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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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二十五.五話 フィーネ帰る

 この世界には陸路の移動手段として主に2つ存在する。


 足は遅いものの安価で扱いやすい『馬車』、それと今フィーネが買おうとしている『竜車』だ。 


 竜車の特徴としては、足が速く、持久力もあり、環境の変化にも強いため、馬車よりも長距離移動に向いている。


 『ロードランナー』と呼ばれる魔獣なのだが、戦闘能力が低く手懐けやすい事もあり、こうして人々の生活に役立っているのだ。


 それをヨシュアまでの塩樽運びに利用したいと言うフィーネ。


「たしかにおぬし等ならこの短期間でそれだけの稼ぎはしているじゃろうな。

 うむ、荷台はこれでいいな」


 その相談を持ち掛けられたクレアは格安で売ってくれると言い、手慣れた様子で荷台を選定してくれた。


 それでも金貨200枚。


 そんな大金を2週間と掛からず稼いだ2人に疑問は抱かないようだ・・・・いや全てのツッコミを放棄していると言うべきか・・・・。



「竜は相性がある。あの中から好きなのを選ぶのじゃ」


 クレアと共にフィーネ達がやってきたのは、竜の飼育をしている街はずれの牧場。


 観光地ならではの街乗り用の貸し出しだけでなく、販売用にも対応しているらしい。


 馬はともかく高級品の竜まで取り扱っているとは、流石は世界最大級の商会である。


「フッフッフ~。ここは目利きと噂のユキさんにお任せです~」


「いえ、私が選びます。今後オルブライト家で共に暮らす家族ですので。

 ・・・・っ」


「グル?」


「あの黒い竜にします」


 フィーネは軽く殺気を出して一番最初に反応した竜に決めた。


 殺気に敏感なのは魔獣の気配がわかる優秀な竜だと判断したからである。


「あれは小さいのではないか? あっちの緑色の大きな方が体力がありそうじゃが?」


「クレアお嬢様の言う通りですな。アイツは成長が止まっているのでこれ以上大きくならないでしょう。正直オススメは出来ません」


「いえ、あの子が気に入ったので」


 フィーネは飼育係とクレアの忠告を聞き入れる事無く、独自の視点から最初に選んだ竜に決定。


「まぁたしかに竜車として機能する最低限の力はありますけど・・・・」


 と飼育係も言うので商品的にも問題はなく、結局その黒い竜がお供に加わった。



「名前はルーク様に付けていただきますので、それまでは竜と呼びますね」


「グルル」


 話を理解したのか、たまたま頷いただけなのか、とにかく竜は当分名無しのままになった。


 帰ったらこの竜の飼い主はルークになるのだ。




「色々と世話になったのじゃ。フィーネ達のお陰で魔石と食料がたんまり、商人としてこれほど嬉しいことは無い。

 知らぬじゃろうから言っておくが、2人は毎日船一隻分の働きをしていたのだぞ?」


「私のお陰ですね~。方法は企業秘密ですけど」


「ふふっ、いずれウチの連中にも伝授してもらいたいものじゃな。

 これは土産じゃ」


 教えられても絶対に真似出来ない事を理解しているクレアは笑い、土産と言ってクラーケンの一部を渡して来た。


 しかも長期保存が出来るようにわざわざ塩漬けにされている。


 領主邸でフィーネが美味しいと気に入っていたので、帰る時に渡せるように急いで用意してくれていたようだ。


「ありがとうございます。こちらこそお世話になりました。また会う時までお達者で」


「バイバイです~」


「うむ! 次会うまでに立派な商人になって驚かせてやるのじゃ!」


(まぁ必ずオルブライト家へ行こうと思っておるがな)


 『クレア=ゼクト』


 夢は世界一の商人。フィーネ達との出会いが彼女の人生を大きく変えていくことになる。



「楽しかったッス~」

「今度会ったら魔術教えてください!」


 ゼクト商会の面々とも別れの挨拶をしたフィーネとユキの2人は、水の都アクアを後にした。


 ヨシュアを旅立って14日。


 ユキ、竜車、塩、金、食料などなど様々な物を手に入れて。




「あ~、この鳥、また魔石を食べましたよ~」


 見た目が竜より鳥に近いのでユキは『鳥』と呼んでいるのだが、その度に竜から嫌な顔をされるので受け入れられてはいないようだ。


 フィーネ達は道中で襲ってくる魔獣を倒しては素材に手を付けず放置しているのだが、荷台を引く竜が立ち止まってモシャモシャ食べていくのである。


 帰りが遅くなるので最初は怒っていたフィーネだが、食べた後はその後れを取り戻すように元気いっぱいに走ってくれるので、結果的に時間の短縮になっているため今では何も言わなくなっていた。


「魔石を食べても大丈夫なのでしょうか? 主食は肉だと言われましたが?」


 ただ心配なのは飼育係から教えられた竜の生態とは違う事。


 実際購入してから少しの間は肉を食べていたのだ。



「グルルーッ!」


「痛いですー! なんで私の髪を食べようとするんですかー!」


 そんな竜は魔石だけではなく、ついにはユキの髪まで狙い始めた。


「鳥と呼ばれて怒っているのでしょう」


 ただその前にユキが喧嘩を売るような発言をしていたので、フィーネは自業自得だと言って助けようとしない。


 どうもこの2人、仲が悪いようだ。


 魔石を食べる以外とても従順なのだがユキとだけはいつも喧嘩している。


(それにしても魔石と精霊の髪を食べる・・・・魔力を欲している?)



