二百七十四話 5人でクリパ
「え? アリシアちゃんまだ帰って来てないの?」
「あぁ・・・・たしかに遅いな。向こうでも盛り上がってるのかもな」
ツイスターゲームは勝負にならないと言う事で、リバーシやトランプなど様々な遊びを堪能していた俺達3人。
そんな俺達の下へ食堂での仕事を終えて一時帰宅したヒカリが顔を出し、当然の流れでクリスマスパーティに参加する事になった。
「ヒカリちゃん、UNOやろ、UNO」
「違う、ヒカリはわたしとフリスビー」
またしても意見の食い違ったイブとニーナは誰から相手にされるわけでもなく勝手に自己主張を続ける。
まぁそれはその内やるとして、ヒカリはウェイトレスをして食べ物の臭いがついた体を流したいと言うので、夜も更けて来ている事もあって俺は一緒に風呂へと向かう。
「重力の枷」
「ふべっ! な、何を・・・・した・・・・!」
自然な感じで皆と混浴するはずだった俺の体は突如重くなり、身動き一つ取れなくなった。
こんな事をするのはニーナ! お前しかいない!
「わたし達3人で入るから」
「バ、バカなぁぁーー!」
百歩譲ってヒカリ&ニーナのコンビは良いとしよう。
だけど何故イブまでそちら側に入っているんだ?
俺はなんとかこちらのペースに持ち込むべく、床に突っ伏した状態から始まる和平交渉に乗り出した。
もう勝負はついてる? いいえ、戦況はこれからいくらでも変化していくのです。
「ルーク君。こんな言葉を知ってる? 『喧嘩するほど仲がいい』」
「話したいことは山ほどある」
「じゃあそういう事で~。しばらく10倍の重力で体鍛えててね」
しかし少女達は話し合いのテーブルにつくこともないまま、無情にも俺を置いて風呂場へと行ってしまう。
な、なら、せめて・・・・せめてこれだけは言わせてくれ・・・・。
お前等どんだけ仲良しだよっ!!
あの後すぐに帰宅したアリシア姉に羨ましがられる中、風呂上がりでホカホカなニーナに重力魔術を解いてもらい、俺はようやくクリスマスパーティを再開することが出来た。
「「「なんで腕立て伏せしてないの?」」」
って全員から言われて腹が立ったけどね!
アリシア姉やヒカリはともかく、イブやニーナまでそんなこと言っちゃうんだね!!
なんで『重り=体を鍛える』になるんだよ・・・・。
「へぇ! これイブちゃんが作ったんだ! 凄いね!」
もちろん俺の疑問や問いかけは無視され、少女達も楽しそうにパーティを再開していた。
話題はイブ先生の新作『世界地図』について。
「・・・・」
ただこの話をあんまり長く続けていると不機嫌になる猫さんが居るので、ほどほどで切り上げていただけると、
「・・・・アクアのこの辺と、ダアトのここに良さそうなダンジョンがあるって聞いた」
は、話についていけてるだと!?
アリシア姉が受け取った時はあれだけ無口だったのに何故? この短時間で何が起こった!?
「実はお母さん達と旅の話をした時に聞いてた。
アリシアやヒカリが居ないと共感してくれないから話さなかっただけ」
「あ~わかるわ~。さっき行ってたパーティでも『戦闘時の安全な対処方法』で盛り上がってる連中とは相容れないなって思ってたの。
冒険者ってそうじゃなくて、どれだけギリギリの戦いが出来るかでしょ?」
「そうだね~。わたしも少し前に食堂で見たよ。
結婚を誓った2人の冒険者が無傷でゴブリン討伐して喜んでたの。あの人達、絶対オークぐらいは倒せるんだよ?」
ニーナの話に共感した戦闘狂たちは、『冒険者あるある』を口々に語り始めた。
そんな「アイツ等わかってないわ~」みたいに上から目線で喋ってるけど、君等はまだ冒険者じゃないからね?
