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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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二十五.七話 フィーネ先生になる2

 厳しい訓練をすればするほどアッシュ達の体はボロボロになっていく。


 しかし休憩中にフィーネとユキが回復させるのでまたボロボロになるまで訓練を続けさせられる、と言う育てる気持ちが無ければ拷問でしかないスパルタ教育は続いた。


「「「・・・・」」」


 初日の訓練が終わっても喜ぶこと無く、疲労と眠気から死んだように眠る3人。


 フィーネ達も鬼ではないので『せめて夕食までの時間は寝かせてやろう』と魔獣に襲われないように結界を張り、ユキは井戸掘りへ、フィーネは食材探しへ出掛けた。



 アッシュ達が掘っている洞窟から歩く事数分。


「この辺ですかね~。そいやっ」


 ばしゅぅぅぅぅ!


 ユキが1度地面を足踏みすると、そこから突如として水が噴き出して来た。流石は水精霊の親戚。


 本来ならば石で枠を作るのだが、探しに行くのが面倒だったのかユキは氷の器を作って作業を終わらせた。


「ムフフ~、完璧な仕事をしましたね~」


 まぁ本人はそれで良いと思っているようなので、何故か噴水になった井戸はこのまま使われる事だろう。



 一方食糧調達をしているフィーネは、竜を入れれば6人分必要になるので魔力感知で手早く魔獣を見つけ狩っていく。


「おや、イノブタも居るのですね」


「ブヒ!?」


「リンゴもありますね」


 魔獣以外に食用の動植物も採る彼女の前では、リンゴもイノブタも関係ないのだ。


 その長年の経験から食べられる物だけを的確に選び抜いている。


「グルアアアアァーーっ!」


「ワイバーンですか。食用になりませんね、帰ってください。

 『エアーショット』」


「グルァァァァっ!?」


 突如飛来したワイバーンにも動物を見つけた時と同じリアクションで優しく追い払うフィーネ。


 無駄な殺生はしないのだ。



『ワイバーン』

 ドラゴン族で飛行に特化している魔獣。

 毒のある爪と風魔術で上空からの強襲で人々から恐れられる強敵。Bランク。

 ガルムと似たような筋肉質な体で毒もあるので食用にはならない。



「ハッ!? ワ、ワイバーンの声!?」


「僕も聞いた・・・・近くに居るのかな?」


「ガクガク、ブルブル・・・」


「夕食はイノブタと山菜の炒め物ですよ」


「「「わーい」」」


 疲れて寝ていたアッシュ達も思わず飛び起きるその声(というか悲鳴)も、フィーネが作る美味しい食事の前ではすぐに忘れ去られた。 


「水うめぇー。乾いた体に染みわたるー」


 もちろん突然誕生した水の都アクアも真っ青の見事な噴水も彼等は気にしない。




 知れば震え上がる様な生活を開始して早7日。


 連日の筋肉痛に悩まされ続けた3人はついにやり遂げた。


「これなら住めるよな!?」

「良い洞窟になったね」

「わたしの寝床、ここにする」


「「ズルい! そこはオレ(僕)が狙ってた場所だ!」」


 彼等は深さ2mの洞窟を完成させたのである。


 しかし自らの手で住処を作れた達成感から洞窟内ではしゃいでいる3人に、フィーネから死刑宣告が下される。


「では最終訓練です。今からガルムの群れを仕留めてきてください」


「あ、武器はこれをどうぞ~」


 そう言ってユキもアッシュとマールに氷製の盾と双剣を手渡した。


 レインは今まで使っていた石の弓だ。


「え? オレ達戦いは教わってないぞ!?」

「ない」

「僕以外は武器も初めて触るんですけど」


 毎日穴掘り、走り、観察しかしていなかった3人は、無謀としか言いようのない任務に抗議する。


「今までに戦闘経験はあるでしょう。それで充分です」


 しかし相変わらずの鬼教官フィーネは、アッシュ達の声を聞き流して強制的に討伐へ向かわせた。



 ガルムならなんとか、と渋々移動していった3人が見えなくなった後、ユキがこっそりと尋ねる。


「本当は~?」


「洞窟に5日、実践訓練に2日の予定でした」

 

