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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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百八十六話 ハロウィン その2

 盛り上げ担当のユキによる盛大な開会宣言の直後。


 誰よりも早く動いたのは・・・・。


 お菓子目当てのベルフェゴール!


「アイス・オア・アイスー」


 ルークと別れた直後、またいつものやる気ないダラーンとした姿に戻った彼女は、そののんびり口調のせいで周囲からワンテンポ遅れて開始の合図を言ったのだった。


 何もかもが違うが、一応最初に動いたのは間違いない。


「はいはい、トリック・オア・トリート。いい加減覚えなさいよ」


「前向きに検討します」


 コイツは絶対に覚えない、と確信しているルナマリアは初めから諦めつつベルフェゴールに真の挨拶を教えた。



 そしていよいよ本格的なバトル展開の幕開けである。


「このバカは放っておくとして・・・・。

 アンタ達! 手持ちのお菓子全賭けで勝負しなさい!」


「「「よっしゃーーーっ! トリック・オア・トリート!!」」」


 ルナマリアが大声で周囲に呼び掛けると、暴れたくてウズウズしていた連中が一斉に叫んだ。


 どちらにしても最初にお菓子を奪わなければポイントが稼げないので、それを理解している者達は彼女に乗せられるがまま勝負を受けたのである。


 受けてしまった、とも言う。


「風よ、テンペスト!」


「「「ひぎゃぁぁぁーーっ!」」」


 そして瞬殺された。




「これで全部かしら?」


 素直に敗北を認めた挑戦者から全てのお菓子を没収したルナマリアは、戦利品の確認もそこそこに肝心のポイント稼ぎに乗り出した。


 このお菓子はあくまでもポイントを奪われなくするための身代わりでしかないので、上位を目指すためには盾を失って慎重になった人々と勝負する必要があるのだ。


「・・・・・・気付いたんですけど・・・・別に頑張らなくてもお菓子・・・・もらえるんじゃ」


 別に換金出来るわけでもなく、最低限の量さえあればむしろ邪魔ですらあるお菓子を食べていたベルフェゴールがその事に気付いた。


 お菓子目当ての彼女にとっては対戦相手から巻きあげれば済む話だったのだ。


 さらに言えばルナマリアが管理している『ベーさん貯金』を下ろして購入すれば良いだけなのだが、ガーディアンは無給だと思っているベルフェゴールはその発想に至らなかった。


