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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十六章 ヨシュア開拓編
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閑話 モデルルーム

 ある夜の事。


 ヨシュア領主であるエドワード家に、この街を代表する貴族達が集まって会合を開いていた。


 議題はもちろん都市化計画について。


 ここで決まった計画を軸に外部から赴任してくる侯爵や公爵と共にさらなる議論を交わし、最終的に王家へ話を通すための重要な会議だ。


「以上のように新住宅街はソーラーパネルと風車を完備し、天熱と風力による持続可能エネルギーを・・・・」


 それだけ真面目な場なので、アランがルークの作った都市化計画の図面と文章をガン読みしている最中も、貴族達は思い思いの唸り声をあげつつ熱心に配られた資料を眺めている。


 それもそのはず。


 これまでは魔石で補っていた大部分を、未知の技術で代用すると言い出した夢物語など誰が信じられようか。


「本当に・・・・本当にこんな事が可能なのですの? とても現実的とは思えませんが・・・・」


「うむ、エリザベス嬢の言う通りじゃ。

 ロア商会が持っている力も、この世のものとは思えないような技術も知ってはいるが、流石にこれは・・・・」


「問題ありません。これはあくまで試算なのですが、ロア商会会長のフィーネによりますと推定エネルギー量は十二分に確保できるとの事で、例えば・・・・・・」


「「「う~~ん・・・・だとしても・・・・」」」


 失敗の許されないこの計画において慎重過ぎることはなく、アランの説明を聞いても中々納得しない一同。



 そんな中、先ほど名前を出されたフィーネが口を挟んだ。


 会長として計画に参加する彼女も、当然この会議には出席していた。


「作業には我々エルフも数名協力いたしますし、その他にも神獣、魔王、精霊に通じる者も多く、かつてない効率化が可能となります。

 こちらはあくまで試算ですが、整地から土台作りまでで必要となる費用はこのようになっております」


「「「こっ、こんなに!?」」」


 そう言ってフィーネが取り出したのは初公開となる数値の数々。


 普通なら数か月掛けて行うような作業も、彼女達に掛かれば数日で終わる上に、それを無償で行うと言っているのだ。


 常識的に考えれば不可能な事も平然と書き記された紙を見た貴族達が、そのあまりの安さに驚くのは当然と言えよう。


「それと言葉で説明するより伝わりやすいと思いまして、皆様に実感していただくために簡単なモデルルームをご用意いたしました。

 後日、ロア商会の農場へお越しください」


「「「モデルルーム?」」」


 フィーネが用意していたこの秘策によって、計画はかつてない早さで着工される事になる。




 それから3日後。


 会合に出席していた貴族達は、フィーネが言う『モデルルーム』を見るために指示された場所へと足を運んでいた。


「これは・・・・石灰? いや白い石?」


「こちらは黒いが手触りは木材そのもの。黒檀ではない、木炭でもない。何だ?」


「家具かと思ったら水!? こ、この様な使い方が出来るなんて・・・・」


 そこではユキやフィーネ、ベルダンの面々によって簡易的な建物が数件建てられていた。


 さらに農場内で結婚した夫婦のために建てられた家は、住宅街のための新しい技術が無数に使われており、見るもの全てを驚かせた。


 人を感知して明るくなるセンサーライト。

 ボタンを押せば中の人を呼び出せるチャイム。

 捻るだけで水とお湯がいくらでも出る蛇口。

 常に適温に保たれる床暖房に、洗濯から乾燥まで全自動で行う洗濯機。


 野外で言えば寒い日でも道路が凍らないためのスプリンクラーや、暗くなったら自動でつく街路灯などなど便利アイテム盛沢山の場所である。


「これが再生可能エネルギーの力です。

 今は魔術によって稼働させていますが、計画が進めばどこのご家庭でも利用可能なモノとなっております」


 ひたすら感嘆し続ける貴族達が、ホネカワ作の骨の家で紅茶とカボチャケーキで一服した瞬間、絶妙なタイミングでフィーネが発言した。


「「「・・・・素晴らしい」」」


「これからは魔力ではなく、スイッチ1つで生活する時代ですな」


「ええ、とても便利ですわ。何より管理が楽そうです。

 これまで魔石の交換や魔法陣の修復など様々なメンテナンスが必要でしたが、これならわたくしでも出来そうですわ」


 まさに異口同音。


 満場一致でこのような街をつくる事が決定した。




「聞いてた話と違うんだけど・・・・簡易式の建物だって・・・・」


 計画の方は順調に進みそうなので一段落したのだが、ここに来てから一言も喋っていなかったアランがコッソリとフィーネに話し掛けていた。


 どうやらモデルルームのクオリティの高さに驚きを隠せないらしい。


「皆さんルーク様達のトレーニング用品を作っている間に制作する楽しさを知ったらしく、歯止めが利かなくなったのか立派な建物を建ててしまったようですね。

 ですが私は良かったと思いますよ。貴族の方々は想像しやすくなるので、このままの形でご紹介させていただきました」


「これじゃあこんな家が建てられると思うんじゃないかなぁ」


「それは工事を行う職人の方々の腕に掛かっていますね」


 そう言う問題じゃない。数日でここまで完璧な住宅や施設を建て、素材は魔力で生み出したから無料。しかも超高級品。


 それを「出来たら良いですね」などと言われても人間に出来るわけが無いのだ。


 やっぱりフィーネも『そっち側』の人間なんだと改めて実感したアランであった。



 農場からの帰り道、フィーネが思い出したようにアランへ今後の予定を伝えだした。


「あのモデルルームは破棄する予定だったのですが、ダンジョンを広げてプライベートビーチを作ったのでそこに置かれることになりました」


「・・・・うん、もう何も言わない。

 金貨数万枚で買いたいって言われるような建物を破壊するつもりだったのも、ダンジョンが広がってる事も、地下にビーチが出来てる事も、凄く快適な生活を送ってる事も、全部全部っ! 僕は何も触れないよ!?」


「? はぁ・・・・それがよろしかと」


 自分は間違っていない。


 そう言い聞かせるアランは、困り顔をしているフィーネとの価値観の違いに怒りを覚えてしまった。


 オルブライト家の男子が苦労人なのはアランの代からの宿命らしい。



 ちなみに建築段階になってフィーネ達が手伝わない事を知った貴族達は、大慌てで協力要請をするがことごとく跳ね返されることになる。


 そして魔力で生み出した建物を再現しようとした職人達も無駄な努力をする事になり、計画が大幅に遅れることになるのだが、それは未来の話。


「やっぱりモデルルーム要らなかったんじゃないかなぁ・・・・」


 と、アランが愚痴を言うのも未来の話。


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