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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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二十五.九話 そして時は動き出す

「もっと早く帰ってくる予定だったのですが、度重なるトラブルで遅くなってしまいました」


 この1か月、どんな事をしていたのか語り終えたフィーネは、最後に謝罪してこちらの反応を窺う。


 うん、遅くなった理由がわかった。


 わかったけど・・・・。


「壮絶すぎるだろ! 軽く話してるけど、それトラブルってレベルじゃないぞ!?」


 一体どれだけ新キャラ出してんだよ!


 ってそうじゃないか。


 俺は数週間のおつかいを頼んだつもりだったのだ。それが商人を救って、街を救って、子供を救って、精霊を連れて帰って来た!?


 色々とありすぎてツッコミきれない俺を許してくれ・・・・。


 正直、ユキ登場の衝撃からも立ち直れてないんだ。



 俺以外の家族の反応としては、


「旅って面白い事が多いのね! 私もフィーネみたいな冒険してみたい!」


「僕は遠慮したいな。でも水の都アクアには興味あるね。学校でも結構話題になるんだよ」


 レオ兄はお土産の貝殻を見ながら行きたそうにしている。


 実はそっちがアリシア姉のためのお土産なんだけど、お互いに相手のお土産を欲しがったから交換したらしい。


「フィーネじゃなかったら大変な事になってるわ。アリシアは一人旅禁止です」


「えぇ~」


 母として当然の判断だな。


 お姉様は無謀な挑戦をよくされるので、進んでトラブルに突貫、もしくは発生源になることだろう。


 まぁ面白い所だったみたいだし、いずれ行く機会もあるかもしれない。



 その後も俺達がゼクト商会や海の事を聞いている間、父さんとユキは住み込みの交渉をしていた。


「それでユキさんはルークの専属メイドをしたいと言うことかな?」


「よろしくお願いします~。魔道具の開発を手伝いたいんですよ~。

 あ、お給料はいりませんよ~」


 貰っても使い道がないから必要ないと言うユキ。


 必要になったらその場で稼げる強者なのはこの旅で証明されているし、そもそも物欲がないっぽい。


 なんて羨ましい人生なんだろう。


 ・・・・いや、逆に世界中を知り尽くしてしまって感動と驚きが無くなった悲しい人生なのか?


 まぁそれも今日で終わりだけどな! 俺が居る!!


「父さん俺は賛成だよ。人手はあった方が助かるし、いずれは必要になるから」


「・・・・・・それもそうだね、いいよ。今日から住み込みで働いてもらおう」


「イエッス!」


 断られるとは思ってなかっただろうけど、俺の後押しもあって合格通知を貰ったユキはガッツポーズを取る。


 フィーネの知り合いってのも大きかった。有能メイドさんがオススメする人材なら普通は雇いたいと思うだろう。


「それにしてもエルフに精霊か~。我が家は凄いメイドが多いな~」


 父さんよ。それ凄いってレベルじゃない・・・・王族より豪華な世界一の護衛なんじゃないか?




 旅の詳細とユキについての話を聞いた俺達は、この1か月の集大成とも言うべき塩を見せてもらおうと、マリクが食糧庫へ運び入れた塩樽を確認する事にした。


「これが塩!? 真っ白でサラサラしてるわ!」


「エリーナ様、それに量が凄いです! この樽が全部塩ですよ!」


 混じりっ気のない上質な塩、というか日本でも見たことが無いぐらい極上な塩を前に、全員のテンションは最高潮となった。


 中でも食料を管理している母さんとエルが嬉しそうだ。


 もちろん俺も大喜びしてるわけだけど、ユキが居なければ入手出来なかったかと思うと情けなくもあった。


(貯水ボックスを改良しないと量産は厳しいか・・・・。

 今度ユキから水の操作方法教えてもらおう。俺にも出来ると良いけど)


 これで終わりではない。あくまで継続して手に入れられる事が大切なのだ。



「グルルー」


「うわ! これが竜か~」

「レオは見るの初めてだったっけ? たしかに普通の竜車より大きな竜だね」

「ああ、良い筋肉だ!」


 男衆は塩より竜に注目していた。


 まぁ俺も塩の出来を確認したら、今後家族として共に生活する仲間の方が気になりましたけどね。


「そこでルーク様に折り入ってお願いがあるのですが」


 真っ黒な竜を興味深く見つめていると、フィーネから竜の名前を付けて欲しいと言われた。


「・・・・クロだな」


 ネーミングセンスの欠片もないけど、黒い竜だからクロ。


 非常にわかりやすくて良いと思う。もちろん白かったらシロだ。


「ぐるぅー♪」


 どうやら本人も気に入ってくれたらしく、嬉しそうにすり寄ってきた。


 もしかしたら主として認められたのかもな。


「よ~しよしよしよし、よ~しょしょしょしょ」


「あら? 飼い主は決まりかしらね。今後クロの世話はルークがするように!」


 自分より大きな魔獣という事で最初は怖かったけど、こうなると可愛く見えてくるもの。


 愛情込めて体中を撫でまわしていると家族からも飼い主認定されてしまい、母さんから世話を命じられてしまった。


「わかった。竜車が必要な時は言ってくれよな」


 もちろん俺は二つ返事で応えたよ。


 ペットって可愛いじゃん!


