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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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百九十三話 学園祭2

 11月に入って少し経つと学園祭の情報が完全解禁された。


 それによって俺達学生は、沸き立つ人々から『さぞ楽しませてくれるんだろうな?』と無言のプレッシャーを浴びながら登下校をする日々を送っている。


 ・・・・いや、母さんとか身内の女性陣は学園祭で何をするのか毎日のように聞いて来たけど。


 もちろん俺達だって何もしない訳じゃない。


 彼らの期待に応えるために、そして自分達が盛り上がるためにクラス内で話し合いを始めたのだ!



 ホームルームで担任から「学園祭の出し物を・・・・」と言われた瞬間、俺は真っ先に大きな声でこう提案した。


「コスプレ喫茶が良いと思います!」


 学園祭と言えば喫茶店だろ?


 それが可愛い衣装とか、萌え萌えな恰好とか、けけけけ獣耳だった日には・・・・もう・・・・っ!


 俺は強靭な自制心によってニヤける顔をなんとか引き締め、さらに畳み掛ける。


「ウェイトレスは様々な衣装で接客して楽しい職業体験が出来ます!

 裏方だって料理したり、内装を考えたり、勧誘したり、絶対面白くなると思います!

 衣装はロア商会が用意してるから各々が好きな服になれるし、猫の手食堂を含めヨシュア中にある喫茶店も全面協力してくれるので店として何の問題もありません!!」


「具体的には?」


 ヒカリから具体案を聞かれた俺がカバンから取り出したのは私物の猫耳カチューシャ&尻尾アクセサリー。


「ずばり! このカチューシャを付けよう!!」


 これは以前イブが身に付けて物凄く似合っていたのでいつか別の人にも、と思って購入していた物だ。


 アリシア姉やフィーネは嫌がって付けてくれなかったし、唯一ユキだけは面白がって付けてくれたけど自分が楽しくない事とわかってすぐに外した。


 それ以降ずっとホコリを被っていた、いや専用台とカバーによって厳重に保管されていた物。


 それがついに日の目を浴びる時が来たのだ。


 この機会を逃すわけにはいかない!


 さぁケモ耳だらけの学園祭の始まりだぁぁあああーーーーっっ!!


 そうだ、客にも付けてもらおう。


 獣人で溢れかえる教室・・・・まさに理想郷・・・・。


 その光景を想像して思わずニヤけてしまった。


「先生。ルークが気持ち悪いので別のが良いです」

「わたくしもヒカリさんの意見に賛成ですわ」

「変態趣味に付き合わされるのは御免ですの」


 俺のすんばらしい案を聞いた途端、ヒカリを皮切りにクラス中の少女達が嫌がり始めた。


 おのれ・・・・どこまでもケモナー道の邪魔をする奴め。帰ったらモフンモフンの刑だ!


 だが俺とて神様から世界一のケモナーと言われた男。ちょっとやそっとの反対意見に負けるわけにはいかない。


「皆は可愛い方がいいよな!? コスプレしてみたいよな!?」


「「「ま、まぁ・・・・」」」


 コスプレと言う事を除いても「喫茶店は有りだ」と思ってくれた人も居るらしく、それなりの人数が賛同してくれたけどまだ反対派の方が多い。


 くそ、このままじゃ別の出し物になってしまう。


 この状況を覆す手は無いのか!?


 いや、必ずあるはずだ・・・・考えろ、考えるんだ俺。



「そもそも1年生は出し物しないのよ?」



 派閥争いが激化する中、担任のクリス先生がビックリ発言をして俺達を驚かせた。


 ・・・・学園祭で出し物しない?


 なんで? それもう学園祭じゃなくない? なくなくない?


 クラス中が混乱する中、俺が代表して先生に言葉の真意を問いただす。


「じゃあクラスでの話し合いって何の意味があるんですか? 出し物決める時間でしょ?」


「違います。既に出し物が決まってる上級生のお手伝いをするんだけど、その中でどこを手伝いたいか決めるの。先生達で1,2年生だけに任せるのはまだ早いと判断したのよ」


 そう言ってクリス先生は黒板に様々な出し物を書き始めた。


 どうやらここからやってみたい模擬店を選ぶらしい。


 おいおいティーチャー、それならそうと最初に言ってくれよ。ハッハッハッ、要するに上級生がやるコスプレ喫茶を手伝えって事だろ?


