二百十九話 覚醒2
ニーナの成長についてはフィーネとユキもわからないと言うので、俺は頼りの綱である全知全能を自称している神様から聞き出そうと神殿へ走った。
早朝だから閉まっていたけど、馴染みのシスターに無理を言って入らせてもらい、精神世界へ飛ぶ。
あぁ・・・・俺ってば凄く熱心な信者だと思われてるんだろうな・・・・。
5歳の時に神託を担当したあの金の亡者の神父が居たら絶対寄付金をせびって来ただろうけど、その事をセイルーン王族にチクったら数週間後には辺境の地へ飛ばされていた。
一応『神殿』って独立した組織らしいんだけど、やっぱりどうしても偉い人との繋がりはあるようで、『とある正義の使者』による密告で違法献金を受け取っていた事が発覚して階級も下げられたんだとか。
だからそれ以降完全では無いにしろ、比較的まともな運営をしてくれているっぽい。
とか雑念が入ったけど、目を開けると真っ白な空間が広がっていたので別に祈る必要はないらしい。
そこでいつものようにダラダラしている主を発見した俺は急いで詰め寄る。
「神様ーっ!! 神様ぁぁああァァーーっ!!!!」
「どうしたんですか~? そんなに慌てて。
まるで『ニーナが神獣化したけどその容姿が変化するかどうかわからず、まかり間違って年相応に成長してしまったらと思うと居てもたってもいられなくなった』って顔してますよ~」
「その通りだよ! わかってんなら聞くな!!」
流石は神様、全てお見通しだった。
時間の概念が存在しないこの空間で急ぐ意味はないけど、説明する手間が省けて助かるな。
んでどうなん?
「ルーク君になら言ってもいいですかね~。
実はニーナさん、生まれて間もなく両親を亡くして口減らしのために山に捨てられたんですよね~。普通なら魔獣に食べられておしまいなんですけど、幸か不幸か食糧豊富で敵の居ない深い洞窟に落ちて、そこでしばらく生きていたんです。
ですからああ見えて結構年上なんですよ~?」
「・・・・それ関係あるんスか?
いや知られざる過去を教えてもらえて嬉しいですけど、成長するかしないかの方が大事って言うか」
突然昔話を始めた神様は、重すぎるニーナの過去をサラリと告げた。
出会った頃からヒカリと変わらないぐらいの年齢だったけど、少なくともヒカリよりは年上っぽかったからアリシア姉と同い年にしたのは正解だったらしい。
でも神様の話を聞いていく内に、成長しない今の容姿である理由がわかった。
「そこが肝なんです~。
実は彼女は洞窟に落ちた時、致命傷から命を守るために魔力を前借して自己治癒能力に充てているので、そこから成長してないんですよ。
神獣ならではの特殊能力『生命保存の法則』です~。
ルーク君の身近な例で言えば、少し違いますけどシィさんの弱体化による幼児化が近いですかね。
ちなみにスラムに居た時、ヒカリさんを庇って彼女以上の大怪我を負いましたけど動けたでしょ? あれ、フィーネさん達が治療しなくても平気だったんですよ~。まぁ早く動けるようになる分には支障ありませんけど」
次々と明らかになるニーナの秘密。
でもここで動揺しても始まらない。
そう思った俺は平常心で話を続ける。
「何とも便利な能力ですね。生まれた時から将来神獣になる事が決まっているなら、怪我で死なないって事じゃないですか。
それこそ『魔獣に丸齧りされる』とか『餓死』とか、治療しようのない場合以外は魔力で何とでもなるんじゃ」
「まぁ魔力が尽きればアウトですけどね~。わかりやすく言うなら『生まれ持った才能の差』ってやつですね」
才能・・・・ここでもその言葉で差別されるのか・・・・。
どうせ俺は現代知識無かったらダメ人間ですよ。
なんて拗ねてる場合じゃない。
ニーナについて聞けるだけ聞いておかないと。
「魔獣が覚醒して神獣になったら体内には魔石があるらしいですけど、ニーナはどうなんですか?」
魔石を母体として生み出された魔獣はそうなるらしく、逆にみっちゃんとかは母親から生まれたから無いんだとか。
古龍も魔獣扱いされてるからてっきり魔石があると思ってたんだけど違った。
「その考え方で合ってますよ~。体内にある魔力製造路とでも呼ぶ場所が強化されただけで、魔石が出現したり消えたりする事はないです」
「つまりこれからは皆と同じように成長していくと?」
肝心な所だ。
ぶっちゃけ過去の事より、これからの事の方が気になるし大切だと思う。別にいい事を言うつもりはない。
メインキャラからロリが居なくなるかどうかの瀬戸際なんだよ!