 想定より遅れたので仕方なかったのだ。




 流石に疲労した状態では厳しいだろう、と言う僅かながらの優しさを見せたフィーネによって回復してもらった3人は、ガルムを探して山の中を練り歩いていた。


「・・・・木に爪痕があるね。彼等の縄張りに入ったようだよ」


 それにいち早く気付いたのはユキに鍛えられていたレイン。


 そこから割り出したおおよその群れの数と戦力差を2人に伝え、慎重に対策を練っていく。


「4体って多くないか?」


「いやガルムの群れとしては少ない方だよ。他のグループとかち合わなければなんとか・・・・」


 彼は今まで6体以上の群れしか見たことがなかった。



 そしてその時はやって来た。


「居るね、予想通り4体だ」


 縄張り内ならいずれ近くに現れると言うレインの指示に従って木の上で待機していた3人の下に、ガルム達がやってきた。


「じゃ、わたしが1体ずつ倒すから他をお願い」


 作戦通り前衛のマールが数を減らしていくため、先陣を切ると言う。


「じゃあ行くぞ・・・3、2、1、ゼロ!」


 合図と同時に3mほどの高所から飛び降りたアッシュとマールは、地に足をつけた瞬間、ガルム達に向って駆けだした。


「やっ!」


 それを木の上に残ったレインが弓矢で援護しつつ、マールとガルムを一騎打ちにさせるよう的確に射抜いていく。


 運よく仕留められれば御の字だったが、流石にそう上手くは行かない。


 しかしガルムを孤立させると言う目的は達成できた。


「あとはマールに任せて、僕はアッシュの援護かぁ・・・・なっ!」


 高速で動き回るマールを見てこれなら大丈夫と確信したレインは、アッシュに群がっている3匹をかく乱するため弓を放っていく。



「ハアッ!」


 この作戦の要となるマールは確実に仕留められるよう攻撃回避を優先し、隙を見て少しずつ双剣でダメージを与えている。


 今の彼女には目の前の1体の事しか頭に無かった。


 残る3体は仲間が必ず足止めしてくれると信じていたから。


(体が軽い。これなら・・・・イケる!)


 武器の性能と、特訓の成果もあって、ガルム1体ならば何とか凌ぎ切れていた。


 それに対して攻撃する度にダメージが蓄積するガルムは、数十にも及ぶ攻防によってその俊敏な動きを鈍らせていく。


「っ、今! はああっ!!」


「グルアア!?」


 どれだけ攻撃しようとも必殺の一撃は避けられていたので時間こそ掛かったが、ついにマール1人でガルムを仕留めたのだ。


 勝因は回避に専念したマールの動きが鈍らなかった事だろう。


 無傷での勝利を目指した結果だった。


(体力つけよう・・・・もう限界)


 アッシュ達には1体ずつ倒すと宣言したものの、回避する事がどれほど体力を使う行為なのか理解していなかったマールは1戦で限界が来てしまい、そのまま地面に倒れ込んだ。




 一方、残りの3体を盾で足止めしていたアッシュは、ガルムに噛みつかれてボロボロになりながらもマールの初勝利の瞬間を見ていた。


 マールと同じく初陣のアッシュによそ見をする余裕など無いが、彼女に飛びかかろうとするガルムを盾で殴りつけて時間を稼ぐためにも、常に立ち位置を把握しておく必要があったのだ。


「よっし! あと3体!」


「いや、あと2体だよ!」


 アッシュが残りの敵戦力を伝えるために叫ぶと同時に、開戦以降ずっと援護に回っていたレインがガルムの動きを予知して仕留めた。


(左からアッシュを狙うのがわかった。これ特訓の成果だよね)



 倒れているものの無傷のマール。


 矢の本数が心許ないが同じく無傷のレイン。


 そして3体を相手に時間稼ぎが出来たアッシュ。


 ここまで完勝と言っていい戦いぶりに、残っている2体を見てアッシュとレインは思わず心を撫で下ろした。


 このまま押し切れる・・・・!


