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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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三十話 ハンバーグ

 これと言ったトラブルもないまま、ロア商会が発足して1か月が過ぎようとしていた。


 あれから何度か工場の様子を見に行ったけど、要領を掴んだ従業員達の動きは日に日に洗練されていき、そのプロフェッショナルという言葉がピッタリな働きっぷりを見た両親が胸を撫で下ろしていたのは記憶に新しい。


 出資者として将来の展望を描くのに十分だったのだろう。


 それを証明するように右肩上がりの売上報告も受けている。


 ヨシュアには風呂が少ないので石鹸の需要があるのか不安だったけど、洗濯や掃除にも使えることが広まったお陰で毎日安定して売れ続けてるって話だ。


 そっちに特化した商品開発を進めたり、改良が加えられたりなんて、日頃から商品を利用していないと出来ることじゃない。


 その発想からは工場が一丸となって販売しようという気持ちがビシビシと伝わってきて、フィーネ達共々喜んだものである。


 と、順風満帆に見える商会活動にも問題があった。



「ユキ、また冷蔵庫に入り込んだのですか? 迷惑していると苦情が来ているのですが・・・・」


 一生懸命働いてくれる従業員達の邪魔しかしないバカ野郎がウチに居ることである。


 コイツ、前に言ってたことを本当に実践しやがったのだ。こんな迷惑な有言実行は初めてだよ。


「あれは必要な事なんですよ~。冷蔵庫が機能していないと困りますからね~」


 注意されても全く悪びれた様子のないユキは、それっぽい理由で正当化を図る。


「ウォシュレットの時は見ただけで判断してただろ。微精霊がどうこう自慢げに語ってただろ」


「記憶にございませ~ん」


「・・・・どうしても必要ってんなら一声かけてからやるとか触るとか、とにかく迷惑掛けないようにしろよ」


 大げさなリアクションと共に肩を竦めるユキに、王としての能力不足だと言及したい気持ちをグッと抑えた俺は、ありきたりな注意に留めた。


 これで無能ってんなら即刻クビにしてやるところなんだが、ひじょ~~~~~っに残念なことに無くてはならない人材なのでそれも出来ない。


「ルーク様の仰る通りです。今後そのような行為は禁止します」


「ガーンッ! 私なりのコミュニケーションだったんですけど~」


 まさか怒られる行為だとは思っていなかったのか、ユキは珍しくうな垂れて「皆さんと仲良くなろうとしただけなんです~」と本心を語る。


 方法が間違っているとは言え、彼女なりに努力しているようなので実は嬉しかったりして。


 職場の雰囲気って上司で決まるから、こういう人材も必要なわけでね。



 ちなみに、この出来事から3か月経ってもユキは冷蔵庫に入り続けており、いくら説しても聞かないので俺もフィーネもとっくの昔に諦めた。


 あの時、「たまになら良いぞ」なんて慰めの言葉を掛けなければ・・・・こんな事には・・・・。




 何はともあれロア商会は順調に成長を続けていた。


 そして商会が商品製造と販売を頑張っている間、俺は俺で衣食住の『食』を改善するための努力をしていたりする。


 そして今日はその発表会だぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!


「と言うわけでやって来ました。ルーク先生の30分クッキング~♪

 今日ご紹介する料理はガルムのハンバーグです」


「「「パチパチパチ~」」」


 調理場に集まってくれたメンバー(手伝ってくれるフィーネ・ユキ・エル。それに試食係のアリシア姉を加えた4人)は、今から作る物についての説明を聞くとちょっと懐かしいノリで歓声をあげてくれる。


 使われていない食材を食べられるようにしたり、新しい調理法を広めることを目的としたこの30分クッキング。


 料理に関しては苦い記憶しかないのだが、最近になってようやく包丁が握れるぐらいの力がついた俺は両親に見事なカツラ剥きを披露し、料理人としての第一歩を踏み出すことに成功した。


