四百九十九話 かくし芸3
各々が『これぞ!』と思う芸を披露していき、残すは俺とミナマリアさんだけとなった。
ただ彼女は客人をもてなす側の人間。
つまり実質は俺が大取となるわけだ。
「さて、と…………やりますかっ!」
『うっしゃああああっ!!』
そんな皆の期待を一身に背負って前へ出た俺は、レーヴァテインとスイちゃん角を取り出して意気込む。
「さあ、震えるがいい! 君達は歴史の証人となるのだ!」
「おおぉ~~、自らハードルを上げていくスタイル~。これは嫌がおうにも期待せざるを得ませんよ~」
……ちょっと待って。今ユキさん『否が応』じゃなくて『嫌がおう』って言わなかった? その後に続く『せざるを得ない』も、何か本当はしたくないけど仕方なくって言われてる気がするんですけど?
…………違うの? なら良いけど。気を付けてよ。実は結構緊張してナイーブになってるんだから。
「ルーク様は本当に緊張されているようですね。本来であれば『“いやが上にも”だろ!』とツッコミを入れるべきところなのですが。
『否が応』では嫌々や無理矢理という意味になってしまいますよ」
日本語って難しいね! いや異世界だからアルディア語だけど!!
頑張ってテンションを上げていたら常識人と非常識人に水を差されてしまったけど、気合と根性でなんとか持ち直し、レーヴァテインに魔力と作りたい物の構想とひと匙の願いを込めた。
「やれるやれるやれる! 頑張れ頑張れ! お前なら出来る絶対出来る! 自分を信じて燃え上がれ!! もっと、もっと熱くなれよぉぉおおおおおおおっ!!!」
『うおおおおおおおおおおおっ!!!』
「「「…………」」」
俺達が燃え上がるほど周りは冷めていくけど、こうなることは覚悟していたので全く気にならない。
俺が気になるのはサラマンダーさんがどれだけ熱くなれるか。そして思った通りの物が作り出せるか。ただそれだけだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』
心ひとつに、今、魔道具は新たなステージへ――。
「ふ、ふふふ……完成だ……」
サラマンダーさんが燃え尽きたように(というか実際燃え尽きて)消滅したのを完成の合図と受け取った俺は、目の前に転がる“それ”に視線を落として笑みを溢す。
角ばっていた素材は完璧な球体へと変貌を遂げている。想像通りのものだ。
いい仕事してくれた火の大精霊さんに敬礼!
「なに私の魔法剣に敬礼してるのよ。いいからさっさとこれが何なのか説明しなさい」
「……はい」
世紀の大発明を前に、感動の余韻にひたることすら許してくれない非情な姉に急かされ、俺は足元の“それ”に手を伸ばす。
と――。
『…………(ヒョイ)』
空間から現れたスイちゃん(の手)が何も言わず奪取。
さらに何も言わずに消えていった。
巨体に似合わない可愛らしいお手手だった。
(――ってそうじゃねえよ! 俺達が頑張って作り出した精霊石返せよ!
たしかに龍と言えば玉持ってるもんだけど! 今後この石を『精霊石』って呼ぼうと思ってたけど、それだけ『如意宝珠』にした方が良いですか!? もしかしてそれ作らせるために俺に素材くれましたか!?)
『…………(スッ)』
スイちゃんは代わりに使えと言わんばかりに見慣れた鉱石を置いていった。鉄鉱石だ。
大きさも普通で、きっと大量に精霊が宿っているとかそういうこともないんだろう。
(あのぉ~……もしかして最初からこのぐらい普通の素材でも精霊石って作り出せました? アナタ、人間に過ぎたものは与えられないとかいう神様的ポジション?)
