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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十七章 炎の冒険者
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二百八十話 平凡な日常

 最近、アリシア姉は家に居ない。


 と言うのも、毎週末に必ずと言っていいほど貴族連中が押し寄せてきてパーティをやったり、よくわからない勧誘をしてくるからだ。


 有名貴族の子息が卒業するとその進路に関係なく行われる事らしいけど、そういうのを嫌うアリシア姉は一度も出席せずに逃げていた。


 まぁいくら関係ないとは言っても、生死のやり取りをする冒険者になる人に宴ってのも違う気がするしな。


 名前も知らない連中が連日連夜「盛大に祝わせろ」と訪問する家。


 そんなところに誰も居たいとは思わないだろ? 鬱陶しい事この上ない。


 だから俺も巻き込まれない様に避難している。


 何せ、


 嫌な顔一つせずお礼を言い続ける父さん。

 たまにトイレで壁を殴ってストレス発散してる母さん。

 ロア商会の会長として毎回同席させられ、父さんと共にお礼を言うフィーネ。

 虚空を見つめながらひたすら料理を作り続けるエル。

 門番として着飾らなければならないマリク。


 そんな大人達の阿鼻叫喚の図を見てしまったのだから当然だろう。


 週末は典型的な貴族屋敷と化したオルブライト家に近寄ったが最後、次の登校日までパーティへの出席を義務づけられてしまうからな。


 ユキなんかは「私が居ても話せることはないので~」と、俺達の子守をするのを言い訳にして顔すら出していない。



 じゃあ避難場所はどこか?


 知り合いの所に決まっている。


「お兄ちゃんが来ましたよ~」


「「だぁ~」」


 時にはソーマ・トリー夫妻の家に行き、ハッスルしないよう細心の注意を払いながら子猫ちゃん達と戯れたり、


「一発ツモっ、メンタンピン三色ドラ1、8300オール!!」


「にゃんですとー!?」


 時にヒカリの逃げ込んだ猫の手食堂で手の空いているユチ達相手に麻雀をし、


「鍬との融合、それ即ち・・・・大地との交わり」


「「「おおおおー」」」


 時に農場で新入社員への指導をしている。


 でもパーティなんてもんは昼から夜、果ては深夜にかけて行われるわけで・・・・。


 いくら彼等と親しいとは言っても、「明後日まで泊めて。何なら毎週末」なんて言えるほど俺の神経は図太くはない。



 だから俺は、いや俺達はキャンプをしていた。



「今日のお肉はアリシアさんが1人で捌いたんですよ~」


「オークをね! こう、皮剥いで内蔵取り出して血抜きするの!」


「達成感があるのはわかったから、肉焼いてる時にそんな身振り手振りまで入れて話すな」


 アリシア姉とユキと3人でキャンプを始めて1か月。


 金曜日の学校終わりにクロの引く荷台に乗って適当な地域へ旅立ち、月曜日には帰って来て登校する生活だ。


 風呂は農場の宿舎で入らせてもらったり銭湯を利用してるし、水や食料はこうして現地調達、もしくは街で買う。


 父さん達も嫌がるアリシア姉を無理矢理パーティに出席させようとはせず、むしろユキに冒険者の何たるかを教えてもらいたいと頼んでいた。


 で、その成果が今日の夕食ってわけだ。


「あ、ユキ。寝る前にスフィアカメラ改造するから、作りかけのやつ部屋から持ってきて」


「はいは~い」


 まぁ正直寝る場所が違うってだけで家での生活と何も変わらない。


 春と呼ぶにはまだ早い季節なので寒いかな~と思ったら荷台の中が予想外に快適だった。


 不満があるとすれば3人だとちょっと狭い事ぐらいかな。


「ルークも好きね~。自然溢れるこの環境をもっと楽しみなさいよ」


「そう言うアリシア姉だって中で武具の手入れしてんじゃん」


 この荷台、寝るだけなら5人は余裕でいける。


 問題は俺達がゴチャゴチャとした道具をバラまいて作業したら手狭になるって事。


「外は寒いんだから仕方ないでしょ!」


「俺もだよ!」


「2人とも宿舎に入ればいいのに~。

 『もうちょっと広くすればよかった』『同じ姿勢で居るの辛い』って何度も愚痴を言ってるじゃないですか~」


「「まったく以てその通り。だが断る」」


 俺とアリシア姉は声を揃えてその誘いを断った。



 ・・・・はい。さっき「適当な地域へ旅立ち」とか言いましたけど、俺達は家から歩いて数十分の農場の宿舎の隣に居ます。


 便利なんだよ!



