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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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閑話 クリスマス終了のお知らせ

 ルーク達がクリスマスパーティをしている同時刻。


 男女比8対2のロア農場でも同じようにクリスマスを祝っていた。


 クリスマス発案者であるロア商会は率先して盛り上がるよう指示されていたし、そんなものが無くても宴大好きな集まりなので勝手に盛り上がる。


「「「メリークリスマス!!」」」


 食卓にはチキン、パン、ケーキなどのクリスマス料理が並べられ、家族同然の従業員達は酒を飲んで浮かれ騒いでいた。


「メリー・・・・(モグモグ)」


 その輪から少し外れて地面に置かれたケーキを食べるベルフェゴールも楽しんでいる。


「ベルフェゴールよ、私の話を聞いてたか? いや絶対聞いてないだろ?

 もう一度説明するからケーキを食べながら聞いてくれ」


 さらにその正面では今までの喧嘩腰とは違い、この転がり元魔王に相談のあるアルテミスがしゃがみ込んで会話を試みている。


「(モグモグモグモグ)・・・・メリー?」


 が、一向に通じる気配はない。


「だから私の話を」


「あぁ、コイツがこうなったらもう無理よ。ケーキに集中し過ぎて他の事は頭に入って来ないから。

 急ぎだったら諦めなさい。急ぎじゃなければアタシが後から言っておくわよ」


 付き合いの長いルナマリアはそう言って、床に敷き詰められたケーキを貪り食っているグータラに話し掛けるのを止めさせた。


 納得したアルテミスは会話するのを諦め、話のわかる彼女に相談を持ち掛けることにした。


「そ、そうか? 助かる。

 実はな、王城の地下にウチの騎士団を鍛えるダンジョンが作りたいんだ。いざという時の逃げ道と合わせて訓練場として使える巨大な通路がな。

 コイツは二つ名で怠惰と言われるぐらい怠けた奴だが、地に関しては間違いなくトップクラスの実力を持っている。聞けば山にダンジョンを掘ったらしいし、王城にも同じような事をしてもらいと思って。

 急ぎじゃないんだが数年のうちに頼めるか?」


 アリシアがそこで鍛えてもらっていると聞いたアルテミスは、王族を守る騎士団にも専用のダンジョンが欲しいと言う。


 対人戦なら今でも十分だが、相手が魔獣となれば勝手は違ってくる。


 実践とは何よりも貴重な訓練なのだ。


「過保護じゃない? 王都の外にだって魔獣は居るし、それこそダンジョンだってあるんだから、そこで鍛えれば済む話よね」


「まぁそれはそうなんだが・・・・。

 実は最近各国の戦力を調べに行ったら人間側が圧倒的に弱い事が判明したんだ。それこそ親類関係にあるオラトリオ領なんかが攻めてきたら壊滅するぞ。かと言っていつまでも私に頼られても困る。

 だからこそ現状を打開する訓練方法が必要だと考えた」


「なるほどねぇ。その結果が安全なダンジョンってわけか。

 致命傷がわかるし、危険を冒して色々挑戦も出来る。格上相手と対戦し放題で、トラップにも詳しくなれる、と。その辺はアリシアと同じね」


「ああ! 彼女は会うたびに強くなっている。それと同じ効果のある高性能なダンジョンを是非セイルーン王都に!」


「「「おおぉぉーっ!」」」


 パチパチパチパチ!!


「・・・・」


 立ち上がって周囲に呼び掛けるような演説を終えたアルテミスは、食堂中の酔っ払い達から拍手されて照れている。


 盛り上げ係として一芸やったと思われたのだろう。


「ま、説明するだけ説明しておくわ。コイツが掘る気になるかどうかは別だけど」


「メリー・・・・」


 アルテミスが手土産に持って来たアイスも完食したベルフェゴールは、次の標的を七面鳥に変えて手を付け始めた。


 今の気分はクリスマスなのだ。


((駄目そう・・・・))


 不安しかない2人だが、このままでは用意した全ての料理を食べられかねないので、話し合いを打ち切ってパーティを楽しむことにした。




「なん・・・・ですと・・・・っ?」


 宿舎に泊まった25日の朝、ワクワクしながら寝床のプレゼント入れを確認したベルフェゴールは、その何も入っていない袋を見て愕然とすることになる。


 何かの間違いだと思って(彼女なりに)急いで食堂へ向かい、朝食を取っていたルナマリア達に確認すると「サンタさんがプレゼントをくれるのは子供だけ」と言われてショックで泣き崩れた。


 そして決意する。


「この絶望・・・・地面を掘らないとやってられません・・・・。

 土地を、広大な土地を私に・・・・」


 普段なら目に入った山を削っている所なのだが、今居る場所は怖い怖いフィーネの所有地。


 もしも本能の赴くままに掘ろうものなら、怒ったフィーネによって空中に吊るされて二度と地面に触れられなくなるかもしれないのだ。


 だからこそ彼女は土地を求めた。


 ベルフェゴールは今、仕事熱心な掘削機と化したのである。


「あるぞ! 掘って欲しい所が!!」


 それを見逃すアルテミスではない。



「みっちゃんさん、おはようございます。こんな朝早くにどうしました?」

「昨晩はお楽しみでしたね」


 まさかの僥倖に急いでイブを回収しようとオルブライト家へやって来たアルテミスを出迎えたのはフィーネとユキ。


「おおっ、おはよう! たしかに楽しかったけど今はそれどころじゃないんだ!

