二百六十二話 バトルロイヤル2
普通では考えられない超魔力によって作り出された『学校』と『ダンジョン』、この2つの疑似空間で個人戦が始まった。
俺達の中から参加しているのは、ダンジョンステージにアリシア姉、学校ステージにヒカリだ。
2人ともルールを把握するための様子見とは言いつつも、お互いぶつからない様に別ステージを選択している辺り真剣に優勝を狙っているのだろう。
慎重組の俺とイブはこの様子を見て、明日のペア戦に参加するかどうか判断するつもりだったんだけど・・・・。
「無理だな」
「うん、無理」
その内容は酷いものだった。
魔力使われなかったら大人にも勝てるとか言ってたヤツ誰だよ。俺だよ。
・・・・いや、まぁ確かに動き自体は目で追えるレベルだし、相手を倒さなくてもダメージを与えてポイントを0にしたら勝ちってルールだから可能性はある。
ただ結構な割合で『死なばもろとも作戦』で道連れにされるし、勝った瞬間に次の戦闘が始まって奪ったポイントもガンガン削られていくのだ。
俺達みたいな子羊がこんな暴力が支配する世界に入り込んでも、即座に狩られて誰かのポイントになるだけだろう。
んで極めつけは隠れていても徐々に制限されていく強制退去ルール。
そして鬼の仮面をつけたハンターの存在。
エリア外は映らないようにしているらしくて、観戦中の俺達にはその様子がわからないんだけど、
「ダンジョンで寝そべってるヤツ以外がヤバいぞ」
「ああ・・・・ありゃ見つかったら最後だろうな」
「いや、俺は寝てるヤツを踏んだらアウトになったって聞いたぞ」
ってな敗者達からの情報は聞こえてくるのだ。
寝そべってるハンター・・・・間違いなくベーさんも狩人として参加している。
要するに俺の導き出した結論としては、逃げる事も、隠れる事も、ポイントを稼ぐ事も出来ない弱者がどうこう出来るイベントではないって事。
「つまり『参加しない』が正解だ!」
「ルーク君が出ないなら私も」
弱者代表の俺とイブが人の少なくなった学園祭を楽しむために仲良く教室を出ようとすると、
『残念ですけど、もう明日分に登録してますよ~』
そんな声が脳内に響いてきた。
ユキめ・・・・余計な事を・・・・。
当然それでも出ないって選択肢も残ってはいる。
いるんだけど・・・・妙なこだわりを発揮したフィーネが全員の順位を掲示しているので、このままだと俺の名前が明日のランキング表の最下段に記載されてしまうのだ。
あぁ、聞こえる。聞こえてくる!
「参加しようとしたけど直前で怖気づいた見栄っ張り貴族が!」
と蔑む声が!!
「最下位のルークってヤツ、体育の成績最低のクセに何で出たんだよ」
「え~、オルブライトってアリシアさんの弟でしょ? よわっ!」
と誹謗中傷する学生達の声が!!
「ってわけでみっちゃん、よろしく」
泣く泣く参加する羽目になった俺が相方に選んだのは、神獣として絶大な力を持つ『みっちゃん』ことアルテミス大先生。
「何故私を選んだ!? 皆がお前と組みたいと言ってたじゃないか!」
「だって一番角が立たなそうだし」
バトルロイヤルでそこそこの成績を収める事も大事だけど、俺には少女達の機嫌を取るという重大な役割もあるのだ。
イブ・ニーナ・ヒカリ・アリシア姉。
どうせ誰を選んでも選ばれなかったヤツが不機嫌になるんだ。
だったらいっその事、中立に居るみっちゃんを選んで不機嫌レベルが最大になるのを防ぐべきだろう。
「これでイブなんて選んでみろ? ニーナがセイルーン王城に乗り込みかねないぞ?」
「・・・・まぁ・・・・そうだな」
王国兵士たちが空を舞う光景がありありと想像できたのか、みっちゃんはすんなりと快諾してくれた。
「ダメ。みっちゃんは私と」
「ならわたしはヒカリと。ルークを真っ先に倒す」
ただそうなると何故か一緒に出場すると言う少女達は、ことごとく俺の選択肢を消し去っていった。
イブ&みっちゃん。
ニーナ&ヒカリ。
俺の相方が居ないじゃないか・・・・。
アリシア姉と組む? 嫌ですけど?