 全員がそう思い始めた直後。



 5体目のガルム現れ、倒れているマールに襲い掛かった!



(見落とした!? 今マールが戦闘不能になったらマズイ!)


 己の失態を悔やむより1本でも多く弓を放ちたいレインだが、今居る位置からでは援護も出来ない。


 それでも何かしなくては、と構えた弓矢も極度の緊張からポロリと落としてしまう。


「っ!」


 突然大口を開けたガルムに圧し掛かられたマールは頭が真っ白になり、声にならない悲鳴を上げて固まった。


 そうしている間にもガルムは彼女の喉元を食い千切ろうとしている。



「ッ! マーーールッ!!!」



 唯一動けたのは、残っていた2体に盾を投げて身軽になったアッシュ。


 マールの上に乗っているガルムに全力で突進し、その隙を見て引き起こそうとしたが間に合わず、3体に囲まれてしまう。


「クソが! 食べるなら俺だけにしやがれ!」


 と、マールに覆いかぶさり彼女を守った。


「アッシュ!? ダメ、逃げてっ」


 逆にマールはアッシュを押しのけようとする。


 犠牲になるなら疲労で動けない自分だ。まだ体力の残っている2人なら逃げ切れる。


 しかしどれだけ正論を言ってもアッシュは上から退こうとしない。



 誰もが命を諦めた、その時・・・・。



「合格~。合格です~」


 ユキののんびりとした声が山の中に響いた。


 3人が気が付いた時にはマールに襲い掛かっていたガルムも、アッシュと戦っていた2体も氷の柱で貫かれていた。


「仲間をかばう優しさと、厳しい訓練を投げ出さない根性~。合格です~」


「「「合格?」」」


 助かった事を確信した3人は、ユキの下へ駆け寄って事情を聞き始める。


「ずっと隠れて見ていましたよ~。

 いやぁ~、まさかあのまま5体倒すのかと思ってヒヤヒヤしました」


 アッシュ達に思った以上の戦闘力があったので苦戦してくれなくて困っていたと言うユキは、あと数匹連れてこようか迷ったらしい。


(((死ぬかと思ったのに・・・・っ)))


 そんな事を言われて内心激怒する3人。


 特に命を諦めていたマールとアッシュは全力で睨みつけている。


 が、そんな事など全く気にしないユキはさらに話を続ける。


「もしくは武器が突然砕けるってアクシデントでも良かったんですけど~」


(((そんなことをされたら誰も信用できなくなる)))


 2人はユキの作り出した剣と盾を、レインはこの1週間の訓練を信頼して戦っていたのだから。



 しかし何はともあれ自分達はこの1週間で成長したのだ。


 自らにそう言い聞かせたアッシュ達は、先ほどまでの死闘が嘘のようなユキのほのぼのした笑顔を許すことにした。


 少し前までは3人掛かりだろうとガルム1匹にすら敵わず、逃げるしかなかったのだ。


「オレ達、フィーネとユキのお陰で強くなれたんだな!」

「きつい特訓だったもんね」

「3人で生きていける」


 ここまで成長させてくれた2人には感謝しなければ。


 もう3人で大丈夫だ。



 めでたし、めでたし。



「そんな訳ないです~。どれだけ才能があっても、そんな短期間では強くなれませんよ~」


(((・・・・あれ?)))


 綺麗な締め方だったはずなのに、ユキの一言でここまでの話が全て否定されてしまった。


 成長ストーリー? 熱血教育モノ?


 そんなのは初めから存在していない。


「でも実際ガルムを倒したし・・・・」


「身体強化をして、武器を使って、陣形を崩さなければ元々そのぐらい強かったんですよ~」


((・・・・じゃああの辛い特訓は何だったんだ))


 その話に不満気な表情を浮かべるのはマールとアッシュ。


 彼等は地獄の猛特訓をヒイヒイ言いながら耐え抜いてきたのだ。


 全ては未来への希望を胸に。



(僕は楽しかったから良いんだけどさ)


 ただレインは観察するのを楽しんでいたようだ。


 もちろんそんな事を言えば裏切り者扱いなので、楽しい思い出と共にソッと胸の内にしまった。

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