しかしそれ以降、いくら質問しようが呼び出そうがスイちゃんが現れることはなかった。
「ねえ、なんで消えたの? そういう魔道具なわけ?」
どうもスイちゃんの姿は俺にしか認識出来ていなかったようで、恋しさと切なさと心強さに震える俺に平常運転で尋ねてくるアリシア姉。
さらにその周りではフィーネやミナマリアさんもハテナ顔でこちらを見ている。ユキは……わからん。いつも通りマヌケ面でほげぇ~としてる。
取り合えず聖獣すら知らない少女達への説明は後にして、俺よりは情報を持っていそうな強者達に今起きたことをありのまま話すことに。
って言っても『スイちゃんが出てきた』『何も言わずに持っていった』の2つだけなんだけど。
「ホントあの子なんなの?」
「「「さぁ~?」」」
説明の最後に精一杯の疑問を込めて声に出すと、全員から首を傾げられた。
そんな正体も行動理由も不明な聖獣様に思いを馳せつつ、俺は早くも復活したサラマンダーさんと共に新たな精霊石の製作に乗り出した。
スイちゃんの角みたいな超素材の加工でなければそこまで疲労もしないらしい。
「頑張れ頑張れ! 出来る出来る出来る!!」
「それ、いるの?」
が、今度はアリシア姉から水を差されてしまう。
ウンザリした顔のフィーネやミナマリアさんとは違い、サラマンダーさんの声すら聞けない彼女は最初から気になっていたようだ。
「ああっ、使い手が熱い方が力出るらしくてな!」
答えはもちろん必要。
じゃなきゃ俺がこんなハイテンションになるなんてそうそう無い。俺を叫ばせたら大したもんだよ。
「そ、そう……頑張りなさいよ……」
「もちろんだ! もっとお前の情熱を見せてみろぉおおおおおおおおおっ!!!」
『うおっしゃぁああああああああああああああああっ!!!』
叫んだり応援したりし続けること、数十秒。
俺の足元に凝縮された精霊石が生まれ落ちた。
ってわけで今度こそ。
「パラパパッパパー♪ 精霊石~♪」
「なんでダミ声?」
ま、そこはお気になさらず。
2回目で初めて手にした俺は、いつも身につけているイブとの連絡用ペンダントを取り出し、
「装着っ!」
出来立てホヤホヤの精霊石を取り付けた。
中に入っているミスリル鉱石や精霊さんのことは一切不明だけど、通信技術発展のために散々研究してきたペンダントだ。
魔法陣は目を閉じても描けるほど熟知しているから付属品を増やすぐらいチョチョイのチョイだ……けど、回路も繋がずに機能するほど万能じゃないので加工の時間はください。
「作業中、作業中、作業中、さぎょ」
「喋ってないで早くしなさいよっ!」
イブを見習って少しぐらい待てないものかね、このお姉様は。
ま、作業手順を必死に覗き見てるイブもイブだけど。
さらに皆様を待たせること、数分。
「今度こそ完成!」
「わーっ、わーっ!」
「ナイス歓声! ……と、うわっ」
「も~気を付けてくださいよ~。落としたペンダントをキャッチしようとして逆に叩き落とすなんて、私じゃなければ対応できない速度でしたよ~。
まったく慣性の法則は恐ろしいです~」
「ふっ、俺の超一流ギャグについて来られるなんて、流石ユキ。
素晴らしい感性を持っているな」
「「“かんせい”だけにっ! げらげらげらっ!!」」
俺達、大爆笑。
周りがどれだけ氷点下になろうと楽しいから良いのです。
「はやく」
「……はい」
新作魔道具を目の前に待たされているイブさんがガチギレしていらっしゃるので説明に入ろう。
ジト目とか可愛い感じじゃない。
聞こえないぐらい小さな舌打ちをしてからの歯を噛みしめる口元。殺意を漲らせた鋭い眼光。青筋が立っていると錯覚する額。逆立つ髪の毛。震える大地。かすむ世界。
いや、震えているのは俺? 世界がかすんで見えるのは俺の涙のせい?
「……………………」
やらせていただきます! だから殺さないで!
「さあさ、お立合い! こちらにございますペンダント! 見た目はごくごく普通の装飾品ですが、実はこちら、音声を届けることのできる『携帯』というものなのです!
それがパワーアップしたら一体どうなってしまうのか?」
「「ワクワク……ワクワク……」」
「まず携帯を初めて知ったんだけど? あとなんで販売員口調なのよ」
「ね」
「答えはこうだぁああああああああああああ!!」
遠方への連絡手段に驚くアリシア姉達を他所に、俺とイブとユキの3人は勝手に盛り上がり、置いてけぼりを喰らった残りのメンバーも「いきなりパワーアップバージョンか~」と溜息をついて無理矢理ついて来た。
たぶん後で説教喰らいながら説明させられるけど今は気にしない!
はい、通話スタートォォォ!
「……私が2人?」
そう、今この場にはイブが2人居る。
1人は俺の前で女の子座りしている本物のイブ。
そしてもう1人は俺のペンダントから飛び出した映像のイブ。
彼女の髪留め型通信装置から念話を送ってもらった瞬間、俺のペンダントから映像が飛び出してきたのだ。
当然イブが動けば映像も動く。
周りも映っているのでアリシア姉がイブに近づけば映像が出てくる。
これこそ真・携帯!




