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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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閑話 フィーネ無双リターンズ

「では、行ってまいります」


 ルーク達が特許申請した翌日。


 商会の設立費を調達するためにドラゴン討伐を提案したフィーネは、少数で倒した時のみ与えられる称号『ドラゴンスレイヤー』を得るべく、ヨシュア領近くの山へと向かった。


 ユキがどこぞのダンジョンに居るドラゴンを討伐し、転移させ、さもこの山で仕留めたように見せかける計画なのだ。



「タイミングばっちりですね~」


 先に家を出た彼女と合流するべく指定場所へとやって来たフィーネを、丁度討伐を終えたユキが迎える。


「金貨1500枚に相当する高価な魔獣は居ましたか?」


 ドラゴンはおろか小型魔獣の姿すら見えないが、ユキならば異空間から自由に出し入れ出来る事を知っているフィーネは気にせず成果を尋ねた。


 それは彼女達が目標としている額である。


 商会との関係性をアピールするためにオルブライト家が一部負担するのだが、それにしてもSランク以上の魔獣でなければ届かない金額だ。


「もちろんです~。じゃーん! ダークドラゴンですよー!」


 ユキは自信満々に氷漬けのドラゴンを取り出し、フィーネに見せつける。



『ダークドラゴン』

 ドラゴン族の中でもトップクラスの魔力を有する巨大な魔獣。

 異常なまでの魔力耐性を持ち、体中を魔力で強化しているため、討伐には伝説級の武器が必要になる。全てを消滅させる闇属性のブレスと、魔力を乱す闇の波動が脅威。



「申し訳ないのですがこれは売れませんよ。ランク外の魔獣はギルドも扱いに困ってしまうでしょう」


 間違いなく超高級素材なのだが、買取りは断られるだろうと言うフィーネ。


 ドラゴン族の中で最弱のレッドドラゴンが討伐難易度Sランクのため、ダークドラゴンともなれば値が付けられない可能性も・・・・いや間違いなく買取ってもらえない。


「えー。頑張って探したんですけどダメですかー?」


「ダメです。せめてブルードラゴンにしてください。

 出来ればレッドドラゴンが良いですね。以前アリシア様とギルドを訪れた際にSランク討伐対象の欄で見かけました」


 選び抜いた魔獣にダメ出しを喰らったユキは「たはー」と落胆しているが、そんな彼女を慰めるより今は金稼ぎの方が大事なフィーネはバッサリ一刀両断。


 金になる魔獣を取って来い、と再び魔獣探しを命じる。


「仕方ないですね~。このドラゴンどうします~?」


「元居た場所に捨ててきてください。魔石や素材も使い道がありません」


「は~い。その辺の魔獣さんなら深層に行く途中で見たので、チョチョッと狩ってきますね~。少々お待ちを~」


 そう言ってユキはブラックドラゴンと共にどこかへ消えていった。


 凄まじい会話をしているがツッコむ人間は居ない。


 人類最大の強敵と呼ばれているドラゴンなのだが、2人にとっては店で買い忘れをしたぐらいの感覚なのだ。



 数十秒後。


「ヘイお待ち! 言われた通りレッドドラゴンを無傷で倒してきましたよ~。これなら文句ないでしょう~」


「はい。迅速な行動で助かります」


 フィーネの目から見てもそのドラゴンは量・品質ともに問題なしだった。


「ではでは、任務完了ですね~。私が手伝えるのはここまでなので先に帰りますよ~。頑張ってくださ~い」


 これなら1匹で目標金額に届くかもしれない、と感謝するフィーネにドラゴンを引き渡し、ユキは1人オルブライト家へと転移していった。


 ここからは先はフィーネの仕事なのだ。


「ええ。注目されるのは苦手なのですが、ルーク様のために精一杯目立たせていただきますよ・・・・」


 誰も居ない山奥で独りごちたフィーネは、レッドドラゴンを精霊術で浮かして山を下っていく。




「キャーッ!! 大型の魔獣よぉーーーーっ!!」


 体長20m以上ある巨大な魔獣を最初に目にしたのは、薬草採りを終えて帰還した新米冒険者。


 彼女の悲鳴が北門に響き渡り、それを皮切りに人々はドラゴンと、その前を悠々と歩くエルフに注目する。


「おい、なんだあれ? ド、ドラゴン!?」

「Sランクの魔獣だぞ!? 倒したのか!? 誰だよ!」

「エルフだ! オルブライト子爵が雇ってるエルフだぞ!」

「キィィイヤァァァアアアアアアーーーー!!!」


 その異様な光景を目撃した者はもれなく驚愕し、悲鳴を上げる。


(こ、これは少々心が痛みますね・・・・)


