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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
一章 オルブライト家

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三話 兵士と犬耳メイド

 転生して一年。


 移動手段が『伝い歩き』から『一人歩き』に進化したことで、俺の行動範囲は劇的に増えていた。


 ハイハイする赤ちゃん見たさにわざと解放していたあの頃とは違って、自力でドアを開けて隠密行動をするもんだから、家族にとっては目の離せない存在になったと言える。


 その分、監視の目は厳しくなる。


(ふぅ……今日もまた1つ自分の殻を破ってしまった……)


「ったく、ルークってば日に日に逃げるうまくなるんだから」


 アリシア姉の捕獲タックルを回避して玄関にタッチした俺は、連行されながら勝ち誇っていた。


 外にさえ出れば、母さんやアリシア姉を振り払えれば、魔術や精霊術を思う存分試せる場所が見つかるはず。


 俺は転生者。神にもわからない特殊な力を発現させてもおかしくはないし、そこまで行かなくても大人並みの術を使える可能性は十分にある。いや、あってくれ。それでバレるなら本望だ。


 ということで、一刻も早く確かめたくてヤンチャ坊主と化しているわけだが、皆は笑顔で受け入れてくれている。伝い歩きをしている時に誤って客人の前で母さんのスカートを下ろしても許してくれたし、高級そうな壺を壊しても許してくれたし、アリシア姉の背中にオシッコをしても許してくれた。


 ……あれは姉が悪い。俺がどれだけ叩いても泣いてもオンブを止めてくれなかったんだぞ? 漏らす以外どうしろっちゅーねん。


 とにかく、赤ん坊は成長の証として迷惑を掛けることが仕事なのだ。義務と言ってもいい。大人しくしてたら全員が寂しそうな顔する。つまり俺が外を目指すのは二重の意味で必要なこと。



 そんな日々が続いたある日のこと。


「そと~」


 いつものようにあと一歩のところで捕まった俺は、母さんの腕の中でジタバタしながら外出したいアピールをしていた。


「……そんなに出たいの?」


 普段ならこのままベッドに連れて行かれるのだが、今日のハンターは違う反応を見せた。


 まさかの好感触。イケる。


 俺は必死に頷く。


「まあ時期的にもそろそろだとは思ってたし……庭で良ければ行きましょうか」


(キ、キタァアアアアアっ!!)


 アピールを繰り返していたことが功を奏したというよりは、たまたまその時が来たって感じだけど、何はともあれついに外出許可がもらえた。


「それでルークは外で何をしたいの?」


 俺の機嫌取り用らしき飲食物をバッグに詰めたり靴を履かせてもらったりと、外出の準備を進めていた母さんが目的を尋ねてくる。


 そんなの言うまでもない。秘密特訓できる場所を探すのだ。そして異世界の文明について少しでも情報を集めるのだ。


 つまり俺が言うべき答えは――。


「家、みる~」


「え~。家なんか見てもつまんな~い」


 しれっと同行しているアリシア姉は、見慣れた風景に何の興味もないらしく、俺の提案に文句をつけ始めた。


 母さんの真似をして俺の右足に靴を履かせようと頑張るが、一向に上手くいく気配はなく、紐の結び方も蝶々結びではなく固結び。口より手を動かしてもらいたい。


「家、みたい」


 当然譲る気はない。勝手について来るんだからここは俺の意見を尊重してもらわなければ。


「アリシア、諦めなさい。今日はルークの散歩よ」


「えぇ~~?」


 結局、家の案内に決定。


 靴を履かせたことでお姉ちゃんアピールができたと勘違いしているアリシア姉が、満足げな顔で玄関を開けた瞬間、そこから差し込んでくる輝かしい光に俺の心はかつてないほど高鳴っていた。


 が、しかし――。


「エリーナ様、お客様がお見えです」


「あら? 散歩はまた今度にしましょうか」


「ええええっ!?」


 フィーネが、いや来客が来たことで、中止の危機に。


「……散歩の最中でしたか。よろしければ私がお連れしましょうか?」


「そうね。お願いするわ。ルークったらよっぽど外に行きたいみたい」


 フィーネの機転によってなんとか中止を免れる。


 さすがだ。


 昔は『フィーネさん』と呼んでいたけど、父さんから「貴族は使用人に敬語を使わないんだよ」と教えられたので、それ以降呼び捨てにするようになった。


 年上相手にタメ口というのは違和感しかないけど、親しみも込めているのでなんだか家族になったみたいでちょっと嬉しかったりする。




 俺、フィーネ、アリシア姉の三人は、さっそく敷地内の散策を始めた。


 手入れの行き届いている花壇には見たことのない草花が植えられ、訓練場として使われている区画は今はがらんとしているけど昼は兵士達がくんずほぐれつする。二メートルほどのレンガ造りの外壁が敷地を囲んでいる。本邸から少し離れたところには使用人達の家と薪や食糧を保管する小屋が建っている。


