二百八話 新しい指導者
ジョセフィーヌさんが作ったアスレチックを満喫してから1週間後。
再び連休を迎えた俺は、別の指導者が待っていると言われてベーさんの作ったダンジョンにやって来ている。
魔術で生み出された特殊な運動器具の数々を体験するのは楽しかったし、あの回転床とか迫る壁とか新作魔道具の構想に役立ちそうなのでもっと調べたかった。
まぁ彼らの魔術を解析出来るとは到底思えないけど・・・・。
それにしてもアリシア姉やヒカリもお世話になってるみたいだし、まさかあのベーさんがここまで役立つダンジョンを作るとは思いもしなかったな。
毎回ダンジョン、ダンジョン、言うの面倒臭いし、他の所と区別しにくいので『ベルダン』と名付けよう。
ベルフェゴールのダンジョン、略してベルダン。
「どう? ベルダン」
「ルークさん達しか・・・・来ませんし・・・・おーけー」
ダンジョンマスターの許可も出たからこの呼び名を広めておこう。
あ、今日のお供はベーさんだけ。
大人達は忙しいらしく、戦闘意欲に溢れているアリシア姉とヒカリは朝からベルダンに挑戦している。
早速使ってやったぜ!
道中ではアリシア姉とヒカリの成果を聞いて戦々恐々しつつ、寒い季節に最適なアイスを語り合った。
『雪見だ●ふく』が最強だろ?
もち米無いから作れないけど。
「そんな・・・・ばかなー」
何度も美味しい美味しいと聞かされて、完全に作ってくれるものだとばかり思っていたベーさんが嘆き悲しんでいたけど知ったこっちゃない。俺だって我慢してるんだ。
『前回はスイマセンでした! これ、遅ればせながら初挑戦のお祝いです!』
ダンジョンの入り口には見たこともない巨大甲冑のゴーレムさんが待っていて、金払って特注したと言う甲冑に対してツッコむ俺に花束を手渡してくれた。
ただ今から運動しようって時に渡されても邪魔でしかない。
「あ、ありがとう・・・・でも帰りの方が嬉しかったかな」
『!? ああぁぁ~、アリシアさんに教えてもらったことをまた忘れてました。ヒカリさんの時も失敗したんですよね・・・・』
なにやら同じミスばかりを繰り返しているらしいゴーレムさんは、鎧をガチャガチャ鳴らして俺に土下座した。
こっちがダンジョンを使わせてもらってる立場なのに、こうして歓迎してくれて、花束まで用意してもらって、しかも渡すタイミングが悪いというだけで謝罪される。
ここの人達、全員優しすぎない?
一応魔獣っスよね?
「どんまい・・・・(ぐぅ~)」
道中の暇つぶしに付き合ってくれたベーさんは、落ち込むゴーレムさんを慰めるとダンジョン前で寝始めた。
それを見てマスターのために布団の用意してあげる優しいゴーレムさん。
なんだこれ?
さて、ここに来るまで色々あったけどようやくダンジョンに入れた。
今日明日と連休なので筋肉痛になっても問題ないぞ。
・・・・流石に2日続くとか無いよね?
無いと信じよう。もしそうなったらフィーネに治してもらえばいいし。
「さあ! 今日は誰だっ!」
寝てしまったベーさんの代わりにゴーレムさんから3層に行くように指示されたので、俺は前回と同じく階層移動パネルに乗ってダンジョンの奥へ向かう。
「きゃぁぁぁーーー!」
移動を始める寸前に奥から悲鳴が聞こえたけど全く気にしない。
今日はアリシア姉&クロコンビやヒカリも居るので、その2人のどちらかだろう。
どちらの悲鳴だとしても俺がどうにか出来るレベルじゃないし、助けに行っても現場にすら辿り着けない自信がある。
俺は楽しく体を鍛えに来ただけなのだ。
「数時間後に会おうぜ。アデュー」
絶対に聞こえないだろうけど応援だけした俺は決意新たに別階層まで移動した。
あっちも頑張ってるみたいだし、俺も頑張らせていただきますか!
そんな俺を待っていたのは・・・・骨。
『よう、俺「ホネカワ」。漢字で書くと「骨皮」だ』
「和風っ!? そして安直っ!!」
ファンタジーで必ず登場するであろう骨人間の『リッチー』が馴れ馴れしく話し掛けてきたので、俺も思わず素でツッコんでしまった。
基本的に親しくなるまで猫を被っている俺に、たった一言でここまで本心を曝け出させるとは・・・・やるな。
この名前もベーさんが適当に付けたのかと思いきや、スケルトンの中でも個性を出すために自分で名乗っているらしい。
ネーミングセンスは無いな。
巧みな話術に底知れぬ恐ろしさを感じていると、ホネカワは『やれやれ』というジェスチャーをしながら話を続ける。
『おいおい誰に向って言ってるんだ? 一度聞いただけで覚えられる俺のためにあるような名前じゃないか。気に入ってるんだぜ?
