百八十五話 ハロウィン その1.5
ルークサイドと交互にやっていく形式です。
大人にとっては激闘必至のポイント奪い合い、子供にとってはお菓子争奪戦の当日。
ハロウィンの提案者である俺もイベントを盛り上げるために参加者としてその人混みの中に居た。
今回は(いや、今後もだけど)本気で優勝を目指すつもりじゃないので、ヒカリ、ファイ、シィ、アリスの4人と1年生チームを結成して仲良くこのお祭りムードを楽しもうって計画だ。
ガチパーティを組むなら主催者のフィーネとユキを除けばルナマリア、ベルフェゴール、アルテミスで決まりだけど、関係者が優勝すると何かと不都合が多いので『お菓子が貰える祭り』と割り切って学友達と参加しているのである。
ぶっちゃけヒカリ以外は戦力外なので他の人にポイントをあげるだけだろうな。
俺はもちろん、ファイとアリスも本格的な戦闘はした事が無いらしいし、シィも本来の力を出せないので同レベル。実技は2年生になってからなのだ。
いくら勝負方法はこっちで決めていいと言われても基本は格闘戦になるだろうと予想している。
ここでジャンケン勝負とかしても全然盛り上がらないだろ?
わざわざ言わないけどイベントは盛り上がってなんぼだから、そういう風な対決をしろって空気は伝わっているはずである。
まぁフィーネ達の結界があるから怪我はしないだろうけど、俺はそれなりに楽しんだらギブアップする予定だ。
ってか子供連中は最初に貰ったお菓子だけでは満足出来ず、さっさと全ポイントをお菓子に交換してお菓子パーティでも開くんじゃないだろうか?
もちろん0ポイントになるので失格だ。
子供の頃、祭りに参加して大量のお菓子が入ったバラエティパック貰ってテンション上げてたのを思い出すわ~。
好きなお菓子をトレードしたり、どれから食べようか計画立てたりして楽しかったわ~。
あ、さっきから俺だけが喋ってる理由ですか?
まぁ普通ここまで人が多いと子供5人なんてすぐに離ればなれになりますよね。
・・・・はい、イベントが始まる前から迷子が出ました。
ってわけで俺は迷子の4人と合流するために人混みをかき分けつつ移動を開始。
どこかへ消えた仲間を捜して会場をウロウロしてると、ユキと同じカボチャの被り物で顔を隠している2人組の女性を見つけたので声を掛けた。
「お前等も来てたのか」
片方は普通の服を着ているから正体不明だけど、もう片方が地面に寝転がっているのだ。
そんな事をする女性はヨシュア広しと言えど1人しかない。
つまりその傍に居るのも彼女で決まりだろう。
「アイスが・・・・もらえるアイス」
「ベルフェゴール、語尾がおかしいわよ。もうちょっと我慢しなさい。
アタシは興味ないけどコイツが仕事頑張るから手伝えってうるさいから仕方なくね」
それはベーさん&ルナマリアの農場コンビだった。
被り物で表情は見えないけど、ルナマリアからはまるで『子供にせがまれて休日狩り出された親父』のような雰囲気が溢れ出ている。
ただこういう人に限っていざやってみると子供より熱中してしまうものなのだ。
「じゃあ早速『トリック・オア・トリート』、さぁ死合いを始めましょうか」
そんな俺の予想通り、イベント開始前にも関わらず好戦的なルナマリアが勝負を仕掛けてきたではないか。
狩られるのは俺でしたー。
って違うわ!
「待て待て待て! まだ始まってないから!
あと絶対に死合うなよ、ルール違反でフィーネに怒られるぞ。
ベーさんも商品がアイスとは限らないからな?」
「なん・・・・ですと?
