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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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閑話 アリシアの初仕事1

 フィーネ達が帰宅して一週間ほど経った、ある夜のこと。


 屋敷の仕事を終えたフィーネが、別邸にある自室へ向かって庭を横切っていると、植え込みの影から黒い塊がのそのそと現れた。


「おや、どうしましたか、クロ」


「グルル……」


「アリシア様が魔獣との戦闘訓練がしたいと言って襲い掛かってくる? 休日は朝から晩まで、学校がある日は登校前と帰宅後に? アリシア様らしいですね」


 クロはがくりと大きな頭を下げ、助けを求めるような視線を向ける。


「大変なのはわかりますが、子供の相手もペットの大切な仕事ですよ。良かったですね、アッシュ達との模擬戦で手加減を学んでおいて。もし実力を見せていたら、超えるべき壁として四六時中挑まれていたでしょう」


「グルゥ……」


「とはいえ、このままではアリシア様の期待は際限なく膨らんでしまいますね。実感のないまま妄想だけが先行するのはあまり健全とは言えません」


 フィーネは顎に手を当て、思案する。


「……わかりました。そろそろ実戦を経験させるのも悪くない頃合いです。明日、アラン様とエリーナ様に相談してみましょう」


 一度でも本物の戦闘を経験すれば、理想は現実へと引き戻される。


 ヨシュア近郊に強敵はいないので、期待外れに終わるか、あるいはある程度満足するか。いずれにせよ、魔獣と戦いたいという夢は叶えられて今とは違う欲が出てくるはず。


 それに、こっそり魔獣討伐に向かわれるよりは、自分達で段取りを整えた方が安全で確実だ。


「グルゥ~」


 クロは露骨なまでに安堵の息を吐き、どさりとその場に伏せた。


「安心するのはまだ早いですよ」


 フィーネはニッコリと微笑んだ。


「もし実践に味を占めて度々討伐に行きたがるようになったら、あなたが付き合うのですよ。ただのペットではなく、オルブライト家の足にして、守護者なのですから」


「グル!?」


 自分の仕事を思い出したクロは先程よりも深く、重々しく、地面に伏せた。


 その背中には、明日以降の過酷な未来がありありと浮かんでいた。




 翌日。


 クロの散歩、そしてユキの案内という名目でヨシュアの町へ繰り出したアリシアは、二時間ほどかけて主な施設や通りを回り終えていた。


「フッフッフ~。この有能探索者であるユキさんは、ヨシュアの地理を完璧に把握しましたよ~」


「ホント? じゃあウチはどこにあるでしょう!」


「楽勝楽勝、あっちですね~」


「やるわね!」


 その後もアリシアからの問いかけに、ユキは難なく即答し続ける。


 行ったことのない路地裏や、遠めに見えただけの建物の位置まで言い当てていくあたり、本当に数時間で町の構造を把握したらしい。


「じゃあ、強い魔獣がいる場所!」


「北東にある森にワイバーンがいますね~」


「よしっ、行くわよ!」


「ダメです」


 勢いに任せて己の欲望を叶えようとしたアリシアだが、常識人フィーネによって却下されてしまう。


 アリシア達だけでは不安だということで同行を命じられていたが、どうやらエリーナの判断は正しかったらしい。


 が、ここで引き下がらないのがアリシアのアリシアたる所以である。


「なら最後に冒険者ギルドへ行ってみたい! ほ、ほら! たまたま近くにあるから!」


 もちろん偶然などではない。


 アリシアは最初からそこを最終目的地に定め、冒険者ギルドから300m圏内をぐるぐると散策していたのだ。


 遠回りをしたり無駄に往復した時点で、フィーネは察して苦笑していた。


「たしか十歳にならないと入れないんでしたっけ~?」


「ええ。大抵は酒場も兼用していますからね。屈強な冒険者や依頼書を見て無茶をする子供も出かねません。保護者同伴でなければ立ち入り禁止にするのは当然でしょう」


「だから私達と一緒なら入れると踏んだ、と。アリシアさん策士ですね~」


「ちょっとだけ! ねぇ、お願い!」


 もはや隠す気はないらしく、両手を合わせて上目遣いで懇願する。


「……まぁ良いでしょう。丁度私も用事がありましたので」


「やったー!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ね、全身で喜びを表現するアリシア。


「依頼でもするの?」


「いいえ、魔獣討伐依頼を受けるのです。クロの訓練のためですが、アリシア様も受注の流れや討伐を見たいと思いまして。事前にエリーナ様に許可もいただいております」


「最高よ、フィーネ!」


 次の瞬間。本日一番の笑顔が炸裂した。



「ここが……冒険者ギルド!」


 魔獣との戦いと同じくまだ見ぬ世界に、中から漏れる笑い声と出入りする歴戦の猛者達に、アリシアの瞳はきらきらと輝く。


「行くわよ!」


 勢いよく扉を開くと、中では屈強な男達が卓を囲み、酒と革と鉄の匂いをまき散らしていた。壁際では武器を立てかけた冒険者達が依頼書を睨んでいる。


 荒い笑い声が止み、視線が一斉に入口へと向く。


 女だけのパーティは珍しくないが、子供、メイドが混じっているのは稀だ。ワンピース少女も浮いている。それでいて全員がタイプの違う美人。クロは外で待機だが、居たらさらに注目を集めていただろう。