 さっきまで熱心に語った意見を先輩達に伝えて、慣れないウェイトレス衣装に戸惑うお姉さんの着替えも手伝えって事なんだろ?


 誰もが納得する黄金比率で獣耳と獣尻尾を付ければいいんだな?


 任せろいっ!


 さぁ~て、俺の提案したコスプレ喫茶は・・・・・・。



 無かった。



 し、仕方あるまい。


 そこは今から行く教室で先輩達と応相談って事にして、喫茶店に一番近いのは・・・・アレか。


「俺、魔獣肉のクラスに行きます」




 俺、ヒカリ、ファイ、シィ、アリスの仲良し5人組は一緒に魔獣肉料理を提供する4年1組を手伝う事にした。


 慣れない上級生エリアをキョドキョドしながら歩き、それを見知らぬ先輩達から微笑ましい顔で見られながら、目的の教室に入った俺達を待っていたのは見慣れた金髪ツインテール。


「よく来たわねっ!」


「アリシア姉のクラスかよ!?」


 4年1組は我が姉アリシア=オルブライトが所属するクラスだった。


 まぁ肉じゃなくて魔獣肉って時点で薄々そんな気はしてましたけどね。どうせ冒険者っぽい模擬店やりたいとか無理を言ったんだ。


「・・・・待ってたよ、弟君・・・・本当に待ってた」


 それとこのクラス唯一の知り合いであるレナード君も歓迎してくれた。


 ただちょっと、いや大分お疲れのご様子。


「弟大好きなアリシアがお手伝いの名簿を見た瞬間から、『ルークと一緒に遊べる!』『ルークと一緒にお祭りが出来る!』『ルークと!』『ルークと!!』ってテンション上げまくってね・・・・。

 一緒に暮らしてる君なら彼女が最高潮の時どうなるかわかるでしょ?」


「心中お察しします。姉がご迷惑おかけして誠に申し訳ありませんでした」


 一瞬で全てを察した俺はオルブライト家を代表して被害者に謝罪した。


 上機嫌なら大丈夫。問題はそれを超えた時だ。


 彼女は周囲への被害も気にせず、喜びを暴力に変えて表現するもんだから近くに居る人は必ず巻き込まれる。


 今回その被害を受けたのはレナード君で間違いない。


 アリシア姉の武力に対抗できる唯一の存在は己を犠牲にしてクラスメイトの盾となり、楽しい学園祭を守ったのだ。


 アンタ、真の英雄だよ。


 慣れているヒカリはともかく、ファイ達は興奮するアリシア姉にドン引きしてるし、先輩達はこれ以上被害を受けたくないのか一定の距離を保っている。


 それ、正解。


 今のアリシア姉は常にアクセル全開の原付と同じ存在だ。『気を付けろ、彼女は急に止まらない』って看板背負っててもらいたい。




 俺は学生生活において初めて絡むハイテンションな姉を大人しくさせる意味も込めて現状の確認を始めた。


「どうせ提案したのアリシア姉だろうから聞くけど、なんで魔獣肉なんだ?」


「え? 冒険者が食べる肉と言えば魔獣肉でしょ!」


 そんな世界の常識みたいに言われてましても・・・・骨が付いた『マンガ肉』みたいな感じだろうか?


 たしかに普段なら絶対食べる機会のないアレを出された時は中々にテンション上がったけど、空想の世界を表現したマンガ肉を食べて「美味しいか」「毎日食べたいか」って言われたら微妙だった。


 そもそも現実的に考えて冒険者が魔獣肉を食べるって相当切羽詰まった時だけだと思うぞ。


 そりゃ中には美味しいのもいるだろうけど基本食べないはずだ。


 だからこそ冒険者じゃない人にもその機会を設けたいって事らしいけど、せめて売り物になるようにしてくれよ?


