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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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二百話 クリスマス3

 精霊達が活性化を始めて5日が経ち、人々はその超常現象に慣れつつあった。


 街から外に出る事の少ない俺でも感じた変化は『空に輝くオーロラ』と『浮遊する光』だな。


 ユキが命令したあの日以降、暗くなると空に靄が掛かりだして、今では一晩中オーロラが見えるようになっている。


 別名『光のカーテン』とも呼ばれ、精霊が放つ光と魔力が複雑に絡み合って起こるその現象は昔から一部の地域で発生していたらしいけど、全世界一斉に現れるのはもちろん初めてだ。


 んで少しでも間近で見ようと夜に暗い山道を登ってオーロラを眺めるカップルが増えたんだとか。クソが。


 浮遊する光について特に語ることは無い。


 1時間ほど街をうろつけば1度は見れる物で、フィーネ達曰く「気分が乗った精霊の輝き」との事。


 精霊の中にも目立ちたがりな奴が居るんだろう。


 まぁ捕まえられるもんでもないし、迷惑するわけでもないので、影響としては子供が追いかけて遊んでるってぐらいだな。



 と言ったように静かな盛り上がりを見せるクリスマスは、今から盛大なパーティタイムに突入する!



「ルーク君、メリークリスマス」


 予想通りみっちゃんに乗ってオルブライト家へやって来たイブが俺と会うなりそんな挨拶をした。


 俺は教えてないのでユキから聞いたんだろうけど、少し間違っている。


「いらっしゃい。

 でも本番は明日だからメリークリスマスは明日言おうか。今日はクリスマスイヴだな」


「私?」


 クリスマスと一緒に名前を呼ばれたイブが首を傾げてキョトンとしながら自分の事を指差す。可愛い。


「いやイブじゃないぞ。クリスマス前夜の事をイヴって言うんだよ。下唇を噛むようなヴ発音だから間違えない様にしないと、知らない人から連呼される事になるぞ」


「私の日みたい・・・・364回付ければ毎日が記念日」


 相変わらずコミュ障のイブは、誰かれ構わず名前を呼ばれると聞いて震えながらも嬉しそうだ。


「感動がなくなりそうだから年1ぐらいが丁度いいと思うけど。誕生日みたいにな」


 名前が似てるからと喜ぶイブを諭しつつ、さり気なく誕生日の事を匂わすテクニシャンな俺は早速子供達を集めてクリスマスの準備に取り掛かる。


 彼女も今日はウチにお泊まりなので時間はタップリあるから、手間の掛かるもの以外は一緒に作ろうって計画なのだ。


 あ、みっちゃんはベーさんと話があるとか言って山に行ったよ。


 喧嘩したら龍菓子を封印すると脅しているので2人きりでも何も起こらないはずだし、近くにはルナマリアも居るから大丈夫だろう。




「さぁ、好きなように飾るがいい!」


「「「おー!!」」」


 まず俺達が取り掛かったのはツリーの飾り付け。


 色取り取りのリボン、フェルト人形、文字盤なんかは用意してあるので、後は気の赴くままにデコレーションするだけだ。


 ツリーに関しては緑の葉を1年中つける常緑樹なら何でも良い事にしている。


 大切なのは樹木じゃなくて、それを飾る事によって精霊達に仲間がいると思わせる事にあるからな。


 ほら、イルミネーションの中に不思議な光が混じってても違和感ないだろ?


 出来れば全属性の色を取り入れてもらいたいけど、まぁそこは各家庭のお財布事情と相談してくれ。


 と言うそれっぽい由来を説明すると、アリシア姉もヒカリもイブも全く疑問に思うことなく夢中で飾り付け始めた。


 もちろん俺も負けてはいられない。



 フィーネとユキは街の中央に巨大ツリーを製作すると意気込んでいたから今もそっちに掛かりっきりだ。


 どこからか仕入れてきた大樹を街の人々とクリスマスツリーに改造している。


 俺が止める間もなく『カップルで願い事を書いた飾りを吊るす』と言う恋人専用の短冊みたいなイベントにしやがったんだ・・・・。


 当然そこには忌まわしき爛れた関係の男女が大勢居るだろうから近寄らない。



 一方こちらは室内で、家族と、平和に、楽しく、ツリーの飾り付けをしている最中だ。


 ただこの作業・・・・。


 集中し過ぎて無言になる。


 まぁ子供組が製作した中でどれが1番か母さんに決めてもらおうって言い出した俺が悪いんだけど、負けず嫌いな3人は若干ピリピリしている。


(((ルーク(君)に褒めてもらう!)))


 その真剣な表情からは並々ならぬ決意を感じるので話し掛けづらいけど、折角のパーティなので盛り上がりたいじゃないか。


 そんな時こそ楽しいトークだ。


「イブ、最近学校はどうだ?」


「・・・・(ピクッ)」


 別に仲が悪いから無難なテーマでしか会話できないわけではなくて、彼女の私生活についてはほとんどユキから情報が入るし、日頃からイブと通話もする。


 だから俺の知らない事と言えば、彼女が全く話そうとしない学校生活の事だけだ。


 その理由は『王女としてチヤホヤされる充実した学校生活を送っているから』だと予想したんだけど、手を止めたイブは静かにこちらを振り向き、


「王族の義務だから通ってる・・・・ただそれだけ・・・・どうでもいい場所。

 家庭教師で十分」


 いつも以上に抑揚のない声で学校の存在を全否定した。


 目から光が消えている。闇イブさん降臨だ。


「お、おい・・・・どうしたんだよ? 何があった?

