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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十六章 ヨシュア開拓編
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二百四十二話 ロア商店探訪

 セイルーン高校に転校するより俺と一緒にヨシュアを発展させていた方が良かったんじゃないか、と思うほど現状で街の発展において何の成果も残せていないレオ兄。


 そんな情けない兄のために俺が提案したのが『ロア商会の裏側探訪』だった。


 今ヨシュアにある技術を覚えてもらい、王都に戻ったらここからさらに発展させた技術を広めてもらいたいと言うこの企み。


 ヨシュアが発展途上国みたいになってるけど、別に知識や技術、資源を独占したいわけじゃないからな。



「そっか、レオ兄って猫の手食堂も知らないのか」


「うん。珍しい料理や信じられない食材を出すお店があるって言うのは聞いてたんだけど、まさかリリやニーナが働いてる所だとは思わなかったよ」


 商店街までの道すがら、どの辺までヨシュアの事を知っているのか聞いてみると、噂程度なら知っているようだった。


 ただし今から紹介するのはその中でも特に秘密にもしていない場所・・・・と言うかむしろ広めているはずなんだけど、どこも真似できないから信じられていないだけのモノだったりする。


 まぁそれを王都でやるのが彼の役割と言えよう。


「製造過程や運用方法は広まっていないので、お楽しみいただけるかと思います」


「よろしくね」


 ちなみにメンバーは俺とレオ兄とフィーネのみ。


 ユキはレオ兄が初めて自転車を見た時ノーリアクションだったもんから「面白くなさそうです~」と興味を失い、アリシア姉はそもそも難しい話になると近寄らなくなる。


 ヒカリは迷っていたけど割と裏側を知っているので「久しぶりの兄弟水入らずの時間を楽しんできてよ」と言って、残った連中と自転車に乗ってどこかへ走っていった。


 水入らずってフィーネも居るんですけどね。


 俺達の会話に入ってこようとしないので説明役として居るって感じだけど。




「まずはご存知、ロア商店だ!」


「流石にここに関しては王都でも有名だから知ってるよ。元になった石鹸販売までは僕も協力してたしね」


「そっかぁ~。じゃあここで1つ裏話をば。

 実は、この店で買った商品を商人達が別の地域で売りさばく『転売』は公認してるんだよ。人々の生活を安定させるのを優先した結果そうなってる感じだな」


 誰がどうやって儲けようが知ったこっちゃない。


「だから王都にもあんなにロア商会の商品が流れ込んでるんだね。

 ここの品だと偽るために似たような印が入ってたりして、こっちは結構迷惑してるんだけど・・・・」


「知らんがな。そもそも別にブランド力を求めてないから真似したければすればいいんだよ。

 まぁ採算が取れてるかは怪しいもんだけどさ」


 偽物を作るよりヨシュアで仕入れて持ち込む方が儲かる気がするのは俺だけか?



 ってな暴露話をしつつ店内に入った俺達を出迎えたのはノルン店長だ。


「レオ君、久しぶりだね。色々と紹介しちゃうよ~」


「うん、今日はよろしく。ノルンが店長なんだね」


「っ! 一発で名前呼ばれた! 自己紹介しなくても覚えててくれた!!」


「え? 2年、いや3年近く経つはずなのにノルンやサイを忘れていないだと!?

 その間に交流があったとも思えないし、イケメンは記憶力まで良いってのか・・・・」


 喜ぶノルン、驚く俺、無言のフィーネ、呆れるレオ兄。


 全員が見事に別々の反応をしている。


「いやだって僕がやりたかった事の1つに『貧困を無くす』って目標があったんだよ? だからニーナ達と同じぐらいノルンの事も印象に残ってたんだ」


「良い子だ~。完全に名前を忘れてた連中とは比べ物にならないよ~」


「泣くな。そういう事もあるさ。

 そんな事より俺達の案内はノルンがしてくれるのか?」


 名前を呼ばれたと言うだけで感動して泣き始めたノルンを適当に慰めた俺は、今から行う商店探訪の方が気になっていた。


「そりゃ店長ですからね! 何でも聞いておくれ」


「・・・・商品の製造工程、素材調達、輸送、建築、その他諸々の話をするんだけど?」


「フィーネ様ぁー! フィーネ様ぁぁーーーっ!!」


 ふん、所詮は雇われ店長。店の事しかわからないクセに出しゃばるから、そうやって上司に泣きつく事になるんだ。


「くっ・・・・ルークさんから憐れみと失望の感情が流れ込んでくる・・・・。

 店長はお店を切り盛り出来たらいいの! そっちはそっちで専門家が居るから任せればいいの!!」


 ほら言い訳できないもんだから今度は怒り始めた。


 所詮は重要キャラになれないモブよ。


「キィィイイーーーっ!!」


 ちなみに俺は声に出していない。彼女が脳内で勝手に被害妄想を繰り広げているのだ。ほぼほぼ当たってるだろうけどね。



「ま、まぁ落ち着いて。後で商店の運営について聞かせてよ。

 コストコントロールとマーケティングスキルについて、特に原価率や損益分岐点分析は全主要商品のが知りたいかな」


「そ、そんえき・・・・え?」


 店の裏側を全部話すというこの企画において、レオ兄は収益を上げる方法も教えてほしいと要望していた。


 つまりその辺の事を聞くのは当然の流れなんだけど、突然の専門用語の羅列にノルンはキョトンとした顔でただただ呆気に取られている。


「あ、ゴメン。ここで使ってる用語だとどう言えば伝わるかなぁ・・・・ん~、売上に繋がる努力や、具体的な価格設定の理由って言えばわかる?」


「・・・・・・・・ほら、アタシ雇われ店長だからそう言うのはちょっと。

 あー、仕事が残ってるの忘れてたー。じゃそゆことで!」


 わかりやすく説明してくれたレオ兄の話を聞き、先ほどと同様の顔をしたノルンはどこかへ行ってしまった。


 逃げたな。


「それにしてもレオ兄スゲェな。もしかして高校で経営とか学んでる?」


「王都にある店舗は大体見て回ったからね。普通はそこまで詳しく教えてもらえないから関係者と仲良くなるまでが大変だったけど、お陰で交友関係は広がったし将来的にも役立つ人脈が出来たよ」


