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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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二十八話 製造業やってます

 ロア商会が発足し、従業員の募集をかけた翌日。


 工場前には長蛇の列が出来ていた。


「なぁ本当に信じてるのか? 月給金貨2枚プラス現物支給あり。食事、風呂付、希望者は住み込み可。スラム街出身者も大歓迎とか」


 平民がひと月働いて金貨1枚。当然食事など付かないし、住み込みならその分は引かれる。風呂に入った事も無い人も多い。


 それ等が全て込みで手取りは倍。


 このあり得ない好条件にヨシュア中から応募者が殺到したのだ。


 そして中には怪しむ者も居る。


「何をいまさら・・・・信じてるからこそ僕達はこうして並んでるんじゃないか。

 この会長ってこの前のドラゴン騒ぎのメイドエルフだろ。そんな有名人がこんな大それた過大広告すると思うかい?

 商人より冒険者やってた方が絶対儲かるのに、それでも商会作ったって事はそれだけ儲かるとしか考えられない」


「まぁ・・・・な」


 その話に、男は少し考えて同意した。


「なんにしろ僕は『簡単な製造業で手が動けば問題なし。必要なのはやる気だけ』ってだけで十分だけどね。働ける場所があるだけでも有難い」


「いや俺もだけどさ。修理屋の仕事クビになっちまったからな」


 誰も彼もが期待と不安を入り混じらせて面接待機中だ。



「ふ~む、従業員の応募が少なかったらサクラとして並ぼうかと思ったけど、そんな必要もなかったな。

 ってか一刻も早く離れよう。厳つい連中ばっかで怖い」


「その年で人の集め方を熟知してるお前の方が怖いわ・・・・」


 マリクと様子を見に来たものの、今後の生活が懸かっている人々の熱意に怖気づいた俺は、面接をフィーネとユキに任せていて帰ることにした。


 少なかったらコッソリ覗こうとか思ってたけど、これは無理だ。


 街の掲示板で告知したり、口コミで広めるという一応の努力をしたみたけど要らぬ心配だったらしい。


 そもそも怪我を理由に冒険者を引退した人や、親に捨てられた子供など様々な原因で働けない人が多いので、こういう機会があれば待遇など気にせず人は集まるか。


 ヨシュアは働き場所が足りない街なのだ。



 就職希望者約300人と予想以上の人数だったが、フィーネ達は3日間使って全員を面接。20人を採用した。


 下は12歳から上は40歳まで様々な種族が集まり、その全員が住み込みを希望したので屋敷は一杯になった。


 人の本質を魂で判断できる2人に面接を任せたのは、こうなるのを想定しての事だ。


 同居人が金欲しさに窃盗や情報漏洩してたら嫌だろ?