お菓子の中でもアイスがマスト、ベストなフード・・・・世界の常識なのに・・・・」
「ラッパー風に言うな。あとそんな常識はない」
普段の横回転ではなく、円を描くような回転を始めたのでラップに合わせて彼女なりのブレイクダンスでもしているのだろう。
ベーさんの身体能力ならやろうと思えばいくらでも出来るはずだけど、グルグルと円を描き続けるだけ・・・・。
でもベーさんなら十分激しい運動と言える。それだけ今日はテンションが高いって事だ。
そしてそんな彼女を見て、俺の脳内には強者がテンションアゲアゲで民衆を狩る姿がありありと浮かんでしまった。
・・・・不安だ。
「お前等が参加するのは良いけど、盛り上げるためにもほどほどに手加減してくれよ」
「わかってるわよ。目立つつもりがないからこうして変装してるんじゃない」
「カボー・・・・カボカボー」
この日のために手作りしたと言うカボチャの被り物を自慢気に見せつけてくる2人の話を聞き流し、別れた俺は再び仲間探しを始めた。
何か知らんけどグータラでのんびり屋の彼女が頑張るならそれは良い事なんだろう。
取り合えず俺の作戦としてはこの2人に近づかないって事かな。
勝てる手段が思いつかない。
ヒカリ達と合流するために商店街を歩いていると再び奇妙な集団を見つけた。
彼らはカボチャではなくカラフルな仮面を付けている。
「ヨシュアレンジャー! ファイ! オー!」
「「「オー!!」」」
・・・・アリシア姉も参加するとは聞いたけど、まさかヨシュアレンジャーとチームを組んでいたとは。
他のメンバーの実力は知らないけど、少なくともヨシュアブルーこと『レト』は2年生の中でも最弱と呼べるレベルだ。
もしも実力勝負になればアリシア姉1人でなんとかするんだろうか?
どうせヒカリ達は見てないだろうし、この連中と知り合いだと思われたくないので見つかる前に逃げよう。
「っ! 今、ルークの気配がしたわ!」
周りには数百という人が居る中、的確に俺の気配を感じ取ったアリシア姉が凄い早さでこちらを振り向いた。
あ、危なかった・・・・。
なんて無駄に勘の鋭いお姉様だ。
まぁこいつ等と戦う事になってもヒカリがアリシア姉を抑えれば勝てそうだな。
それからもしばらく商店街を歩き回ったけど、もう知り合いに会うことは無かった。
と言うかニーナ達は食堂を拠点にして稼ぐって聞いたし、サイ達商店メンバーはお菓子販売に回るから不参加、龍菓子の布教活動で忙しいみっちゃんが態々王都から来てるとも考えにくいから実質全員に会った事になる。
知り合いが少ないとか言うなよ。
殺気立った大人達から離れればたぶんクラスメイトも大勢居るはずなのだ。
ステージ近くに話せる知り合いが居ないってだけ。
「もぉ~、ルークが迷子になるから作戦決められなかったんだよ。
迷った時は動かないが鉄則でしょ。わたし達がどれだけ捜したと思ってるの?」
そんなヒカリ様からの説教を聞き流しつつの現状報告でした。
そうこうしている内にフィーネ達が登壇して開会宣言を始めたので俺の、いや俺達のテンションはさらに1段階上がった。
「さて俺達もハロウィンを盛り上げるために頑張りますかっ!
勝てるヤツからお菓子を奪う! これだな」
「やっちゃうよ~」
「楽しいイベントだって聞いたから参加したけど、ボク達は足手まといじゃないかな?」
「そ、そうですわね・・・・皆様殺気立っていて怖いですわ」
「ファイ様は私が守りますの」
学生同士でチームを組んだ俺達・・・・じゃなくてヒカリも十分上位を狙える人材。
参謀として勝負際を間違えなければそれなりに好成績を収めることが出来そうだ。
「トリック・オアー」
おっと、ユキがこちらに呼び掛けてきたぞ。
いよいよ始まるな。
イベントは大勢で声を合わせて始まりの合図を出すこの瞬間が堪らない。
「トリィィィイイイィィィトォォォオオオォォォォーーーーーーーっ!!!!」
参加者の心が1つになった一体感に包まれながら俺は周囲に負けない大声で叫んだ。