四百九十五話 エルフの里Part2
「……す、好きな方を選べば良くないですか?」
と、決断を迫られたクララは散々悩んだ挙句、両方の意見を採用して責任逃れの答えを出した。
当然俺達はこの一言によってエレベーター組と飛行組の二手に分かれて城を目指すことになる。
もしこれが日常の一部ならそんなこともなかっただろうが、残念ながらここは旅行先で、行うのは初めての思い出づくり。
そんな場面で好きな方を選べ? 別々に移動すれば良い?
ッハ、ぶざけんな。こういう時は可能な限り集団行動するべきだろ! もうこの時点でグループが分けられたようなもんじゃないか!
つまるところ、この提案と選択によって生まれたのは――悲しみ。
俺はエレベーター組に入り、動力であるフィーネもこっち。飛行組にはミナマリアさんとユキが入ったことで人数的には問題なくなったんだけど……。
「どっちが早く着くか競争しようよ! ここなら精霊たくさんだからきっとアリシアちゃんでも飛べるよ!」
「私飛んだことないのよ!? ハンデ頂戴よ!」
「え~? わたしもないんだけど……誰かに運んでもらえば?」
「それじゃあ面白くないじゃない!」
いやまぁそもそも自力で飛んだからユキ達は万が一に備えて並走してただけなんだけど、とにかく最初こそはしゃいでいたアリシア姉とヒカリ。
しかしいざエレベーターが動き出すとこれまで飛び回っていたエルフ達が一斉に集まって来て、空を飛んでいる方が過疎というかダサいみたいな雰囲気に。
自分の番になった途端周りの興味が別のものに移るあの切なさは誰もが一度は経験あるだろう。
「なんか負けた気になるのよねぇ……」
「むむむ……」
そのとんでもない疎外感を味わった2人は、俺達が上層のエレベーターホール(という名の更地)に到着した時には完全に不貞腐れていた。
典型的な『あっちを選んでいれば……』状態だ。
しかも自分が望んだことなので八つ当たりするわけにもいかない。
唯一その矛先を向けられるとしたら提案したクララだが、飛んでいる段階で散々言われたのか、自分で察したのか、視界の片隅でメソメソしているので今はソッとしておこう。
ちなみにこっちはこっちで、人嫌いとまでは言わないけど見知らぬ他人と仲良くする気もなければ関わる気もないイブ&ニーナというコミュ障コンビが、群がって来たエルフ共にビビって大変だった。
そこら中から人が飛び乗って来るわ、床から這い出してくるわ、天井からアクロバティックに下りてくるわ、陽キャのノリで元気いっぱいに挨拶して来るわ。
彼女達はゾンビに襲われた人間の如く「ひぃっ」って小さく悲鳴を上げて俺にしがみ付いて来た。
まぁ見事としか言いようのないほどのホラーを味わったんだからそりゃ怖かろうよ。最後のが一番ビビっていたような気もするけど……。
「「……楽しそう」」
それを言ったら言ったで余計不機嫌になるもんだから手に負えない。
これが『思い出の専有』もしくは『思い出の一部共有』というやつの悪い例だ。
無いとは思うけどアリシア姉達の方が人気だったらニーナもこうなっていただろう。イブはエレベーターの完成形を聞いてテンションMAXだから大丈夫。
そんなわけで新たな客人達は全員が大なり小なり落ち込んでいて、とても今から城へ向かうって雰囲気じゃない。
「クララ! アンタまでなんでそっち側なのよ!? しっかりしなさい! 大丈夫、選んだのは皆なんだから!」
「うぅぅ……そうかな~?」
「マヨマヨ~ン♪」
まさか楽しませようとした全員が凹むなどという異常事態になるとは思ってもみなかったヘルガは焦り、フィーネとルナマリアとミナマリアさんは全てを察して無視し、ユキはいつものようにマヨネーズの歌を歌う。
いつも通りカオスな状況だ。
「すごくたくさんの精霊が集まってる」
「ん? ああ、この里は俺達が暮らしてる場所のどこのよりも精霊が多いからな。コイツが声を掛けるといつもこうなる」
「これはすごいこと。魔道具に精霊術を使える大チャンス」
まず復活したのは魔道具大好き少女イブ。
ここでなら色々と試せると大喜びで精霊達を見つめている。
「そ、そうね! ここで戦いの技術を身につければ私はより強くなれるわね!」
んで、たぶんイブの考えてることとは違うけど、『精霊術』という単語から戦力アップを関連付けたアリシア姉も勝手に復活。
「まぁ飛べたしいっか」
普段から精霊と接しているヒカリだけどそれに釣られるように復活。
「知らない人に、無関係な人に、いらっしゃいませって言った……条件反射で口に出た……」
ある意味一番落ち込んでいたニーナも、新しい食材を食堂の皆に届けられる、と復活。
「BBQは出来ないけど女王として盛大な宴を開いてあげるわ」
何故かエルフ達の中では城でのパーティよりバーベキューの方が上のようだけど、一応歓迎してくれるようなので、それも含めて少女達は活気づいた。
あとまたビービーキューって言った。女王様がドレス姿でBBQって言った。
もう良いですけどね。人生楽しんでる連中は嫌いじゃないし。
あのノリについて行けるとは思わないし関わりたくないけど、楽しい時間を過ごすってのは良いことだとは思う。
「「「バーベキューの方が良かった……」」」
ただそれを聞いたアリシア姉達は残念そうにする。
そりゃ彼女達は当然そう答えるよ。だってパーティ嫌いだもん。イブも王女だから慣れてるだけで嫌いだもん。
「エルフの秘術とか見せるわよ?」
「「「ならオッケー」」」
要するに他の王族と同じ歓迎の儀をしてくれると。
最初は自分達を知ってもらうために食材探しだの森探索だのさせるけど、基本的にこちらが主流らしい。
ま、俺以上にルナマリアと交流があるアリシア姉・ヒカリ・ニーナ、さらには友好国の王女まで来たからには何かしらやらざるを得ないんだろう。
「というか皆にも何かやってもらうわよ。お互い特技やかくし芸を見せ合うことで話題が出来るのよ」
……俺のかくし芸? なんだ? スイちゃんとか呼んでみるか?
