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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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閑話 学園祭 イブ編

 ヨシュア学校の学園祭が始まった同時刻。


 王都セイルーンにある城で第4王女と神獣が会話をしていた。


「今日はルーク君の学校の学園祭」


「そうだな」


「ルーク君は模擬店で魔獣のお肉を販売する」


「そうだな」


「珍しいお菓子を売るお店はないからベーさんは居ない」


「・・・・そうですね」


「今回こそ、みっちゃんは私と一緒にお祭りを楽しむ事」


「その節は本当にスイマセンでしたっ!」


 ハロウィンでは頭に血が上って失態を犯したアルテミスは、床に頭をこすりつけながらイブの付き添いをすると約束した。


 これから2人はヨシュアへ向かい、昼頃から学園祭参加の予定である。


 

 最近覚えた不可視結界で周囲から気付かれる事なく王城を飛び立ったアルテミスは、自らの背中に跨っているイブに何気なく話を振った。


『なぁ、やっぱりルークに連絡しておいた方が良くないか?』


「ダメ。恋人でも夫婦でも刺激のある生活を送らないと『けんたいき』になるから」


『・・・・それマリーから聞いただろ?

 倦怠期って、どうせアイツも恋愛経験なんて無いんだから適当に言ってるだけだぞ。気にする必要はないと思うんだが』


「私もルーク君をビックリさせたい」


 前回の反省を活かすことなく突然ヨシュアを訪れたイブがどうなるのか・・・・。


 考えるまでも無い。




「ほほぉ~、大盛況じゃないか」

「・・・・凄い人」


 大勢の人で賑わう校内に入った2人の目に最初に飛び込んで来たのは巨大な垂れ幕。


 そこには3年生から5年生まで十数クラス分の、いや有志による無料イベントも行われているので数十に渡る宣伝文句が書かれていた。


 中でもアルテミスが注目したのはドラゴンフルーツ関連の店だ。


 ロア商会の広報として王都で布教活動に励む彼女ですら、どんな店なのか想像できない文言が書かれているのだから気にならない訳がなかった。


 どちらにしろルークのやっている魔獣肉店を探す必要がある2人は、辺りをキョロキョロと見回しながら人混みの中を歩き始める。



 そしてすぐに立ち止まった。


「これが龍菓子だと!? バカを言うな!

 餡子と衣の比率が間違っているし、龍フルーツの下処理も甘い、しかも隠し味にフルーツの皮を入れないとは何事かっ!

 いいか!? ここはこう! こっちはこうだ!!」


 学生達が見よう見まねで作った未熟な龍菓子を発見したアルテミスが我慢できずに指導を始めたのだ。


 彼らなりに一生懸命作ったようだが、ドラゴンフルーツの前では赤子だろうと老人だろうと等しく扱うジャンキーには関係なかった。


 学園祭初のクレーマーに捕まった不幸な店、第1号である。



 そのクレーマーがまさか王国最強の守護神『神獣』であるなど夢にも思わない学生達は、突然の商品批判にどう対処すればいいものかわからず慌てている。


 身内の恥を晒しているも同然なのだが、それもまた楽しみだと寛大な心で待ち続けるイブ。


 が、流石に時間が掛かり過ぎているので止めに入った。


「みっちゃん・・・・約束」


「ま、まぁ待て! 龍フルーツが凄い食材だと判明して色んな生徒が調理に挑戦しているらしいぞ。まずそこから見て回ろうじゃないか」


「1か所だけでもこれだけ時間掛かったのに?」


「イブの保護者である前に私は龍菓子広報なのだ!!」


「イヤ。ルーク君と会う」


「ならば別行動だぁぁああああっ!!」


 日頃『約束を守れ』と口を酸っぱくして言っているアルテミスだが、入場20分で早々に意見が対立してしまい1人どこかへ走り去っていった。


 いや・・・・『どこか』ではなく間違いなくドラゴンフルーツ関連の店に居るだろうが、追いかけるほどイブは行動派ではないし、彼女としてもルークの方が優先度が上なのだ。


 結局彼女は1人で学園祭を回る事になった。


 ハロウィン以上の人混みとは言え、人気店に集中しているだけで通路にはそれほど人が居ないのでこのぐらいならギリギリ1人でも平気らしい。


 さて、これが第一の事件。



 そして第二の事件も同時に起こる。


 これが朝だったなら巨大なドラゴンの肉が目に入っただろうが、残念な事にアリシアを始めとした肉切り分け組が頑張ってしまったため、少女の目には巨大肉が見えなかったのだ。


