同じ開発者だと思ったのだろうか?
だとしたら悪い事をしたな。ヘルガは作り出された魔道具が好きなだけで、自分で作ったりしたいわけじゃない。それを伝えていなかった俺の責任だ。
こうなることは安易に予想出来ていたはずなのにな……。
「ってわけで君も素敵な魔道具ライフを送ろう!」
「どういうわけ!?」
「ヘルガが魔道具に詳しくなってこの里にその素晴らしさを広めてくれたら、エルフ達はもっと魔道具を知ろうと他種族と交流するようになる。俺やイブも話の合う仲間が増えて嬉しい。魔道都市ゼファールもエルフが来てくれて嬉しい。
ほら、良いこと尽くめ」
「今から勉強しろってこと!? こんな見た目だけど私、割と高齢なんだけど!? 頭の回転とか遅いし、新しい知識とか蓄える余裕ないわよ!?」
普段大人に見られたがっているクセに都合が悪くなるとすぐ弱者の立場を利用する。典型的な自分第一主義者だ。
「……(ぼそっ)そんなんだからいつまで経ってもロリなんだよ」
「じょ、上等じゃない……っ! 後発組に負けて吠え面かくんじゃないわよ!!」
はい、便利な人材確保~。
「「「…………」」」
「おいおい、そんな目で俺を見るなよ。
大丈夫だって。心配しなくてもルナマリアもクララもヒカリもちゃんと鍛えてやるから。手取り足取り耳取り尻尾取り教えてやるから」
皆の気持ちを汲み取って先に言っただけなのに、何故かルナマリア達は嫌そうな顔をする。
ま、どちらにしろ精霊石は作ってもらいますけどね。1個だけ、1個だけでいいから。
そして1個作ったらさらに一歩進んだ魔道具開発の楽しさを味わってみませんか? 先っぽだけでいいから、ね?
「「……私(わたし)は?」」
戦闘のことしか頭になくて高校に行っていたら性格・学力両方の面から入学拒否されていたであろう魔法バカや、もしかしたらココ&チコより知能指数が低いかもしれない猫神様は黙っててくれ。
俺はそれほど暇じゃないんだ。
「――ですって~。ルークさんが酷いこと考えていたので読心術で通訳してみました~」
「「ほほぉぉ~~」」
「い、いや! 違うからな!? それっぽいことを考えただけで、実際の内容・表現とは異なる場合がありますからね!?」
「私を仲間に加えたら助けてあげなくもないですよ~」
マッチポンプ! 問題起こしておいて解決したから報酬寄こせって詐欺行為として認定されてる悪行だからな!?
もちろん受け入れましたけどね!
どちらが損かを考えたら一択でしたよ!
世界はこうやって回ってるのさ!!
みんな気を付けろよ!




