二十五.十六話 ソーラーパネル3
「よし使ってみよう!」
ソーラーパネルを別邸(使用人達の家)の屋根に設置した俺達は、早速試運転を始めた。
さすがに本邸の屋根に取り付けたら来客から何事かと思われるので、それ以外の場所を日向ぼっこプロのユキに聞いた所、一日中太陽光があたるのはココだと教えてもらったのだ。
ただ・・・・。
「・・・・これ動いてる?」
駆動音が無く、汚染物質も出ないソーラーパネルが機能しているとわかるものと言えば、反射鏡が若干光っている事だけ。
それにしたって太陽光が反射してそう見えるのかもしれない。
不安になった俺はフィーネとユキに尋ねてみた。
「間違いなく天熱を魔力に変換していますよ。取り付けた魔石を見ればわかりやすいでしょうが、魔力を蓄えている証拠に波紋が出ているはずです」
「しかもしかも~。熱だけじゃなくて光や空気も吸収してるみたいですね~。
ダイソソもビックリの吸引力ですよ~」
この世界の掃除機メーカーかな?
まぁそっちは無視するとして、周囲の太陽エネルギーと微精霊を取り込んでいるとの事で、想定よりも魔力が早く溜まるのは嬉しい誤算だった。
「どうだった、ルーク? 新しい魔道具は活躍しそう?」
取り合えずしばらくは様子見ということになり、家に戻った俺を待っていたのは家計を預かっている母さん。
魔石の再利用と聞いて真っ先に喜んだのは、ウチ一番の節約家である彼女だった。
「たぶんね。フィーネ達も大丈夫だって言ってたし、数日以内には魔石のリサイクルが出来るようになるんじゃないかな」
だから俺は安心させる意味でも見たままを伝えた。
もちろん手先が器用なので手伝っただけ、と言うのも忘れない。
「そうっ! これで使い捨て生活からもオサラバね!!」
すると母さんは今後の生活を想像したのか、鼻歌交じりに仕事に戻っていった。
事実、これから数週間ほどソーラーパネルを観察し続けたけど、取り付けた魔石が破損する様子もなく、満タンまで吸収すると魔石から放出されている。
まぁ安価な魔石はオーバーチャージで粉々になったけど・・・・。
さて、親孝行した所で次の段階に入ろう。
ソーラーパネルは何も魔石の再利用だけに使うのではない。
例えば電気配線の要領で魔力を流せば家中どこでも負担なしで魔法陣が起動させられるようになるし、水の汲み上げや、風呂を沸かすのにも役立つ。
つまりこれ1つで我が家は家電住宅になったってわけ!
手始めに俺の部屋に蛍光灯を取り付けようじゃないか。
「本日ご紹介する商品はこちら! 特大ランプ!
なんとこちらの商品、従来の魔道具とは違い魔力消費0!! さらに魔石も必要なく、どれだけ稼働させても熱を持ちません!!」
「す、凄いですーっ」
「まだ驚いてはいけませんよ、お客さん。本当に凄いのはここから!
明るさは3倍! お手入れ不要! スイッチ1つでオンオフ可能! 天井と壁の魔法陣に回路を接続するだけなので安心安全、施工時間たったの1時間!」
「す、すすす凄いですーーっ!」
「・・・・ルーク様、指示された魔法陣を刻み終わりましたが、その茶番はまだ続けますか?」
「いえ、いいです・・・・」
この魔法陣は、ソーラーパネルから固定されている地点への転移魔術だ。
以前、塩づくりの件で通信機の存在をフィーネから聞いていた俺は、同じように魔力を魔法陣へ飛ばせないかと挑戦してみたところ見事に成功。
ユキが使っている転移ほど万能じゃないので魔力限定の短距離かつ一方通行にはなるけど、家中に魔力を飛ばせるだけで十分だ。
まぁ大部分はユキに調整してもらった代物だけどな。
ってわけで魔力による切り替え式オンオフのスイッチ起動!
俺が壁の魔法陣に手を置いた瞬間、天井から光が降り注いだ。
「おお、ちゃんと明るい! これなら読書も魔道具作りも出来るな。
後は父さん達に話して、許可貰ったら家中につけていこうか」
「はい。と言いたいところですが実は既に話を通してありまして、こちらでの作業は誰も居ない深夜に、と仰せつかっております。
なのでまずは我々の部屋に取り付けるべきかと」
流石は有能さんだ。
フィーネにも暗くなってからやりたい事があるのかもしれないし、別に今すぐ廊下を明るくしたいわけでもないので、俺は言われるがまま別館の作業に取り掛かった。
「あら? 下着を干したままにしておりました。私としたことがウッカリ・・・・」
なんか色々見せつけられたけど、一切気にせず黙々と壁に魔法陣を掘っていたので何のアピールかは知らない。
エル・マリク・ユキの部屋も同じように改造していき、夕食時を迎えると同時に全ての作業が完了した。
どうせなら実際に見た方が良いだろう、と考えた俺はそこで皆に『ソーラーパネル』と『蛍光灯』をお披露目することにした。
「あ~、あれもう完成したんだね」
「俺達は作業風景を見てたけど凄かったぞ。何一つわからなかった」
「です! ただ明るい事だけはわかったので絶対便利です!」
マリクとエルの話を聞いた父さん達は急いで食事を済ませ、蛍光灯が完備された別邸へ向かった。
カチ・・・・パッ。
「「「おおおぉぉぉ~~っ」」」
俺が廊下のスイッチを入れた瞬間、全員がその光度と起動時間に驚きの声を上げる。
この魔道具の凄さをイマイチ理解していないアリシア姉とレオ兄からは大した反応が無かったけど、俺と同じで暗くなったら寝る生活だから便利な魔道具って実感が湧かないんだろうな。
今は付けたり消したりして遊んでいればいいさ・・・・。
なんて言うと思ったか! 悔しいわ!!
