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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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閑話 ヒカリ誘拐事件

『拝啓 アラン=オルブライト様

 初秋の候 いかがお過ごしでしょうか。気持ちのいい気候が続いておりますが、夜はめっきり寒くなりましたね。寝る時はシッカリと厚着をして体調を崩されないようお気を付けください。

 さて今回我々がこうして筆を執ったのは、他でもないアラン様のご家族の件でお話があるからです。

 そちらでメイド見習いをしているヒカリさんの身柄を預からせていただきました。

 つきましては彼女と金貨10枚を交換させていただきたく思います。もしもこちらの要求に応じていただけない場合は凄い事になります。

 受け渡し場所は追って連絡いたしますので準備の程、よろしくお願いいたします。

 スネーク盗賊団より』



 そんな手紙を休日の昼間に両親から見せられた俺は別に慌てたりしなかった。


 って言うか前に同じ事あったよな?


「・・・・で?」


「夜には帰ってくるだろうし無視しようと思うんだけど」


「そうね。フィーネやユキも居るし大丈夫よね」


「ユキ、ヒカリと来たら次は私の番よね!? いつ誘拐されるかワクワクするわ~」


 まぁ家族も大よそ俺と似たような反応である。


 しかし今回の相手は盗賊団と名乗っているので大規模組織のようだから、「流石に数が多いとヒカリでも苦労するんじゃないかな~」とは思ったけど、それも心配するほどじゃないだろう。


「世界一大きな犯罪組織であろうと、1人で殲滅させられないようではルーク様のメイドは務まりません。本当に捕らえられているならお説教です」


 いや・・・・野蛮な連中に負けたって言うなら、そのお説教も出来なくなる可能性が高いから。ヘブンにゴーしちゃうから。


 取り合えず師匠であるフィーネも心配していないらしい。




 しかし俺達全員が知らないと言う『スネーク盗賊団』、一体どんな組織なのだろう。


 オルブライト家の総意で手紙を放置することに決めたけど、身近にそんな犯罪者が居たんじゃオチオチ街も歩けやしないので情報収集だけはすることにした。


 俺が調査するために訪れたのは元同業者であるオリガミ兄弟が働いているロア商店。


 前にユキを誘拐した奴等なんだけど、今は更生して従業員として売上げに貢献しているのである。


 どうせ今回ヒカリを誘拐した盗賊団も同じ穴のムジナなので、狭い犯罪業界ならもしかして知り合いかもしれないと思ったんだ。


「で、お前ら知ってる?」


「「ス、スネーク盗賊団っ!?」」


 すると予想通り兄弟はこの連中の事を知っていると言う。


 しかもこの驚きよう・・・・ただ事ではない。


「え? もしかしてヤバい組織?

 貴族と裏で繋がってて人身売買や麻薬の密売をしてたり、武器の製造して戦争を裏から操っていたり、年頃の娘にあんな事やそんな事をしてたり、逆らう奴は容赦なく殺してたり、兵器で世界を滅ぼそうとしてたりする?」


「「何その人間の屑。怖い」」


 俺の話を聞いた2人はお互いを抱き合って震え出した。


 少し距離を取られた事から察するに、そんな恐ろしい想像をした俺も恐怖の対象みたいだ。


 ん? 危険な組織ってそれぐらい普通じゃね?


 むしろ表現を柔らかくしたんだけど・・・・。


 この様子からして俺の考えるような危険な組織ではないらしい。



 何故か俺の事を恐れて震える兄弟が落ち着くのを待ち、引き続き詳しく聞いてみた。


「え~っと、僕達も昔スネーク盗賊団に入りたくて面接を受けに行ったんだよ」


 ・・・・面接?


「面接って人事の人に入団理由とかを言う、あの面接?」


「ああ。俺は2次選考のグループディスカッションで協調性が無いって言われて、弟は3次選考の個人面談で『必勝! 入団面接』って本を丸暗記してるのがバレて落ちたけどな」


 普通っ!?


「いやいや、兄さんはその前の筆記試験でも散々だったじゃないか」


「それを言うならお前も『フォーマルな恰好で』って募集要項に書かれてたのにスーツで行って浮いてたぞ!」


 何やら当時の事を思い出して喧嘩を始めた兄弟。


 盗賊団ってそんな感じなの?