 まぁドラゴンスレイヤーと敵対するなんてチャレンジャーが居るとは思えないのだが、念のためってことで。


 フィーネ達が雇った人物なら信用に値する。


 そうでなくても上司として顔見せは必要だったし、何より他に適任者が居なかった。




 従業員達の引っ越しが終わり、お互いの親睦を深めた翌日。


 いよいよ石鹸と冷蔵庫の生産がスタートするとあって、工場稼働初日は出資者としてオルブライト家から父さんと俺が朝礼に参加していた。


 この後、彼等の働きぶり(というか誰が作っても商品になるのか)を見学するつもりだ。


 ただ入社式に子供が紛れ込んでいたらそりゃあ注目を集めるわけで・・・・。


 皆から『どうしてこんな子供が?』という視線を浴び、仕事始まってから来ればよかったと後悔していた俺に救いの女神が現れる。


 フィーネとユキが登場した途端一同は姿勢を正してそちらを向いたので、俺は20人の瞳という名の監獄から解放された。


 肩を撫で下ろす俺を見て苦笑した2人は朝礼を始めた。


「皆さん今日からよろしくお願いします。私がロア商会の会長で管理者のフィーネです」


「指導係のユキです~」


「最初に言っておきます。皆さんは仲間です。種族、年齢、経歴は関係ありません。仲良く、楽しく仕事をしましょう。

 守れない者は敵対していると判断し、罰則や解雇もありますので覚えておいてください」


「「「っ・・・・よろしくお願いします!!!」」」


 うむうむ、活気があって大変素晴らしいと思います。


 一瞬ビクンッとなったのは気にしません。


「それとこちらはロア商会の出資者であり、私とユキの主でもあらせられるオルブライト家の方々です。

 本日は皆さんの働きぶりを見てくださるので、決して声を掛けたり注目してはいけませんよ」


「「「はいっ!」」」


 それ、出来れば昨日の段階で伝えておいて欲しかったなぁ・・・・。


 あと返事した奴等は全員俺のこと見てたからな?


 今から気を付ければ良いや、って思ってるなら甘いからな?



 朝礼が終わり従業員達が持ち場に向かった後、自由に見学することを許された俺と父さんは早速移動することにした。


「さて、どっちから見ようか?」


「石鹸の方は生産ラインが整うまで時間掛かるし、まずはあっちの冷蔵庫工場からでしょ」


 俺は朝礼が行われた屋内から庭を指さして言った。


 この工場は屋敷の半分を石鹸作りに、もう半分を従業員の居住区として使っており、冷蔵庫作りは庭の氷小屋で行っている。


 個人的には居住区も気になる所ではあるがそれはまたの機会に訪れることにして、見どころ満載となっているであろう仕事場を提案した俺は、父さんを引き連れて見学・・・・いや視察にやってきた。


(ふ~ん、そうやって鉄板削っちゃうんだぁ。

 あ~、接合部分が弱いな~、これじゃあすぐ壊れるよ~?

 ぷぷっ、熱鉄板に驚いてやんの)


「「「・・・・・・・・」」」


 さきほど注目されたことへのお返しに、たどたどしく製造を行う彼等の様子をじっくりネットリまじまじと眺めていく。


 もちろん口出ししたりはしない。


 邪魔にならないよう横から覗き込んで口角を上げるだけだ。


「ルーク・・・・それはもう邪魔になってるから」


「うん、わかったよ」


 チッ、運の良い奴等め。


 今日の所はこれぐらいで勘弁しといてやるが、次は無いと思え!


「どうも子供にしては捻くれてるというか、病んでるというか・・・・」


 ちゃんと子供らしく返事したのに呆れられてしまったよ。顔に出てたか?


