二百七十一話 8歳の神力
ユキの特製収納棚を超える。
そんな物、俺はもちろん、神様や強い連中に尋ねても誰一人として思いつかなかった。
散々悩んだ末に出した結論としては『最強の存在を超えられるのは同じく最強しかない』って事。
相手が神に近い力を使ってるなら、俺は神そのものの力を使うだけだ。
「って事で収納空間を作ろうと思うんですけど、それだけだと勿体ない気がするんですよね~」
去年は神力の使い道をフィーネ達と考えたので、今年は神様との番。
別に誰に言われたわけでもないけど、こうやって交互にしないと不機嫌になるお子様ばかりなのだ。
そんなわけで俺は今、真面目な相談をするために神界へとやって来ている。
誕生日まで1週間あるものの、今までと違って悩みそうな使い方だからな。
「慣性ドリフトォォォーー!」
「なんの溝落とし!!」
だが、しかし。
そんな神力の話など一切することもなく、サスペンションについての勉強道具として使ったレースゲームにハマった俺達は、ひたすら2人で対戦していたりする。
ゲーム毎にクセや必殺技のようなものまであるから、やり込み要素が多くて全く飽きない。
今や世界一(アルディア限定)の車博士となった俺は、セッティングを変え、車を変え、さらにはコースを熟知して神様を圧倒していた。
「な、なんであれで勝てないんですかー!」
「ハンドルを切るのが遅かったですね。やっぱり初心者の神様にはコントローラーの方が良いんじゃないですか?」
「ムキィィィーーーっ! 私の方がやってるのにその上から目線! 腹が立ちます!」
この人はゲーマーな割に一向に上達する気配がない、典型的な『下手の横好き』なのだ。
その上、実際に運転している感覚が味わえるハンドル型コントローラーを使用している俺に合わせているもんだから、まぁその腕前はお察し。
んでもって2人とも真剣に、全力で、本気で、やってるもんだから連敗すればするほど拗ねる。
「やっぱり神様はアイテムの使えるシスターカートの方が勝てますって。運で」
「それは何ですかー。実力では勝てないと言いたいんですかー」
言いたいのではなく事実だ。
なんて酷い事は言わないでおこう。
「・・・・・・・・」
まぁ相手の心が読める神様には無意味な気遣いだったけどな。
これ以上機嫌を損ねる前に、そろそろ本題に入らせてもらおう。
「へぇ~、竜車の荷台に異空間を取り付けるんですか~?」
現段階で決まってる事を説明すると、神様は『なんでそんな事を』とでも言うように疑問の声を上げた。
もしかしてこの人、24時間俺を監視したりしてないのか?
だとしたら主人公に深い関りを持つ神様としては失格な気もするけど、それは言わないでおこう。
「ちょっとユキを超える必要がありまして・・・・」
「そんなストーカー気質な連中と一緒にしないでくださ~い。
私は相手のプライバシーを大事にしつつ、その人の口から語られる新情報を楽しみたいんです~」
これまた心を読める神様相手には意味が無かった。
ごく稀にやってくる信者から聞く話もその対象と言うのだから、まるで孫の話を楽しみにするお祖母ちゃんみたいな暮らしをしている。
「前に全知全能とか言ってませんでしたっけ?」
「知ろうと思えば知れるんですー。そもそも神様は忙しいので、必要な情報だけ抜粋するんですー」
なんかこのままだと話が進みそうにないし神様も機嫌を損ねそうなので、そういう事にして引き下がっておこう。
「俺、思うんですよ。
これまでの世界を変える様な奇跡の魔道具と比べて、今回のこれは完全に個人的な物。いくら俺に関係深い人だからってそんな使い方をして良いのかなって」
「はぁ~、ルーク君は真面目ですね~。1度ぐらい良いんじゃないですか~?」
「その考えが人をダメにするんです! 妥協と気の緩みと邪な心がっ!」
「神様に邪とか言われても・・・・」
「『1度だけ』なんて悪魔の誘いをする人は邪なのです!」
その言葉にどれだけの人が痛い目を見てきたことか。
1度緩んだネジは2度と締める事は出来ないのだ。
「もうそれで良いですよ~。今だけ邪神として扱ってください。
それで結局ルーク君はどうしたいんですか~?」
頑なに譲らない俺を見て呆れた様子の神様は、自ら闇を受け入れて結論を急ぐ。
だから俺は言ってやったよ。
「異空間を世界に役立てる方法を一緒に考えましょう」
俺の平穏のためにもアリシア姉を満足させるのは決定として、これまでの魔道具のような使い道を見つければ俺も心を痛めなくて済む。
問題は収納棚をどうやって人知れず世界のために使えるかって事だ。
ありがちな感じとしては『食糧をいくらでも入れれるから人々に配る』とか『商人のように品物を流通させる』とかだろう。
何なら『俺の力スゲェだろ』や『これを使って王族や神獣とお近づきに』なんてドヤ顔しながら主人公ぶる事も出来そうである。
ただ使うのがアリシア姉ってのが問題なのだ。
あの単細胞さんにそんな高度な事を求めるのは間違っているし、どうやって手に入れたのか聞かれたら普通に答えそうじゃないか。
知らないだろうから言っておくけど、あの人の学力は高校入学を断られるレベルだからな?