あと、ヒカリの話に出てきた奴等は俺と関わったら間違いなく死ぬ。
どうせ「来月結婚するんだ」とか「最後に〇〇に伝えてくれ。愛している、と」とか言ってバンバンフラグ立てていくんだ。
まぁ何はともあれ、プレゼントの話題で盛り上がる事が出来そうだ。
それからどのくらいの時間話しただろうか。
地図はもちろん、今後行ってみたい場所や、俺達が今までにした旅行について色々話していると、ヒカリが何か思いついたように部屋へ走っていった。
で、すぐに帰って来た。
「わたしからもプレゼントがあるんだよー!」
そう言ってヒカリは懐から特製グローブを取り出す。
「剣士のアリシア姉にグローブ?」と疑問に思うかも知れないけど、次の一文で全て伝わると思う。
取り出して・・・・自分の手に装着したのだ。
「前から全力で戦ってみたかったんだ~。
ほら、この通りフィーネちゃん達にお願いして精霊が多くなるクリスマス限定の簡易結界も用意しているから、街中だろうと迷惑にならないよ!」
さらに色々説明しながらバッと防寒具を脱ぎ捨てたヒカリ。
その格好は冬だと言うのにピッチリとしたストレッチ素材のスパッツ&インナー(もちろん対魔術用)に、足元はこれまた魔力伝導率の良いシューズ。
さらに今ハメた拳を痛めないグローブという完全なる戦闘態勢だ。
「最強は魔法や魔道具じゃなくて鍛え上げた肉体だって教えてあげるよー。
そんなものに頼るのは時代遅れ!」
「グフフ・・・・面白いじゃない!
レナードとの決着もだけど、ヒカリに魔法が通じるのかも試してみたかったのよね!!」
グフフ言いましたよ、この人。
『フィーネ達に魔改造されて千里眼・魔術・精霊術を身に付けた獣人とのマジバトル』
それがどれほど心躍る事なのか知らないけど、家族同然の相手に人類最強の魔術を放って焼却してやろうと企んでほくそ笑むのはどうなんでしょう?
そんな当たり前の疑問を抱いているのはどうやら俺だけだったらしく、誰に止められることも無いまま2人とクロは結界内へと入っていく。
アリシア姉の本気はクロとのコンビネーション込みなのだ。
あ、クロがこっち向いて首を横に振ってる。
そうか・・・・君が唯一の理解者か・・・・。
頑張れよ!
俺は自然と額に手をあて、これから行われる非常に理不尽で訳の分からない戦いを強要される心の友へエールを送った。
もちろん戦闘シーンは全カット。
ってか俺は見てもいない。
ヒカリ達は石を地面に叩きつけて結界を展開したんだけど、俺達はどうやって中の様子を観戦したらいいのか尋ねると、
「真剣勝負の邪魔になるから」
「そうね。真の戦いは誰かに見せるもんじゃないわ」
「「必要なのは勝者と敗者だけ!」」
と、取材NGを喰らってしまった。
よくわからないけど勝負の世界はそうらしい。
と言う事で俺はイブ・ニーナと共に割と静かなクリスマスパーティを続けてましたよ。
「勝った!」
「負けたわ!!」
「つまりヒカリより強いわたしが最強」
しばらくして出て来た2人は楽しい勝負だったのかとても満足そうにし、自分の地位も確立できたニーナも嬉しそうだ。
後日聞いたんだけど、フィーネ達は酒を飲みながらその様子を観戦していたらしく、ベルダンの連中と共に「良いツマミだ」と口々に褒めていたんだとか。
「いやぁ~。魔法対策の四回転半ジャンプは凄かったです~」
と感想を言われても、何のこっちゃわからないし、例え見ててもわからなかっただろう。
まぁそれもアリシア姉の力量に合ったダンジョンを紹介するために必要らしいので、勝負の世界うんたら言ってたアリシア姉達はその事を打ち明けられても怒らなかった。
2人が激闘している時間を使ってイブとニーナは俺とたくさん話せて楽しかったと言うし、とにかく皆が満足してようで何よりです。