 とは言え、俺達の目的は働きぶりを見学することなので間違った事はしていない。


 『ほどほど』という一番難しい視察を始めた俺は、まぁ案の定テキパキとは程遠い動きをする従業員達を心配する羽目になってしまった。




「ん~~、魔道具のことはサッパリわからないなぁ。

 そろそろ石鹸作りの方に行かない?」


 ルーターを使って魔法陣を刻んだり、箱を組み立てるだけの作業は見ているだけでは面白いはずもなく、早々に飽きた父さんは次なる工場へ行きたがっている。


 俺が説明してあげれば少しはマシなんだろうけど、魔道具に詳しい子供ってのもおかしな話だしな。


 ここは大人しく移動することにしよう。


「良いよ。ついでに石鹸工場の説明をしといてあげる」


「・・・・よろしくお願いします」


 そっちでも話について来れなくて暇とか言い出すかも、と心配になり提案すると、父さんも同じような事を思っていたのか逆に懇願された。


 俺はフィーネ達から教えてもらったことにして、今から見学する石鹸作りの工程を話していく。


『塩の分離作業』

 塩を分離するためには溢れないように適量で3つの容器に注ぎ続けなければいけないし、苛性ソーダの分離は魔力を使い続けるので魔力量の多い人。


『油を搾る作業』

 ガルムから油を得るために生肉に切り分け、その切り身をカマドで焼くことで下皿に油が溜まる。さらにプレス機を使って人力で残った油を搾り出す。

 プレスをしたり、ガルムを切ったり、絞ったガルムを焼却所へ運ぶので力持ちの人に任せている。


『分離した苛性ソーダと油を混ぜ合わせる作業』

 混ぜ合わせる作業は決められた分量を規定の時間混ぜるので、几帳面で単純作業を続けられる人。


『形を整えて製品にする作業』

 型枠に流し込んで使って形を整えて、最終チェックもする目利きで集中力がある人。



「以上の4つに分けて専任されています。わかりましたか?」


 俺は石鹸工場へ向かいながら父さんに説明し、得意げな顔で締めくくった。


 気分はさながら覚えの悪い生徒に特別授業を行う教師だ。


「ふむふむ、適材適所に割り振って作業の効率化を図っているわけか。

 その辺も面接で選んだのかな?」


「それもあるだろうけど、しばらくは全工程を従業員みんなに経験させて割り振るらしいよ。

 向き不向きはフィーネ達が判断出来ても、性格的な問題まではわからないからさ」


「たしかに魔道具に関して何も知らない僕の目から見ても、明らかに冷蔵庫作りに向いてなかった人が居たね」


 もちろん最初から上手く行くはずはない。


 たしかに失敗も多かったけど、指導係であるユキは怒る事なく丁寧に指導してくれていた。


 この中には数か月後、職人になる人も出てくるだろう。


「平気平気~。この魔道具、買えば金貨数百枚はくだらないですけど私ならすぐ直せますからドンドン挑戦してくださいね~」


「は、はいぃぃ・・・・」


 うん、怒ってはいない。従業員はビビってるけど。


 どれだけの人が言葉通りに受け取れるかはさて置き、ミスを帳消しにしてくれるユキの存在は大きかった。


 石鹸も冷蔵庫も、どれだけ失敗しようがすぐ素材を取って来てくれるし器材も直してくれる。


 従業員達がこのぬるま湯のような仕事で満足しないのも素晴らしかった。


 厳しくはないが「好条件の仕事をクビになる訳にはいかない!」と、みんな全力で頑張っていたのだ。


「飴と鞭、かな。ユキが挑戦権を与えて、フィーネの監視で必死になる。

 それでスキルが身に付かなければクビになる可能性があるんだから、ある意味地獄だよね」


「それが出来なさそうな人は面接の時点で落としてるんじゃない?」


「かもね。ただ同じミスをするとフィーネの眼力が険しくなっている気が・・・・」


 うん、それは俺も感じてた。


 それと同時に全員が最高の職場だと理解したのも、な。


 安全な環境、清潔なトイレ、美味しい食事、柔らかい布団、気の置けない仲間たち、優しい上司、やりがいのある仕事。


(((ここを辞めたくない!)))


 皆からそんな熱意を感じた。


 きっとこれから先も、この気持ちが彼等を駆り立ててくれることだろう。




 工場が稼働を始めて3日が経った夜の事。


 自室でゴロゴロしていた俺のところへ、珍しく困った顔したフィーネが相談にやってきた。


「ルーク様。ロア商会が少々困ったことに・・・・」


「えっ。もうトラブル? 納期が遅れそうとか?」


 初日以降は様子見に行っていないので詳しくは知らないけど、数か月は頑張ってくれそうな雰囲気だったんだけどなぁ。


 この問いかけにフィーネは首を横に振って否定する。


「いいえ、その逆です。作業が早すぎて予定数が完成してしまいました。従業員が次は何の仕事をすればいいのか聞いています」


「は、早いな・・・・。

 10日ぐらい掛かると思ってたんだけど」


「仕事が楽しいらしく、休まずとも効率が落ちませんでしたからね。

 皆さん自主的に16時間労働を行っていて、よほど楽しいのか食事中や就寝直前まで効率のいい方法を子供のように無邪気な笑顔で話し合っています」


「・・・・まぁほどほどにな。作っても売れるかわからないんだし、腐らせたら勿体ないぞ」


 働いていた方が体調が良いと言われては止めるわけにもいかず、作り過ぎは良くないという方向で説得してもらうことにした。



 さてさて、何はともあれ目標の数を揃えられたようだし、次の段階に入るとしますか。


 ずばり販売だっ!

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