四百九十話 大集合3
ルーク達が城を飛び出す数分前。
アリシア達がアールヴの里の入り口に現れたことから事件は始まる。
(? おかしいな、今日は客人が来るなんて聞いてないぞ。しかもあの様子……偶然迷い込んだってわけでもなさそうだ)
守衛は近づいてくる人間の少女達を警戒しながら忠告した。
「ここでの採取はエルフのみに許されており、我々は他種族を受け入れない。
お前達がどういう理由でここへ来たかは知らぬが即刻立ち去るがいい」
「ふっ、ここにルーク達が居るのはわかってるのよ! 邪魔するってんなら容赦しないわ!」
アリシアは口上を述べると同時に背中から愛剣を抜いて守衛に突きつける。
「どうやら貴様等はエルフを侮っているようだな……良いだろうっ、思い知るがいい! 越えられない種族の差を! 生まれ持った力を!」
待ってましたと言わんばかりの満面の笑みから彼女達の目的は略奪に違いないと判断した守衛も戦闘態勢を取った。
若干中二病な上にアリシアに負けず劣らず戦闘狂の気があるようだが、まぁそこは説明不足のアリシアが悪い……のかもしれない。
「人の話を聞かないエルフはお仕置きしちゃうよ~」
「……排除する」
「ワンパン君デストロイの餌食になってもらう」
それを見た少女達も当然のように戦闘に参加する意思を見せる。
ヒカリは魔力と魔術と精霊術を混ぜた劣化魔法を纏い、ニーナは圧倒的な魔力を立ち上らせ、イブは魔法陣だらけのグローブを装着して死刑宣告。
「っ!!! 中々やるようだな……」
「お、おい……」
「ここは俺に任せてお前達は先に行け!」
「いやどこへ行けってんだよ。俺達の仕事は不審者を通さないことだろうが……」
彼女達の力に怖気づくことなく謎の舌なめずりをした守衛は、止めようとする仲間の声を無視して1人立ちはだかった。
「グルゥゥ……」
(やっぱりこうなりますよね~。この人達、エルフ族と全面戦争する気満々じゃないですか。
そして貴方はなんで受けちゃうかな~。話し合いで解決しようとしないなんて、エルフにもバカな人って居るんですね。竜の方がよっぽど賢いですよ)
力で全てを片付けようとする脳筋共に憐れみを覚えたクロは、『せめて怪我だけはありませんように』と遠い目をして祈りを捧げた。
こうして攻撃力(と凶暴性)だけなら一流冒険者とタメを張れる少女達は、各々の武器を手に中二病エルフに襲い掛かるのであった。
俺達が事件現場に到着すると、そこは色々な意味で悲惨な状況だった。
ヒッヒッヒ、と気持ち悪い笑みを溢すエルフ。
木でがんじがらめにされて苛立つアリシア姉。
守衛長ラインハルトさん他に取り押さえられているヒカリ。
全身を泥沼に沈めてジタバタもがくニーナ。
俺を見た瞬間に大人しくなったイブ(エルフさんが2人足元で悶絶している)。
そしてホッとした顔をするクロ。
取り合えず俺の知る限りでは精神攻撃を持ち合わせている人間は居ないので、最初のエルフは元々そういう性格だとして。
敵を殲滅するのではなく無力化することに重点を置いていることから考えるに、アリシア姉達が暴れてそれをエルフ達が止めようとしているのだろう。
となれば俺のするべきことは1つだ。
「先生怒らないから正直に言いなさい。
誰が、里を、襲撃すると、言い出したんだ?」
少女達を直立させて教卓(ユキ作)からのお説教、そして事情聴取。
これほど自白しやすい環境での怒らない発言には、どれだけ口の堅い犯人であろうと飛びつかざるを得ないはず。
「君達がここへ来るのは一向に構いません。しかし無害な守衛達に怪我を負わせたのは許されることではないのです。先生はどうしてこうなったのか聞きたいんですよ。
さあ、答えなさい」
「なんでそんな偉そうなのよ……」
「不当な暴力に訴えるクズより偉いからに決まってんだろうがっ! 文句言うなら治癒術の1つでも覚えやがれ! フィーネの代わりに治療してみろよ!」
見知らぬ人でも気まずいというのに、あろうことか怪我人の中にクララパパことラインハルトさんが混じっていたのだ。
もう平謝りですよ。守衛長を中心に迷惑掛けたエルフさん達全員にオルブライト家を代表して必殺のDOGEZAを繰り出してやりましたよ。
「アンタが私達に黙ってエルフの里なんて面白そうなところに行くのが悪いんでしょ!」
「言い逃れが出来ないからって責任転嫁してんじゃねえよ! 大体俺だって無理矢理連れて来られたっての!」
伝達通り魔法を無効化されたのか、自慢の魔法剣を活躍させられなかったことに苛立つアリシア姉は、驚きの逆説教を始めやがった。
つまり主犯は彼女で、他の3人は乗せられてこんなことをしたと。
「おっと、それは違うよ。主犯はもう1人居るんだな~これが」
「……なに?」
14歳の少女の体を樹木のロープで亀甲縛りにして肉感的な凹凸を強調させ、地べたを這いずらせながら謝らせようとしていた俺に、ヒカリが待ったを掛けた。
彼女も犯人の1人。尻尾を強調させる座禅縛りからの座禅転がしは免れない。
が、他に我が縄術に掛かるべき相手が居ると言うなら聞かせていただこう。
「そこで笑ってる守衛さん。あの人が話も聞かずにアリシアちゃんとバトり始めたからわたし達も仕方なく参戦したんだよ」
「……ふ~ん」
いかん、いかんぞ! このままではヒカリを縛る大義名分がなくなってしまう!