だってあの人、どうせガチで優勝狙うんだもの。
「ふ~~っ、楽しかった!」 え? みんな明日出るの!?」
様子見との宣言通り、バトル中盤辺りで敗北して帰って来たヒカリに事情を説明すると、
「・・・・・・なるほどね~。たしかに参加するとしたらイブちゃんはみっちゃんと組むべきだし、わたしはお姉ちゃんと組むよ」
ものの見事に裏切ってくれやがったので、結局俺は相方を探すことになってしまった。
彼女の名誉のために言っておくと戦って負けたわけではなく、全てを見通す千里眼を2回使っての自滅だ。
完全に明日のためにポイント減少率を調べてやがる・・・・。
俺を選ばなかった事と言い、コイツもガチだ。
「相方を探してる? なんで私には聞かないのよ?」
ヒカリより少し生き残って出てきたアリシア姉は、誘われなかったことが不満なご様子。
「俺と組んでも絶対優勝は出来ないぞ? それでも良いのか?」
「ダメよ! 問題はそこじゃなくて、弟の事を知り尽くしている姉にまず声を掛けるべきって事でしょ!?」
いえ、問題はそこなんですが・・・・。
俺の事は何でも知ってると豪語するアリシア姉と同じように、俺も彼女の事は何でも知っている。
だからこそ断られるとわかっていたし、別次元の空間でやりたい放題、壊し放題ハッスルしていたアリシア姉に声を掛ける誘う手段など持ち合わせていない。
この人は念話でも使えと言ってるんだろうか?
ちなみにアリシア姉が負けた理由は実に単純明快。
全力を出して相手からポイントを奪うって頭の悪い『激! 消耗戦』をしていたからだ。
敵から逃げて来たのかポイントの少ない人と当たってしまい、使った分が補い切れず素人丸出しの範囲魔術を受けて呆気なく敗北していた。
全員が誰かしらと組むと言うので相方探しを始めた俺は、迷うことなく屋上へ走った。
バトルロイヤル1日目も終わり、そこそこ名の知れた冒険者が上位を占める中で思いついた戦法があるのだ。
それを実現するためには彼女の協力が必要不可欠。
「さて、と・・・・やるか!
んっ、んんっ・・・・あ~、あぁ~、ああぁ~~」
階段を駆け上がったことで乱れた息と喉の調子を整えた俺は、学校の屋上から山の方を向いて全力で叫んだ。
「こんなところにっ、特製のアイスがぁぁぁぁーーーーっっ!!!」
「呼び・・・・ました?」
叫んでいる最中、いやアイスって単語を出した辺りで目的の人物ベーさんが床から生えてきた。
ごく一部の人にしか効果のない俺的召喚魔術だ。
「ちょっとゲームに参加してもらいたくてな。攻撃を1発も喰らわなかったらご褒美をあげよう」
「・・・・アイス?」
「そうだ、特製アイスだ。
口の中でパチパチと弾ける『ポップンアイス』、塩の辛さが甘さを引き立ててくれる『塩アイス』、他にもアイスなのに熱々と言う新感覚アイスや、石のようにゴツゴツした氷砂糖アイスなどなど各種新作そろい踏みだぞ」
「っ!」
脳内を駆け巡るアイスストリームによって、グータラなベーさんは出会ってから数度目となるカッと瞼を開いた『やる気ベーさん』に変身してくれた。
こうなった彼女に不可能は無い。
ただこういう事を予期していたフィーネ達がバランスを取るために強い連中の魔力を封じているので、このイベントに置いてはどれだけやる気を出そうと足手まといになってしまう。
個人戦は、だけどな。
俺の感が合っていればペア戦でのみ彼女は活躍できるのだ。
魔力全開で何とかかんとかベーさんを担ぎ上げて移動している間、俺は明日の作戦を伝えていた。
ハンターとして運営側の人間だったベーさんを相棒にするためには、校庭に居るフィーネ達に許可を得ないといけないと思ったからな。
「まず基本的には潜伏。だからベーさんは魔力を一切使わなくていい」
「イエー・・・・寝ているだけでアイスが貰える・・・・イエー」
「ただし狩れると思った時だけ、俺が君をぶん投げる」
「オーゥ・・・・武器扱い・・・・オーゥ」
魔力が使えないとは言え、彼女のような規格外な連中は生身でも頑丈なはず。
例えるなら人間は紙、強者は鉄。
いきなり砲丸を投げられて対処出来る人間など居ない。
つまり動かない事にかけて右に出る者は居ないであろうベーさんと共に隠れ、隙を見てスナイパーばりに的確なヘッドショットをかますってわけ。
まぁヘッドってわけでもないけど、どこに当たってもワンパンなのでヘッドショット。
この作戦なら魔力はベーさんを投げる時に一瞬だけ使うので普通に戦闘するより少なくて済む。
そしていざとなれば捨て身のローリングアタックを仕掛けてもらえば1人は確実に落とせる。
それが得点をたんまり稼いだ人だったりしたら・・・・優勝も夢じゃない!
