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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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閑話 とある女性従業員の場合

 ロア商会の幹部フィーネとユキは、経営理念である『みんなで楽しい仕事』を叶えるべく、300を超える応募者達と面接していた。


 そのほとんどは他人を蹴落としてでも金や仕事を手に入れようとする者達だったので9割以上を落としている。


 突然不合格と言い渡されてもドラゴンスレイヤー相手に文句を言う度胸などあるわけもなく、『やる気さえあれば貴族並みの暮らしが可能』という破格の条件とは裏腹に、過去に類を見ないほどスムーズに消化していく。


 そして最終日となる今日。残る面接は10人を切っていた。


「次の人どうぞ~」


 不合格と告げられた男は大人しく去り、ユキが次なる人物を呼ぶと、すぐに女性が入ってくる。


「ノルンです! よろしくお願いします!」




「いや~。あの時アタシなんで受かったのかわからないんだよね~」


 アタシは今日も石鹸が完売したことを喜びながら、同僚と一緒に風呂で面接時のことを思い出していた。


 風呂は1日の疲れと汚れを洗い流してくれる憩いの場。


 男風呂・女風呂共に4人は余裕で入れる大きさだ。


「それ言ったら私もよ。魔力が子供より弱いのよ」

「ボクなんて12歳の子供だよ、力もないのに」

「わたしこんな大食らいでも怒られないんだぁ」


「「「良い職場だよね~」」」


 話を聞いて一緒に入っていた全員が口々に思い出を語り始める。


 誰に向って話したわけでもない独り言のようなものだったけど、全員が盛り上がれるこの話題は、聞き手と語り手を入り混じらせながらしばらく続いた。


 ・・・・・・・・。


 ・・・・。


 どのくらい話しただろう。


 気がついたらアタシ達は全員のぼせていて、這いずるように移動した脱衣所で休む羽目になった。



 アタシことノルンが工場で働き始めて3か月が経つ。


 製造も販売も安定してきて平穏な毎日を送っている。




「あぁぁぁぁ・・・・やらかしたぁぁぁぁ・・・・・・体ダルぅぅぅ~~」


 間違いなく風呂に入る前より疲労している体に鞭打って自室へ向かっていると、途中の廊下にある休憩所で見慣れた顔を見つけた。


 サイとソーマ。アタシの一番の親友だ。


 今日は酒もツマミもないみたいだけど、サイが飲んでいるフィーネ様特製の栄養ドリンク(原材料不明)を目にしたアタシは声を掛けることにした。


 お前の物はアタシの物、アタシの物もアタシの物。


 無くしても探さないし貸したりもしない。黙ってそのジュースを差し出せ。今のアタシにはそれが必要だから。


「あれ? 2人で何してんの?」


 向かい合って真剣な顔で話をしている2人に自然な感じで声を掛け、自然な感じでサイの正面に座り、自然な感じで栄養ドリンクを奪取。


 そのまま一気に飲み干す。


 ゴクッゴクッ・・・・・・ふぅ、これでなんとか明日の仕事に影響を出さずに済む。


 普段ならここでツッコミが入るんだけど、よほど真面目な話をしているのか2人は無言でこっちを見るだけ。


「・・・・こいつなら良いか?」

「ああ問題ない」


 かつてないほど真剣な表情にアタシは息を呑んだ。ジュースも飲んだけど。


(ってこれはジュースどうこうやってる場合じゃない? あわよくば間接キスで金取ろうと思ったけど、そんな空気でもない?)


 2人がこうなる理由を考え始めたアタシはすぐに1つの結論に至った。


(も、もしかして仕事で重大なミスを? いや、フィーネ様の秘密を知ってしまったのかも!)


 ロア商会のトップに君臨するフィーネ様は謎多き女性だ。秘密を知った者は消されるとの噂すらある。


 そして彼らはその秘密にアタシを巻き込もうとしている。


 親友の力になれるならなりたい。


 販売員として苦楽を共にしてきた間柄だ。見捨てるなんて出来ない。


 いや、しかし・・・・。



「じゃあ言うぞ」


 悩んでるアタシを他所に、サイが静かに、でもシッカリとした口調で話を切り出した。


「ま、待って、心の準備がいるから・・・・・・よっしゃぁぁああああっ!」


 アタシは自らの頬に張り手をかまして覚悟を決めた。


(アタシはこれから一生の秘密を抱える事になる。バレないように隠し通さないと。

 でも大丈夫。アタシならやれる!)


「それで、秘密って何?」


 この時アタシの声はたぶん震えていたと思う。


 だって怖いじゃん! 覚悟を決めようが怖いもんは怖いって!!


