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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十四章 激闘!? 7歳
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閑話 椅子取りゲーム 

 ジョセフィーヌさんとホネカワ、この2人の指導者の下で俺は毎週末に秘密特訓を続けている。


 他の人達も『次は自分の番か~』と俺が来るのを心待ちにしていたらしく、体力づくりと目を鍛えるので手一杯なので断ったんだけど、凄く残念がっていたと聞く。


 罪悪感もあるけど、やっぱりこういう訓練って手広くやるより一点集中で身につけた方がいいと思うんだ。


 でも悪い気はしたので日頃の感謝の気持ちも込めてジョセフィーヌさんに龍菓子を渡したら、後日信じられないような高級素材の山が届いた。


 俺が見てもわからなかったのでフィーネとユキ談だ。


 使い道が思いつかないので今もウチの倉庫で眠っている。



 そうして2か月が経とうとした頃、ついに特訓の成果が表れたのだ!



「ルーク・・・・体育でコケなくなったね」


「た、たしかに! クラス1の運動音痴と言われたルークさんが普通に授業を受けられていますわ!」


 まだまだ下から数えた方が早いものの着実に俺の運動能力は上がっていて、それを知ったクラスメイト達を震撼させてやった。


 ・・・・そう思うこと自体が失礼じゃないか?


 普段ヒカリとしかペアを組まないからわからないだろうけど、掴みかかろうとした手を振り払う護身術も身についているぞ。


 ありがとうベルダン。


「まぁやっと平均になったぐらいなんだけどね」


「おいおいヒカリさんよ。発明家が平均以上の運動神経を持ってたら他の連中の立場がないだろ? 頭で負けて、運動まで負けたら泣いちゃうぞ?」


 俺は空気の読める男なのだ。


 どこかの万能猫さんと違ってな。


 あえて誰とは言わないけど、たまたま隣に居たヒカリを見ながらそう言ってやった。誰とは言わないけど。


「え? わたし? ランキング戦で使えそうな技があったら使わせてもらおうとしてるだけだよ?」


 まさか自分とは思わなかったらしく、ヒカリはごく当たり前の事をしていると言う。


「下級生にフルボッコにされる上級生の気持ちも考えろ。しかも自分の技を真似された挙句、最高到達点をさらに超えた使い方されて・・・・。

 冒険者になろうとしてる人も居るかもしれないんだぞ。出ようとしてる杭を地面に埋め込むな」


 戦えるならまだいい。対峙した瞬間に意識を刈り取って保健室送りとかやりかねないのだ。


 最近の彼女は戦闘意欲に溢れているので体育の授業でもたまに見失い、気が付いたら100m先に居たりする。


「くっくっく・・・・学校の覇者の座はもらったよ!」


「やめて!? ヨシュアは諦めたけど国単位で大変なことになりそうだから!」


 イブから聞いた話では、王都セイルーン以外でもたまに格闘大会が開かれているらしく、そこで活躍した未来の勇者候補への勧誘合戦が激しいんだとか。


 大勢の前で獣人が実践向きの魔術や精霊術なんて使おうものなら・・・・恐ろしい。


 冗談だろうけど、俺の精神を脅かすのは止めていただきたい。



「では今日は椅子取りゲームをやりましょう」



 準備運動を終えてダラダラと雑談をしていた俺達の下に、特別講師のフィーネがそう言いながら乱入してきた。


 あ、話してなかったけどフィーネは月1ぐらいで現れては珍しい方法で俺達を鍛えていく。


 今回もいつも通りわけのわからない授業をするみたいだ。


「「「椅子取りゲーム?」」」


「はい、妨害ありの陣取りゲームです。相手を殴るもよし、椅子に座らせないように魔術で動かすもよし、座った相手を蹴りだすもよし。

 とにかく制限時間がなくなった時に座っていた人の勝利です」


 な、なんて恐ろしいゲームを・・・・。


 要はルールを決めて乱戦しろって事じゃないか。


 いつもの事なので全員が無理やり納得をして配置についたけど、その顔からは生気が抜け落ちている。


 そりゃ今から殴られるって思うとそうなるよな。


「わたしは守ってみようかな?」


「ファイ様、私の膝の上が空いていますの」


 逆に満面の笑みを浮かべるのは腕に自信のある奴か、サドっ気タップリな奴。


 それこそ罠を張って獲物が来るのを待ち構えている蜘蛛のような気分なのだろう。


 このゲーム・・・・戦う相手を見誤ったら、死ぬ!