 と言うような説得は既にクラスメイトからされたみたいだけど、絶対に譲ろうとしなかったアリシア姉が無理矢理押し通したんだとか。


 もちろん細かな部分はこっち任せだ。



 ひとしきり俺達お手伝い組に説明したアリシア姉が意気揚々とどこかへ出掛けようとする。


「まずは魔獣討伐よっ!」


 彼女の中では調達から自分達で行う店のようで今からハンティングに行こうと言うのだ。


「いやいやいや! 食材は用意するって言ってんだから討伐されたのを調理するだけで良いじゃん!」


「それじゃあ楽しくないでしょ!?」


「討伐の方が楽しめねぇよ!!」


「「え? そうかな?」」


 はい、そこの2人~。


 戦闘大好きで討伐が日常茶飯事のヒカリとレナード君は口を挟まないでくださ~い。


 大多数はこっち側で~す。



「じゃあ当日は生きのいいドラゴンを持って来ますね~」


 話し合いの結果、ユキがドラゴンを持ってくると言う事で落ち着いた。


 『ドラゴンを切る』と言う貴重な体験が出来るアリシア姉達は大満足。

 安全で楽しい学園祭になりそうな俺達も納得。

 高級品が格安で食べられて客も喜ぶ。


 一石三鳥の案だ。


 順調に段取りを決めていく中、さり気なく出した俺のコスプレ案は満場一致で却下された。


 配膳する店じゃなくて露店の様に販売する方式だからという理由だった。


 受け渡しをする人が獣人だったら売上げ倍増って意見も出してみたけど、訳がわからないと言われてしまったよ。


 絶対繁盛するのに・・・・。




 それはさておき、提供方法と食材が決まったので次に決める事は『どんな料理にするか』である。


「じゃあマンガ・・・・いやいや魔獣肉だけど、どうやって調理する?」


「あっ、私よ~く焼いたこんがりお肉が好き」

「え~? 厚切りで外はパリパリ、中は生焼けって方が美味しいでしょ?」

「何をおっしゃるウサギさん。しゃぶしゃぶでサッと茹でるのが通でしょうよ」


 まぁ当然ながら人それぞれで好みが別れて肝心の作り方が中々決まらない。


 これまで仕切っていたアリシア姉も自分が料理出来ないもんだから一切口出しして来ないし、焚火でやるような串刺し肉じゃなかったりしても「冒険者が食べてそう」と言えば納得した。


 だから結局決まらない。


 俺が仕切るのもどうかと思ったけど、このままじゃ埒が明かないので積極的に進行役をすることにした。


 ありがちな肉を焼いてる光景って言うと・・・・。


「骨付きで丸々した肉か?」


「それ良いじゃない。やっぱり冒険者がイメージ出来ないとね」


 と、突然復活したアリシア姉が口出ししてくる。


 どうやら具体的には話せないけど自分の中で作りたい料理は決まっていたらしい。


 ただし本当に作れるかどうかはこっち任せの案だ。


「いやいや、簡単に言うけど切り分けとか焼き加減とか絶対難しいだろ」


「言ってくれれば上手く切るわよ? あとは味つけとか焼き加減はそっちで何とかしてくれれば」


「そもそも骨が無い部分だってあるんだからどうやっても無理だろ。まぁそっちは薄切りして特製ソースでもかければ良いけどさ。

 え~~っと、骨付きは火が通りにくいから専用の窯で焼くとして、薄切りは加熱プレートで十分だから・・・・」


 あくまでも手伝いでしかない俺がドンドン進行していくと、上級生達はそれを不満に思うどころか「流石アリシアさんの弟だ」と褒められた。


 いや褒めなくていいからアンタ等も考えろよ。


「ユキちゃんに言えばいい感じのコンロを用意してくれるんじゃない?」


「「じゃあそれで」」


 『お前も結局人任せじゃん』とか言うなよ?


 出来る人に手伝ってもらうだけなんだから。




 話し合いが進み、担当部門を分ける段階に入った。


 俺は当然の如く料理担当にされたので、衣装担当の人にケモ耳カチューシャを手渡すと、そっと無言で返されてしまう。


 隣に居た女子も「それはない」とでも言うように首を横に振る。


 世界は獣人に厳しいらしいです。


「アリシアちゃんの弟が重度のケモナーってクラス中に知れ渡ってるからね。もし賛成したら体育の時間にアリシアちゃんとタイマンしないといけないんだって。

 わたしも獣人だけど皆に可愛がられたから、むしろ獣人に優しい世界だと思うよ」


 世界は俺に厳しいらしいです。


 現にこれ関連になると皆が無視したり、拒否したりするんだ。


 生徒からは仲間外れにされ、先生達からは相手にされず、家族ですら呆れながら注意してくる始末。


 これが・・・・イジメか・・・・・・。


 辛いな。


 でも俺は負けない。


 世界がどれだけ不条理でも、誰も俺を認めてくれなくても、同志が出来るその日まで布教活動を止める事は無い。


 さぁ! 君も獣女子になってみないか!?



 次の日からさらに冷めた目をされるようになりました。

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