三十三話 運命の出会い1
本編で最初で最後のシリアス展開
「さて、彼女はどこへ行ったのでしょうか」
フィーネが食事を渡してから数時間が経っているので、当然近くには姿も形もない。
彼女を探すためにフィーネはスラム街へと足を踏み入れ、探索魔術を発動する。魂の輝きが違ったのですぐに見つかると思っていたのだ。
しかしなかなか見つからず30分ほど歩き回り、スラム街でもひと際荒れ果てた場所に辿り着いた。
周囲には悪臭が漂い、地面に座り込んでいる人々からは活力が全く感じられない。完全に生きる事を諦め、死を待っている。
「ここ・・・・ですか?」
アッシュ達が居た山奥の廃屋と変わらないボロボロな小屋だが、こちらは完全に崩壊している。最近崩れたのかも知れない。
しかしあの時の輝きが見えるのは確かにこの元は小屋だった物の中からだった。
「失礼します」
ドアなど存在していないが、フィーネは一応声をかけてから入っていく。
元々小さかった建物が崩壊したことでさらに小さくなっていて、もしも瓦礫がなければ一目で見渡せるほどの狭さだ。
(瓦礫を片付ける余裕すらないのでしょうね。しかしこのままだと寒い時期は辛いはずですが・・・・・・)
雨風を防げない建物は本当に人が住める空間とは呼べなかった。
瓦礫を避けつつ踏み入れた直後、目的の人が見つかった。
「・・・・・・っ!」
妹が居ると言っていたので当然1人ではなかった。
彼女以外にも2人居た。
いや、1つと1個と言う方が正しいかもしれない。
マントを被ったまま座り込む、目的の少女。
その隣に左半身は瓦礫で潰され、右腕が無い幼女。
奥の方には生命力が存在しない女性。
(2人とも死んではいないようですが、重体と・・・・・・魔力がない?)
幼女は間違いなく重体だが、なんとか命はあった。
女性は魔力が無くなって生命活動が停止していた。
「こんにちは。配給していた者ですが、覚えていますか?」
あきらかに異常なこの状況を把握する必要があるので、フィーネは座り込んでいる少女へ声をかけた。
「・・・うん・・・・おいしかった」
やはり彼女も住人たちと同じく生気の無い声だ。
フィーネの訪問にも驚いた様子もなく、いや全ての事に関心が無いようだった。
しかし食べられたみたいで良かった。
固形物だったので消化できないかも知れない、と心配するほど彼女もボロボロだ。
「それは良かったです。私はフィーネと申します。あなたのお名前は?」
「ない」
(ナイさん? いえ・・・・・・名前が必要ない生活をしていたのでしょうね)
他人と接する事がなければ名前も必要ない。彼女の様子から察するに話し相手が居るとは思えなかった。
この場には自分と彼女の2人しか居ないので問題はないだろうと思い、フィーネは早速本題に移る。
「彼女たちは?」
この間にも命が消える危険があったが、焦ってはいけない。どんな時も冷静に対処することが一番の解決策なのだ。
「妹、潰された。母、病気」
実にわかりやすい説明である。妹さんは倒壊に巻き込まれて重傷、お母さんは動けない病気らしい。
「彼女たちを見たいのですが、宜しいでしょうか? 治療できるかもしれません」
コクン
言葉なく、彼女が頷いた。
まず幼女の上に乗っている瓦礫を吹き飛ばす。
やはり潰されている。それ以外にも打撲と切り傷があり、大きな木材が刺さっていた。右腕は倒壊前からの怪我なのだろう。
「光よ、ヒール」
(応急処置でしかありませんが痛みは軽減されるでしょう)
淡い光が幼女を包み、傷が癒えていく。体内に魔力を流すことで治療と同時に体を活性化させて自己治癒力を上げる。
女性の方を診察する。
体は冷え固まり、息もしていない。
「石化病ですか、厄介ですね」
<石化病>
原因がわかっていない病気。
体内に魔力が溜められず、魔力不足で気絶した状態のまま体が活動停止する。普通なら気絶して魔力が回復すれば起きるが、それが出来ない病気なので意識が戻らない。体から微精霊が居なくなる事で石化し、成長も衰えもなくなる。
「これ以上この場での対処は出来ないので屋敷へ連れて行きますね。一緒に来てもらえますか?」
「いい」
何故か彼女は拒否してきた。
「お金は必要ありません。助かった後は自由に生きてもらって構いませんよ?」
「生きたく、ない」
「っ!」
フィーネは衝撃を受けた。
彼女は助かる可能性すら望んでいない。おそらく治療させたのは怪我の苦しみを減らすためだろう。
「なら何故、食事を貰いに来たのですか? 生きるためではないのですか?」
「最後、だから」
最後の晩餐のつもりで美味しい食べ物をもらったと、この世界で生きるのは辛すぎると、彼女は言った。
苦しみの生より、楽な死を選んだのだ。
彼女は選んでしまった。
「もうそんな生活はしなくて良いのです。皆が幸せな生活を送れるような世界に我が主のルーク様がします」
「わからない」
そうだ。彼女は幸せという気持ちすら知らない。そんな世界は想像できるはずがない。
(それほどまでに・・・・・・そこまで辛い世界なのですか?)
大人が色々経験した結果、人生に絶望して諦めるなら理解できる。しかし楽しいという気持ちも知らない彼女は何のために生まれてきたのか。
知らない場所で数多くの似た者が存在していることに。
自分が生きる必要の無い存在だと思っていることに。
フィーネは絶望した。
「今日食べた料理が毎日3回食べられます。妹さん、お母さんと一緒に暖かい部屋で寝られます。怪我をしない生活ができるようになります」
フィーネは必死に説得した。
そんな気持ちのまま死んでいいはずがない。
彼女達はこれから幸せにならなくてはいけなかった。
「お願いします。私にあなた達を助けさせてください。私はあなたに生きてもらいたいのです!」
「・・・・2人と一緒なら」
数十分の説得の末、彼女は生きる決意をしてくれた。条件付きだったが全員を助けるのは当然の事だ。
「ありがとうございます。早速屋敷へ行きましょう。急ぎますので掴まってください」
フィーネはメイド服の汚れなど気にすることなく母親を背負い、血まみれの幼女を片手で抱き上げ、フードの少女を腕に抱えて走り出した。