「そんな勉強が出来るだけでやっぱり王都に行って正解だったと思うぞ」


「そうだね」


 と言って苦笑するレオ兄は、将来の事を考えていない俺からしたらとても眩しかった。



「おそらく参考にならないとは思いますが、後で私の方から詳しく説明させていただきますね」


 収益には関わりないから俺もその辺のこと詳しくないんだよな。


 可能な限り安くって指示してるだけで。




「じゃあ早速、この商店を盛り上げてくれるBGMの紹介をしようか」


 俺達が向かったのは店と寮の間にある中2階の小部屋。


「大きな・・・・楽器?」


「これは『オルゴール』って言う自動で音が出る装置だよ。バチが自動で動く木琴のようなもんだし楽器ってのも間違いじゃない。

 この軸を変える事で3種類の曲に変えられるから、店員が気分や店の雰囲気に合わせて取り換えてるんだ」


「へぇ~。匠の技が光る芸術品だね。

 あっ、ちゃんとお店全体に響き渡るように拡張機使ってるんだ・・・・魔石・・・・いや魔力を使わない装置?」


「そちらはオルゴールと同じくドワーフの職人に依頼して作っていただいた物です。

 彼らによれば腕は確かですが何らかの理由で働いていない者も多いそうなので、眠っている人材を王都で探してみるのも宜しいかと」


「あぁ~、そう言えば居たな、頑固な爺さん達。

 さっきの自転車も彼等に作ってもらったんだけど、ウヒウヒ笑いながら涎垂らして部品こさえてたぞ。

 あれは根っからの職人気質・・・・と見せかけた変態だ」


「ルークが獣人用品をあさってる時と同じだね」


「・・・・そろそろ帰るか」


「ちょっ!? ゴメンって、もうちょっと見させてよ」


 女性陣から言われても腹が立たないのに、どうしてモテ男に言われるとこんなにイラつくんだろう。


 あ、嫉妬か。納得です。



 それから1時間。


 フィーネが製作図を差し出すまでオルゴールを研究していたレオ兄にも、『知識欲の塊』という名の変態って称号をあげよう。




 オルゴール以外にも照明や巨大冷蔵庫、レジなど色々な便利魔道具を紹介した俺が一番驚いたのは、ここの運用についてだった。


「え? じゃあこれの原価率は70%っ!?」


「ああ、近くで製造をしてるから運送コストはゼロだし、POS管理することでロスを無くせばそのぐらいイケるさ。各部門の担当者ともマーチャンダイジングは欠かさないしな。

 ぶっちゃけ商店は赤字覚悟の場所だから出来るってのもあるがな。儲けは別のところで出してる」


「だとしても通常30~40%なのに・・・・他の所じゃ絶対に出来ない売り方だ・・・・」


「そりゃ無駄が多い証拠だな。最大限安くしようとしたら仲卸業者を介さないのが一番だ。そりゃあ在庫管理がしやすくなるメリットもあるが、1日当たりの生産量を把握しておけば必要なくなる。

 そもそもこの店のために作ってる商品も多いんだから余程の大量注文が来ない限りは在庫切れも無いからな」


 何故か副店長をしているサイが物凄く詳しくて、レオ兄やフィーネの話についていけているのだ。


 もちろん驚いていたのは俺だけではない。


 先ほどまでの会話によって役立たずの称号を欲しいままにしていたノルン店長が俺以上の驚き・・・・いや恐れすら感じているようだった。


 そしてついに我慢できずに噛みついた。


「ア、ア、アンタはアタシと同じおバカ組なはずでしょ!? なんでそんなこと知ってんのさ!」


「バカだったのは否定しないが、本当のバカはそこから努力しないヤツの事だぞ。初めは誰でも知らないのが当たり前。んで必要になったら覚えていきゃ良いだけの話だ」


 この話に一切入れない無能店長とは違い、副店長のサイは店のために努力していたのだ。


 きっと慣れない勉強にイライラしながら何とかかんとかこの域まで辿り着いたんだろう。


「・・・・サイ、店長やるか?」


「ルークさん!?」


「いんや、コイツを部下にしたくないからやらね」


「サイさん!?」


「無能な責任者としてこれからも矢面に立ってもらうさ。裏で俺等が頑張れば良いだけだしな」


「それもそうだな」


「・・・・」


 そりゃこの店に現状何の不満もないんだから維持出来るってんなら従業員に任せるよ。


 悔しかったらお前も各方面について学んでみろ、ノルン店長。




「いやぁ~、タメにはなったけど参考にはならなかったかな」


「赤字の店を続ける意味なんて普通無いからな。もしも金が有り余ってるから人々の役に立ちたいって奇特な奴が居たらレオ兄は絶対仲間に入れるべきだぞ」


「・・・・絶対居ないってわかってて言ってるよね?」


「まぁな」


 ロア商会は世界復興を第一に考える素敵な企業です。

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