 ほら友達のニコが居るだろ? 男で良ければワンやスーリも居て楽しい学校生活じゃないか」


「・・・・この前、ニコちゃんが病欠した」


 優しい少女の突然の豹変ぶりに動揺しながら質問するとイブは何やら語り出した。


 闇堕ちした理由を黙って聞くべきだと判断した俺は手を止めて話の続きを待つ。



「・・・・そしたら先生が・・・・2人ペアになりなさいって」



「辛かったな! 泣いて良いんだぞ!!」


 その一言で全てを理解した俺は力一杯イブを抱きしめた。


 入学して1年が経とうとしているけど未だにセイルーン学校での女友達はニコ1人のイブがどんな目に遭ったのか、わかるだろ?


 そうさ! 誰とも組めずに先生と組まされたんだよ!!


 相方が休んだ時の絶望感、周囲の輪に入れない孤独感、それを見た人達からの憐れむ目線、そして沈黙。


 幼い少女はあの仲間外れにされる感覚を味わってしまったのだ。


「体育だった・・・・準備運動は・・・・身長差があって出来なかった。

 その後の美術の授業でも・・・・音楽の授業でも・・・・・・先生と」


「もういい! もう良いんだ!! 止めてくれ!!!」


 しかも同日の内に何度もあったと聞かされ、俺は気が付くとイブと一緒に泣き出していた。


 気遣って声を掛けたクラスメイトも居ただろうけど、王女として扱われるのを嫌うイブと共通の話題が無く、万が一にも怪我をさせたり不快な思いをさせたら一族諸共どんな目に遭うかわかったものではない。


 その結果、彼女は誰からも相手にされず先生と組むことになったのだ。


 それはもう立派なイジメだと思う。


「だから学校は嫌な場所。社会の縮図。会話の苦手な友達少ない子が泣きを見る」


「ようこそ、リア充撲滅委員会へ。

 我々、非リア充はアナタを歓迎します」


「よろしく」


 俺達は固い握手を交わし、そして抱き合って『こんな近くに仲間が居る』と安堵する。


 イブとの絆が深まった。



「ねぇ、イブちゃんが順調(?)に汚されていってるんだけど・・・・止めた方が良いかな?」


「普通なら間違いなく止めるべきよ。ただルーク信者のイブが幸せそうなのが悩みどころね」


 ツリーづくりを続けていたヒカリ達が恐ろしい話をしているけど、1人で居たら自然と話しかけられる友達いっぱいのリア充な君等にはわからない感情だろうな。



 それから俺とイブは2人で協力して大作を作った。


 秘策のオリジナル蛍光灯を持ち出した俺にアリシア姉達から批判が殺到したけど知った事か! 悔しかったら作って見ろ!


 テーマは『幸せ』、俺とイブの未来を描いた作品だ。


 俺とイブが手を繋いでいて、その周りで祝福するように全属性の精霊をイメージしたイルミネーションが輝いている。


 もちろん審査委員長の母さんから最高評価をされて優勝した。


 ・・・・裏テーマの『2人だけでも大丈夫』がバレた瞬間、取り消されたけど。


 密告者はヒカリだ。


「まあ! 良いじゃない! 色彩鮮やかだし、誰が見てもルークとイブちゃんだってわかるわよ」


「エリーナちゃん・・・・これ、他の人は邪魔って考えもあるんだよ」


「・・・・アリシアはちょっとゴチャゴチャしてるし、ヒカリが優勝で」


 ってね!


 そこまでして勝ちたいか!?


 俺達は同性の友達が少なくても平気さ。本当だよ?




 さて、ツリーが出来たら次はクリスマスケーキ作り!


「「頑張って」」


 料理の出来ないアリシア姉とイブから応援されるだけでしたけどね。


 せめて手伝いはしてもらおうと思って誰でもできる簡単な作業を任せてみたんだけど・・・・。


「難しい」


 イブは卵を割ろうとして失敗。殻がほとんどボウルに入った。


「ほ、ほら。よく混ぜろって言われたから」


 アリシア姉がボウルに入ったクリームを勢いよくかき混ぜたら半分以上飛び散った。


「し、仕方ない・・・・イブは最後に生クリームを塗って、アリシア姉はフルーツを乗せてくれるか」


「じゃあ、わたしは不器用な2人が失敗しそうなプレートの文字入れやるね。メリークリスマスって。

 雪をイメージしたデコレーションはルークがやって」


「了解。あ、クリームが固いから塗る時は注意しろよ。フルーツは全種類を均等に」


「「・・・・」」


 真実は時に人を傷つける。


 ケーキ作りをするための的確過ぎる指示を受けた2人が泣きそうになっているけど、日頃から料理してない君達が悪い。


 それでも一緒に作った事には変わりない。


 そんな楽しい準備段階。



 明日の夕方にはイブが帰るので、クリスマスイヴだけど前倒しでパーティをやった。

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