二十六話 冷蔵庫づくり
思い立ったが吉日。
早速、冷蔵庫づくりに必要な材料を集め始めた俺達。
フィーネが外装用の木材と魔道具を起動するための魔石を購入し、ユキが加熱鉄板を作り、俺がアリシア姉にボコられる。
3人だけで面白そうな事をしているのが気に食わなかったらしい。
本当なら加熱鉄板は俺が作るはずだったけど、ユキに任せることになったのはそのせいだ。
「ゴメンな。これ魔道具だからアリシア姉は手伝えないんだ」
「・・・・へぇ・・・・そう」
どうやって説得しようか悩んだ挙句そんな事を言ってしまったもんだから、より一層不貞腐れたアリシア姉は魔術の練習と言って俺に、俺に向って火を・・・・!
「あ、良い感じの熱ですね~。ちょっと拝借~」
ユキが庇ってくれなかったらどうなっていた事か。
『無抵抗の相手に魔術を使うのは何事か!』と両親に相談したところ見事アリシア姉を撃退することに成功したわけだが、俺は準備段階で早くも疲れ切っていた。
「ここをこうすると・・・・ほら、アッと言う間に冷気が!」
「すげー! 異世界すげぇええええええっ!」
出鼻を挫かれて下がっていた俺のテンションは、熱を冷気に変換する魔法陣を教えてもらった事で急上昇。
それは本当にフィーネ達が言うように簡単なものだった。
あとは冷蔵庫っぽい形にすれば完成。
商品化はもう目の前である。
まず形作り。
外側から木材、加熱鉄板、冷却魔法陣が刻まれた鉄箱の3層・・・・いや加熱鉄板は上部だけなので実質2層構造か。
外装の木箱は熱と冷気を逃がさないために必要だった。
軽量・安価・微精霊の通り道。この3つの条件を満たす素材が木しか思いつかなかっただけなんだけど、
「浴槽と同じ防水・防腐の魔法陣を使用すれば問題ありませんよ」
とアドバイスをくれたフィーネの言う通り、ひと手間加えるだけで文句の付け所がない外装となった。
試しに鉄板を使ってみたら、微精霊が侵入しにくいみたいであまり冷えなかった。もし機能したとしても重いし高価になるから採用しなかっただろうけどさ。
その木箱の内側上部には加熱鉄板を取り付けて、さらに内側に魔法陣付き鉄箱を入れる。
摩擦で熱くなると魔法陣が反応して冷気に変換、それが下に降りて内部を冷やすって仕組みだ。
「ほぉ~。『冷気は下にいくもの』という精霊豆知識を知っているとは、ルークさん中々やりますね~」
当たり前のようにそういう構造にしていたら、ユキが『自分達の事を知っててくれて嬉しい』と喜び始めた。
異世界の法則なんて知らないけど、生まれて4年も経てば自然と覚えるのが『常識』である。
「これって当たり前の事じゃねぇの? 夏とか3階地獄で地下天国じゃん」
「あ~、なるほど~。家から出ないのでそう思ってただけなんですね~。世間知らずの引きこもりさんってだけでしたか~」
先ほどまでの喜びはどこへやら。こちらに憐れみの視線を向けてガッカリするユキ。
食う寝る遊ぶが仕事の幼児を『引きこもり』と呼ぶのは止めて頂きたい。
と、ツッコむ前に気になる事を言っていたな。
「もしかして冷気が上にいったりも有り得るのか?」
「その辺は精霊さんの気分次第ですね~。オルブライト家はフィーネさんの支配下にあるので影響を受けませんけど、他の所だと結構ランダムですよ~」
流石異世界。今後の魔道具づくりのためにも、その辺の事は勉強しておいた方が良いだろう。
「ルーク様ご安心ください。冷蔵庫は人工的に生み出した冷気なので、本来あるべき法則に従って下に降ります」
冷蔵庫が別の場所で使えなくなるのを心配している、と勘違いしたフィーネが問題ないと言ってくる。
俺が気になったのはそんな事じゃなくて『支配下』って方なんですが・・・・。
まぁポジティブに守られてると思っておこう。
最後に、魔力の代わりに加熱鉄板を起動させる魔石を冷蔵庫内に取り付けて完成。
定期的に交換する必要があるけど、これが無いと冷やし続ける事が出来ないので必要経費と思ってもらうしかない。