 オルブライト家は一応子爵なので馬車ぐらい持ってるけど、長距離移動の時は竜車の方が便利だから、いつでも使えるようにしておかないといけない。


 あと竜の方が寿命も長いらしいし。



 フィーネが1か月旅した結果、メイドの精霊が1人、ペットの竜が1匹増えたわけだ。


 なんか一気に賑やかになったな。




 その日の夜、俺は自室にフィーネとユキを呼び出して秘密の会議を開いていた。


 実は塩を確認した後、フィーネから『ユキもこちら側に引き込むべきです』と言われていたのだ。


 出会って数時間だけど能力・人格共に問題なさそうな人物だし、何よりフィーネが自信をもって勧めるんだから俺も納得して転生や前世の知識について話した。


 んで、その辺の事を話し終わった今はお互いをもっとよく知ろうって時間かな。


「2人とも本当にお疲れ様。ごめんな、こんなに長旅になるなんて思わなかったんだ」


「とんでもありません。ユキとも再会出来ましたし、良い出会いも多く、有意義な旅でしたよ」


「そうですよ~。全部ルークさんのお陰です~」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 謝罪したのに何故かお礼を言われてしまった。



「それにしても魔術って詠唱が必要なんだな。フィーネも『風よ』って唱えてたし」


 色々と聞きたい事がある中で、俺が最初に出した話題は『魔術と精霊術について』だ。


 その辺の魔道具と関係深そうな事を知れば今後の発明に役立つかもしれないだろ?