「ちょっと違いますね~。最も適した姿で固定されるので、何歳ぐらいで止まるかは誰にもわかりません」
「はっ、所詮はなんちゃって神様。役に立たねぇ~」
結局『わからない』で話が終わってしまった。
やっぱり全知全能なんて嘘だったんだ。
「カッチーン! 私は知ってますぅー。バラしたら面白くないから言わないだけですぅー」
「はいはい、そうですね、僕が悪かったですよ」
本当に知らないヤツ、話を逸らしたいヤツがやる手口なので、俺は優しく微笑んで受け止めることにした。
小学生の時、こういうヤツ居たなぁ~。
って思考も読まれてるんだっけか? こりゃまた失敬。
「言ってくれますね~。ならとっておきの情報!
ニーナさんは15歳ですー!!」
「っっ!!!!!」
今年一番の衝撃が俺のナイーブなハートを貫いた。
じゅ、じゅじゅじゅ10歳じゃないだと!?
ま、まさか子供組最年長のレオ兄より2歳も年上だったとは・・・・っ!!
「フッフッフ~、私の全知全能っぷりに恐れ入ったようですね~。
成長についても本当に知ってますけどお楽しみにって事で」
先ほどの衝撃から立ち直れないまま、聞くことを全て聞けた俺は神殿に戻って来た。これ以上話すことがないから追い出されたと言うべきか。
しかしこれからどうしよう?
ニーナにこの事を伝えなければならないのだ・・・・ロリじゃないという事実を。今日から成人女性で、俺との年齢差が8歳もあるという事実を。
「・・・・あ、別に困らないか」
色々考えたけど何も支障がなかったわ。
だからそのまま伝えてみることにした。
「・・・・そう」
ほら大丈夫。
話を聞いたニーナは自分の過去や年齢について気にした様子もなく、今後の生活についてフィーネ達からの助言の方が大事だと言わんばかりだ。
「成長するとしたら数日以内に急成長するはずですので、それが落ち着くまでは部屋で大人しくしていた方が良いでしょうね。
成長が止まったらまたオルブライト家へ来てください。私達が力の使い方を教えます」
フィーネが言うには、それ以降ニーナの見た目が固定されるので、本人にとっても俺にとっても恐怖の数日ってわけだ。
神様に『ロリでお願いします!』って祈って来た効果あると良いな。
神獣になったからなのか、やけに勘の鋭いニーナが俺を睨んでいる最中、ユキがニタニタしながら俺の肩に手を置いて歌い出した。
「ルークさんの~、親衛隊が~、強くなる~♪」
「ユキよ、煽ってる所悪いが今回は仕方ないと諦めてるから無駄だぞ。
それより俺はニーナがどのくらい成長するのか気が気じゃないんだ」
「バインバイン」
挑発に失敗したユキが残念そうにうな垂れ、まだロリ姿のニーナは俺に見せつけるように胸を揺らしてセクシーポーズを取る。
気分はさながら巨乳フィーネなのだろう。
が・・・・片腹痛いわっ!
「いいかニーナ。猫人族の中での巨乳はトリーだ。あれが限界だ。越えられない種族の壁だ。最大でも手のひらサイズだ」
「神獣は例外」
「マジでか!?
フィーネさんマジっスか!? そうなんスか!!?」
「仰る通りですがそれでも元の種族に影響されますよ。あまり言いたくはありませんが、ニーナさんが心からそう願っていない限り不可能かと。
ルーク様に気に入られない覚悟で成長したいと願うなら別ですが・・・・自分でもそんな姿は想像出来ないのではないですか?」
「猫人族はぺちゃパイこそ至高!」
「・・・・」
俺とフィーネは夢見る少女に現実を突きつけた!
少女は我に返った。
「・・・・ならスレンダーな大人の女性」
「いや10歳越えたら縁を切る」
「!?」
何を驚く必要があるのかサッパリわからない。
元々愛らしいマスコットとして売ってるのに、それが成長してどこに需要があるってんだ?
子役が大人になったら仕事激減するのと同じだろ。
俺の許容範囲は学生までだぜ。
・・・・いやあくまで愛でるって意味ね? 『性的興奮の対象が』じゃないよ? 本当だよ?
震えるニーナは最後に俺にこう質問した。
「ケモ耳には?」
「年齢など関係ない!」
「ならわたしが成長しても大丈夫」
くっ・・・・罠か!
まぁこうして友達が神獣になりました。