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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十六章 ヨシュア開拓編
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二百六十八話 ガルム君

「お~い、アリシア姉~。居るか~?」


 とある休日。


 いつものように魔道具を開発していた俺は、その工程で火が必要になったので『燃える少女』ことアリシア=オルブライトに協力してもらおうと彼女の部屋の前に居た。


 こういう時にこそ役立つ連中は揃いも揃って拒否しやがったからな!


 フィーネは俺との将来がどうこう言いながらヨシュア開発に勤しんでるし、ユキは炎関連になると無言で舌打ちする。


 ヒカリは学園祭終わりにニーナと勝負して敗北。それが余程ショックだったらしく朝から修行に出掛けている。


 つまり俺に付き合ってくれそうなのは現状アリシア姉だけなのだ。


「・・・・留守か?」


 何度ノックしても一向に返事がないので何処かへ出掛けているのかと思いきや、彼女は集中していると周りの声をシャットアウトするので実は居たりする。


「って事で邪魔するぞ~」



 ここで俺が大人しく引き返していれば・・・・。


 あのような悲劇は起こらなかったのかもしれない・・・・。




 部屋に入ってみると本当に主は不在だった。


「あれ? 本当に出掛けてる、の・・・・か・・・・。

 ・・・・・・・・」


 しかしその事実よりも気になる物を見つけてしまった俺は、『それ』を凝視して状況把握に努める。


 当然このまま見なかったことにして引き返すなんて選択肢はない。


 可愛い物好きなアリシア姉の部屋には相当な数のぬいぐるみが置いてあり、その中には俺がプレゼントしたロア商会マスコットキャラクター『ガルム君』も居た。


 ロア商会を発足する切っ掛けとなった石鹸。


 それを生み出してくれたのが世界一メジャーな魔獣『ガルム』であり、それに感謝と敬意を込めてデフォルメした狼をマスコットに採用しているのだ。


 ただ目の前にあるぬいぐるみ(?)は、俺も見たことがない物だった。


 まぁ見たこともないって言うか・・・・。



 1mを軽く超える半透明な『何か』だった。



 しかもそれはプルプルしてて・・・・ってかどう見てもスライム。


 この世界にもスライムは居る。


 でも大きくても20cmぐらいだし、伸びたりは出来てもここまで忠実な変形は不可能なはずである。


 さらに念のため説明しておくと商店で売っている一番大きなガルム君は50cmほどで、俺がプレゼントしたのは20cmぐらいの普通のやつだ。


 ちなみにそれは半透明なのの隣に鎮座している。



 そんな異常事態に驚くこともなく冷静に対処する術を身に付けてしまったのは、恥じるべきか、喜ぶべきか。


 とにかく俺はその疑いようのない特殊なスライムに話し掛けた。


「お前は誰の知り合いだ? フィーネか? ユキか? ベーさんか?」


『・・・・』


 だけどコイツは俺の問いかけにも無言を貫く。


 あくまで自分はタダのぬいぐるみ。何処にでも売られているガルム君だと言わんばかりだ。


「そうか、そうか。じゃあ3人にお前が暴れたって報告させてもらおうか。

 フィーネは俺に危害を加えたヤツを許さないし、秘蔵マヨネーズを飲んだことにすればユキも怒るだろう」


『・・・・(プルプル)』


 ほほぉ、この期に及んでまだ無言とは。


 まさか喋らなければ騙し通せると思っているのか?


 そう考えたら、コイツは微動だにしていないはずなのに揺れて挑発しているように感じ始めてしまう。


 そしてどうやらフィーネとユキの知り合いではないようだ。


 って事は残る1人で決まりかな。


「ベーさんには・・・・そうだなプレゼントしようとしてたアイスを食べた事にするか」


『スイマセンでしたぁー!!』


 一瞬でガルム君の形態から巨大スライムへと戻ったソイツは、俺の前で平べったくなった。


 これがスライムなりの土下座なのだろうか?