「いえ、相手を油断させるためと、注目されないように唱えているだけですよ」


「無詠唱は切り札として使う。それが出来る女の戦闘スタイルなのですよ~」


 ただフィーネもユキも周りに合わせているだけだと言う。


 ・・・・ユキは違うか。


 まぁ生活に必要な魔術は詠唱してないからどうしても必要ってわけでもないんだろうけど、精神集中や精霊に祈るって事でより強力な魔術が使えるって感じかな。


 やっぱり無詠唱は高難易度の戦闘技術みたいだ。


 逆を言えば、魔法陣で詠唱の代わりをすれば魔道具の可能性は広がるって事である。


「ほほぉ~、そこに気が付くとは流石ですね~」


「あ、この考え合ってるんだ?」


「まぁ真理への第一歩なので実現するのはとても難しいと思いますけど、ファイトですよ~」


 褒めるだけ褒めて手は貸さない発言をするユキ。


 この人、手伝いに来たんじゃなくて自分が楽しむために居るらしい。


 それでも人手は人手だから良いんだけどさ。



 実はその辺についても詳しいと言うフィーネと話していたらユキが部屋の中をウロウロし始め、そして壁に張り付いた。


「ユキ、何してんの?」


「こうやって天井を歩いてたら驚くかなと思いまして~」


 そう言いながら壁を垂直に上り出し、重力が逆転したように天井からぶら下がった。


「そんな事できるの!? 怖っ!」


「簡単な魔術の応用ですよ~。使い道は無いですけどルークさんも覚えますか~?」


 魔術スゲー。可能性無限大じゃん。


 と、感心している俺の隣でフィーネが呆れたように注意する。


「ユキ、重力魔術は普通の人は使えないものです。変に期待させることを言ってルーク様を騙さないでください。

 それとメイドになるなら常識ある行動を心掛けるように」


 やっぱ凄い技術だったみたいだ。


 『壁走りや天井に張り付く忍者みたいな行動が出来るかも!』と、ちょっとでも期待した俺がバカだったよ。


「フッフッフ~。私の凄さを伝えるためにやってみただけですよ~。

 あとフィーネさん! 常識ある行動をしたからこそ、スカートが捲れないように足元ではなく体全体に魔術を施したじゃないですか~。なので責められる所以はありませんね~」


「・・・・そのようなメイドは必要ありません。短い付き合いでしたがここでお別れですね」


「へいへいへ~い。冗談キツイぜ、セニョリータ~」


 そうして2人はじゃれ合い始めた。


 フィーネが自由な精霊って言った意味がわかった気がする。本当に空気読まずに好きな事、思い立った事をするんだな。


 昔からこういう関係なんだろうけど、俺、置いてけぼり・・・・。




「さて、今後の予定を決めようか」


 いつまで経っても終わらない(それこそ数か月単位で続きそうだった)じゃれ合いを中断させた俺は、今回の旅で様々な判明した問題に取り掛かる事にした。


 まずは塩の使い道。


 俺は父さん達に説明した計画を2人にも話していく。


「なるほど・・・・食事の改善と銭湯ですか。

 たしかにあれだけの塩があれば出来そうですね」


「砂糖は近々収穫できる予定だしな。問題は塩作りの継続と銭湯を作るための金だ」


「石鹸じゃダメなんですか~?」


「いや、母さんには石鹸で説明したけど結局は塩を確保して加工しないとダメなんだよ。

 そのためには何度もアクアに行く必要があるし、加工する場所も必要になる」


 話を聞いたフィーネ達は賛同してくれたけど、肝心の塩の確保については難しい顔をする。


 入手難易度ではなく、フィーネは俺から離れる期間の事で、ユキは・・・・なんかそんな気分なんだろう。



「では、いっそアクアで石鹸製造をしますか?」


 俺と離れない事を前提に話すフィーネは、塩が取れるアクアに工場を造るのはどうかと提案してきた。


 たしかに理想はそれだ。


 働き場所を確保してヨシュアを豊かにする計画だけど別に工場でなくとも流通や販売の方で雇えるし、フィーネの案ならアクアも豊かに出来るので一石二鳥とも言える。


 でも・・・・。


「いくら領主と知り合いになったとは言え、有名な観光地で土地確保は難しいんじゃないか? 人を雇ったら秘密も漏洩しやすくなるだろうし」


「私達の知り合いはアッシュさん達とクレアさん達ぐらいですね。両者とも仕事についていますので頼めそうにはありませんが」


「アッシュ・・・・そうだ! 廃村って利用できないか!?

 海岸の廃村を改築して孤児を雇って住まわせれば!」


 要はフィーネ達がやった事を戦闘ではなく仕事方面で行うのだ。これはイケそうだぞ。


「おそらく領主に監察官を派遣されてバレると思います。廃村の原因が魔獣なら私達が倒しても再び現れるでしょう。

 それなら知り合いで融通の利きそうなアクアのほうが良いかと」


「ん~。いっそアクア領主を巻き込んで塩を事業にするか?」


「それが最善でしょうね。現在の塩作りをルーク様の魔道具で改革すれば断られないでしょう」


(もし断れば・・・・ふふふふっ)


 なんかフィーネが怖い笑みを浮かべてるけど、きっと俺には関係ない事だから気にしないでおこう。


 それより話の続きだ。


「それだと塩の流通は活発になっても食料用になるだけで、肝心の石鹸作りが出来ないんだよな~。今の魔道具じゃ生産量に限界があるし。

 それに片道2週間ってのは安全性に問題ある」


「では最初の契約でオルブライト家への分配を決めて運んでもらう案も無理ですね」


「だな。オルブライト家に大量の塩が運ばれて石鹸を販売していたら絶対怪しまれる。俺が裏で動いてるのを知られるのはマズイ」


 難しい・・・・1つ条件を追加すると別の問題が発生してしまう。



「フッフッフ~。私は全てを解決する秘策を思いつきましたよ~」



 俺とフィーネが頭を悩ませていると、今まで黙っていたユキが自慢げな顔で会話に割り込んできた。


「どうするんだ? 塩の確保すら出来そうにないんだぞ?」


「私達が持ち帰った塩樽で石鹸を作ると1か月分になるんですよね~?」


「そうだな」


 スラム街は正確な人数を把握してないけど、父さんから聞いた人口だとそれぐらいの予定だ。


「じゃあ私がたまにアクアへ行けばいいんです~」


「でもフィーネと同じで移動に時間掛かるし、ユキ1人での運搬は難しいだろ?」


「私は転移出来るので一瞬で往復可能ですよ~」


 ユキ限定にはなるけど水気の多い場所ならどこへでも移動可能で、水の都と言われるアクアには部屋のドアを開ける感覚で自由に行き来できるらしい。


「運搬に関しても無問題。実は何かに使えると思ってアクアの海水を持って帰ってるんです~。ほら、こんな感じ~」


 そう言ってユキは部屋が埋まるほどの巨大な氷の球体を出現させた。


「・・・・・・・・な、なにこれ? 海水?」


「雪の精霊なので水は親戚みたいなものです~。このぐらいの量なら魔力に変換させていられるんですよ~」


「たしかにこの量なら持ち帰った塩の半分ほど作れます。つまり2週間に1度ユキがアクアへ赴けば済むでしょう」


 深海へ転移して海水を氷で閉じ込めて持ち帰る。


 一切人目に付くことなく数分で行き来できるのだ。そんな究極の隠密活動は絶対にバレることはない。


(ユキ、ちょっと万能過ぎるんじゃないか?)


 実は凄い味方が出来たのかもしれない、と若干引いてしまったけどこの問題は解決かな。



「それにしてもユキ、そんな事まで出来たのですね」


 この物質変換技術はフィーネも初めて知ったらしい。


「フフ~、秘密は女を美しくするんです~。

 なので塩の確保は大丈夫ですよ。しばらくは秘密の製法で石鹸を作ってる事にして売ればオールオッケ~」


 何はともあれ、しばらくウチで暮らすと言うユキに塩の調達は任せて良さそうだ。



「石鹸工場の方は需要が安定してから考えればいいか。何か状況が変わるかもしれないし」


 塩については当分ユキを頼るとして、この場は一旦お開きかな。


 とりあえず明日からやるべきことは、今ある塩で実際に石鹸を作ってみる事。


 それともうすぐ収穫できる(はず)のサトウキビを使い、塩と砂糖による食事の改善だな。

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