 つまりは見当違いの方向へと向かうイブ。


 そこは校内だった。




「あら? イブじゃない。久しぶりね」


 イブが1人で校内をウロウロしていると、珍妙なフルフェイスマスクをつけた女性から声を掛けられた。


 どこかで見た事のあるマスクだが中々思い出せないイブは不信がって女性から距離を取る。


「・・・・誰?」


「あぁ。アタシ、ルナマリアよ。

 今フィーネにお願いされて食料を運ぶ手伝いをしてる所なんだけど、エルフってバレると面倒だからアリシアが愛用してるヨシュアレンジャーの仮面をフルフェイスで作ったの。

 まぁこれのせいで子供から絡まれるようになったけど・・・・」


 彼女は人間嫌いだが、声を掛けられなければ人混みでも平気らしい。もちろんフィーネからの頼みでなれば絶対に来ていないだろうが。


 マスクこそ外さないものの、その正体がルークと親しい間柄のルナマリアであることが判明してイブは安心して近寄っていった。


 変装の理由も教えてもらえたのだが、そんな事よりイブが気になったのは別の事である。


「ベーさんも来てるの?」


「え? 来てないけど・・・・どうしたのよ?」


「私、みっちゃんと来たから」


「・・・・アンタも大変ね。でも安心して良いわよ、アイツ絶対ここには来ないから。

 学園祭にはちょっと興味あるみたいだったけど、アタシが『人が多すぎて転がすスペースは無い』って言ったら震えてたのよ」


 度重なるアルテミスとベルフェゴールの対立を知っているルナマリアは心の底から少女に同情し、そして安心させた。


 移動手段が『転がる』のベルフェゴールはこの大勢の中だと間違いなく邪魔でしかなく、束縛を嫌う彼女としても身動きが取れなくなるのは恐ろしい事なのだろう。


「歩けば良いのに」


「アイツの事だから歩き方すら忘れてる可能性あるわね。

 おっと、アタシも急いでこの卵と牛乳を届けないと品切れになるかも・・・・。

 学園祭は盛り上がってるしイブも楽しんでいきなさいよ」


 模擬店に食料を届けなければならないルナマリアはそれだけ言うと走り去っていった。


 イブもそれを止めるほど野暮ではないし、これといって話したい事があるわけでもないので「バイバイ」とだけ小さく言って別れる。


 彼女にはルークを驚かせると言う重大な使命があるのだ。




 そしてついにその瞬間がやって来た!


 人混みの臭いに耐え切れなくなったイブが廊下から身を乗り出して空気を吸っていると、見下ろした校庭には小さくなっているが魔獣らしき巨大肉が!


 即座にルークの店に間違いないと断定して急いでそこへ向かった。



「ルーク君は居ない?」


「そうだよ。ちょっと前に休憩に入っちゃった」


 ルーク達がやっている魔獣肉店へと辿り着いたイブは、そこで数少ない女友達のヒカリから衝撃の事実を告げられた。


 なんと丁度入れ違いになってしまったらしく、ルークはどこか別の場所で休んでいるとの事。


 しかもそれだけ話すとヒカリは遠くの方から「切るのを代わってー」と呼ばれ、すぐに仕事に戻ったので友達と学園祭トークをする暇も無かった。


 ここは今も行列の絶えない大人気店なのだ。


「あ、これドラゴンの肉だよ。お昼にどうぞ」


「ありがとう、頑張る。ヒカリちゃんも頑張ってね」


 順番やお金の事は気にせず、ヒカリから貴重な肉を受け取ったイブはルーク探しの旅を続けるのであった。


 しかも今度はあてのない旅だ。




 引き続き校庭を歩くイブは、アリシア発案のパンチングマシーンで盛り上がる人々の中から愛しの婚約者を探す事にした。


 今彼女が持っている情報はヒカリから聞いた『アリシアちゃんと一緒に休憩に入った』だけなので、きっと休む間もなく姉に付き合わされていると思ったのだ。


 そこはユキの水魔術で生み出されたスライムのようなクッションを攻撃するだけのイベントなのだが、殴る蹴るはもちろん魔術なども全て数値化されるので力自慢や魔力自慢が挙って挑戦している。


