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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
一章 オルブライト家
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一話 ルーク=オルブライト

(ここは……? 俺は転生できたのか?)


 目を覚ました瞬間、俺は前世の記憶があることに安堵し、そして自分に起った変化に動揺した。


 体が動かないのだ。


 両手両足どころか首すら動かせず、自分の体を見ようと思っても身動き一つ取れない。


 すぐにその筋弛緩剤でも打たれたかのように力が入らない体を諦め、唯一自由になる目を動かして周囲を見渡す。


(やけに天井が高いな。あと電球がない。壁のあれは……ランプ? それに俺を囲っているのは柵? 本の背表紙は……うん読めない)


 俺は少しでも情報を集めようと、巨人の住処に迷い込んだような錯覚に陥りながら部屋の中を観察し続けた。



 見たことの無い文字に、巨大な空間に、極めつけは石(?)を使ったランプ。

 

 背中から伝わってくるフカフカな感触に身を任せながら考えた結果、俺は2つのことを理解した。


 1つ、少なくとも安全な場所ではある。


 2つ、神様の言うことを信じるのであれば俺は赤ん坊として生まれ変わった。


 もちろんどちらも確定情報ではないのだが、今の俺に出来るのはそれを信じてまな板の上の鯉になることのみ。


(…………ちょっと待て。信じる? “あれ”を?)


 ひたすら自分に言い聞かせていた俺は、転生する直前の事を思い出して愕然とした。


(本当にあの駄女神を信じて良いのか? 能力を与えられない廃れた世界の神だぞ? 転生先を誤ってもおかしくない、いいやむしろ当然じゃないか!?)


 高級布団に見えるのはこの世界で最低の素材だったり、光っているように見えて実はあのランプが俺を洗脳していたり、なんなら本当に筋弛緩剤を打たれてて今すぐ逃げないとヤバい状況なのでは?


 一度入ったネガティブ思考は留まるところを知らず、ついさっき冗談で言った『まな板の上の鯉』がもうすぐこの身で実現しなければならないかと思うと体の震えが止まらなくなった。


 ――と、そんな俺の寝ているベッドの隣に巨大な女性が現れて何かを話し掛けてきた。


「あ……る……えい…………ね」


 その顔はどこまでも優しく微笑み、全身から母性が溢れ出している。


(なるほど、彼女が俺の母親か)


 それを見た瞬間、俺は自分が赤ん坊として生まれ変わったことを実感した。


 体が動かせないのは生まれたばかりで筋肉がないからで、彼女が言っていることを何一つ聞き取れないのも体が未発達だからだ。


 まぁそこは脳の言語処理や耳の聞き取り機能が成長するまでの辛抱だな。



(神、許すまじ……)


 そのことに安心した俺は、愛おしい我が子にひたすら話し掛ける母を観察しつつ、人知れず復讐に燃える鬼と化していた。


 今まで人を恨んだりした事はないけどあの女神だけはダメだ。


 能力をくれなかったのもそうだけど、この家がどんな立場だとか、幼少期に出来る魔法訓練だとか、それこそ神に会う手段だとか、転生先についてもっと具体的な情報を与えるべきじゃないか? 


 百歩譲って赤ん坊を演じれるようにってことで納得するとしても、信用してもらえるような送り出し方ってもんがあるだろ!?


 なんだよ、あの『次の日学校で会う友人との別れ方』みたいな送り出し! 許さねぇ……ぜ~~~ったい許さねぇ…………。


 今度会ったら「神様って究極の引きこもりですよね。今何歳なんですか? 引きこもり生活何年目ですか~? クスクス」って笑ってやろう。


 覚悟しておけ!




