四百九十三話 森ケモナー
復活を心待ちにしていたマンドレイクが摘み取られ、頼りのフィーネ達からも悲しそうな目を向けられた俺は、オジギソウのオーちゃんと絶望に打ち震えていた。
「ゴメンよ。俺がこんな凶暴な姉を連れてきてしまったばっかりに……お前の恋人が……」
(コクコク)
「ああっ、もちろんだとも。こんなことをしたアリシア姉には責任をもってお前の世話を全裸でさせる――ってなんでやねんっ! エロか!? 女体が見れたらそれで良いのかお前は!?」
(……シュン)
「そ、そうだよな。俺を元気付けようとして冗談を言っただけだよな。一瞬でもお前のことを性欲に突き動かされているだけの変態だと思ってしまった俺を許しておくれ……」
もう二度とあの愛らしいレイクたんに会えないのかと思うと泣けてくる。
だからこそ俺とオーちゃんは慰め合っているというのに、他の連中と来たらそれを見て何故か悲しみではなく憐れむような表情を浮かべていた。
どうやら全員がフィーネ同様オーちゃんの言葉が理解できず、俺のことを『他言無用』なる植物に向って喋りかける病気だと思って……いや、それに加えてマンドレイクを可愛がる変態もか……。
「それもだし、私達はアンタがただのエロガキだったっていうことに失望してるのよ。
その内、二股に分かれた大根に興奮するんじゃないの? 『これが最高のオカズだ!』とかわめき散らして、ベッドの下にあるエロ本置き場に真空パックに入れて後生大事に保管するのよ」
元凶であるアリシア姉は、手にした元レイクたんをマジマジと見つめたり匂いを嗅いだり、まるで命を弄ぶかのようにしながら失礼極まりないことを言う。
「そうだね~。お尻じゃなくて尻尾の写真を見つけた時はドン引きしたよね~。
あの『女体が見れたらそれで良い』っていうのも、会話してるように見えて実はルークの本心に違いないね。きっと来年にはマンドレイク写真集とか自作するよ」
それにヒカリも続く。
姉や幼馴染の口からオカズだの重要書物の情報だの聞きたくなかった。あと見当たらないと思っていた『ケモ尻尾コレクション』は廃棄処分されてしまったようだ。
たしかに俺の言い方が悪かったのは認める。あれでは魔力を注げば復活すると誤解されても仕方がない。
でもこの空気は無いだろう。レイクたんの命を奪ったのは事実なんだし、少しぐらい悪びれても良いんじゃないか?
いやまぁ俺が生涯かけて生き返らせる方法探しますけどね。なんなら今年の神力はそれでも良いし。ってかそれにするし。●ラゴンボール作ってやるし。
もしオーちゃんが『ギャルのパンティおくれ』とか願ったらぶっ飛ばす。
「何か決心したところ悪いんですけど、そのマンドレイク生きてますよ~?」
いつの間にか近くに居たユキがサラリと放ったこの発言。
衝撃だった。
それは「くぁwせdrftgyふじこlp!?」と叫んで全員から「ふじこって誰?」とツッコまれるほど焦っていた俺からすれば、H●NTER×H●NTERがコミックの時と変わらない絵で毎週掲載されるぐらい衝撃なこと。
もちろん俺もオーちゃんもそれが嘘偽りない事実か確かめるためにすぐさま質問攻めにした。
「オジギソウよりマンドレイクと会話する方が簡単なので、彼と完璧な会話できるならマンドレイクの意志も伝わってるんじゃないんですか~?」
「深い眠りについた彼女からは声は聞こえないんだ……」
「え~? そもそも眠りについてませんよ~?」
なん……だと……?
ど、どういうことだ? 死んでいない上に眠ってもいない?
俺は混乱した。
それは世界かヒロインの命か、究極の選択を迫られた物語で、最終的にラスボスを倒したらなんか不思議な力で解決するぐらい完璧なハッピーエンドだけど、現実で起きた時はそう簡単に受け入れられるものじゃない。
だってそうだろ? 生きているならどうしてこんなにも悲しみに満ちた空気を醸し出す? 残念そうな顔をする?
「アンタの気持ち悪さがさらに際立つからに決まってんでしょ」
今の俺にルナマリアのツンデレ語を解読する頭はないので、誰にでも伝わる言語を操るフィーネの方を向く。彼女ならきっとわかりやすく説明してくるはずだ。
「マンドレイクはご存知の通り、根を成長させることで力を蓄える植物です。
そして根を無くし植えられた後はこの様に花を切り離すことで中にある種が動物に運ばれ、どこか遠くの地で芽吹くのですよ」
「そのぐらい常識じゃない。マンドレイクは燃やされない限り不死身なのよ」
くそぅ……まさかアリシア姉に常識を説かれる日が来ようとは……。
だから全く動揺していなかったのか。花だけ取れた時点でレイクたんは復活確定だと知っていたから。
だが今は嘆いている暇はない。
「つまり花が抜けるのはここが安全な場所だと理解して根を張った証拠で、レイクたんは『レイクたん』と『レイたん』の双子になるってことか?」
「……そ、そうですね。本来であれば自然に落ちるものですが、今回はアリシア様が無理矢理抜いてしまったので、ルーク様と同じ状況になったと言えるでしょう」
同じ状況っ!
あれか! 魔力を与えてくれた相手に扱いを委ねるってやつ!
