二百五十話 グランドドラゴンと開拓
中二病少女に懐かれた俺は、予定通り開拓風景を眺める事にした。
あれからしばらくメルディとカッコいい1文字トークをしてたんだけど、フィーネ達は関わりたくなかったのか勝手に作業を始めていたのだ。
ジャンケンと同じぐらいメジャーな遊びなので必要はないと思うけど一応説明しておくと、1文字トークってのは『邪』『無』『覇』など1文字に込められた中二的破壊力を議論し合う全く生産性のない会話の事。
最終的に『シン』は、『神』と『真』のどちらにすべきか決まらなかったと言っておこう。
神拳!
真拳!
悩みどころだ。
「あ、終わったんですか~? どうせ文字に書かないと違いがわからないので意味ないと思いますけどね~」
「「全然違う!!」」
皆の所へ向かう前にもう少し語らうべき必要がありそうだ。
しかし俺とメルディがカッコいい言葉について熱弁してみたものの、ユキは「はいはい」と言って受け流すだけ。
こちらの話をまるで理解しようとしてくれない精霊王をどうやって説き伏せるべきか思案していると、
「そんな事より皆さん作業を始めてますけど見学しないんですか~?」
この話は終わりだとばかりに、ユキはあちこちでウロウロしている連中を指さす。
それによって俺は忘れかけていた本来の目的を思い出した。
「そうだった、俺の目的は楽しい会話をする事じゃなくて下地作りを知る事!
もちろん見るぞ。単純に興味があるし、もしかしたら今後の建築関係に役立つ知識が得られるかもしれないからな!」
どこから見学しようか迷っている間も何故かホネカワとメルディが動いていなかったので、気になってしまった俺は先に触れる事にした。
「2人はさっきからボーっと突っ立ってるけど何かしないのか? ベーさんですら地面に潜っていったのに」
「ふふっ。よくぞ聞いてくれた。
そう! 我こそは破壊をもたらす闇の化身なり!!」
するとメルディが待ってましたとばかりに仰々しく詠唱を始め、
「見るがいい! これが闇の力だ!
『ダークインフェルノ』!! 闇の炎に抱かれて眠れ・・・・」
限界まで高められた魔力を右手に宿して原っぱにかざすと、マグマのようにドロドロとした黒い炎が大地を侵食していった。
たぶんだけどこれは「闇の~」ってのが言いたいがための演出で、パパッと焼却する事も出来るはず。
それと凄い魔術なんだろうけど、作業中のフィーネ達は足元に広がる黒炎を無視して計画図と睨めっこしているのでイマイチ盛り上がりに欠ける。
足元は燃えてるからメルディが気を利かせてその範囲を避けてるんじゃなくて、各々に防いでるみたいだ。
まぁ黒い炎ってだけでカッコいいよね!
ちょっとテンション上がる黒炎を見続ける事、2分。
「見事な荒野が出来上がったわけだけど、こっからどうすんの?」
『見てな、次は俺のボーンテクニックが火を噴く番だぜ。
秘技! 白線引き・骨しょしょうしょう!!』
骨粗鬆症な。
肝心な所で噛むなよ。なんでそんな噛みやすい技名にしたかなぁ~。
ってか舌ないのに噛むってどうやるんだろう?
ただそこに触れなければホネカワの生み出した骨が無数に広がっていき、ガリガリと砕けながら地面に完璧な見取り図を書きあげていた。
まぁ名前の通りチョークによる白線引きだな。
後はこれに沿って建物を作ったり、パイプを埋め込んだりするんだろう。
そしてひと仕事終えた2人は満足気な表情を浮かべて、また棒立ちを始めた。
「・・・・もしかしてお前等の役目これだけ?」
「・・・・・・」
『・・・・・・』
はい、お仕事ご苦労様でした~。
同じ作業を繰り返すだけのメルディとホネカワはこれ以上見る必要がないので、俺はフィーネと共に他の連中を見学するために移動を開始した。
ユキは気が付いたら居なくなっていた。
たぶんどこかで何か作業をしてるんだろう。
「まずご紹介するのはグランドドラゴンです。
彼の行っている作業は、地面を掘り返して土台を作りやすくするというものですね」
「基本工程だな。建築はロア商会が関わらない部分だし、大工さん達のためにシッカリやっておかないとな。
あと俺、生きてるドラゴンって初めて見るわ。楽しみなんだけど!」
「? あぁ・・・・では少し期待外れかもしれませんね」
「え?」
そう前置きしたフィーネが連れて行ってくれた場所で作業していたのは・・・・。
『人間が俺様に何の用だ!?』
同族以外は見下す性格なのか喧嘩腰の魔獣だった。
その魔獣はこちらを睨みつけながらも鋭い5本の爪を振るってザクザクと高速で地面を掘っている。
『そうか、貴様がマスターの言っていた計画の立案者だな?』
その魔獣は長細い体を巧みに操り、土を掘るのに適した短い体毛を持っていた。
『例えマスターの指示とは言え、俺様がそう易々と人間に従うと思うな! 指図は受けねえ!』
その魔獣はつぶらな瞳ではなく、長く伸びた鼻先にある触覚が目の代わりをしている。
『黙りこくりやがって。何とか言ったらどうだ!? ビビってんのか!?』
その魔獣は地面から20cmほどの顔を生やしていて、とても愛らしい・・・・。
その名も、モグラ。
まさか少し前に言ったことがフラグになっているとは思いもしなかった俺は、チョロチョロと忙しなく動き回るグランドドラゴン(土竜)を見てホッコリしてしまった。
「・・・・ドラゴン?」
「はい。見ての通りモグラなのですが、本人がグランドドラゴンと名乗っているので周りもそう呼ばざるを得ないのです」
『わ、悪いか!? 大地を統べるドラゴンだ!』
「べーさんみたいな事を言う奴だな」
『そのマスターが認めてくれた名前だぞ!』
まぁあの人は面倒臭い事じゃなければ基本的にノーと言わないからな。
ちなみに後日名前の理由を尋ねてみたら、
「モグラさんだと略した時にモーさんになって、モームさんと紛らわしかったからです」
と言われた。
『ドラさん』とか『グラさん』は居ないもんな。
「んじゃ長いから俺はグラさんって呼ぶな。よろしくグラさん」
『ばっか野郎! そんな呼び方じゃ威厳が感じられねぇだろうが! 二度と呼ぶじゃねぇぞ!!』
メンドクセェ・・・・。
その後もグダグダ言い続けるので、俺はコイツの事を「グランドドラゴンさん」と呼ばされる事になってしまった。
だが心の中ではお前はグラさんだ。
あとベルダン内の俺的尊敬ランキング最下位決定な。
ただその愛らしい見た目と面倒臭い性格とは裏腹に、大地を統べると言うだけあって家一軒分の土地を数十秒で柔らかな土へと変えるグラさん。
しかもハンマーで叩いて圧縮すればコンクリートより硬くなるんだとか。
これなら大工のおっちゃん達も楽々作業できるだろう。
「では次に行きましょうか」
「えっ、あれだけ!?」
「はい。水路やトンネルも造れますが、それをしてしまうとベルフェゴールさんの仕事が無くなってしまうので」
役割分担した結果、グランドドラゴンの爪は建物専用にしたらしいです。