 好奇の目で見られるのはともかく、死体にここまで恐怖されるとは思っていなかったフィーネは声に出さず彼等に謝罪した。


 だがすぐにこれも必要なことだと割り切り、これ以上人々を怖がらせぬよう普段通り柔らかな口調で守衛に話し掛ける。


「このドラゴンをギルドまで運ぼうと思うのですが、通行の邪魔になってしまいそうです。どういたしましょう?」


「・・・・え? ・・・・・・・・あ・・・・ド、ドド、ドラゴン・・・・ですか?」


 背後の大荷物を完全に無いものとして扱っているフィーネと違い、目が離せない守衛は激しく動揺しながら再度運んでいる物の名前を尋ねる。


「はい。山菜を集めていたら飛んできたので倒しました」


 ・・・・そんな蚊じゃあるまいし。


 一瞬の間を置いて心の中でツッコんだ若手の守衛はそのお陰で冷静になり、近くに居た上司と相談を始めた。


「先輩っ! どうしたら良いですか!?」


「知るか! 魔獣なんだからギルドの連中を呼んで来いよ!」


 初めて見るその巨体に動揺するのも無理はない。


 これがただ巨大な魔獣ならばこの場で解体する事も考えたが、ドラゴンの解体ショーなどしようものならそれこそ大騒ぎになる。


 相談した結果、守衛の2人はギルドに丸投げすることにした。


「じゃ、じゃじゃ、じゃあ僕がギルド行って来るんで、ここをお願いしますね」


「いや俺が行くからお前居ろよ」


「いやいやいや。後輩の僕が走りますから。若さ持て余してますから」


「いやいやいやいやいや。先輩の言うことは聞こうぜ、俺が行く」


 2人はどっちがこの場を離れるか言い争いを始め、


「早く移動したいのですが?」


 そこにフィーネが止め入った。


 十分目立ったので一刻も早くこの人だかりから解放されたかったのだ。


「「すぐにギルド職員連れてきます!! 許してください、スイマセン!! 殺さないでください!」」


 ドラゴンスレイヤーの機嫌を損ねたと勘違いした守衛達は恐怖で震えあがり、後輩はギルドまで命懸けの全力ダッシュを、先輩は人生最高の美しい土下座をして時間稼ぎをすることに。


(私が何か言うたびに全員が謝罪と命乞いをするのは何故でしょうか?)


