二百四十九話 ヴァンパイアと開拓
街の拡大化に向けて俺が提案したのは『獣人専門店』『プール』『図書館』の3つ。
他にも細々とした案は出したけど、まぁその辺は採用されるかわからないから詳しく語らなくてもいいだろう。
で、これに大人達が考えた各種施設と住宅街を加えて計画は進んでいった。
そうなるともうこの案件は俺の手から離れたわけだけど・・・・。
ロア商会の面々が作業すると聞いた俺は、その様子を見させてもらうためにフィーネ・ユキと共に郊外の草原へ来ていたりする。
実は大規模な魔術の使い方を見るのは初めてだから結構楽しみだったりして。
「・・・・普通に原っぱが広がってるだけだな」
「そりゃそうですよ~。街の外なんですから~」
事前に角材として使えそうな木は伐採していたらしく、俺達の前には平地とは行かないまでも、そこそこ見渡しの良い雑草生い茂る土地が広がっていた。
今からここで強者達が暴れまわるのだ。
もちろん、被害が出ないように立ち入り禁止区域として結界は展開済み。
「ふ、ふふふ・・・・ふふふふふ」
「「・・・・」」
何故かフィーネは朝からこの調子なので俺は関わらないようにしている。
ちなみに辺りは暗くなり始めているので、この不気味に笑うメイドさんは10時間以上ニタニタしているのです。怖いです。
原っぱを歩く事、数分。
集合場所に到着したらしいんだけど、そこには俺達以外の人物は誰も居なかった。
「ベーさん達はまだ来てないみたいだな。収集つかなくなりそうだからアリシア姉達は置いてきたけど、こんな事なら連れてきて暇つぶし相手してもらえば良かったか」
戦闘狂の少女達はどうせ凄い魔術とか見て興奮するし、それだけならまだしも作業中の強者達にそのやり方を聞いたりして邪魔しそうなので、ついて来たがったけど拒否したのだ。
今頃はユキの生み出した氷の結界相手に悪戦苦闘していることだろう。
それはそれで2人とも満足そうだったので恨まれることも無いと思いたい。
「ついにっ!」
「(ビクっ)な、なんだよフィーネ・・・・急に大声出すなよ」
どうやって時間を潰そうかを考えていたら、突然フィーネがカッと目を見開いて叫んだ。
「ついにこの時が来たのです!
えぇ、えぇ、長かったですとも。ルーク様が入学されてからと言うもの、臨時講師として月に1度しか関われず、帰って来たかと思えばニーナさんやベルフェゴールさんと遊ぶ日々っ!」
「いや遊ぶって、色々指導したり修行したりで」
「しかしそんな日々はもう終わりです!!」
あ、ダメだ、聞いてない。
なんかフィーネさんは今の生活に不満があるらしいです。
「関われないのなら、いっそ卒業するまでその期間を捨てようと考えてから早2年! 長かった!! とても長かった!!」
拳を握りしめて熱く語り始めましたけど、フィーネさん性格変わってません?
ってかそんな考えがあったのか・・・・通りで会長として忙しそうにしてたわけだよ。
「ロア商会の事業となれば私に敵う者はいません!
つまり! 私が最もルーク様のお傍で役立てるのです!!」
「はぁ・・・・」
まぁ間違いない。
今でこそロア商会は各責任者が受け持っているけど、立ち上げた当初は全てフィーネが指導していたし、大きな変化の時は必ず相談するようにしている。
つまり彼女さえ居れば俺はロア商会を知ったも同然なのだ。
「今だけではありませんよ! 卒業された暁にはルーク様は商会の幹部となり、わからない事は手取り足取り私が! 私が! 教えて差し上げますっ!!」
その止まる事のない妄想は俺の卒業後まで飛んでいったらしく、何を想像しているのか知らないけど「グヘヘ・・・・」とフィーネらしからぬ笑みを浮かべている。
当然だけどそこには有能メイドの面影はなかった。
君はいつからそんな残念キャラになったんだ・・・・。
あ、俺が生まれる前から? そうですか。
「今までの鬱憤が爆発しちゃってますね~」
「なんだろうな。まぁ実際接する機会は減ってたし、こういうガス抜きも必要なんじゃないか」
開拓メンバーが集まるまでの間、俺とユキはフィーネの愚痴(?)に付き合うことにした。
それから30分ほど経っただろうか。
未だマシンガントークが止まらないフィーネと、それを聞きながらまったりティータイムをしていた俺達の元に予定していた人達がやってきた。
ガラガラ・・・・ガラガラ・・・・。
人通りのない真っ暗な道で不気味な音を立てて走る1台の馬車。
馬の代わりに巨大な甲冑が荷台を引き、御者をするのはガイコツ。
そこから伸びたロープの先には少女が縛り付けられ、ゴツゴツした地面を無残に引きずられている。
超ド級のホラーだ。
「・・・・怪談話は求めてないんだが?」
「しょうがないでしょ、コイツが接地してないと嫌だって言うんだから。地面を掘り返す作業はコイツ居ないと始まらないし」
そう言い訳しながら荷台から降りてきたルナマリアが、ベーさんの頭を踏みつけて叩き起こす。
見た目が酷いだけでベーさんにとっては一番快適な移動方法だったらしく、ついつい寝てしまったんだろう。
もしかしたら来る前からずっと寝ていたせいで遅れた可能性もある。
「掘るぜー、超絶掘るぜー」
真相はともかく、開拓地にはアイス工場も造るようなので、そこから量産されるアイスを求めてベーさんもやる気に満ち溢れていた。
単純に夜行性って事はないよな?
