二百三十六話 女子力4
「ただいまよりー、タイムセールを行いますーっ!
パンに代わる新しい主食『お米』、分量を量る必要のなくなった『固形洗剤』、どちらも大変お安くなっておりまーすっ!!」
フィーネ&ユキと言う強大な助っ人を得たノルン店長が始めたタイムセール。
商店街を歩いていた人達は当然のように特売エリアへ群がり、襲い掛かり、猛攻を仕掛けては2人によって撃退される。1人1つまでなのだ。
「忘れてた・・・・戦場になること忘れてたぁぁーーーっ!」
離れた場所から見ていたはずなのに、いつの間にか人波に飲み込まれてしまった俺は、後悔と苦痛を噛みしめながら客達の中で翻弄され続けた。
でも、そんな俺に手を差し伸べてくれる救世主が。
「ここは子供が居ていい場所じゃない! 俺に構わず逃げろ!!」
「サンキュー! サイ、お前の事は忘れないぞ」
「おう! (ドフッ)ぐあああっ!!」
誰かが振り回した米袋(重量3kgに遠心力を加えたボディブロー)によって崩れ落ちるサイに感謝しながら俺はDIYエリアへ走った。
立ち止まってはいられない。あれが戦場で名言を残したヤツの末路なのだ。
これからさらに激化するであろうこの暴徒達の狙いは生活用品。
つまり補修や大工道具の類を置いているエリアなら安全だと考えたんだよ。
「凄いね! 戦場の空気って感じがするね!」
そこに居たヒカリは自分も参戦したいと言わんばかりに落ち着かない様子でソワソワしていたけど、いつもの事なので気にせず本題に入る。
「それより販売の方はどうだ? 知らないオッサンからゴチャゴチャ言われてブチ切れたりしてないだろうな?」
「アリシアちゃんじゃないんだからお客さんを殴ったりしないよ~。
商品の場所がわからないから尋ねられて困ったぐらいかな」
怒ったり、おざなりな対応をしたりしてないかを聞いたんだけど、ヒカリの脳内では『暴力を振るってないか』に変換されたようだ。
ブチ切れたら殴るの? そしてアリシア姉はいつも殴ってるの?
「割と」
そうですか。怖いですね。心の中を読まれた事も含めて怖いです。
そんな感情が俺の顔に出ていたかどうかはさて置き、接客の話をしようか。
『新人に商品知識が無い、案内が出来ない』
それは彼女に限らず全員に言える事だろう。
で、問題となるのはその時どうやって対応するかだけど・・・・。
「千里眼で見つけて案内したよ。商品の使い方はベルダンに行く道中で色々見たから知ってたし」
どうしよう、これ褒めるべきかな?
明らかにヒカリだけが使える特殊能力に頼ってるけど、販売員として客の求めている品を自力で見つけ出してるし、日頃から知識を蓄えてると言えなくもない。
その後も少し観察したけど、手が空いたら商品を見て勉強してるお陰で千里眼を使わなくてもそれなりに説明出来てたし、愛想も良くて厳つい連中をメロメロにしていた。
って事で、
「ヒカリ、合格」
「やったね!」
冒険者やメイド以外に販売員としても生活していけそうなので、そう評価した。
まだまだ乱戦が続きそうな中、次にやってきたのはオモチャ売り場。
親達が歴戦の猛者へと変貌を遂げたら、ついてきた子供は必然的に暇になる。
と、なればそこそこ慌ただしい売り場としてニーナがてんてこ舞いしていると思ったからだ。
「さ、触らないで・・・・あ、そっちはダメ・・・・・・危ない」
「おぉ・・・・流石のニーナも無邪気な子供相手だとパニックになるんだな。クールなキャラが窮地に陥るとこうなるのか」
そこでは案の定、ニーナは涙目になりながら子供達の対応に追われていた。
まぁ自分と変わらない(ように見える)年齢の人が働いてたら子供達からは弄られますよね。
しかも神獣として抜群の身体能力と眼力を持っているもんだから、オモチャ売り場で暴れまわる子供全員を相手にしようとして手に負えなくなっている。
不器用ここに極まれり。
「お前、本当に食堂以外で生活出来そうにないな」
「むっ・・・・大丈夫、ちゃんと対処出来てる」
「いや出来てないから泣いてんだろうが」
「これは心の汗。労働してる証」
なら取り合えず尻尾に結ばれてるリボンを解いた方が良いですよ。
ファッションにしても蝶々結びに失敗しているので不格好だ。
「フェッフェッフェッ。小僧、ここで会ったが100年目じゃ」
仕方がないので俺も駆け回る子供達を大人しくさせる手伝いをしていると、見覚えのある婆さんが話し掛けてきた。
「・・・・犯罪者が何の用だ?」
それは特売ハンターをしてる4天王(?)の1人。たしか『イリュージョン婆』だったか?