この魔獣の巣窟でもここまでお似合いの名前のやつは他に居ない』
骨のホネカワ、たしかに覚えやすかった。
彼はそう説明しながら内部がくり抜かれた木を被る。
・・・・木を被る・・・・・・木に入る・・・・・・気に入る?
なるほどそういうヤツか。
でも俺は話の進行を優先したのでツッコんでやらない。
「そりゃ悪かったな。ところでリッチーって魔獣なのか? 魔族じゃなくて?」
『誤解させて悪いんだが俺はスケルトンだ。まぁリッチーなんかより強いけどな! 俺のアブミ骨でワンパンだぞ』
人体最小3mmの骨で倒せると豪語するホネカワ。
『・・・・詳しいな?』
「ふっ、ケモナーを舐めるなよ?
動物を愛するために骨格から体毛に至るまで調べ尽くしている。そして違いを知るためには当然人間の骨格にも詳しくないといけないんだぜ?」
ホネカワはアブミ骨について説明したかったのか悔しそうにしている。
『まぁホネカワだけど皮はないがな! 骨だけに! けけけっ!!』
・・・・。
『今日の指導料は金貨1枚ポッキリだ! 骨だけにポッキリってな! けけけけけっ!』
・・・・・・おーけー、おーけー。ツッコまれるまでボケ続ける気だな。後悔しても知らないぞ?
もはや遠慮は無用だ、と俺は運動するために入れていたギアを切り替えた。
「最近猫の手食堂で流行ってるラーメンって料理知ってるか?」
『あん? ・・・・聞いたことはあるな』
「あれ実は俺が考えたんだけど、出汁に砕いた豚骨を丸々1匹分ボーンッと入れてるんだよ。それをジックリコトコト煮込んで秘伝のスープの出来上がりってわけだ。コツは手間暇かけて6時間灰汁を取り除く事と、火力を一定に保ち続ける事。
麺にも鶏ガラを凝縮させた物を練りこむことで味に深みが出る、まさにラーメンは骨の髄まで使った料理ってわけだ。
そこまでしても値段は何と銀貨1枚! 売れば売るほどスープと麺作りに苦労するってんだから骨折り損のくたびれ儲けだよな。料理する方は粉骨砕身の思いで作ってるのに。
料理長のフェムからは『骨はもう見たくありません。砕く時のバキバキと言うあの音を聞くだけで心が折れそうになります』って愚痴を言われるほどだぞ」
『・・・・・・・・』
俺は最近の出来事を『とあるワード』を入れまくって話してやった。
聞いている間、そして聞き終わった後もホネカワは黙っている。
「おいおい、まさか骨ギャグが自分だけの専売特許とでも思ってたのか?
自慢のネタを取られて心がポッキリ折れちゃったか?」
ツッコミは戦争だ。
相手のボケに対してどれだけ早く、タイミングよく、そして適格な言葉でツッコめるかが勝負。
その戦場を生き抜いてきたツッコミ職人の俺が骨に関するワードを持っていないと思う方がおかしい。
『け・・・・けけ・・・・けけけけけけけけけけっ!!!』
突然爆笑を始めたホネカワ。
「ど、どうした?」
『嬉しい! 嬉しいじゃないか!! 俺のボーンテクニックについて来れる奴が居るなんて嬉しすぎて涙が出てるのさ!!』
そう言って全身を震わせながら俺を抱きしめてきた。
ボーンテクニックが何なのか、骨だから涙なんて出ていないってツッコミは野暮だろう。
彼は生まれて初めて対等の相手を見つけたのだ。
ホネカワがようやく落ち着いたのはやっぱり1時間ほど経った頃だった。
結局ダンジョンで楽しむ時間はおんなじなんだよなぁ・・・・。
「ところで本当に金取るの?」
『スマンスマン、無料だ。出来ればカルシウムタップリの牛乳欲しいけど。ほら、骨だから』
どこまで本気かわからない人だ。
『さて、随分遅れちまったが運動するか』
「おっ、いいね~。ジョセフィーヌさんの所ではマラソンと壁押しをやったけどここでは何すんだ?」
ようやくここに来た目的が果たせるらしい。
まぁ楽しかったし、交流を深められたから良いんだけどさ。
『そうだなぁ・・・・お互いの骨を砕くってのはどうだ!?
んで、それをくっ付ける』
ホネカワは手の中に生み出した骨を砕いて再生してみせた。
会って数分で言われてたら信じていただろうけど、友達になった今の俺からは彼が笑っているように見えた。
たぶんこの言葉を待っているのだ。
「意味がない事の連鎖、まさに愚の骨頂だな」
「「骨、だけに!!」」
・・・・・・。
ぱちんっ。
「「いえーい」」
ほら息もぴったり。
俺達はハイタッチしてお互いを褒めあった。
『やるじゃねえか』
「アンタこそ」
『全く・・・・ここまで俺の骨ジョークについて来れるなんて最高だぜ』
んで運動まだ?