 つまりは異世界の料理でヤッホイ出来ることを意味してるわけ。


 章で言うならこれまでが幼少期編で、ここからがヨシュア発展編ってことだな。


 何を言ってるかわからないと思うが俺にもわからないからイーブンだ。


 そんなことより本編に戻って、


「ウフフッ! ついにっ、ついにっっ!! 絶対食べられないと言われた魔獣ガルムを食材にする日が来たのですね!」


 中でもガルム研究家のエルのテンションがおかしい。


 まぁガルムの調理は長年の悲願だったんだから仕方ないか。


 石鹸向きの油が採れるから重宝しているガルムだけど、逆を言えばそれにしか使えず、搾った後の肉も何かに使える感じだったし、油の少ない部分は捨てているので、勿体ないお化けと日夜会議を開いていた。


 これが食用になれば凄い事になる。


 そう考えて石鹸工場から貰ってきた肉を俺なりに調べてみた。


 その結果、判明したのは『臭い』『硬い』『味がつかない』という3つの原因。


 それ等を改善した時、ガルムは新たな可能性を生み出す。


「フッフッフ~。この神の舌を唸らせることが出来ますかね~」


「ほざけバカ舌が。もしお前の中にマズイ食べ物があるなら教えて欲しいぐらいだ」


 好奇心の塊のコイツは、道端の雑草だろうと(この前見かけた)、ガルム料理の失敗作(エル作)だろうとムシャムシャ食べる。


 苦さ辛さエグミなどの刺激を『楽しい』と判断して平然と完食する我が家のバキュームである。


 そもそも食事を取らなくても生きていける存在なのだ。万が一にも嫌いな食べ物があるなら弱点として使えそうだから聞いてみたものの、


「美味しいと超美味しいしかありませんね!」


 と、元気いっぱいに返答されてしまった。


 ・・・・無視だ無視。


「取り合えず今は買った物で作るけど、近い内に農場とか食材の加工工場とか、それこそ食堂みたいなものが必要になりそうなんだ。

 もちろん俺が作った物が皆の口に合えばの話だけどさ」


「お金に関しては今のロア商会の業績があれば問題ないでしょう。

 味覚の方は何とでもなります」


「・・・・なにするつもりだ?」


 どっちも大丈夫って言ってもらえると思っていた俺は、不敵な笑みを浮かべるフィーネに底知れぬ恐怖を感じていた。


 何? 洗脳とか、食べなきゃ殺すとかそういう事?


「フフフフフフフ」


 ・・・・・・うん、こっちも無視しよう。



「臭っ」


 本日の主役であるガルム肉を取り出すと、メンバーで唯一この臭いに慣れていないアリシア姉が鼻を摘んで顔をしかめながら率直な感想を口に出した。


 俺達だって似たような反応はしている。何度嗅いでも臭いものは臭いのだ。


 しかしそんなオーバーリアクションを取ったアリシア姉を見て、この臭さを歓迎するようにテンションを上げる変態も居る。


「そうなんです! 大抵の人はこの臭いでギブアップしてしまいます!