「もうお風呂流すけど良いの~?」


「あ、大丈夫で~す」


 皆とても良くしてくれるし、そのお礼に昼間は農業を手伝う。何なら効率的な作業方法を教えたりもする。


 まさにギブアンドテイク。助け合いの世の中。


「あくまでも世話にはなってないって言いたげね」


「おうっ、俺達はこの場所でキャンプをしてるだけだからな」


 毎日朝と夜に必ず顔を出すルナマリアが、今日も呆れた様子で声を掛けて来た。


 用事があるのは俺じゃなくてアリシア姉なんだけど、毎度毎度こうして突っかかってくるのだ。


 ・・・・惚れたな?


「アンタが言うとフィーネが信じるから止めなさい。

 それでアリシア、準備は良い?」


「もちろんよ!」


 俺のジョークを適当にあしらったルナマリアは、隣に居るアリシア姉に話し掛けた。


 その呼びかけに待ってましたとばかりに、先ほどまで手入れしていた武具を身に付けたアリシア姉は荷台から飛び出して行き、ルナマリアと共に宿舎の裏へと向かう。


 これもルナマリアが顔を出すのと同じく日課となっている事だけど、これから2人は戦闘訓練をするのだ。


 本来であればフィーネがやるはずだったんだけど、貴族連中に捕まっているので同じような戦い方の出来る彼女が代役として名乗り出たってわけ。


 もちろん俺は魔道具製作が忙しいので見もしない。


「とか言っちゃって、本当は映像を見直したいって我がままを言うアリシアさんのために、映像収録の魔道具を作っちゃってるんでしょ~」


「君はどうしても僕をシスコンにしたいみたいだね? 違うよ? これは前々からやりたかった事だから」


「フフフ~。そうですね~。そういう事にしておきましょうね~」


「・・・・(チクチクチク!)」


 俺はニヤけた笑みを溢すユキの服に、炎の精霊『イフリート君』の刺繍ワッペンを瞬時に貼り付けてやった。


 これ、各属性の精霊をキャラクター化したロア商会の新商品です。


「なんて事を!?」


 その一瞬の早業に為す術も無く貼り付けられたユキは、急いでイフリート君を剥がそうとガリガリ削り始める。


「くっくっく、剥がしても無駄だ。第二、第三のイフリート君が今後も貴様の服を侵食していくぞ」


「うわぁ~~ん! アリシアさ~ん!! 貴方の弟さんが私を虐めますー!」


 と、ユキは2人が戦っている宿舎の裏へ走っていった。


 ただし、激しいバトルを繰り広げているアリシア姉に泣きついたものの、誰からも相手にされる事無くさらに凹むことになる。



「グルル・・・・」


「なんだ、クロも俺はシスコンだと言いたげじゃないか? この荷台を没収しても良いんだぞ? 君が気に入っているこの荷台を」


「グル!?」


 それ以降、俺に文句を言う奴は居なくなった。


 アリシア姉とクロが初めてこれを動かした時の反応と来たら、もう・・・・。



 ちなみに俺達が逃げた事で色々おかしなことになっていたりする。


 ヒカリは猫の手食堂に逃げ込み、人手が増えた事で余裕が出来た食堂から料理長のフェムと元料理人のトリーがオルブライト家のパーティ料理作りの応援に来て、トリーの娘のココとチコの世話を農場でやる。


 もう訳がわからない。


 しかも赤ちゃんを世話している農場の連中が揃いも揃って『赤ちゃん可愛い』『赤ちゃん欲しい』と謎の婚活ブームになっているのだ。


「貴方、私達もそろそろ」


「いや、だけど片手の俺じゃあ・・・・」


「大丈夫ですよ。貴方の分まで私が抱きますから」


 少し前に結婚した元冒険者夫婦もこの有様だ。


 末永く爆発しやがれ。



毎週土日に行う戦闘訓練。

キャンプ中で考えれば日課、全体で考えれば週課。

しかしキャンプ以外でもアリシアはルナマリアと戦っています。


・・・・伝わればいいですよね?

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