「誰が犯罪者じゃ! ワシは孫へのプレゼントを買いに来た客じゃぞ」
「店側にチクるって言ったら賄賂渡してきたクセに」
「最近物忘れが酷くてのぉ~。サッパリ覚えとらん」
ババァ・・・・。
都合のいい時だけ弱者を気取る婆さんにイラ立ちつつ、今まさに特売中だということを思い出した俺は、その矛盾に違和感を覚えた。
「アンタは参戦しないのか? 食料と生活必需品の安売りだぞ?」
「フェッフェッフェッ。言ったじゃろ、孫との買い物中だと。
それに売っている連中を見てやる気が失せたわ。他の連中は絶対に勝つと言って挑んでいるが、ワシみたいな年寄りは勝てぬ試合はしないんじゃよ」
「その言い方だと一応見るには見てきたんだな・・・・」
良い事を言ってるように聞こえるかもしれないけど、要は『可能なら犯罪行為をする』って言ってるだけだからな?
『見つからなければ問題ない』って暴論と何ら変わらない。
「節約するに越したことはないからの! フェ~ッフェッフェッフェ」
「あ~、まぁノルンが何とかするか。
丁度良いや、オモチャ買うつもりだったんだろ? ニーナ接客してみろよ」
自慢気に高笑いする婆さんと話すのに疲れた俺は、折角なのでこちらの用事にも付き合ってもらうことにした。
「・・・・わたし?」
「そりゃ今はお前が担当者だからな」
魅力的な商品ばかりで目移りしていたと言う婆さんと5歳ぐらいの男の子に、どのような商品を勧めるのか見てみたくなったのだ。
もちろん2人は詳しい説明が聞けると喜んで受け入れてくれる。
暴れまわっているガキ共は本当の担当者に任せて、俺達はタイマン勝負と行こうじゃないか。
食堂で鍛えた話術を見せつけてやれっ!
「こう、転がして遊ぶ。これは・・・・駒を取り合って・・・・多い方が勝ち」
「「「・・・・」」」
「魔力を込めると・・・・凄い。・・・・絵柄が綺麗・・・・書いた文字を消せる」
(((せ、説明が下手すぎて何もわからない)))
それが俺と婆さんと孫の3人共通の感想だろう。
一応ニーナなりに頑張っているようだけど抽象的過ぎてどんな遊具なのか全く想像がつかない。これなら商品を手に取って自分で見た方がわかりやすいくらいだ。
唯一褒める部分があるとするなら、ちゃんと男の子が見えるようにしゃがみ込んで視点を合わせている事か。
どうってことないように思うかもしれないけど、パニック状態でこれが出来るのは本心から相手に合わせて行動しているって事だ。
人間、慌てた時にこそ本性が現れるもんだからな。
最終的にPOPと商品の箱に書いてある説明文を丸読みするという暴挙に出たニーナだけど、ルールを把握できた婆さん達は嬉しそうに『UNO』を買っていった。
「これからも食堂で頑張ってくれ」
「・・・・バカにされた気がする」
そう思うなら子供に舐められないようになれ。
そして最低限商品の説明が出来る話術を身につけろ。
まさか食堂でもメニュー説明をあんな調子でやってるんじゃないだろうな?
引き続き子供の相手を頑張ると言うニーナにオモチャ売り場を任せ、俺は最後にして最大の難敵へ挑みに行った。
小銭を入れた靴下を振り回すと車のガラスが砕けるそうです。
獣人のサイと言えどワンパンです。