 ・・・・ってか喋ったな。


「もしかしてベーさんのダンジョンで暮らしてるスライムか?」


『はい。そのスライムです。名前は「ライム」と言います。スライムライム』


「うん、その最後のヤツはいらないな」


『あ、はい。スイマセン。

 マスターがアイスに合う食材で、名前も似てるからってつけてくれたので気に入っているんです、この自己紹介。

 だからその名前に恥じないよう、柑橘系の果物を体に吸収させてエキスが染み出るようにしてて』


 なんか美味しそうな匂いを出すための工夫とか語り始めてる。


 悪い子じゃないんだろうけど、一向に本題に入ってくれない・・・・。



「あ~、その話はもういいから。

 何で君がここに居るのか説明してくれると嬉しい」


『それはアリシアさんが自宅でも魔法を使いたい、と言うので連れて来られたんです。

 見ての通り衝撃吸収においてはピカイチなので、いくら切られても魔法攻撃されても平気ですし、体を引き延ばせば結界にもなりますから』


 そう言って元の姿に戻ったスライムのライム君(さん?)は体を膜の様にして部屋を包み込んだ。


 よ~く見ると少し小さくなってる気がする。


 薄いとは言え部屋を覆うぐらいだから結構な質量のはずなんだけど、その程度の変化しかないのは余程密度があるんだろう。


 やっぱり持ってみたら重かったりするんだろうか?


『魔法生物なのでその辺は魔力量によって変化させられます』


 便利なヤツだ。




 俺がライムさん(性別はないけどメンバーの男女比的に女の子扱いらしい)と話しているとアリシア姉が帰って来た。


 と、同時に彼女は再びガルム君形態になる。


「色々聞きたいけど、まず何でこの子は部屋に居るんだ? 用事が済んだらダンジョンに返すべきだろ?

 魔法が使いたいならフィーネやユキに頼んで結界作ってもらえばいいじゃないか」


「え? 返すも何もこれはアンタが考えたガルム君じゃない」


 そう言えば騙せると思っているのか、アリシア姉はライムさんと同じような事を言い始めた。


 だけど俺まで同じやり取りをする義理は無い。


「・・・・母さーーーん!! アリシア姉がまたペットを「黙りなさい!」モガッ!?」


 もはや何度目かも覚えていないアリシア姉の気に入った物を持ち帰る習性を親に報告しようとしたら、これまたお得意の羽交い絞めで口を封じられてしまった。


 こういう時に限ってフィーネもユキも出てこないし、ヒカリは食堂に行ってて居ないし、ホント使えない連中だ。


 無機物ならともかく生き物、しかも魔獣はダメだろ?


「詳しい話を聞こうじゃないか」


「なんでルークの方が上から目線なのよ」


 完全にホールドされて身動きが取れない状態で俺は事情を聞き始めた。



『あ、もう喋って良いですか?』


 どうやら他者の前では絶対喋るなと命令されていたようで、アリシア姉に許可を得たライムさんはプルプルしながら元の形態に戻る。


「言っておくけどフィーネやユキは気付いてるわよ? つまり家族の許可は貰ってるも同然!」


「どんな屁理屈だよ。

 いいから帰してきなさい。ベーさんが探してるかもしれないだろ」


『それは大丈夫です。マスターがアイスと引き換えに私を差し出したので』


 便利なヤツと言ったのを訂正しよう。


 便利だからこそ不憫なヤツだ。



 その後、俺が直々にベーさんに話を聞きに行ったところ2人の話は本当だったらしく、別に用事もないのでしばらく貸してくれる事になった。


 ただ寒くなると返しに行くのが面倒なので、数日ほど練習相手になってもらって満足したアリシア姉にリュックサックを背負わせてなるべく早く返却させた。


 入らないかな~と思ったけど無理矢理詰め込んだら案外イケた。


 質量は変えられても体積は変えられないらしく、アリシア姉の周りに薄い膜が出来てたけど特に気にする人は居ないだろう。


 そんなベルダンのメンバー紹介でした。



 この日から俺は、アリシア姉の持ち帰る物や生物の監視係に任命されてしまったけどね!


「ねえ! メルディのコウモリ形態よ!! ほら!!」


「返してこい!!」

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