 意識を取り戻してから(ついでに神に復讐を誓ってから)2週間、ようやく言葉を聞きとれるようになって色々なことがわかってきた。


 まず俺は生後1か月の健康児で、名前は《ルーク=オルブライト》。


 オルブライトという貴族の家の次男坊だ。


 当然だけど「あぅ~」としか喋れない。ただ感情表現は出来るのでそこまで不便はしていない。



「またルークが私をジッと見てるわ。ねえ、何かおかしな所でもある?」


 この人は俺が意識を取り戻して最初に見た女性。つまり母親。


 名前は《エリーナ》。


 年齢は25歳で茶色の瞳と薄い茶髪をした優しそうな美人さんである。


 しかしどうも出来ることがそれしかないからか観察癖がついてしまったようだ。失敬、失敬。


 俺は怪しくない程度に彼女から目を逸らして隣に居る少女を見た。



「なんで私を見ないのー! って見たぁあああああっ!!」


 母さんと一緒に現れてはいつも俺にチョッカイを掛けてくるこのテンション高めの少女は、3歳になる姉の《アリシア》である。


 容姿は父親に似たのか優しさよりも生命力に満ちている勝気な金髪碧眼ツインテールの幼女さんだ。


 よほど覚えてもらいたいのか、登場する度に「お姉ちゃんよ~」という自己紹介を欠かさない。


「なにこれ、手ぇ、小っちゃーい! 顔プニプニー!」


 弟を可愛がるのはいいけど赤ん坊の頬っぺたを引っ張るなよ、泣くぞ。



 そんな“かまってちゃん”な姉とは違って数えるほどしか部屋に来た事がないけど兄も居る。


 もうすぐ6歳になる《レオポルド》、愛称はレオだ。


 母親似の優しい茶色い瞳をしていて金髪で将来を約束されたイケメンである。いつもは自分の部屋に居て勉強をしているらしい。


 母さん曰く「頭が良いから将来は王宮に入れるかも」とのこと。


 兄が優秀というのは大変結構なことなのだが、もしも俺の持っている知識が通用しなかった場合にひどい目を見そうなのでほどほどにして頂きたいものだ。


 まぁアリシア姉がアホそうなので比較対象としては上中下で丁度良いのかもしれないけどさ。



「やあルーク。今日も元気そうだね」


 最後に一家の大黒柱《アラン》は、貴族らしからぬ目力を持った我らのお父様だ。


 26歳の金髪碧眼で穏和な性格だけど毎朝の鍛錬は怠らないらしく、机仕事とは思えないような身体つきをしていらっしゃる。


 魔法使いになりたい俺としては、将来おんなじ鍛錬に付き合わされるかと思うと今から憂鬱な気分になる。


 レオ兄みたいな知識面ならともかく体づくりはちょっと……。



 まぁ将来のことはさて置き、ここに俺を入れた5人がオルブライト一家である。


 他にまだ会ったことがない使用人が数人居るらしいけど詳しくは知らない。


 でも俺の世話をしてくれているメイドさんならわかる。


「あぅ~~」


「ルーク様どうされました?」


 緑の瞳と腰まで伸びた銀髪がとても幻想的な超絶美人なエルフの《フィーネ》さんだ。


 見た目は22歳ぐらいだけど、その落ち着いた雰囲気からはもっと上に思える。つまり年齢不詳。


 でもそんなことは些細な問題である。


 俺に尽くしてくれる美人さんというだけで何でもOKさ。


「ルーク様は髪や耳がお好きですね。いえ胸でしょうか? ……まさか女性の体?」


 ……違うよ? 異世界で赤ん坊に転生したら美人のエルフメイドが世話してくれるとか甘える以外の選択肢ないじゃない!


 ご立派な、それはそれは大層ご立派なモノが胸部に2つあるから、そこに手をついて耳や髪を調べてみたくなるでしょ! 手すり代わりにしてるだけ! そう、あくまでも目的はエルフっぽい部分!!


 ――ふぅ、これだけ言い訳を用意しておけば将来責められることもあるまい。というわけでもうひと触り。


「…………」


 ちなみに彼女は母さんが俺を身ごもった直後ぐらいに雇われたのでまだ1年も経っていないらしい。


 しかしあまりにも有能でオルブライト家の全員から絶大な信頼を寄せられていて、その能力を見込まれて『貴族の赤ん坊の世話』という重要な役目を与えられた天才魔術師なんだとか。


 数回しか見たことはないけど水流操作とか空中浮遊とか凄い魔法を使ってくれたこともあり、その時に将来は彼女に師事しようと心に決めた。



 貴族ということもあって家はそこそこ裕福だと思う。


 俺が寝ている部屋に家族の物が一切ないというのがその証拠だ。


 つまりここは俺専用の部屋で、アリシア姉やレオ兄にも自分の部屋があるぐらいに広い家と言うこと。


 寝ているベッドもどちらかのお古っぽいけど装飾付きで豪華だし、これまで会った人もきちんと食事が取れているのか瘦せ細っていない。衣服だっていつも清潔感がある。


 使用人まで居るということは領主クラスの貴族なのかもな。


 神様から聞いてた話と随分違うけど転生先としては有り難かった。


 そんな憶測でしか語れないのは、今の俺にとってこの部屋が世界の全てだから。


 まだ自由に動き回れないから母乳飲んで会話を聴いて寝るだけの毎日だ。部屋から出たこともない。


 あまりにも暇だから魔法の訓練でもしてみようと思ってやったところ、


「ル、ルークが!? ルークが気絶してる! 医者を呼んでーーー!!!」


 見事に失敗して意識を失い、大騒ぎになったのでこれ以降は自分の魔力が無くなる前に終了するようにしている。


 『魔力を流す』という感覚が最初はわからなかったけど、血液の流れを感じるようにしたら異常に疲れたから訓練になっているはず。


 しかしたまに母さん達が様子を見に来るので油断はできない。


 アリシア姉が魔力を使っている所を見たことがないので、一定の年齢まで使えないとか、何か特殊な儀式が必要とか様々な条件があってもおかしくはない。


 天才と思われるならまだしも、異常者ということでダークファンタジーがスタートする可能性もあるから慎重に行動しよう……。



 魔法はフィーネさんが使ったような超常現象を起こすものだけではなく、日常的に使われているものもあった。


 初日から気になっていたランプがそれだ。


 どうやら魔力を込めれば光る照明器具だったらしく、この世界では電球や松明の代わりに主流で使われているもののようだ。


(ってことは魔力は誰にでもあるってことだよな? じゃなきゃ松明や油を使うはずだし……。

 いやでもアリシア姉はそれすら使わない。つまり発動には一定量の魔力が必要になる?)


 早速、現代知識を活かせそうな物を見つけた。



 何はともあれ、まずは動き回れるようにならなければ始まらない。


 たしかに赤ちゃん生活は楽だけど、本読んだり外出したり出来ないから暇だし、ここがどんな世界なのかわからないと下手な事が出来ない。


 いつ立ち上がれば良いのか、いつ喋り出せば良いのか、いつ魔力を使えばいいのか、“普通”がわからないって結構怖いもんだぞ?

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