『…………』
いやダメだ、アリシア姉なんかは「乗せろ」って絶対言う。
そもそも『盛大な宴』ってのがどのくらいの規模かわからないのにスイちゃんを呼ぶわけにはいかない。
人嫌いっぽいから出てきてくれるかは賭けだし、例え出て来てくれたとしても俺にしか姿を見せないとか全然あり得る。あと他のエルフさんが居たら驚かせてしまう。仮にも信仰の対象でもある聖獣だし。
『………………』
となればやはり魔道具か?
でも今から作るには時間がなさ過ぎるし、構想を伝えてフィーネかユキに作ってもらうってのもかくし芸って感じじゃない。
『……おい』
(ん? どうしたんだサラマンダーさん。俺は今忙しいんだ。暇だから話し相手になってくれってんなら断るぞ)
『我が炎で奴等に目に物見せてくれるわ』
(……つまりかくし芸に付き合ってくれると? それで良いのか大精霊)
『構わない。丁度良い宿り木もあることだしな』
そう言ってサラマンダーさんは念話(?)を切り、何も聞こえなくなった。
「ねえ、さっきからレーヴァテインが発光してるんだけど誰かなんかした?」
「たぶん俺。心の中で火の大精霊と話してたから」
「……アンタ何になりたいわけ? 冒険者にでもなるつもり?」
「いや、たしかに精霊王と、精霊に一番近い最強エルフと、エルフ族のトップと、土属性最強と、精霊界最強と、大精霊2人と親密な関係にあるけど俺自身は戦力外じゃん」
「「「……それ人類最強って言うんじゃないの?」」」
あっれ~? でもほら、エルフ族のトップはおいそれと呼べる関係じゃないし。
他で十分世界征服できそうだけどそれは一旦置いておこう。
とにかく全員からのツッコミは、俺に将来を考えさせるのに十分過ぎる役割を担っていた。
「ってわけで里に居る間はそれ借りるぞ」
「なんでよ!?」
背中の魔法剣を指さして渡すように言うと、アリシア姉は当然のように嫌そうな顔をして拒否。
が、かくし芸のことは秘密にしても他に理由はいくらでもあるので問題はない。
「まず第一に木と共に暮らしてるこの里は火気厳禁です。
持ってたら森や大樹を燃やしかねないので俺が預かります」
「くっ!」
いや『くっ』じゃないよ。なに致命的な欠点を見つけられたみたいなリアクション取ってんだよ。自然を大事にするなんて人として当たり前のことだよ。大前提だよ。
そして俺の言い分はまだ続く。
「第二に魔道具開発で火の魔法が使えるってのは俺やイブが助かります」
「それは理由にならないわね!」
何故か自信満々のアリシア姉。
最初の時点で借りれそうなのでこれは別に言わなくてもいい気がするけど、一応伝えておく。
「もしかしたら帰る頃にパワーアップしてるかもよ。
未知の知識てんこ盛りの魔道具開発に使わせてもらうから精霊達は集まるだろうし、たぶん里に居る間ぐらいサラマンダーさんもその中で過ごしてくれるんじゃないかな」
「なんですって!?」
確証はないけどそのまま気に入って住み着いてくれるかもしれない。こういうのって大抵は宿してれば強くなるじゃん。
「ふっ、負けたわ。私も地力を鍛えないといけないと思ってたところだし。良いでしょう! 貸してあげる!」
で、アッサリと納得したアリシア姉は背負っていた大剣を渡してくれた。
「……調べても?」
「刃物で遊んじゃいけません! 大体もっと調べる物があるでしょ! こんなの解析したところで人の暮らしの役に立つわけじゃないんだから、こういうのはフィーネやユキに任せて俺達は非戦闘の魔道具を作るんです!」
「わかった」
その直後、イブがテイスティングさせろと言うかのように尋ねてきたので断った。
シュンとしてしまったけど、このぐらい言っておかないと子供ってのはすぐ危ないものに手を出すからな。