 衣食住が保障されているので今の生活に全く不満はないらしい。


 この発言によって2人の間には暫しの沈黙が訪れ、その間に色々と考えたルナマリアだが、バカだと思っていたベルフェゴールの意見を否定出来ず素直に認めることになる。


「・・・・そうね」


「じゃ・・・・そういう事で」


 開始3分で戦闘意欲を失ったベルフェゴールがリタイア宣言をして山へ帰ろうとしてしまう。


 同価値のお菓子をトレードすることは認められているため、お気に入りのアイスだけを入手して早々に引きこもろうという魂胆だ。


「待ちなさい! 参加さえすれば仕事を頑張るって約束よね? だからアタシも参加してあげたわけだし」


 が、最初こそ嫌々ついて来たルナマリアは今や完全に優勝する気満々だったので立場を逆転させて引き留める側に回った。


 日頃のストレスを発散させるいい機会だと思ったらしい。


 基本的に彼女は好戦的なのだ。


「・・・・記憶に「知らないって言ったらダンジョンに貯め込んでるアイス没収よ」・・・・・・はい」


 奪ったお菓子を貪り食いつつイベント続行。



「とは言っても初っ端から飛ばすヤツも少ないのよねぇ」


 開始10分もすれば大よその戦力差に気付き始めるもので、『カボチャ仮面の2人組が危ない』との連絡網が回ったのかルナマリア達に挑戦する者は居なくなっていた。


 もちろんこちらから声を掛けても逃げ一辺倒。


 要するに初撃以降、彼女達の稼ぎは0だった。


 いや、たまに寝転がっているベルフェゴールを蹴ってしまい、その詫びとしてお菓子を渡してくる丁寧な人は居るのだが正当な報酬は最初だけである。


 そうなれば当然お菓子は食べた分だけ減っていくわけで。


「アイスが無くなったので・・・・買って来て下さい」


「別のがあるでしょ! なんで好物ばっかり食べてんの!?」


「好きな物だけ食べる生活・・・・ジャスティス・・・・」


「だったら自分で買って来い!!」


 自分勝手な転がり元魔王を蹴飛ばして商店の中に突撃させたルナマリア。


(((凶暴だ・・・・戦えばきっと尻の毛までむしり取られる)))


 いくら相方とは言え、地面に寝転んでいる女性を全力で蹴った姿を目撃した人々はさらに彼女から距離を置くのだった・・・・。


 『ルナマリアの今後の生活』と『人々のエルフ幻想』の両面から見て、正体を隠してカボチャ姿にしたのは正解だったのかもしれない。



 まぁ蹴られた本人は全く気にすることなく店内を転がり始めていたりする。


 今日は誰も甘やかしてくれる人が居ないので仕方なく自ら買い物をすることを決意したベルフェゴールは、イベント中なので入り口すぐに設けられた特設コーナーからお目当てのアイスを確保・・・・いや買い物客にお願いして取ってもらった。


 大量のアイスを手に、ウキウキ気分でレジへと転がり込んだ彼女はここで重大な事に気が付く。


「・・・・・お金がない」


 お菓子を買う金がなかったのである。


 たしかにそれはユキ以上に俗世離れした生活を送っている彼女にとって必要の無い物だった。


 今、持っている物は被っているカボチャだけ。


 いや・・・・もう1つ、あるにはある。


「あ、これで買えます?」

 

「はい! マジックポイントをお菓子に交換ですね! 大丈夫ですよ」


 カボチャ頭の女性が寝転がったまま入店し、金の代わりに腕を差し出してきた。


 そんな異常事態にも関わらずロア商店の新入社員は素晴らしい対応力でポイントと引き換える。



 その額・・・・1000ポイント。



「こんなにもアイスが・・・・ハッピーライフ・・・・」


 無事買い物を済ませてホクホク顔で店を転がり出たベルフェゴールだが、その手にした戦利品を食す間もなくルナマリアに捕まってしまった。


「アンタ、お金なんて持ってたのね。まさか盗んだとか言わないでしょうね?」


「・・・・カボチャ以外、何も持ってませんが?

 窃盗は犯罪・・・・ですよ」


「そ、そうね」


 まさかこの非常識人から常識を説かれる事になるとは思いもしなかったルナマリアは頭を押さえつつ疑った事に謝罪し、お菓子の購入方法を聞き出そうとした。


 その直前で入店前と比べて唯一の変化に気付いてしまう。


「・・・・アンタ・・・・腕、見せなさい」


「はい」


「・・・・腕輪には0って書いてあるわね?」


「ルークさんが期間内はクレジットとして使えるって」


「・・・・・・店に入る前まで1000って書いてたわよね?」


「お菓子と交換・・・・しちゃいました」


 ローリング娘からあっけらかんと言われた瞬間、エルフは修羅になった。



「『しちゃいました』じゃないわよっ!! どうすんのよ!?

 アンタ! 0ポイントって負けじゃないのーーーっ!!」


「そう言えばそんな事・・・・言われたような・・・・」


 もちろんレジ係はちゃんと説明していたのだが、それでも目先の事しか考えていなかったベルフェゴールにはお菓子の方が重要だったのだ。


 お菓子目当ての人も多いので今回もそれだろうとレジ係が納得して早々と引き下がったのも運が悪かった。


「返品よ! 今すぐ返品して来なさい!!」


「そんな・・・・バカなー」


 嫌がるベルフェゴールを担ぎ上げて再び店内に入ろうとしたルナマリアの行く手を阻んだのは、ジャッジマンのフィーネ。


「残念ですがイベント中の返品は出来ませんよ。勝ち取ったお菓子もポイントに還元出来てしまいますからね。

 もし1ポイントでも残っていれば参加資格はあったのですが、0ポイントは失格になります。チームで申請しているルナマリアも同じく失格ですね」


「ウソっ!? こんなくだらない理由で!? 今から面白くなる所じゃない!!」


「ドンマイ」


「こ、こんのぉ・・・・っ!