 決してフィーネが怖いわけでは無く、彼等が勝手に恐怖しているだけなのだが、ギルド職員も度々同じような反応をしていたのは・・・・。



 ヨシュア北門は荒れた。


 ヨシュアとしても数十年振りのドラゴン討伐。しかもそれをやったのはメイド服を着たエルフ。


 ただでさえドラゴンの巨体は遠くからでもわかるのに、それを運んでいるのは大都市に1人居るかどうかの希少な存在。当然一生会わない人も多い。


 そんな女性が興奮するでもなく、自慢するでもなく、ドラゴンの討伐は日常の一部とでも言うかのように自然体で緊急封鎖された道を優々と歩いていく。


「おいあれがドラゴンだぞ」

「デッケー!」

「彼女が討伐したのか」

「ギルドに向かうって事は素材が売り出される?」


 フィーネは街中から注目されていた。




 それは冒険者ギルドでも同じ。


 ここまで来たなら、とフィーネがギルドの隣にある解体所へとドラゴンを運び入れている間も騒ぎは大きくなる一方だ。


 業者総出で解体を始めようとしたその時、彼等とは違う空気を纏った1人の男性が現れた。


「よう、俺はギルドマスターの『ジル』ってもんだ。ドラゴンを倒したのはアンタか?」


「はい。Dランクのフィーネと申します」


 冒険者ギルドの最高責任者から「詳しい話を聞きたい」と応接室に通されたフィーネは、あたかも本当に起きた出来事のようにドラゴンと遭遇した話をする。


 全て計画通りだ。


「なるほどあの山か・・・・うむ、情報提供感謝する。早急に危険区域に指定しておく」


 ドラゴンが通り道にしている山に人々を近づかせるわけにはいかない、とテキパキと部下に指示を出していくジル。


 今日中に立ち入り禁止になることだろう。


(申し訳ありません。ドラゴン出現は嘘です。平和な山でしたよ)


 適当に受け渡し場所に選んだ山なのだが、心の中で謝罪する事しかできないフィーネであった。



「しかしドラゴンスレイヤーがDランクってのも変な話だ。Sランクまで上げるか? ギルドマスター権限ですぐに出来るぞ」


 そこから2人はドラゴンとの戦い方や訓練方法の話をし、それが終わると今度はフィーネのランクについて触れてきた。


 Bランク以上になると重要な戦力として強制招集がかかる場合もあり、様々な特権が得られると同時に束縛も多くなる。


 ギルドマスターとして少しでも戦力を確保しておきたいのだろう。


「いえ。商会経営には必要がないのでDランクのままで結構ですよ。もちろん今後もランクを上げるような行動は控えます」


 当然フィーネはその誘いを断った。


 今回の討伐はあくまで金と知名度を目的としたもので、その両方を達成した以上は活動に邪魔でしかない。


「商会ね~。なら争い事に関わらないんだな?

 別勢力に加担する可能性があるなら無理にでもランク上げさせて抑圧しなきゃならないんだが」


「はい。私の周囲に害が無ければ、ですが」


 責任問題になるので手の届く範囲で行動してもらわなければ困ると言うジルに、フィーネは心配する必要ないと断言した。


 地位や名誉を欲しない彼女が争いに関わる事はないが、万が一ルークに害が及ぶようなら魔獣を含め全ての生物が恐れおののく殺戮メイドが爆誕するだろう。


「ならDランクのままで問題ない。どうせ有名人になってるだろうし、ランクなんて飾りみたいなもんだ。ガハハハッ!」


 少しの会話でフィーネの人となりを把握したジルはその言葉を信じ、史上初の低ランクドラゴンスレイヤーの誕生を笑いながら受け入れた。


 実際、彼の言う通りこの瞬間にもドラゴン討伐の話題は広まり続け、尾ひれ背びれが付いて最強メイドとしてヨシュアに名を響かせるようになるまで、そう時間は掛からなかった。




「ドラゴンは全部売り払うのか?」


 話は終わりだとばかりに立ち上がったジルは、フィーネと共に解体所へ向かいながら超高級素材の行く先を尋ねる。


「いえ。骨をいくつか使いますので、それ以外の買取をお願いしています」


 可能ならば全てを引き取りたいとお願いされたが、工場の門にしようと決めていた骨だけは持ち帰ると言ってあった。


「そうかそうか、俺が行くまでに依頼済みだったか。

 全部バラすとなったらそれなりに時間は掛かるが、うちの連中は優秀だからもう終わってるだろうよ」


 人手はあると言ってもただの人間に数十分でドラゴンの解体など出来るものだろうか?


 疑問に思ったフィーネだが、ここで尋ねると腕を疑っていると勘違いされそうなので黙っていることにした。


「どんな強固な魔獣でも一太刀だぜ!」


 そんなフィーネの心配も何処吹く風で、自信満々に笑うジル。



「・・・・・・おい、これはどういう事だ?」


「「「マスターすんません!」」」


 解体所に到着した2人の目の前には運び込んだ時のままのドラゴン。


 腕利き解体業者でも流石にドラゴンは無理だったらしく、解体が終わっていないどころか傷1つ付いていない。


 一太刀だ、などと言ったギルドマスターの面目丸つぶれである。


「わ、悪いな。まさかここまで何も出来ないとは・・・・こりゃ全員、鍛えなおさないとな」


「「「マスターすんません!」」」


「謝る暇があったら努力しやがれ! ドラゴンとは言え魔力が通ってない死体だぞ!? どんな魔獣でもバラすのがお前等の仕事だろうがっ!!」


 同じ謝罪を繰り返す不甲斐ない部下を怒鳴りつけ、根性でなんとかさせようとするジル。


 このままでは今日中に終わりそうになかったのでフィーネは助け舟を出すことにした。


「ここは私が」


 ザシュッ、ザシュシュシュッ!!