 その一撃、一撃に歓声を上げる子供や悔しがる冒険者達。


「・・・・居ない・・・・そして汗臭い」


 もちろんその中にルークが居るはずは無い。



 「やはり休憩しているのでは?」と考えたイブは休憩するなら室内だと予想し、歩き回って疲れた自身の休憩も兼ねて学生達が訓練場でやっている演劇『ドラゴンスレイヤー』を見ながら周囲を探す事にした。


 勇者と戦隊が協力してドラゴンを討伐する話なのだが、演技力はともかく演出とドラゴンの姿が非常に凝っている。


 フィーネとユキが演出に手を貸し、ドラゴンも作り物では無く本物の皮を使用しているので当然と言えば当然である。


 もちろんギルド職員の監視付き。学園祭が終わったら買い取り予定なのだ。


 演劇自体は楽しんでいたイブだが、辺りを暗くしていて近距離まで寄らないと顔の判別が出来ないので肝心のルーク探しには不向きな場所だった。


 最低限のマナーぐらいは理解しているイブは邪魔にならない様に座ったまま低速移動で探していたが、結局ここでもルークは見つからず劇は終了した。


「アリシアさんが持ってた仮面と似てる・・・・。きっとあれがヨシュアレンジャーのメンバー」


 これがルークの親友なら声を掛けただろうが、どちらかと言えば彼らはアリシアの友達。


 戦隊モノにも興味のないイブは仮面一同が舞台を下りた後も交流しようとはせず、校内でルーク探しを続けた。




 帰る時間も迫ってきたので泣く泣く通話してみるも応答せず、その後も散々歩き回ったが結局ルークに会えないままタイムアップを迎えてしまう。


 婚約者に会う事も大事だが、「夕飯までには帰る」と言う家族との約束も大事なので、仕方なく帰る事にしたイブは目的の人物を変更してドラゴンフルーツの店を覗いて行く。


「らっしゃっせー。美味しい美味しいジュースいかぁっすかー。しゃっせー」


 するとジュース販売の客引きをやっているアルテミスを発見した。


 手伝っているはずなのに何故か全くやる気が感じられない。と言うか舐めている。


「おっ、イブじゃないか。ルークには会えたのか?」


「・・・・(プルプル)」


 最低賃金のアルバイトよりやる気のない客引きから質問されたイブは寂しそうに首を横に振る。


「そうか。それは残念だけどもう遅いしそろそろ帰るか」


「仕方ない」


 学園祭自体はまだまだ盛り上がりを見せているので、2人は周囲から見つからないように不可視結界を張って人の居ない訓練場の屋根から飛び立った。


 結局イブの思い出に残る学園祭とはならなかったようだ。



(模擬店、無料イベント、演劇、コンテスト。楽しかったからセイルーン学校でもやりたい。帰ったらお父様に言ってみよう)


 ・・・・・・ルークと会えなかったこと以外はとても有意義な時間を過ごせた少女は嬉しそうに帰宅するのであった。




 唯一にして最大の心残りである『ルークと過ごす学園祭』を想像して落ち込み始めたイブに、アルテミスはニヤニヤと口角を上げながら話し掛ける。


『まぁ私は会ったけどな』


「!?」


『一緒にジュース飲んで、販売員の心得を指導してもらったけどな』


「!!?」


 あのやる気のない接客態度はルークの入れ知恵だった。


 ルーク曰く「アルバイト3年目のだらけた勧誘ぐらいが学園祭で子供を引き立たせるにはちょうどいい」との事。


『フィーネなんか寝てるルークを膝枕して幸せだったとか言ってたぞ』


「っ!!!!」


 平和な生活を送る王女様にとっては今年一番の衝撃だったらしく、それら全てが何故自分では無いのか、と悔しさのあまりブルブル震える。


「~~~っ!」


 そして自分だけを除け者にして皆がルークと遊んでいた事を知った少女は、両手を握りしめてアルテミスの背中をドンドンと叩いて八つ当たりを始めた。


 その手には貫通衝撃破を放つ魔道具ワンパン君が。


『それを使って八つ当たりをするのはやめてくれないか。内臓に響いて気持ち悪い。

 そもそもイブが悪いんだぞ。こうなる事がわかってたから連絡して一緒に周る約束をしろと言ったんだ』


「・・・・次から絶対そうする・・・・絶対」


 倦怠期など知った事か。使えるものは全て使って一緒に過ごした方が良いに決まっている。


 6歳の少女が大人の階段を登った瞬間であった。

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