 しかし2人はそんなアタシを見てキョトンとしたアホ面になり、


「「は? 秘密?」」


「・・・・え? フィーネ様の秘密を知って悩んでるんじゃないの?」


 逆に質問されたアタシは、頭の中にあったことをそのまま伝えた。


「誰がいつそんなこと言ったよっ! 馬鹿か!?」


「そもそもフィーネ様の秘密を知って今この場に居れるわけないじゃないか」


 まぁそうだろう。


 アタシなら知った瞬間あの世に行く自信がある。



「じゃあなにしてんの?」


 それ以外にあんな真顔をする理由が思いつかないアタシは、大人しくサイ達から説明してもらうことにした。


 仕事の話をするときは笑顔かバカ話で盛り上がってるし、悩みなんてないのは知っているからね。


「「『理想のバストサイズ』について議論していた!」」


 ・・・・・・バカがいる。


「いいか? デカい胸には夢と希望が詰まってるんだよ!」


 胸の前でこれでもかってぐらい両手を伸ばして巨乳、いや爆乳を表現するサイ。


 何度もするな。一度でわかる。


「だから言ってるじゃないか! アレは脂肪なんだと。ネネさん達が搾っているガルム油と変わらないと。手に収まるサイズこそが至高だと!」


 それに対抗するようにソーマが自身の胸に手をあてて少し膨らみを作る。


 揉みしだいてるのが気持ち悪い。


「ならなんでお前はミミの胸に目線がいくんだよ! 妹のネネが好きなんだろ?」


「あれは違うんだ! 彼女の谷間が僕を誘ってくるんだよ。女性からの誘いを断ることは出来ない!」


「胸が大きいとミルクがたくさん出るだろ? つまり子供を育てるのに必要だと神が言ってるんだ!」


「バカを言うな、小さくても問題は無い! それに小さい方が感度が良いと言う研究結果を知らないのか君は!?」


「ッハ! 手から溢れ出すあの重量感が良いんだろうが! 舐めてんのか?」


「話にならないな。小さい胸は垂れる事がない、つまり変わらない理想郷が存在しているんだよ!」


 ・・・・・・明日の朝ごはん何かな~。



「「ノルンはどっちだと思う!?」」


 熱弁も熱弁。良く舌が回ると感心するほど饒舌に語る2人は、味方を増やそうとしているのか意見を求めてきた。


 どうもアタシを女扱いしてない気がする。というかしていない。


「当然デカい方が良いよな!」


「いやいやノルンも小さいし、小さい胸が好きな者の気持ちはわかるはず、ダフッ!」


 何かホザいていたソーマ(ゴミ)を片付けたアタシはサイを睨みつける。


「なにくだらない話してんの」


「あ、ああ。いやどうやって女風呂を覗くか話し合ってたらヒートアップしてき、「死ねっっ!!」グハッ!」


 サイ(ゴミ)が増えた。


 殴りどころが良かったのか、気絶したので簀巻きにして『覗き魔です。胸を見ていました』と書いた札をぶら下げておく。


 変態死すべし。




 サイに貰ったジュースのお陰か、スッカリ体調が回復したアタシは風呂上りから何もなかったことにして部屋へと向かう。


 そこまでの通路には壁から天井までたくさんの落書きがある。従業員しか通らないので好き放題にしていいみたいだ。


 食事当番の時、献立に悩んだらここから選んでいる人も多いので落書きって言うより提案板かな。


 みんなの性格がよくわかるこの壁がアタシは気に入っている。


 思い出にもなるから、遠い未来に妹募集のヤツは過去の自分を振り返って身悶えするんだろうな。


『彼氏募集中!』『誰か付き合ってくれ』『オススメ料理一覧』『明日ステーキ食べたい』『酒をくれ』『僕の妹募集中! 12歳以下限定!!』


 歩きながら眺めるだけでこんなに。


 って最後のは誰だ? 字じゃあ判断できないから明日誰かに聞いてみよ。


 12歳以下の従業員はリンちゃんだけだ、変態が!



「ひゃっほー」


 3人部屋に戻ったアタシは柔らかなベッドに飛び込み、良い匂いのする清潔な布団を堪能。


 あー幸せ。この布団で眠れるアタシは今、世界一幸せだぁぁ。


「ノルン遅かったわね」

「何してたのぉ?」


 そんなアタシを見て、同室のミミとネネが声を掛けてくる。


 ちなみに双子の姉妹で、姉さん肌なのがミミ。語尾がダラッとしてる妹のネネ。


「あ~、途中でさ・・・・っ!?」


 質問に答えるためにうつ伏せの状態で身を起こしたアタシの視線は、いつの間にか近くに来ていたミミの胸へと吸い寄せられた。


 さっきまで一緒に風呂に入っていたから、アタシがゴミ処理している間に別ルートで部屋に戻ってきたらしく、風呂上りということもあって薄着。


 だから谷間が・・・・谷間がぁぁぁ・・・・・・。


(ダメだ、バカ共の話が頭から離れない! アタシは気にしてないんだ!)