 そして誰かが許可を出す間もなく、解体のプロでも刃が立たなかった頑丈なドラゴンを風魔術で楽々切り分けていく。


 あまりの手際の良さに驚愕して無言で眺める一同。


 それはギルドマスターも同じだったようだ。


「こ、これがドラゴンを倒せる魔術師の実力か・・・・スゲーな」


 辛うじてそんな感想が出てきただけで、結局解体が終わるまでの数分間、ドラゴンを切り裂く風の音だけが解体所に鳴り響いていた。





 討伐から運搬、解体まで、全てをフィーネに任せたジルは自分達の力不足を痛感しながら素材を受け取り、査定に入った。


 見事な解体ショーを終えて応接室に戻った2人は、早速報酬の話に入る。


「全部で金貨2000枚だ。

 ギルドに預けることも出来るが、一括で支払った方がいいか?」


 感謝の意味も込めてジルは多少色を付けた金額を提示。


 大型魔獣、ましてやドラゴンともなれば運搬・解体だけで金貨数十枚は引かれるものなのだ。


「一括でお願いします。商会設立に必要なもので」


「わかった。おい! 2000枚持ってこい!!」


 ドラゴンが運び込まれた時点で用意していたのか、指示されて数分経たず5つの袋を持ってきた。


「・・・・はい、たしかに金貨2000枚受け取りました。お世話になりました」


「おう。またよろしく頼むぜ」



「なあドラゴンの素材はどこに売り出すんだ!」

「ジルさん。わたし前からアナタのこと素敵だなって思ってて」

「ま、魔石を。魔石をくれ~」

「ドラゴンのステーキでパーティしようぜ! ギルド持ちで!」


 ドラゴンは超高級な素材のオンパレード。


 フィーネが去ったギルド内でギルド職員は喜びに震え、冒険者は装備品が手に入るかもしれないと騒いでいたが、商会の事しか頭にない彼女には無関係な話である。




(何往復かするつもりでしたが一度で目標の金額になりましたね。もしダークドラゴンを持って来ていたら・・・・いえ考えるのは止めましょう)


 帰宅したフィーネはその成果をルークに報告し、2人でもうすぐ始まる世界復興の第一歩に夢を膨らませていた。


「私、足りないと思ってダークドラゴンの牙を持ってきましたよ~。どうしましょう?」


「「捨ててきなさい」」



 世界を震撼させる素材を廃棄させた翌日。


 フィーネとユキは商業ギルドで商会登録をしていた。


「・・・・はい、これで『ロア商会』の登録は完了です。

 明日から石鹸と冷蔵庫の販売を許可しますので頑張ってください」


「ありがとうございます。お世話になりました」


 受付の女性とフィーネはまともななのだが、残念ながらここには空気ブレイカーが居る。


「緊張しますね~。皆さんギラギラした目つきで注目してましたよ~」


 手続きを終えたフィーネに、ユキは緊張とは程遠い声色で話し掛ける。


「噂のドラゴンスレイヤーの商会がどの様な品々を扱うのか気になっているのでしょう」


「ドラゴンスレイヤー、エルフ、メイド、会長、美女。それだけ盛沢山の要素を詰め込んだフィーネさんが商会を興すんですからこうなって当然です~。

 きっと皆さんの頭の中には『どうして冒険者ではなく商人としての道を選んだんだろう?』って疑問が渦巻いてますよ~」


「わかっているなら早く『ロア商会 活動開始!』というのぼり旗を掲げてください。社員募集の宣伝をするんですよ。注目されている今がチャンスです」


「あいあい」


 こうして異世界の知識満載の商会活動がスタートした。

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