 凄くクリーンな企業っぽいんだけど。



 その後もオリガミ兄弟から色々聞いたけど、聞けば聞くほど真面目な集団に思えてならなかった。




「って感じの組織らしいぞ」


 家に帰った俺は家族に仕入れた情報を一応伝えてみた。


 果たしてあの情報が何の役に立つのかはわからないけど、凶悪犯ではない事は確かなようだしな。


 まぁ最初から心配してないって言えばそれまでなんだけど。


「あぁ~、だからヒカリさんの問答に真面目に答えてたんですね~」


「あれ? ユキ、居場所突き止めてたのか?

 ってかどうせなら助けて来いよ。余裕だろ」


「もちろんです~。街外れにある屋敷に居ましたよ~。

 『ヨシュアの未来を考える』って言う名目でヒカリさんを取材してるみたいですけど、察しの良いヒカリさんから痛いところを突かれても怒ることなく笑顔で真摯に対応しているので変だな~とは思ったんですよね~。なるほど納得、そう言う訳だったんですか~。

 助けについてはヒカリさんの人生経験のためにもお断りします~。フィーネさんじゃないですけど今後も役立つ貴重な経験ですからね~」


 ちなみにフィーネ調べによると組織の収入源は人材派遣だったらしい。


 でもロア商会が活躍し始めたから人材派遣だけでは食っていけなくなり、たまに手を出していた誘拐も度々するようになったんだとか。


 で、今回ついにその対象が恨みのあるロア商会に関係深いヒカリになったって訳だ。


「金を用意してもらえず失敗したらやっぱり人身売買? 住処がバレたんじゃ解放するわけにもいかないだろうし」


 手紙(?)には『凄い事するぞ』としか書かれていなかったけど全員が全員身代金を用意出来るわけでもないだろうし、きっと2度と家に帰れない可哀そうな人達も大勢居るはずだ。


「ル、ルーク! 何を言ってるの!?」

「どこからそんな恐ろしい発想が出てくるんだい?」

「やっぱり魔獣討伐で健全な肉体を作って、健全な精神を培うしかないわね」


 しかし俺が最悪の事態を想像していたら、さっきの兄弟と同じく家族全員から引かれた。


 仕舞いには母さんが通院させようとしたので本で読んだだけだと伝えて俺が考えたわけじゃない事にしました。


 そんなに変な思考してるかね? 誘拐ってそう言う事じゃないの?



 納得いかない表情の俺を見たフィーネが詳しい事情を話し始めた。


「一応説明しておきますが、そのクラスの犯罪を犯すと問答無用で死刑になります。『強制労働で支払う罰金はいくら』という裁判すら起きないので、規定額を親族が払う事になりますね。

 誘拐するにしても相手が神獣や精霊の加護を受けている可能性もあるので成功確率は低いですし、そのような行為は精霊達が嫌うので犯人側は魔術が一切使えなります。そんな状態では子供ですら攫うのは難しいでしょう」


「つまり『犯罪組織』って軽犯罪ばっかりする連中の事? 盗賊とかは?」


「それが世界の常識ですよ~。盗賊さんも何だかんだで魔獣討伐とかの地域貢献しているので通りがかった商人さんが『少しなら』って金品をあげる場合が多いです~。

 スネーク盗賊団さんの場合は人材派遣会社なので、各々の特技を活かして子供達に勉強を教えてあげたり就労補助をしてるみたいですよ~」


 本当に良い人達だ・・・・普通に金払ってやりたい。


 ちなみに無理やり全部奪おうとすると、その場は良いとしても後日確実に指名手配されて、商会の護衛や冒険者が滅ぼしに来るらしい。


 盗賊って言うか、もはや自警団だ。


「平和な世界だな~。まぁ全人類の敵である魔獣が居るから、皆で協力してやっつけようってなってるだけかもしれないけどさ」


 そんな異世界の常識を教えられた日でした。




 あ、ヒカリは夕食前に1人で帰って来たよ。


 その日以降、街中で彼女に頭を下げる大人達を見かけるようになったけど、きっと今回の件とは無関係だ。


 それはスーツを着た人材派遣会社の人達らしいけど俺はツッコまないぞ。


 会社名は『スネーク』って言うみたいだけど気にしない。


 最近は派遣よりプロフェッショナルを育成した方が安定する、と気付いたとかで『スネーク塾』も設立したらしいけどどうでもいいな。


 きっと彼らは今日もヨシュアの発展に貢献していることだろう。

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