 イブは!? イブはどこに居る!?」


 手早く説明された2人が庭を見ると、ベルフェゴールが地面をイジイジとほじくっていた。


 このままでは間違いなく掘られる!


 そう思ったフィーネは急いで寝ているイブをアルテミスの背中に乗せ、掘削機をヨシュアから連れ去ってもらうことにした。


「若人よ。そんなに急いでどこへ行く」


「いや、だから王都だ」


「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか。

 どれ・・・・この老人も1つ手助けさせてもらうとするかな」


 そう言うとユキは飛行を補助するようクリスマスで溢れかえっている精霊達に命令した。


「ユキはどうしたんだ? いつにも増しておかしいんだが」


「祝われて喜んでいるのですよ。

 ・・・・はい、これで2人が落ちる事はないでしょう。安心して全速力で帰ってください」


「助かる!」




 フィーネによって厳重に縛られたイブとベルフェゴールを乗せて、アルテミスは急いで王都へ飛んで帰り、『ここ掘れベーさん』とばかりに彼女を王城の地下に放置した。


 目覚めたら愛するルークの隣ではなく神獣の背中の上だったイブは当然激怒。


 それでも帰って来たからには挨拶しようと自室に居るユウナに会いに行く2人。


「どうせ夕方には帰る予定だったんだし、そう怒るな」


「その半日が大切だった。プレゼントももらってない。クリスマスの準備をしただけ」


 それも間違いなく楽しかったのだが、本番を迎える寸前で取り上げられてしまったイブの不満は計り知れない。


「あら? もう帰って来たの?」


「・・・・(ブスッ)」


「ああ、前から言っていた地下の作業がトントン拍子に進んでいてな。往復する時間もなかったから連れ帰って来た。

 たしか今晩から諸外国に訪問予定だったな?」


 アルテミスが事情を説明するも、強制連行されたイブの怒りは収まることなく不機嫌な顔で不貞腐れている。


 片道数時間。今後の予定を考えると仕方ないと諦めつつも納得できそうにはない。


「あら? 言わなかった? アルテミスさんが乗せてくれるって言うから出るのは明後日よ?

 だから今日もルーク君の家に泊まって良かったのに」


「っ!!」


 バシバシバシ!!


 ただでさえ短い時間しかルークと過ごせなくて不機嫌なのに、まさかの1日前倒しをされたイブはさらに怒りのボルテージを上げた。


 アルテミスが間違わなければクリスマスイヴ、クリスマス、その両方を楽しめたのだ。


「痛い痛い。そ、そうだったか? まぁ城の連中のためだと思えば・・・・はい、スイマセン」


 両手両足では足りず、今にも噛みつきそうなイブにいつも通りの土下座をして謝る神獣アルテミス。


 プレゼントとして渡すはずだったルーク手縫いの手袋をユキが持ってくるまでこの不機嫌は続いた。


「みっちゃんが一緒じゃなければハロウィン、学園祭、クリスマス、全部ルーク君と過ごせた」


「果たしてそうかな? 私の高速移動がなければ無理だったんじゃないか?

 移動時間を考えればプラスマイナスゼロだろ」


「・・・・今度から送り迎えだけお願いする」


「私も遊びたいから却下だ」


 誰が悪いのか、と聞かれればタイミングとしか言えない絶妙に噛み合わないルークとイブであった。




 一方放置されたベルフェゴールはひたすら地面を掘り続けていた。


 古いながらも逃走路はすでにあったので、それを拡張しつつ無計画に掘っているとアルテミスや王族達が慌てた様子でやって来た。


「そこまでだ!!」


「・・・・何故? 私の体は地に飢えている・・・・止めないでいただこうか」


「地盤沈下しそうなんだよ! 今すぐに出ていけ!!」


 これが寝床ならば計画的に掘っただろうが、今回はあくまでストレス発散が目的なので地上への影響を考えていなかったベルフェゴールは退去を命じられてしまう。


 それを想定せずに場所を提供したアルテミスも悪い。


「・・・・帰り道を掘れば?」

「そうだな。前にだけ進んでいれば地上への影響も出ないだろう」


「イブさん・・・・ナイスアイディ~ア~」


 まだまだ鬱憤が晴らせていないベルフェゴールは、これ幸いとばかりに地面を掘りながらロア農場へ帰っていった。


 王都・ヨシュア間に小さな洞窟が開通した瞬間である。

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