大盛り上がりだったイベントも終了し、フィーネ達の周りにはこの空間について質問する人しか居なくなった頃。
ベーさんを連れた俺が2人に話し掛けようとすると、そんな人達もフィーネに威圧されて一斉に散っていった。
・・・・それで良いのか会長。
俺としては大助かりだから指摘するつもりはないけどね!
「・・・・・・って事なんだけど、どうよ?」
話を聞く限り相変わらずのグータラ具合だったようなので、居ても居なくてもどっちでも良さそうだったけど・・・・どうなんだろう?
「はい。問題ありませんよ。
ただしバランスを保つために守っていただく事はありますが」
アッサリ許可してくれたフィーネは注意事項を説明し始めた。
「え・・・・魔力使用禁止?」
「そうですね~。ベーさんは一瞬でも使ったらアウトですね~」
「・・・・・・・・やっぱり、不参加で」
それを聞いたベーさんは少し悩んでからこちらを振り向き、チーム解消宣言をしやがった。
まぁそうなる事も想定内だ。
「はぁ・・・・ベーさん、君にはガッカリだよ」
「え?」
掛け金を上乗せするでもなく、怒るでもなく、俺はただただ悲しい表情を浮かべ、その意図が理解できないベーさんは疑問の声を上げる。
全ては俺のシナリオ通り。
さあ! 俺の巧みな話術で洗脳されるがいい!
「君は、バニラアイスは好きかね?」
「・・・・はい・・・・アイス本来のおいしさはバニラにこそあります」
「じゃあ土は好きかね?」
「・・・・はい・・・・大地と一体になる事は私の生き甲斐です」
「なら何故魔力なんて余計な物を纏っている? 何故土に直接触れようとしない? それで土本来の素晴らしさを感じていると言えるのか!?」
「っ!」
俺の言葉にかつてない衝撃を受けたベーさんはビクンと一瞬跳ね、そして硬直した。
そう、俺の言いたい事は生身で地面を転がれば良いじゃないか、と言う事。
「魔力と言う鎧を身に纏っているお前はタダのグータラだ!
何が大地を愛するだ! 二度と地べたに寝転ぶんじゃねぇぞっ!!」
「そ、そんな・・・・この私が・・・・土の化身のこの私が・・・・」
ワナワナと震え始めるベーさん。
効果抜群。さぁトドメだ。
「俺と一緒に大地を感じてみないか?」
「・・・・是非」
俺達は固い握手を交わして共闘を誓った。
こうして俺は弾丸ベルフェゴールを手に入れたのである。
「ベルフェゴールさんが抜けてしまったのでルーク様は私が捕まえましょう。
これは予期せぬ好機! うふ・・・・うふふふふふふ・・・・」
それに伴って人員不足を補うためにハンターとして名乗りを上げたフィーネ。
きっとエリア外に出たら羽交い絞めにされて悶死するんだろう。
あ、俺じゃなくてフィーネファンの連中がね。
「フィーネさんの胸の谷間で窒息しない自信があるならそうですね~」
・・・・俺も死ぬみたいです。