(ただ木と土とレンガなんだよなぁ。サイディングボードは無理でもモルタルぐらいはあると思ってたんだけど……レンガの質も悪いし……)


 ふふふ、伊達にホームセンター勤めしてないのだよ。知ってるぜ~。建築素材色々知ってるぜ~。集積材とかFRPとか作っちゃうぜ~。


「ルーク、なんだか楽しそう」


「はじめて見るものばかりで楽しいよ~」


 アリシア姉に呆れられて、慌てて言い訳した。


 さすが幼児。使い道や改善方法を考えてニタニタしているのが大人だったら気持ち悪いと罵倒されていたところだ。子供は何しても可愛いし偉いし許されるのだ。


 実際、情報収集できたので大満足。


 魔力で身体能力を上げる兵士達が見れたし、文化レベルは綺麗なレンガが手に入る程度……おそらく中世かそれより前で、食料は保管できるぐらいあり、主食はパン。


 衣食住は当面問題ないけど改善の余地は十分、と。



「よっ、ルーク様は今日も小さいな。散歩中か?」


「おはよう、マリク」


 家の裏でオッサンが井戸で水汲みをしていた。


 兵士長のマリク。


 父さんの昔馴染みで、オルブライト家ただ一人の私兵。兵士長とは言いつつ部下はいない。こうやって家の仕事を手伝いながら、空いた時間に他所の兵士達や冒険者に格闘術を教えたり、領地近くの魔獣退治をしている。


 使用人にもかかわらず言葉遣いは完全に親戚のオッサンだ。辛うじて様付けはしているけど絶対に尊敬なんてしていない。からかっている雰囲気すらある。


「ルークが庭を見たいっていうから案内してるの」


「へぇ~、そりゃ好奇心旺盛なお子様なこって。それじゃあ水汲みもやってみるか? 楽しいぞぉ」


「やる!」


 マリクが手押しポンプに触れながら誘うと、アリシア姉が飛びついた。俺も興味津々だ。見た目は地球のものと同じだけど性能はどうか。


「ぼくもいい?」


「あ、ああ、いいだろ別に」


 俺まで乗ってくるとは思わなかったようで、マリクは視線をフィーネに送って許可を求める。


 妙にオドオドしているのが気になる。そんな危険なことなんだろうか。


「では私が支えますのでポンプのレバーを下に押してみてください」


 俺達の不安を他所に、あっさり許可が出たので早速チャレンジ。


「お、重いぃ……」


 びくともしない。


 アリシア姉がやっても結果は同じ。俺はともかく五歳でも動かせないのは構造に欠陥があるんじゃないか。見た目は地球のものと同じなのに。


「こ、こんな重かったなんて……みんな簡単そうにやってたのに……」


 いつも洗面所にある壺の水を使っているので知らなかったらしい。ちなみにそれもマリクが汲んでくれている。


「アリシア様は魔力ばかりに気を取られて体を鍛えるのを怠っているようですね。もう少し運動された方が良いかと」


「あ、いや、これ錆ついてて重いんだよ。訓練に来る十歳のやつでも出来ないのいるぞ」


 耐久性に問題ありと。これも構造が原因かもしれない。中を見せてと言うわけにもいかないので、魔道具開発の候補に入れておこう。


「おやそうだったのですか。言ってくださればいつでも直しましたのに」


「体鍛えるのに丁度良いんだよ。問題なければこのままの方が有難いんだが」


「では壊れかかっている部品を重く頑丈なものに変えておきましょう」


「そりゃいい。壊れづらくなって一石二鳥だ」


 フィーネが手をかざすと手押しポンプが一瞬で分解される。その辺の土で代わりの部品を作り出し、再び合体。その間、実に十秒。


(俺の出番……)