 値踏みするような視線。好奇と警戒が入り混じった空気。


「やっぱり冒険者ギルドはこうでなくっちゃ! あ、あれが掲示板ね!」


 だが、アリシアは怯えるどころか、むしろこれを待っていたと言わんばかりに胸を張り、満面の笑みでずんずんと歩き出す。


「ねぇ見て! Sランクの依頼にドラゴン討伐がある!」


 依頼はEランクからSランクまで6段階に分かれていて、冒険者ランクに見合った依頼しか受けることが出来ない。つまりドラゴン討伐は最上級難易度の依頼である。


「報酬金額は未定だって! きっと国とか領主様が直接対応するのね!」


 アリシアの顔はニヤケっぱなしだ。将来、冒険者になってドラゴンを倒す自分を思い描いているのだろう。


「あ、Bランクに『クラーケンの魔石求む』ってありますね~」


 アリシアと共に掲示板を眺めていくユキは、その中でクラーケンの文字を見つけて、フィーネと再会した時の事を懐かしみながら話題に出した。


「持ってるの!?」


「いいえ、もうありませんよ。旅の途中で知り合った孤児に全て渡してしまったので。それに我々が討伐したクラーケンは大型でしたので、このBランクの依頼品とは異なります」


「まぁいいわ! 依頼を達成できることに代わりはないんだから!」


 他人に与えられた手柄より自力の達成。気を取り直したアリシアだが、別の理由でテンションはドンドン下がっていった。


「野蛮な冒険者に絡まれるかと思ったのに、ちょっとガッカリ……」


「変ですね~? 聞いた話だと『姉ちゃん、俺達と付き合えよ! 一緒に飲もうぜ!』とか『いい体してんじゃねぇか、今晩どうだ?』って誘われるみたいですけど~」


「それは――」


 自分達だけだったらその大人の女性専用の口説き文句が炸裂していたかもしれませんが、子供連れなので遠慮しているのですよ。 


 と、言葉を続ける前にアリシアが割り込んできた。


「でしょ!? おかしいわよね!? 不埒なことをするためだけに生きてるような人達のはずなのに!」


(((そこまで言わなくても……)))


 アリシア達の会話が耳に入った冒険者達は内心でツッコミを入れた。


 あながち間違いではないので、若干弱めに。



「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 なにはともあれ受注開始。幸いにも並んでいる者はおらず、カウンターの向こうでは犬耳をぴんと立てた女性が穏やかに微笑んだ。


「これ! ガルムを倒したいの!」


 ばんっ、と両手をカウンターに叩きつけ、アリシアが身を乗り出した。


「あの、ちょ、ちょっと……っ!?」


 受付嬢の犬耳がびくりと跳ねる。そして困ったようにフィーネへ視線を向けた。


 依頼掲示板とは別に、カウンターの正面に『常設クエスト』と呼ばれる依頼が張り出されている。


 アリシアはそれを指差し、正式な手順通りに受注宣言をしただけなのだが――テンションは完全に子供のそれだった。


 はしゃぎすぎる子供を前に思わず保護者へ助けを求めてしまった、というのが実情だろう。


「このまま依頼を受けずに帰りますか?」


 フィーネが静かにそう告げた瞬間、アリシアは無言でカウンターを離れて直立不動に。それが楽しみで興奮していたのに、そのせいで冒険出来ないなど本末転倒もいいところだ。


 フィーネはコクリと無言で頷いて手続きに入った。


「こちらのガルム討伐を受注します」


「かしこまりました。達成条件は尾および核となる魔石の提出です。魔石は売却必須となりますのでご注意ください。また毛皮は買取りをおこなっております。ガルムは個体数が多く、常に討伐対象となっているため、遭遇した際は積極的な討伐を推奨しております」


 フィーネの差し出したギルドカードを確認した受付嬢は、先程までのドタバタなどなかったかのように、慣れた様子で説明および受注処理をおこなう。


「え? フィーネってCランクなの?」


 処理を待つ間、一瞬見えたカードの内容を不思議に思ったアリシアが尋ねる。


「実力とランクは無関係ですよ。それに私は滅多に依頼を受けません」


「???」


「例えば、少し前にアクアで大量に魔獣を狩りましたが、討伐依頼を受けていない場合は『偶然見つけた魔獣の死骸を持ち帰った』という扱いになります。売却した評価は付きますが、功績としては皆無と言っていいでしょう。加えて、長期間ノルマの未達成、指名依頼は全て断り、ランクアップ申請もしておりません。たまの大量納品で辛うじてCランクを維持できているに過ぎません」


「ランクが上がるほど有名になりますし、面倒事も増えるって言いますからね~。自由にやれるのはBランクまで。それでもえら~い貴族さんの断れない指名依頼があると聞きますよ~」


 ユキの補足が入る。


 節々に他人事が窺えるのは、自分も面倒くさがってカードの更新すらしていないからだ。


「ふーん、冒険者も大変なのね。ただ魔獣を倒せばいいと思ってたわ」


「それは新人が最初に抱く幻想ですね」


 受付嬢は書類を差し出しながら微笑んだ。


「冒険者は強さだけでなく信用と実績の商売でもありますので」


 アリシアはその言葉を聞き、少しだけ表情を引き締める。


 ――冒険は、思っていたよりも社会的らしい。

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