 その疑問はすぐに解決した。


 ユキの髪を食べた翌日。


 竜が一回り大きくなっていて、体力や脚力も上がっていたのだ。


 さらに魔力を得たことで賢くなったのか、フィーネが指示をしなくても道通り進んでいくようになった。


「私の髪を食べて強くなってますよー! 許せませんねー!

 このまま魔獣になるんじゃないですか? 今のうちに退治しましょう

「グルッ」・・・・おふっ!?」


 ユキがペシペシと竜の背中を叩ていると、怒った竜は尻尾の力だけで見事なアッパーカットを決めた。


「やりましたねー!?」


 走っている間は噛みつき攻撃しか出来ない竜は、器用に尻尾だけでユキと攻防を繰り広げる。


「はぁ・・・・ユキ、氷の刃を作って威嚇しないように」


 本気になり始めたユキをたしなめつつ、騒がしい旅になると確信したフィーネは溜息をついた。


 念のために注意もしておく。


「早く帰れるのはとても喜ばしい事です。

 ただ・・・・ルーク様へ牙を剝くようなら・・・・」


 ガタガタガタ!


 恐怖のあまり震え出した竜は、先ほどまで戦っていたユキに涙ながらにしがみついた。


「フィーネさん殺気を抑えてくださいよ~。魔力も溢れてきて精霊たちが脅えてます~」


「おや、私としたことがルーク様を傷つける敵を思い浮かべて、つい。

 大丈夫ですね? あなたが敵対することはありませんね?」


「(コクコクコク)グルッ!」


 もはや脅迫以外の何ものでもない問いかけだが、竜はブンブンと音が出るほど首を縦に振って頷く。


 この状況でNOと言える強者が牧場で売り買いされているはずはない。


 そもそもフィーネにとっても竜が強く賢くなるなら大歓迎だった。


 成長したからと言って食べる量が増えたわけでもなく、このままルークのペットとして立派に育ってもらいたいと心の中で願っていた。



「え~? 今のうちに非常食にしちゃいましょうよ~。ほら食料減ってきましたし、この鳥は絶対敵対しますよ~」


「ガルルーッ!」


 ひと時の味方から一変、また敵対関係に戻った2人は喧嘩を始める。


(相性が悪いと言うべきか、良いと言うべきか・・・・)


 そしてまたフィーネは溜息をつくのであった。




 2人が騒がしい以外は至って順調な帰り道。


 竜の成長もあって移動速度が格段に上がったお陰で、アクアからヨシュアまで7日と掛かりそうにない。


 その6日目になる今日は、この森を抜けたところで野営の予定だ。


 明日にはルーク様と再会できる。


 そう考えて思わず笑みを溢したフィーネの計画はすぐに打ち砕かれる事になった。



「か、金と食料を置いて行け!」

「僕達以外にも森の中には仲間が大勢居るんだから抵抗するなよ!」

「するな」



 行きと同じく、またしても盗賊である。


 しかし今回は事情が違った。


 顔は隠しているが3人とも明らかに幼い子供で、手に持っている武器も尖った木の棒。さらに周囲に気配はない。


「半魔の子供3人でどうするつもりなんでしょうね~? 倒します~?」


「やはりそうですか。しかも生きる術を持たない弱者・・・・」


 半魔とは魔族と人間のハーフ。


 通常どちらかの特性を色濃く受け継ぐものなのだが、稀に彼等のように両方の欠点を持ってしまった魔力の弱い半魔が生まれる事がある。


 おそらく戦闘能力が無いため口減らしに捨てられた孤児か、そうなる前に自ら村を出たのだ。


 生きるだけで精一杯の村や魔獣に襲われて生活が困難になった家族、両親との死別など原因は様々。


 そしてその弱さ故に街へ行ってもはどこからも受け入れてもらえず、こうして盗賊をしているのだろう。


「な、なんでわかった!?」

「しーっ。言っちゃダメだよ」

「め」


 そんな2人の正しかったらしく、リーダー風の素直な少年がわかりやすいリアクションを取ってくれた。



 ただそうなると話は変わってくる。


 本来であれば盗賊と被害者の立場とは言え、こうして知り合ってしまった以上は何とかしないわけにはいかない。


 そもそも被害は出ていないのだ。


 大量の食糧と金を持っている強者の前に、明日の命も知れない子供が現れただけ。


「あなた達は3人だけでこの森で生活しているのですか?」


「だったらなんだよ!」

「お腹すいたよ~」

「食料~」


 やはり食料調達すら出来ていないようだ。


 自分の年齢も、森で生活している日数も、数える余裕すらないのだろう。


 フィーネとしては一刻も早くルークに会いたいのだが、ここで彼等を見捨てて帰るという選択肢は存在していなかった。


 ルークも孤児を見捨てて少し早く塩を手に入れても喜ばないはずだ。



「仕方ありませんね。ユキ、助けますよ」


「了解です~」


 フィーネとユキは3人が自然界での生き方を教え込むことにした。


「皆さんに食料を分けましょう。それと食料調達、戦闘訓練、住居づくり、今後の生活に必要な事を教えます」


「「「・・・・え?」」」


「どこで暮らしてるんですか~?」


 フィーネ先生とユキ先生による1週間で覚える楽しいサバイバル訓練の始まりである。


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