「これを見よ!」
そんな事だろうと予想していた俺は、2人にある魔道具を見せびらかした。
「「そ、それは!?」」
「光るヨーヨーならぬ、光るフリスビーさ! しかもウチの中限定で魔力消費も無い!
何を隠そうこれを作れたのはソーラーパネル様のお陰なのだぁ~」
「暗くなっても遊べるね!」
「ソーラーパネル凄い!」
予想的中、2人は大はしゃぎで光らせ始めた。
子供は生活よりも目先の遊具なのだ。
(ソーラーパネルで溜めた魔力をアリシア姉の杖に付与したら武器になるだろうけど、内緒にしておこう。たぶんまた杖が壊れるだろうし)
あの修理は大変だった・・・・。
子供達はそんな反応だったけど、夜も活動する大人達は違った。
食事の支度がいつでも出来るようになったエルは尻尾を振り回し、「夜も訓練が出来る!」と筋肉バカがハッスル。
今までランプで魔力を消費しながら来客を迎えなければならなかった母さんは、急な来客があっても大丈夫と喜び、玄関に取り付けるよう依頼してきた。
そしてこれに一番食いついたのは父さん。
「ルークこれは素晴らしい発明だよ。僕の仕事上どうしても書類が多くなるんだけど夜は見えなかったんだ。でもこれなら夜でも仕事が出来るようになる」
「そんな父さんにプレゼント。改良ランプ~。
時間は短いけど同じぐらい明るくなるから外出する時にでも使ってよ。光らなくなったらソーラーパネルで補充して」
「ありがとう! これで朝まで働けるね!」
・・・・渡さない方が良かったかな。
ブラック企業も真っ青なアルディア社会だ。労働もほどほどに。
これで全員を満足させられたわけだが、俺の仕事が終わったわけではない。
ここから大人達による質問タイムが始まるのだ。
「この蛍光灯。これだけ明るいと魔力消費も相当なんじゃないかな?」
「壁や天井に魔法陣を掘ったらしいけど、家への影響は? ただでさえ傷み始めてるんだから無理は出来ないわよ?」
「明るさ調整とかは出来ますか!? 薄暗い方が落ち着く事もあると思うんですが!」
「ソーラーパネルの魔力転移について相談が~」
俺はその全てに答えていった。
最後のユキだけはいくら説明しても理解してもらえなかったので悩んでいると、フィーネが「小さな天熱を作り出しているのです」と言って納得させてくれた。
少し違うけどエネルギーで考えれば同じかな。
ってか絶対に転移魔術の方が難易度高いはずなのに・・・・。
大人達からの質問の中に、俺も気になっていたことがあった。
魔力の消費量である。
実際オルブライト家全体を明るくしたら足りなくなったりするんじゃ・・・・。
だから試しに1日中蛍光灯を使い続けてみた所、
「全く減っていませんね。微精霊を吸収するだけでも余っているほどなので曇りの日が続いても問題ないでしょう」
「え? 余ってる? もしかして近くの家でも使えたりとか?」
「それは無理ですね~。蛍光灯だけならともかく、他にも色々使うでしょうし~。そんな余裕はありませぬ~」
俺としても冷暖房や冷蔵庫なんかの家電を作ったり、インフラ整備をしたりとまだまだ挑戦したい事はある。
なので皆さんにはしばらくの間、これまで通り使い捨て魔石の生活を送っていただくとしよう。
「なにやら楽しそうな魔道具を作ろうとしてますね~。また私が役に立つ時が来ましたか~?」
「もちろん私もご協力致しますよ」
「2人に手伝ってもらうのはもうちょっと後かな。今はこれで満足だよ」
チート精霊と万能エルフのお陰で本当に順調ですよ。
本当にありがとう。
そもそもな話、俺じゃなくてヨシュア領の貴族様が頑張れよ。
これはあくまでも試作品だから仕方ないとして、いずれは世界中を賄える巨大発電所を作るんだぞ?
そんなの俺やフィーネ達だけで出来るわけないじゃん。
自分だけ得をする楽をするって精神は嫌いだ。全員で苦労して、全員で得して、全員でハッピーになれば良いじゃないか。
ってことで下水と一緒に父さんに提案してみたけど、問題が山積みで当分先になるらしい。
具体的に言わない辺り、本当に山積みなのだろう。
本物のソーラーパネルや風力・水力発電が出来るのはいつになる事やら・・・・。