後は購入した人が安い魔石をつけて短期間で交換するか、高い魔石をつけて長期間交換しないかは各々の自由。ってなんか電球みたいだな・・・・。
出来れば冷凍までしたかったけど、回転の摩擦熱ではそこまで冷えなかったので一旦諦めた。
そこまでの機能は必要ないし、その内なんか思いつくだろ。
「よし完成! ユキ先生どうでしょうか?」
試作品第一号にして納得のいく出来になった冷蔵庫をその道のプロに確認してもらうと、
「問題ないですね~。ちゃんと精霊さんが反応して冷えてますよ~」
全ての面で完璧だとお墨付きを頂いた。
「おめでとうございますルーク様。これでどこの家庭でも食料を長期保存できるようになりますね」
「だな。ウチ以外でも使えるってのが目的だったからな」
「えっへん! ここには私が居ますからね~」
実はユキが来てからというもの、オルブライト家の調理場には冷蔵庫よりも高性能な氷の棚が置かれているので、わざわざ作る必要がなかったりする。
一瞬で凍結・解凍が可能で、多少傷んでいようが食材を一番美味しい状態に変化させるチート機能。
一時期これを解析して冷蔵庫にしようと試みた事もあったけど当然無理だった。
なんでも精霊術を使っているらしく、解析出来たとしても量産は不可能との事。
そんな苦い経験も今となっては良い思い出である。
完成した冷蔵庫の前で感傷に浸っていた俺に、ふとした疑問が浮かんだ。
それすなわち『この記念すべき第一号君をどうするか』である。
「ウチは・・・・どうしようか? 一応置いとく?」
折角作った冷蔵庫だけど、上位互換と言うべき万能棚があるに使うかどうか・・・・悩みどころだ。
「必要ですよ~。あの氷棚は私が居なくなったら溶けて無くなりますからね~」
俺達だけで決めることではないけど、何となしに2人に尋ねるとユキが変な事を言い出した。
「え、どこか行くの?」
「行きませんよ~。ルークさんがどこか行くならついて行くだけです~。それが長期間だったら維持できないな~って」
「そうですね。ルーク様がいつまでこの家で暮らされるかわかりませんから、我々もそのための準備はしておいた方が良いですね」
なんだ将来の話か。
もはや完全に我が家の一員になっていたユキが旅に出るつもりなら盛大なお別れパーティをしようと思ってたけど、その必要はないようだ。
たしかに10年後には俺も成人して他の土地に行ったり、長期で旅をする可能性もあるかもしれない。
その間に冷蔵庫も改良するだろうし、使うかどうかはフィーネやエルに任せるとして氷棚の隣にでも置いておくか。
完成した冷蔵庫を家族にお披露目してみるも、ユキの棚があるから反応はイマイチだった。
完全に劣化版だから仕方ない。
(さ、寂しくなんかないんだからね!)
・・・・男のツンデレに需要なんてないな。
本題はそこじゃない。
この『冷蔵庫』が流通させられるかどうか。売り物になるかが問題なんだ。
「父さんどうかな? 高価な物は使ってないからそれなりの値段で販売出来るはずだけど」
「そうだねぇ・・・・・・・・鉄がちょっと高価かな。でも魔道具としたら十分安価だし、それに見合った性能を持ってる。
・・・・よしっ、販売してみようか! もちろん量産は出来るんだよね?」
「素人の俺でも慣れれば失敗しないぐらいの難易度だし、職人にお願いしたら大丈夫だと思うよ」
実際は一回も失敗しませんでしたけどね!
こう言っておいた方が納得してくれるだろう。
「我々も協力しますので安心してください、アラン様」
「うん。それじゃあ今度、特許登録しに行こう」
フィーネの一言がダメ押しとなり、冷蔵庫の販売が決定した。
<特許>
商業ギルドが行っている制度。
新技術を登録して使用料が払われる仕組みで、技術の発展には欠かせない。盗作や危険な発明の防止になる。
特許を取って3年で誰でも自由に技術を利用する事が許されるようになる。
やっぱり俺が作ったのは新しい技術だったみたいです。
ならもうちょっと驚いてくれてもさ・・・・。