「それではスタートです」



 フィーネの合図と同時に3クラス82人が一斉に動いた。


 椅子は20個。範囲は400mトラックの内側のみ。


 この狭い空間で5分も立っているのは、まず不可能。


 だから俺は真っ先に倒れた。


「あとはこのまま時間ギリギリまで力を温存して、勝てそうな相手に勝負を挑んで椅子を掠め取る!

 どうよ? この完璧な作戦」


「言ったら意味ないよね?」


「しまった!」


「「「・・・・(バタバタバタっ)」」」


 俺の周りに居たほとんどの連中が同じように倒れた。


 くっ、体力温存とか汚いぞ!


「しかしまだ甘い! 何も考えていない馬鹿共め!

 無謀にもヒカリやシィに挑んで叩きのめされて弱った奴を覚えるなんて考えもしないだろう」


「だから喋ったら意味ないって」


「ちっ、罠か!」


「「「・・・・(ジー)」」」


 ヒカリ達以外にも自分なりに強いと思う人を注視し始める面々。


 完璧に俺の作戦を真似している。


「・・・・ところでヒカリさんや」


「何?」


「なんで俺の隣に突っ立ってるの?」


 早々に椅子を奪って防御に回ると言っていた彼女が、開始からずっと俺の傍に居るのが気になっていたのだ。


 嫌な予感しかしないけど一応聞いておきたかった。


「聞きたい?」


「・・・・はい」


「それはね・・・・・・・やる気のないルークをボコボコにするためさー!」


 ズシン!


「きゃぁぁーーー!!!」


 俺の策略を『やる気のない』の一言で片づけたヒカリは、先ほどまで俺が寝転がっていた地面に拳を突き立てた。


 凄まじい威力と速度で繰り出された一撃は校庭に小さな穴をあける。


 その行動を先読みしていたからこそギリギリで躱せた俺は一目散に逃げ出した。


「・・・・ちっ・・・・他にフィーネちゃんの授業をサボろうとしてる悪い子は居ねぇか~」


 そして俺と同じ戦法と取っていた連中にも目を向けるハンターヒカリ。


 サササササッ!


 これまた俺と同じく全員が一斉に逃げ出した。


 ところでヒカリさん、小さく舌打ちしませんでしたか?




 結局、真面目に椅子取りゲームをやる羽目になってしまった俺は、名もなき少年と椅子を取り合ったけど負けて20人の勝者の中には入れなかった。


「でも頑張ってたよ。ぱちぱちぱち~」


 あの後、ヒカリは宣言通り近くの椅子を奪い取り、まるで曲芸でもするように椅子と一心同体になって迫りくる略奪者と激しい攻防を繰り広げていた。


 もちろん一度も奪われていない。


「まぁ相性が悪かったね」


「わたくし、遠慮されていた気がしますわ」


 ファイは俺と同じく椅子無し組。シィのファンからボコボコにされていた。


 シィも椅子を奪ったまでは良かったけど、そこから移動することが難しくてファイを助けられなかった事を悔やんでいる。


 アリスは勝者なんだけど、皆が領主の娘である彼女に気を使ってあまり本気で責められなかったようだ。


 そもそも椅子に座った無防備な女の子を殴るって時点で相当勇気がいる。


「まぁそのための魔術なんだろうな」


「だね。直接は手を出しづらくても、遠くから魔術で攻撃するだけなら罪悪感もないから」


 とある実験よると、死刑執行するために複数人で別々のボタンを押し、その中の1つだけ本物の執行ボタンって伝えると罪悪感が激減するんだとか。


 自分じゃない誰かがやった。きっと自分のは偽物だ。


 そう信じる事で人はどこまでも残酷になれると聞いたことがある。


 さらに匿名性が高かったり、その数が増えたり、戦いって大義名分が立つと、もう・・・・。



 本格的な戦闘を前に、そういう気持ちをゲームで理解してもらう授業だったのかな?


 ふっ、なんだかクサクサしちまったぜ。


 俺は人の心を無くしたくないから、そんな真似は死んでも出来ないけどな。


「言い訳してもランキング戦からは逃げられないよ」


 ・・・・はい。


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