試しに父さんがテストしてみたら合格ライン70点の所、何度やっても30点前後と言う残念過ぎる結果しか出なかった。
良くも悪くも猪突猛進な人なので、戦闘と同じように勉強も好きになれば凄い事になりそうだけど、まぁ今更である。
そんなアリシア姉でも使える魔道具。
「つまり! 必要なのは目立たず、自然と、何もしなくても実用性のある物!」
「それはまた難問ですね~。そして酷い言われようですね~」
・・・・ここでの会話を神託で伝えるなんて出来ないよな?
そうなったら俺の明日、いや荷台を完成させた次の日は無いぞ。
「フッフッフ~。まぁそれもルーク君にとっては、ですけどね~。
私に掛かればお茶の子さいさいですよー!」
「な、なんだってー!?」
難問とは言いつつも余裕の表情を崩さない神様は、俺に画期的な案を授けてくれた。
アドバイスをもらった俺は急いで家に帰り、フィーネ達にも相談してその機能を付ける事に決定。
一応本人にも説明しておこう、って事で俺達3人はアリシア姉を呼び出して神力のことは伏せつつ収納魔法陣について話し始めた。
「アリシア姉には『花咲かじいさん』になってもらいます」
「何それ?」
おっと、またこの世界には存在しない例を出してしまったようだ。
ここは前回と同じように俺の考えた童話って事にしてしまおう。
「昔そういう二つ名を持った冒険者が居たんだよ」
昔むかし、ガルムと兄弟のように育った男の子が居りました。
普通なら魔獣と仲良くなるなど出来るはずもありませんが、生まれた時から傍に居たガルムは、とてもとても優しい魔獣でした。
・・・・・・・。
・・・・。
こうしてワイバーンから冒険者を守ったガルムは静かに息を引き取り、彼はその遺体を生まれ故郷に埋めました。
するとその場所から1本の木が生えてきて、それと同時に冒険者は夢の中で数年ぶりにガルムと再会したのです。
さらに数年後、大きく成長した木をガルムに言われた通り燃やすと、魔力を宿した灰になりました。
「このガルムは冒険者を愛し、世界を愛し、草花を愛していたのです。
冒険者は約束通り、その生涯をかけて国中の木々に灰を撒いて精霊達を喜ばせましたとさ。
おしまい」
「ガルムゥゥーーーーーっ!!!」
俺が語り終えると、アリシア姉が号泣しながら友の名を叫んだ。
・・・・なんか前にも見たな、この光景。
「あ~、無理。そんな話を聞いちゃったらもうガルム討伐なんて出来るわけないわ」
「いやだから作り話だって」
相変わらず感受性の高いお姉様だことで。
でもおとぎ話に夢中のお陰で、常識では考えられない魔道具については触れられなくて助かったな。
「とにかくこの花咲かじいさんと同じ事をアリシア姉にもしてもらいたいんだよ」
神様からの助言は『収納スペースから精霊を活性化させるエネルギーを出せるようにする』と言うもの。
わかりやすく言うと、万能肥料を撒き続ける車ってところか。
「っ! そうよ! 彼は国中だったけど、私は世界中の精霊を元気にするの!」
「そうそう、こういうのは俺みたいな遠出しない奴には絶対出来ないからな。
アリシア姉みたいに色んな場所を旅する人が最適」
通った道、そして近くの野山は元気になる。
その機能は使用者本人にもすんなりと受け入れてもらえたようだ。
まぁたぶん『移動するだけ』ってのが重要で他は何でも良かったんだろうけど、花咲かじいさん効果もあってやる気を見せるアリシア姉。
ただこうなると危険な場所に行かないか心配になってくるけど、そこはクロの裁量に任せる事にする。