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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
一章 オルブライト家
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プロローグ3

「ところで神様の名前はなんて言うんですか?」


 転生先の世界について色々教えてもらったにも関わらず、この人の名前を聞いていないことを思い出した俺は、親切にしてもらったお礼に神殿の1つでも建ててあげようと名前を尋ねた。


「私の名前は《アルディア》です~。惑星と認識できる人が居ないので私の名前を勝手に付けたんですよ~」


 なるほど。そりゃ『地球は青かった』とか言える文化レベルじゃないみたいだし、自分の住んでる星の名前なんて知らなくて当然か。


 ややこしいけど建てるとしたらアルディア神殿で良いかな?


「神殿で統一されてるので気にせずどうぞ~」


 何がどうぞなんだろう……って既に崇められてるのね。


 それにしても、よくこんなナリした神様を信仰しようと思ったな。まぁ神託を授ける時はちゃんとした格好をするのかもしれないけど。


 贅沢を言える立場ではないが、神様なら神様らしくそれっぽい恰好でそれっぽいセリフを言って欲しかった。


 例えば、ヒラヒラした薄いドレスと羽衣を身に付けて、サラッサラの金髪ロングで杖とか持って、「あなたは亡くなったのですよ優一様」と囁くような癒しボイス。


 百歩譲ってもうちょっと見た目に気を遣えばいいのに……折角の美人が台無しだ。


「誰が神界一の美人ですか!」


 言ってねぇし、怒るようなことでもないだろ。


「いや俺は良いんですよ。でも信者が見たら幻滅するんじゃないかな~って」


「地球の神様と現世アニメについて対談してたら優一君が運ばれてきたので普段の格好なんですぅ~。仕事中はもっとしっかりしてますぅ~」


「容姿に力入れる前を見せられたら入れた時に誰かわからなくなりそうなんですけど……今後に響くと言いますか……」


「ヒラヒラしたドレスや長い髪は鬱陶しくて嫌いですし、褞袍どてらに包まれるのが好きなんです。人の私生活に文句つけないでください」


 思った通りだらしない神様だった。


 ふとした瞬間に私生活のだらしなさが出ても知らんぞ。



「まぁまぁ、優一君もいずれ神様になったらこの気持ちわかりますよ~」


「……は?」


「それが転生者の条件なんです。神様候補と言いますか~、気になってたでしょ?」


 神様はサラリと驚愕の事実を告げた。


 正直、気にならないと言ったら嘘になるけど、そんな宇宙の真理をアッサリと……。


「それ言っちゃっていいんですか?」


 流石にどうなんだろうと思って率直な感想を漏らすと、神様は「簡単な条件じゃないので問題ないです~」とあっけらかんと言い放つ。


 ならいい……のか? こちらとしては情報は多い方が良いから助かるけど。


「だいじょぶ、だいじょぶ~。なにせ神様公認ですから~。

 ところで優一君は何故引きこもりになったんですか?」


 一体どんな関係があるのかはわからないけど、流れそのままに神様はそんな質問をしてきた。


 俺が引きこもった理由か……。


「『人と接するのが苦手になったから』ですかね。元々他人に合わせるのは得意じゃなかったんですけど、社会人になってからはさらに悪化しました」


「簡単じゃないと言ったのはまさにそれです~。君は良く言えば『世界一のお人よし』、悪く言えば『究極の社会不適合者』だったんです~」


 神様相手に嘘を言っても仕方ないので生前の事を話すと、神様から罵倒とも思えるような言葉が飛んできた。


 酷い言われようである。確かに社会生活は無理だったけどそこまで言わなくても……。


「『考えるより先に行動する』って言葉があるらしいじゃないですか。それは絶対にあり得ませんからね~。人間は常に利害を考えて行動する生き物なんですよ~」


 不満気な俺を見た神様が例え話を始めた。


 まとめるとこうだ。


 普通、人助けをする時は『この後の展開』『トラブルに巻き込まれる可能性』『周りの視線』『自分への評価』など、助けるメリットとデメリットを考えてしまう。


 でも俺にはそれが無い。

 

 愚直なまでに人の役に立とうと頑張った。助けるために必要な事だけを考えていた。


 その通常ではあり得ない精神構造によって人々と同じ生き方が出来ず、利用され、貶され、1人の世界に閉じこもったと。


 どこまでも純粋で穢れの無い、とても美しい魂。


 それが俺らしい。


 精神的に別の生物だと言われたよ。


 そんなヤツが普通の生活なんて出来るわけないか…………。


「ちなみに神様候補以外は『後悔』『諦め』『恨み』といったネガティブな感情を持って亡くなるので、長い年月かけてその魂を浄化して混ぜ合わせて完全に新しい人格で生まれ変わりますね~。