野郎が縛られるのを見て興奮するほど特殊な性癖は持ち合わせていない俺にとってこの真実は具合が悪すぎる。
なんとか……なんとかせねば……っ。
「またですか……スイマセン、ウチの人がご迷惑を掛けたようで……」
「クララさんの旦那だったああああああぁぁぁっ!!!」
「え、はい。《フリーザ》と言います。
御覧の通り父の下で守衛をしているのですが、少し好戦的というか人の話を聞かない節がありまして」
それ門番にしちゃダメでしょ。
とツッコもうとしていると、その真犯人ことフリーザさん……いやフリーザ様がこちらに近寄ってきた。
「ふふふっ、誰かと思えば我が片翼クウラではないか。 俺の活躍を見ていたか? 圧倒的な力によって侵略者の身動きを封じたんだぞ?」
「私はクウラじゃなくてクララ。何度言えば覚えるんですか……」
普通って言ってゴメン。メチャクチャ個性的な夫婦じゃん。2人揃って二人前(一人前の二人バージョン)だったんだな。
あと2人とも今後は『様』付けして良い? よくよく聞けば声もクリソツだ。
「ルーク君久しぶり」
「ん? あ、ああ、半年ぶりぐらいだな」
予期せぬ出会いがあったものの、なんとか猫2匹に罪を擦り付けられないか考えていると、今度はイブが自分を構えと近寄ってきた。
もう無理か……え? まだイケる? 諦めるの早い? そうか、ならもうちょっと頑張ってみるよ。
「インドアにして陰キャ、非武装王女にして好戦的とは無縁の君が暴力を振るうことになったのはヒカリやニーナに唆されたんだよな?
やらないともう仲良くしてあげないとか言われたんだろ?」
「……?」
「あ~いや言わなくていい。わかってる。実はアリシア姉すら唆されただけで本当に悪いのはあの2人だってことは。だから俺は悪しき獣人を罰するために、」
「ちゃんとっ」(ガシッ)
「見て」(パキュッ)
俺はヒカリとニーナの見事なコンビネーションによって視線をイブの手元へと向けられた。
その際に人体から出てはいけない音が耳の奥で響いたが、まぁ痛くないし誰も治療しようとしないので問題ないのだろう。
「イブちゃんの装備してる物見てから言ってよ。これのどこが非武装で好戦的じゃないって?」
突然首を変な方向に捻る行為を暴行とも思っていないヒカリは、自己診断していた俺に、目の前にあるものに集中するよう言う。
いや、わかってたよ……否が応にも目に入るゴテゴテした手甲の存在はあえてスルーしてたんだよ……。
「で、イブよ。その手甲はなんだ?」
「ワンパン君」
「……明らかに前のよりパワーアップしてるけど?」
「ハイパーからデストロイに変わった。ツボを刺激して一時的に精霊術を使える体にして魔力と精霊術と魔法陣で万物を貫通させる魔法を生み出せる」
「…………そっかー」
まぁコナソ君もツボを刺激するだけで人間の限界を超えた蹴りを放てるわけだし、魔道具ならそのぐらい出来ても不思議じゃないな。
今でこそボールという優しい素材に変わったけど、昔はレンガやマンホールの蓋なんかをバンバン犯人の顔面に直撃させていたものさ。
あのシューズは信頼して良い。肝心な時に電池が切れるメガネやボードや携帯。登録してないと使えない音声変換装置に、1本しか出ない睡眠針なんかとは違う。
「ま、何にしてもインドア少女が随分活発になっちゃって……お兄さん嬉しいよ」
「ん」
「でも活発と暴力は違うぞ」
「……ん」
俺はイブを撫でまわしながら久しぶりの再会を喜ぶことにした。
こうして俺はアリシア姉達と共にエルフの里で暮らすことになったのであった。
たぶん、許可してくれるだろ。ミナマリアさんも歓迎する雰囲気だったし。
「…………わたしは?」
ニーナは……ドンマイ。もっと目立つよう頑張ろう。