 しかしですよ!? もし臭いが気にならなくなったら食用肉としての新たな世界が開かれ・・・・・・(うんたらかんたら)」


 長いので省略させていただくけど、言いたい事は大体エルが言ってくれた。


 その問題点を解決しながら調理していくとしよう。


「実はコイツの臭いって結構簡単に消せるんだ」


「なんですってぇええええええええええっ!? ど、どどどどうやってですか!?」


 ちょっとうるさいけど、こうしてリアクション取ってくれると進めやすいので注意はしない。


「その秘訣はこれだ!」


 俺は鍋一杯に塩水を作り、そこに肉の塊をつけて煮込んでいく。


 さらに細かく言えば、血抜きした肉を塩で揉んで、この後語る方法で硬さを取って、茹でるという面倒な工程が必要になる。


 だとしても、これまで廃棄していた肉が食べられるようになるってんだから十分過ぎるメリットだ。


「こ、こんなことで・・・・っ!」


 俺の指示で下処理をしていくエル達は、見る見るうちに生臭さと腐敗臭が消えていく超常現象を目の当たりにして、それぞれに驚きを露わにする。


 エルなんて鍋から取り出した肉を落としそうなほど手足を震わせて戦慄だ。


「たぶん今までに試した人も居るんだろうけど、塩の方が高価で割が合わなくて断念したんだろうな」


「くっ・・・・アホ貴族共が税率を下げていれば!」


 君、君、口悪いよ。



 臭い消しのついでに洗浄も済んだことだし次の段階に入ろう。


「とは言え、これでほとんど終わってるんだよな。

 あとは硬さを取るために魔力を流しながら調理するだけで」


「はいっ、質問があります! それは私も試しました!!

 一流店や貴族のパーティではよく使われている手法なので頑張ってみたんですけど、結果は変わりませんでした・・・・」


 その理由はすぐに予想がついた。


 さり気なくエルが凄い料理人であることを認識させられたけど、本人もそれに触れなくてもよさそうな感じだし、このまま話を続けよう。


「それ挽肉にしなかったんじゃないか? あと塩揉みと茹でておくってのも大事だぞ」


「ひ、挽肉!? た、たしかにしていませんし、ルーク様が仰るような下処理は何も・・・・」


「肉の筋や繊維の中に魔力が残って硬くなってるから、それを完全に出しきらなきゃ食用にはならないんだ。

 最初に煮たことで結構柔らかくはなってるから、あとは筋に沿って肉をほぐしてミンチにすればOKなのさ」


 説明しながら自作した穴あき包丁で手本を見せる。


 さっきエルが言ったように、魔力を流しながら切るにはコツが必要だから一般家庭でも出来るように包丁を改造したのだ。


「こんな感じだな。イメージは魚の骨を取るみたいに」


「テ、テクニシャンです! 絶技です!!」


 バカにされてないよね? 褒められてるよね?


「・・・・つまりガルムは挽肉専用だ。たぶんミンチ以外の肉は作れないと思う」


「なるほど!」


 俺は釈然としない気持ちを抱えたまま解説を終えた。



「味付けは臭いと固さを取った時点で解決だ。

 魔力が調味料を寄せ付けないから味がつかず、多少の味は臭いでかき消されてたから食用に向かなかったんだろう」


「仰る通りかと。ガルム肉が食されていないのが何よりの証拠ですね」


 ユキではなくフィーネが賛成してくれたことで話に信憑性が出てきた。


 アホの子(ユキ)は、同じアホの子(アリシア姉)とボーっと聞いている。


 真面目なのは俺達大人組だけだよ!


 君等なんのために来たの!? あ、試食? せめて調理過程を覚える・・・・気もないんですね、はい。


「これでどんな風に調理しても問題ない挽肉になりました。以上でガルム肉についての講義を終わります!」


「先生! 私涙が止まりません!!」


「「・・・・ひしっ」」


 俺達は擬音を声に出しながら抱き合った。




 挽肉を使った料理で最初に思いついたのが、みんな大好きハンバーグ。


 子供からお年寄りまで誰でも食べれるハンバーグ。


「ミンチにしたガルム肉にパン粉と卵を混ぜ合わせて塩で味付け。ニンジンや玉ねぎ等の野菜やキノコ類を入れても美味しいぞ」


「先生! アリシア様が挽肉のキャッチボールを羨ましそうに見ています!」


 空気を抜いて割れにくくするためと形を整えるために適度な大きさに分けて両手でキャッチボールしていると、試食係のアリシア姉が「ジー・・・・」と熱視線を声に出してアピールしていた。