ルナマリアに続き、次々と荷台から降りてくる開拓メンバー。
その中には毎週のように会っている奴も居た。
『よっ、ダンジョン以外で会うのは初めてだな』
「おっ、ホネカワも手伝ってくれるのか。こりゃ早く終わりそうだな」
『任せろ。俺の恥骨が火を噴くぜ。肉体ないからポンコツだがな! けけけけっ』
いきなりド下ネタを炸裂させたホネカワは、周囲の女性陣からジェンガのように主要の骨を抜き取られて崩れ落ちた。
で、すぐに復活した。
骨に何が出来るのかはさて置き、人手は十分そうだ。
・・・・ってゴーレムさんとホネカワだけ?
ダンジョンメンバー大集合って感じで語った俺の立場は?
「4人でも余裕なんだろうけど、もっと連れてきても良かったのに。というか俺が会ってみたかったんだけど・・・・」
『ん? あぁ、途中で置いてきたが他の連中も来てるぜ。北部の街側からやるのが俺達ってだけだ』
「なるほどね。時間があったら行ってみようかな」
どうやら彼等なりに計画があるらしいので、そっち側の人達と知り合いたくなったら足を運ぶことにしよう。
ただ明日も学校があるから夜更かしは出来ない。
見れても北部だけだろうな。
「ふっ・・・・今宵も空が、鳴いている」
早速作業に取り掛かろうとした俺達の元に、真っ赤なマントを身に纏った少女が空から舞い降りた。
そして金色に輝く目を隠すように右手をあてて訳のわからないセリフを吐く。
第一印象であれこれ決めつけたくはないけど、取り合えず間違いなさそうなのは『彼女は中二病』って事かな。
もしかしたら種族特有の挨拶なのかもしれないけど、周りに居るベルダン関係者が揃いも揃って『やったよ・・・・』って顔で呆れているので違うはずだ。
「我の名はメルディ。メルディ=ソード=ブラッドレイ。今宵も地上を照らす赤き月が美しい、フフフフ」
アイタタタ。
そう言う話をどこから仕入れたのか知らないけど、ベルダンで生まれて数年でこんなになっちゃったみたいだ。
「フフ、我はマスターのサーバント。何者にも染められぬ真紅の女王!」
バサッとマントを翻し、誰からも相手にされずとも自己紹介を続けるメルディ。
自己陶酔と言うか自分の世界に入ってる人はこうなるのだ。
『同類に思われたくないから言っておくが、コイツは生まれた時からこんな感じだったぞ。言ったろ? ベルダンには変わったヤツが多いって。
あと、会長のフィーネさんや農場主のモーム相手だと低姿勢だ。ロア商会の中での立ち位置を一番わかってるのはコイツだな』
「それもう権力に弱いだけじゃん・・・・。
何が『何者にも染められぬ』だよ。めちゃくちゃ染められてるじゃないか」
今すぐ社会に出ても何とかなりそうな中二病さんでした。
随分と個性的な人だけど、ホネカワの説明のお陰で大体どういう性格かは理解出来た。
たしかに見てて痛々しいけど、言うだけの力を持ってて色々設定盛り込んだ『妄想される側』の生き物だから嘘じゃないのが凄いところだ。
言わば彼女は「出来たら良いな」「生まれ変わるならそうしたいな」が叶った姿。そりゃこうなるのも無理はない。
「我々は指針のない船で大海に漕ぎ出したようなもの。
どこへ流されていくのかわからない。流れ着く先に救いはあるのか・・・・見せてもらおう。我が運命のままに」
「ゴメン、それは共感出来ない。なに言ってるのか全然わかんないし」
「え? そ、そう・・・・」
何故かちょっと寂しそうにしている。
もしかして俺を同族だと思っていたのだろうか?
『あ~、ちなみに「開拓が上手くいくか自分達次第」って言ってんだ』
「なるほど。まぁ、言い回しが遠すぎて伝わらなくなるなんてよくあるし、気にするなよ」
「わ、我は孤高の存在・・・・ど、どどどどこに気に病む必要があろうか」
先ほどまでの威勢はどこへやら。両手をモジモジさせて挙動不審になったメルディ。
なんだか見てて可哀そうになってきた。
折角だし仲良くなっておくか。
え~っと・・・・同じ中二病か聞かれたって事で良いんだよな?
「ふっ、よくわかったな。
そう・・・・俺は神から能力を授けられたこの世界における特異点! 世界記憶たるアカシックレコードに触れる事の出来る唯一無二の存在。貴様の同志よ」
「っ!」
「今宵、俺達が出会ったことで世界は動き出す」
「・・・・っ・・・・っ!」
メッチャ嬉しそうにしてる。
何この楽しすぎる会話。