 優秀過ぎるのも考えものだと思う今日この頃。


「じゃあなルーク様、アリシア様。早く大きくなれよ。俺が鍛えてやるから。男も女も一に筋力、二に筋肉ってな! がははっ!」


 俺達への挨拶もそこそこに水汲み作業という名の筋トレを続行するマリク。今更フィーネに任せればいいのになんて野暮なことは言わない。


 マリクを真似して「またな~」と少々お下品な別れの挨拶をすると、彼はニカッと笑って俺達に手を振ってくれた。裏表がなくて実に接しやすい人物である。




「こんにちはルーク様!」


 食糧庫へとやってきた俺達を出迎えたのは、フィーネと同じくメイドをしている、犬人族のエル。


 獣人だ。


 大事なことなのでもう一度言う。獣人だ。


 嗅覚が鋭い犬人族の彼女は、食品の良し悪しを嗅ぎ分けれるため、料理人として大変重宝している。


 正直彼女が俺の世話係でも問題ないと思った(というか是非お願いしたい)んだけど、テンションが高すぎて赤ん坊の世話に向いていないと辞退した経緯を持つ。常にこのテンションでは安息というものが存在しないので今はそれで正解だと思っている。


 あと獣人の魅力を差し引いたとしてもフィーネの有能さに軍配が上がる。


「「える~」」


 俺とアリシア姉は魅力的な彼女の尻尾に我先に抱き着いていく。


 テンションが高くて面倒臭い時もあるけど、犬っぽい彼女は基本的に子供から大人気なのだ。今日もフサフサ。


「お散歩ですか? やっぱり天気のいい日は庭を駆け回りたくなりますもんね!」


 エルも慣れたもので、俺達がコケない様に注意しつつ尻尾を触らせてくれる。


 これは有難いけどそれはなんか違う。でもたしかに犬と一緒なら楽しく駆け回れる気がする。彼女は本当にやる。二十七歳とは思えない落ち着きのなさがチャームポイントであり欠点だから。


「エルさんは何故ここへ? 朝食の準備をしているはずでは?」


 モフモフに夢中になるあまり忘れていたけど、今は朝食前の忙しい時間。我が家唯一の料理人がこんなところにいるのはたしかに変だ。


 食材は朝一でマリクが運び込んでいるはず。足りないものでもあったんだろうか?


(いや、待てよ……もしかして……)


「今日はガルム肉を香りの強い草に巻いてみました! 匂いをもって臭いを制するです! 今度こそいけるはずです!」


 そうだった彼女にはこれがあった。欠点は落ち着きのなさよりこっちだ。


 多くの魔獣が食材として重宝する中、食べられない魔獣も存在する。ガルムはその代表格。見た目は狼に似ていて、筋力が凄まじく体内に魔力も流れているのでとにかく固い。しかもとても臭い。


 そんなガルムを食すために日々試行錯誤しているエルは、料理人として一目を置かれているものの、同時に稀にゲテモノ料理を出す危険人物でもある。


 あまりにも必死なので「この食糧庫の隅の方だけなら」と特別に許可されている。食べられるものができたら出してもいいとも言われているが、成功したことは一度もない。


 同じイヌ科の生き物として命を粗末にしたくないのか、それとも食料を無駄にしたくないのかは定かではない。


「エルさん……そろそろ諦めてはどうですか? ガルムの臭いは一日残ります。オルブライト家の皆様はもちろん、ここに住む私とマリクさんにも迷惑が掛かるのですよ?」


「し、失敗を恐れていては美味しい料理は作れません!」


 フィーネの忠告も聞かず、エルは「とあっ」と意気込んで葉っぱに包まれた肉を取り出した。


「「くさい!」」


 案の定、失敗。一晩寝かせたせいで臭さが濃くなっている。


 俺とアリシア姉は鼻を抓んで悲鳴を上げる。


「そ、そんな!? これでもダメだなんて!」


 嗅覚の鋭いエルの方が辛いはずなのに、失敗した衝撃の方が上回って無反応。嗅ぎ過ぎて麻痺している可能性もある。


「フ、フフフ……臭いすら消せないのに、さらに固い肉を美味しく加工しなければいけない。でもガルムはいくらでも手に入る……ウフ……ウフフフフ…………」


 これさえ無ければ良いメイドなんだけどな~。犬耳犬尻尾だし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず家族に嫌な奴が居なさそうで安心した [一言] 赤子からになる転生だと、どうしても無職転生と比較してしまう 赤子なのに性的興味があるところとか、 魔力の鍛錬で気絶してしまうところ…
[一言] 「今まで人を恨んだりした事はないけどあの女神だけはダメだ。」 何も神様に対して、恨むようなことはなかったと思うな。贅沢を聞いてくれなかったからと言って、恨むって、50歳以上も生きていたのに…
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