気を取り直して再度確認すると、フィーネはさらに嬉しい事実を教えてくれる。
「当たり前のように受け入れてるのも、もう名前を決めてるのも、会えると思って大喜びしてることも、全てが気持ち悪いわね……」
ふふふふふふふっ! 今の俺はどれだけバカにされようと気にしない!
それほど嬉しいから!
「いや、待てよ……これは困ったことになった……」
喜怒哀楽の激しさについて来れない一同は考えるのを止めて(というか俺への関心を失って)すぐ傍に見える大樹について話し始めているけど俺は気にしない。
俺が話したい相手はオーちゃんただ1人。
「このままここに植えればオーちゃんは大喜びだろう」
(コクコクコクッ)
「だがしかし! 万が一レイクたんが嫉妬深かったりしたら、隣に植えた時に困るかもしれないぞ? 一夫多妻は男側の意見で無くなったという説もあるぐらいだからな」
(――っ!)
「そこで、だ……俺がヨシュアに持ち帰り、マンドレイクを育成するのはどうだろう?
ケモナーうんぬんを抜きにしてもレイたんが……成長? 変態? 擬人化? すれば、それ即ちレイクたんも確実に元の姿を取り戻しているということ!
当然俺はレイたんを連れて来るし、レイクたんも復活させる。その上で皆で今後の生活について話し合えば全員が幸せになれるのではないかね!?」
(ココココココッ)
「しかし2人がどちらを選ぶかは誰にもわからない。君を選ばないという可能性もあり得るし、俺を選ばない可能性もあり得る。
ただ1つ確実なことは傍に居た方が有利ということ。
言ってみればこれは友人との愛する人の争奪戦! 諦める方は全力で応援しなければならないとか、なんて難問を突き付けてきやがるんだ……っ」
(コクリ……)
周囲のどうでも良さそうな空気は(というか全く聞いていないのは)無視して、俺とオーちゃんは真剣に悩み始めた。
「あ、もちろんアリシア姉には俺達に悲しみを与えた罰としてレーヴァテインで2人が人型になるまで栄養補給してもらうからな」
「は? なんでよ? アンタ達が勝手に勘違いしただけで私は全然悪くないじゃない。そんなことに魔法使いたくないわよ」
どれだけ無関心を装っていようと名前を出されたからには反応せざるを得ないらしく、最後の一文だけ聞いたアリシア姉が凄く嫌そうな声をあげる。
たしかに俺とオーちゃんの2人だけが知らなかったから焦り、悲しみ、彼女を加害者にした。
しかし一刻も早くレイクたんと再会するための手段が目の前にあるのに、見す見す逃す俺ではないのだよ。
「炎ってのは破壊と再生を司るもの! これまで散々壊してきたんだから、その分、命を育むことにも使いやがれっ!!」
「ぐっ……ぬぬぬ……」
これまでに生かす用途で使っていないのはアリシア姉の性格から考えてわかっていた。例えあったとしてもそれは周りが力を貸したからで彼女は何もしていない。
そして『新しい力の使い方』と聞いて興味を示さないのはあり得ないので、罪を認めようが認めまいが必ず魔法を使ってくれると。
あ、ちなみに属性的に傷つけるだけじゃないかってツッコミは大精霊サラマンダー様との交渉で何とかするから必要ない。
もし断ったら世界中に『サラマンダーより、ずっと○○』って言葉を流行らせてやる。何ならユキと一緒に非熱活動だ。
礼はするって言ってたし正義は我にある。
「じゃあ2人のことを頼んだぞ」
(コクリ)
結局、散々悩んで俺は『一応ここに植えるけど、もしかしたら持ち帰るかも』という中途半端な案を採用した。
根もそんな早く張り巡らさないだろうし、いざとなったら辺りの土ごと転移させればいいさ。
「……抜いて」
「は?」
これにて一件落着、とホッとする間もなくイブが頭を突き出してきた。
「私の本体は、実はこの髪」
どうやら自分の本体を引っこ抜いて介抱しろということらしい。もしかしたら成長するまで世話しろってことなのかもしれない。
要するに俺に心配してもらえたレイクたんが羨ましかったと。
慕ってくれる女の子の要求を拒むつもりはないけど、残念ながら彼女はサラサラヘアー。
引っ張るために存在するアホ毛のようなものでもあればやっていたけど、ひと固まりでありながら1本1本が極上の絹となっている王女様の髪をどう弄るのが正解なのか俺にはわからない。
真剣に考えても、ボケる方向で考えても、答えは見つからなかった。
「これでどう?」
と、動くに動けない俺を見たイブは驚きの解決策を導き出した。
彼女の右手の親指と人差し指がゴッツンコし、そこへ髪を通す。
するとどうでしょう。
人間のはずの彼女の頭に見事なテールがひと房。
「こ、こんな方法でケモナーを楽しませるなんて……っ!
ふ、ふふふ……流石は天才少女。どこまでも俺を驚かせてくれる娘よ」
「ふふ……そう、私は考える王女。ルーク君を悦ばせられる女」
うん、言い方は気を付けようか。
最後だけ聞いたら酷く卑猥な言葉だから。
「……ニャン」
「ヒャッハーーーーーーッ!!!」
俺とイブのイチャイチャを見ていたニーナが奥義を炸裂させた。
あざとすぎる猫さんポーズに加えて尻尾を俺の腕に絡ませて来る高等テクニックまで。
これに反応しないケモナーはいない。
「…………猫の真似はズルい。反則」
「真似じゃない。わたしは本物、ニャン」
周りからの視線はどれだけ冷めようと、俺の心は燃え上がるほどヒートしています。