 アンタのせいでしょ!?」



 優勝最有力候補『ルナマリア&ベルフェゴール』コンビ、自滅により敗北。




 少し遡って開会宣言直後。


 ヨシュアに舞い降りる2つの影があった。


「みっちゃん、きっと優勝商品はルーク君が作った魔道具。ふぁいと」


「優勝狙うのは構わないが龍菓子があったら食べるからな」


 王都からの刺客『イブ&アルテミス』のコンビもこのイベントに参戦していたのだ。


 ルークから面白そうなイベントを開催すると聞いたイブは居ても立ってもいられず、最近忙しくて自由になる時間の少ない王女生活を抜け出してこうしてやって来たと言うわけである。


 そんな2人の目に飛び込んできたのは突然の竜巻だった!


「こ、これはルナマリアの物か!?

 という事は・・・・ベ、ベ、ベルフェゴォォオオオーーーッル!!」


「受付がまだ終わってない」


「ぐぬぬぬぬ・・・・」


 宿敵を見つけたアルテミスが竜巻の発生源に向かおうとするが、まだ参加資格を得ていない彼女は受付で氏名や種族を記入するため泣く泣く椅子に座るのだった。


 期間内であれば途中参加も可能なイベントなのでルール説明などを聞き流し、手早く受付を済ませて戦闘態勢を整えたアルテミスは一目散に駆けだしていく。


「みっちゃん、どこ行くの?」


「我が宿敵に正義の鉄槌をおおぉぉぉ・・・・おぉ・・・・ぉ・・・・・・」


 絶対にあの2人はペアで居るに違いないと考えたアルテミスはイブの言う事も聞かず、エコーを響かせながら少し前に起こった竜巻の中心地へと飛んでいった。


 数百年に渡る恨み辛みがそう簡単に和解できるわけも無く、さらに言えば「アイスにドラゴンフルーツは合わない」と一蹴されてしまったため、ベルフェゴールとアルテミスの溝は深まっただけだったりする。


 ・・・・一方的に。


 彼女も実力では負けを認めたが、このイベントは知力や運などの勝負も可能。


 それなら一矢報いることが出来るかもしれない、とリベンジに燃えるアルテミスが止まる訳も無かった。




 盛大に相方を置き去りにした彼女は今、その相方の前で正座している。


「ベーさんとルナマリアさんは開始10分ぐらいで帰ったって」


「・・・・」


「どうして夜まで探索し続けたの?」


「・・・・・・」


「私は明日から学校、そしてお仕事。ヨシュアに来たのにルーク君と会えなかった。魔道具も貰えない。ハロウィンも楽しめてない」


「・・・・・・・・・スイマセン」


 居なくなったベルフェゴールを探し続けたアルテミスは、貴重な休日を潰して遊びに来たイブを置いて単独行動をした。


 その結果、例の如く人混みに酔ったイブがダウンしてしまい救護室で半日を過ごす羽目になる。


 で、お見舞いに来たユキから事情を聞いたという訳だ。


 当然イベントを楽しむことはおろか婚約者と会う事も叶わなかった彼女は激怒。


 今後ことある毎に責められるアルテミスの謝罪人生の幕開けである。



 1日限りの参戦予定だった『イブ&アルテミス』コンビ、もちろん何もせずにリタイア。



「私の知らない龍菓子がこんなにも!」


「・・・・」


 帰りにポイントを龍菓子と交換したのでアルテミスだけ大満足な1日だった。


 が、怒ったイブに全部食べられて泣く羽目になるのはそれから数時間後の事である。

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