「失敗した分は自分で食べるってんなら挑戦しても良いけど?」


「・・・・」


 大人しくなった。


 自分が不器用だと自覚はしているらしい。


 そうして出来上がったネタを、すぐさまフライパンに投入しようとしているエルを見て、俺は慌てて止めに入る。


「あ~ダメダメ、火が弱すぎる。ガルムの肉は焦げにくいから強火で一気に焼きあげるんだ。

 逆に弱火だと中まで火が通らなくて生焼けになるからしっかり焼いてくれ」


「そうなんですか? いい感じの熱量だと思ったんですが」


「奴等は火に強い。普通の肉が丸焦げになるぐらいの火力が必要になるんだよ」


 試食した時の腹痛の原因は間違いなく生焼けのガルム肉だ。


 赤身なんて残したら痛い目見るぜ。


 

「本当に焦げないんですね~」


 俺の指示通りに、魔術で(は苦手なのでフィーネに頼んで)火力アップさせたエルは、ひっくり返しても焦げていないことに改めてガルム肉の凄さを実感して溜息を漏らす。


 しかしすぐに手慣れた様子で次々とハンバーグを宙に浮かせて綺麗に両面を焼いていく。


「先生! アリシア様がフライ返しをやってみたそうに見ています!」


 流石はオルブライト家の調理を一手に引き受ける逸材だと感心していたら、またもやアリシア姉が面白いことを見つけてしまったらしい。


 この頃になるとジュージューいい音が鳴り響いて腹を刺激してくる。手を動かしていないとつまみ食いしそうなのだろう。


「失敗した分を、」


「ちょっと待ちなさい! さっきもだけど、フィーネやユキが居れば失敗しても問題ないんじゃないかしら!?」


 いっそのこと調理場から追い出そうと考え、同じセリフで撃退を試みると、アリシア姉は物理法則を無視した動きが出来る連中さえ居れば失敗し放題だと言い出した。


 まぁわかってましたけどね。


「・・・・残念だけどそれは出来ない」


「なんでよ?」


「もう作り終わったから」


「っ!?」


 俺達がゴチャゴチャしている間にハンバーグは焼き上がり、フィーネが作っていたトマトソースと、ユキが作っていたマヨネーズを添えて完成していたのだ。


 マヨネーズは菜種油が手に入った時から考えていた調味料。


 卵と油と塩が揃ったので残る素材『お酢』を探し求めていると、ロア商会の従業員が酸っぱい果物の存在を知っていた。


 この『アシッド』と呼ばれる果物。


 普通は熟す前の固いときに食べるらしいけど、スラム出身の彼は腐った食材と勘違いされて誰も見向きもしないアシッドをタダで入手していた。


 俺もその一般的な食べ方を試してみたけど、固くて味の無いリンゴのようだった。


(英語で酸っぱい・・・・なんでこんなに関連性あるんだろう?)


 なんて地球とアルディアの関りについて考えさせられたものの、全くわかる気もしなかったのですぐに諦め、このアシッドを大量に確保してもらった。


 農場を経営するようになったら絶対に育てる。もう腐ってるなんて言わせない。


 あとはアシッドの搾り汁を卵や油と混ぜ合わせてマヨネーズの完成だ。


 本当は胡椒があれば完璧だったけど、さすがに無かったので妥協する。


 トマトソースはこのアシッドと塩、玉ねぎをベースに煮込んだ。



 『面白そう』


 ただその一心で料理をしようとしていたアリシア姉は、一切手出しできなかった事を悲しんだが、試食と聞いた瞬間復活した。


 興味がそっちに移ったのだ。


 あと断言するが一度で飽きる。『出来るヤツがやればいい』精神の持ち主だから、限りある人生の貴重な時間を浪費してまで美味しい手料理を振舞いたいなんて考えない。


 なんて姉の女子力の無さを嘆いているとフォークが顔面目掛けて飛んできたので、早く試食させて鎮めよう。


「さぁみんな食べてみてくれ」


「「「いただきまーす!」」」

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