 優一君も何かしらの恨みを抱えたままだったらそちら側の魂になっていたんですよ~」


「…………」


 神様はショックで固まる俺を無視して話を続ける。


「その心を持ち続けられる人が神様候補として何度も転生できるんです~。世界の監視者になるためには強い精神が必要になりますからね~」


 さり気なく自分は強い精神の持ち主だと自慢されているのはさて置き、俺は来世があれば幸せのために死ぬ気で努力するつもりだった。


 あんなつまらない人生を送るのは俺だけで十分だ。


 そう決心してからチャンスが貰える。それはどれほど幸せな事だろうか。


 俺の力で、異世界の技術で皆を笑顔にして幸せな世界を作り出せるかもしれない。


 そう考えると自然と笑みが零れた。



「神様として忠告しますけど、他人と合わせるのも大切な事なんですよ~?

 悪に染まれとまでは言いませんけど、他人と苦楽を共有するのも人生を楽しむコツですからね~」


「言われてみればたしかに引きこもってから感情の起伏が減っていたような……」


「でしょう~? でも素晴らしい考え方ではあるので、あっちでもその心を忘れないでくださいね~」


「はい!」


 俺は人生の大先輩からのアドバイスを心に刻み込んだ。




「では送り出しますよ~」


「能力をもらってませんけど!?」


 このままでは話が終わってしまうと悟った俺は、さきほどの感動的なアドバイスの時よりさらに大きな声で叫んだ。


 一番大切な事だ。転生しても前世と同じ生活とか嫌すぎる。


「魔法があるので大丈夫です~。あと運を一般人と同じぐらいにしました~」


「運で何をしろと!? せめて最高レベルとか、悪運によって絶対防御になるとか!」


 その慰めにもならない強化だけでは足りないと、俺は生前考えに考えていた案を採用してくれるよう頼み込む。


 チート能力が欲しいわけじゃないけど何も出来ずに寿命を迎えるのは嫌だ。


 魔法があるってことは逆に言えば相手からその攻撃を受けるわけで、不慮の事故で一発アウトな可能性も十分あるわけで!


「転生先でもニートになられたら困るので精神の調整はしておきますね~」


「あ、それはお願いします。普通の生活をしてみたいんで」


 神になる者は色々な体験をする必要があるって言ったしな。


「最近は信者が少なくなってるせいで神力が減少気味で衰退してるんですよね~。

 頑張って信者を増やしてくれたら私が喜びますよ~。容姿も凄いことになりますよ~。光輝いて直視できないキラキラですよ~」


「待って、今スゴイこと言った! 衰退してるって言った!」


「いってらっしゃ~い、お元気で~」


 神様が手を振るとよくある感じのワームホールが現れ、間違いなく異世界に繋がっているであろうゲートに俺の身体(?)は吸い込まれていく。



「話を聞けよ、この駄女神がっ! さては能力を授ける事ができないな!? 衰退世界の神だから!!」


 コイツは無理やり送り出そうとしている。


 そう確信した俺は、唯一の抵抗手段である口を使って罵倒。


「誰が駄女神ですかー! ヒキニートの駄目人間くせに! やりますか~? あぁ~ん?」


 これに怒った神様は俺の胸倉(?)を掴んでガンを飛ばしてきた。


 まさか成功するとは思わなかったが、この状況はある意味助けてもらったと言えなくもない。


「誰が引きこもりでニートだ! 貯金を切り崩して人と会わないように活動してただけだ!」


「それがヒキニートって言うんですぅー。社会と接しない人間はみんな同じこと言いますぅー」


「んだとコラァ!?」


 ――と、これじゃあダメだ。


 まるで絶対に吸い込んでやると言わんばかりに吸引力を強めるゲートは、こうしている間にも確実に俺を奥へといざなってやがるのだ。


 相手が手を放したら敗北する状況で喧嘩を売ってどうする。


 俺は必死に考えを巡らせて、本性を曝け出した神への起死回生の一手を導き出した。


「ごめんなさい、美しくて有能なアルディア様! 俺が頑張って信者を増やしたら能力くれますか?」


 そうっ、成長したら強キャラになればいい。大器晩成型だ! 最初は金を稼いで、それから最強の魔術師に――、


「無理で~す♪」


 神様は良い笑顔で大きく×を作った。


 ……両手で。



「ちくしょーーーーーー!!!! 覚えてろーーーーっ!!」


「いってらっしゃ~い」


 こうして俺は能力のないまま転生させられた。

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