「サイやソーマと遊んでた。あいつら風呂覗こうとしてたみたい」


 煩悩を振り払って毅然とした態度で答える。


 いやホント全く気にしてないから『毅然』じゃなくて『自然』だけどね。


「アハハ、相変わらず仲いいね」

「どっちと付き合うのぉ?」


 何故か男女が一緒に居ると付き合っていると勘違いされる。


 そして非常に遺憾なことに職場の仲間であってもその法則は変わらないため、工場内でアタシ達は三角関係にされていたりする。


「ないない、アレは無いって」


 そんな時アタシはこう言う。


「「またまた~」」


 今度こそ・・・・オッホン、今度“も”本心を伝えたのに一向に納得しない2人。


 そんな彼女達からの質問を受け流しつつ、アタシ達は恋愛話で夜遅くまで盛り上がった。


 楽しい仲間たちだ。




「皆さん、おはようございます。さて今日の仕事ですが・・・・」


 アタシ達の1日はフィーネ様の朝礼で始まり、終礼で終わる。


 ユキ様は暇な時間にチョッカイ掛けに来る。


 朝礼後に朝食。今日はパン、肉と野菜の炒めもの、卵スープ、甘く煮込んだフルーツだ。


 自家製のふっくらパン、野菜炒めには色鮮やかな野菜が沢山入ってるし、卵スープは薄っすら塩味で鶏卵がたっぷり。極めつけのデザートは砂糖で煮込んだ季節のフルーツ。


 今日も美味し過ぎる。最初に食べた時は泣いたものだ。


 女性は料理・掃除・洗濯のどれかを当番制で行うから当然アタシも料理するんだけど、未だに調味料を使う時には手が震える。


 20人分の食事を作ると大量の塩や砂糖を使うから、失敗した時の材料代を考えると仕方ないと思う。


 ちなみに男性はガルムや塩の運搬と工場内の手入れ。


 仕事の中で一番不人気(って言ったら怒られるか)なのはガルム油を搾り出す工程。


 だって臭いしっ!


 もちろん辞めたいとか辛いなんて思うレベルじゃない。


 むしろ彼等だけは臭いを落とすために石鹸使い放題だから羨ましく思う時すらある。自作石鹸を作ったりも出来るから楽しそう。


 現在そこの担当のネネと一緒にお風呂に入るとよくわかる。


「女子力保つために一生懸命だよぉ。ゴシゴシ擦り過ぎて肌荒れになりそうだよぉ」


 これが彼女の口癖だ。



 アタシ達は販売員に落ち着いているので、朝から晩まで露店で石鹸と冷蔵庫を売る。


 近々新商品を売り出すらしく、品数が増えたら店を作らないとって話を聞いた事がある。


 自分の店・・・・楽しみすぎる。内装とか考えてよく寝不足になる。




「「「行ってきます!」」」


 アタシはいつもの様にサイとソーマと3人で商品を乗せた荷台を押しながら、門にあるドラゴンの骨と受付嬢に挨拶して露店へと向かう。


 従業員の間ではこの骨が工場の守り神になっていて、触ると良い事が起きると言う噂なのでアタシは毎日出かける前に触るようにしてる。


 受付嬢は最近できた新しい役職で、主にフィーネ様への取り次ぎや大手の契約のために居る。


 露店だけじゃ対応できない客が工場に押し寄せるから作ったんだとか。


 製造過程で魔力を消費した人が休みがてら座っているだけなので休憩室と言った方がいいかもしれない。



 そんな皆の頑張りを無駄にしないためにも、アタシ達は殺到する客に石鹸と冷蔵庫を売っていき、身も心もボロボロになった頃に昼休憩を取る。


 問答無用で販売を中止して、休憩出来たら再開するとだけ伝える。


 こうすると近くの定食屋や露店が儲かるから喜ばれるのだ。


 ご近所付き合い大事。


 そんなことより食事係に作ってもらったお弁当、お弁当♪


 サンドイッチうまー! おやつのラスクあまーー!!


「これも売り出せばいいのに」


「そんなことしたら俺らの食べる分が減るだろ!」


「もしかしたらそのうち販売するかもね。仕事場を増やしたいみたいだから」


 いつでもこれが食べられるようになる・・・・素敵。



 最近は商品説明がアタシ、受け渡しと会計がサイ、フォローと冷蔵庫販売がソーマという役割分担になっている。


 石鹸の知名度が上がったから説明する必要はないかと思いきや、皆が凄い勢いで新商品を作るから逆にアタシの負担が増えてたりして・・・・。


 まぁセールストークが上手なアタシがこうなるのは自然と言える。サイやソーマには絶対出来ないリーダー的ポジションじゃん。


 ・・・・いやアタシどう考えても3人の中で仕切り役でしょ?


 売上げ勝負をしていた頃の結果は秘密。


 『適材適所』いい言葉だ。




 今日も完売させたアタシは疲労と満足感を携えて帰宅。


 あとはいつもの様に終礼して風呂に入って寝る。


「あーサイコー! これで月に金貨2枚! アタシ一生ここに居る~」


「今日のラスク美味しかったわね! 3時のおやつ制度って誰が考えたのかしら、褒めたいわ」


「それよりトイレだよ、フィーネ様が作ったんでしょアレ。あの綺麗さは住めるでしょ」


「いやいやお風呂だよぉ。自分が作ってる石鹸を試せるんだよぉ。石鹸最高ぉ」


「あんたら料理する機会が少ないから冷蔵庫の凄さを知らないんだよ」


 ワーワー、ガヤガヤと賑やかな仕事場。


 きっと明日も楽しい日になるだろう。


 ロア商会に入れて良かった。


 心からそう思う。

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