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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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百八十四話 ハロウィン その1

「ルークさんに聞いたお祭りイベント『ハロウィン』をやっちゃうよー!」


「ユチ、どうしたの?」


 仕事終わりにユチが突然ハロウィン宣言をした。


 店長リリに次いで店を盛り上げるためのアイデアを頻繁に出している彼女は、最近ルークが広めている秋のイベント『ハロウィン』を食堂でも行おうと言うのである。


 当然、面白い物好きな従業員達はユチの話に耳を傾けた。


「具体的にどんな事をするのニャ? ニーナは覚えてないって言うし、ユチだけが頼りだニャ」


 ユチがその話を聞いた時、ニーナも傍に居たのだが基本的にルークは冗談のような話ばかりするので真に受けておらず聞き流していたと言う。


 ニーナもその事を悪びれた様子は一切無いので、ルークは今後もそういう扱いをされる事だろう。


 質問されたユチは自分の頑張り次第でここでの開催が決まると意気込んで話し始めた。



「ハロウィン・・・・それは『とりっく・おあ・とりーと』と言うだけの遊び!」



「どこが面白いの?」

「盛り上がらなそうだにゃ・・・・」

「『いらっしゃいませ』の代わりに言うとかかニャ?」


 説明を受けた一同は微妙な反応である。


 これではとてもやる気にはならないだろう。


「お~っと。興味を無くすにはまだ早いよー。

 ハロウィン、それは取るか取られるかの死闘!」


「「「面白そう(だニャ)!!」」」


 次の一言で武闘派集団『猫の手食堂』は湧いた。


 ユチの話では『トリック・オア・トリート』を戦闘開始の合図として、言った側はお菓子を奪い取り、言われた側は死守すると言う問答無用のバトルイベントらしい。


 しかも期間中はロア商店街全体に特殊な結界が張られているので、広範囲にわたり全力での実戦形式の戦闘が可能となっている。


 つまり普段食堂では出来ない『こんな戦法』や『そんな攻撃方法』、果ては『そこまでして良いの』ってぐらいの殲滅魔術が使いたい放題なのだ。


「さらに集めたお菓子によって順位が決まって、賞金や賞品まで貰える参加必至な大型イベント!

 既にフィーネ様は動き出してるみたいだから、是非我ら猫の手食堂も一口噛ませてもらおうと言うわけですよ!」


 知っている情報を出し終わったユチは店単位でのチーム戦を提案して締めくくった。


 まだ企画段階の話だったので若干ルールは変わってくるのだが、大手を振って戦えることを知った戦闘狂は大歓喜である。



「面白そうだニャー。参加したいニャー。

 でも料理してたらカウンターからいきなり『トリック・オア・トリート』って言われて戦闘かニャ? お客さんに迷惑掛かりそうだニャ」


 イベントに参加したい気持ちを抑えつつ、店長のリリが店の事を心配している。


 仕事中だろうと問答無用でバトルになれば迷惑を被るのは誰でもない無関係な客なのだ。


「そこで食堂での参加なんです!

 働いている間我々は一方的に搾取される側ですが、それを賭け試合にすればお菓子を奪えます。それならリリさん達は普段通り包丁を投げるだけですし、本格的に戦闘に参加したくなれば仕事終わりに街へ繰り出すだけでOK」


「最近『ちゃれんじゃー』が少ない」


「そう! でも大丈夫! ここで賭けるのはお菓子。つまり実質無料の稼ぎイベント!

 奪ったお菓子を食べるも良し、賞金目当てで貯めるも良し、日頃の上司への不満をぶつけるも良し!」


「あるのかニャ、不満?」


 勢いで己の考えをベラベラ喋るユチの言葉に気になる点を見つけたリリがツッコんだ。


 その笑顔からは想像も出来ないほど暗い目をしている・・・・。


「いいえ? 例えです例え。だから睨まないでください。私は、ここが、大好きです。

 そんな事より・・・・いわば我々は一心同体のチーム! フィーネ様やユキ様が用意したと言う商品、手に入れたくありませんか!?」


「そう言う事ならワタクシも参加しましょう。顔を隠して商店街をうろつけばお菓子を集められそうですし」


「ををっ!? 『動かざること山の如し』と言われたフェム先生が動いた!?」


「フィーネ様クラスの強者ならいざ知らず、一般人からお菓子を奪うだけならワタクシでも出来ます」


 かくして猫の手食堂総出でハロウィンへの参加が決定した。




 それから数日後。


 秋のイベントが行われるらしい、と言う噂がまことしやかに広まり始めた頃、ロア商会会長であるフィーネから従業員達に直々のお達しがあった。


 それは10月末の1週間、ロア商店街を使った大々的なイベントの開催が決定したと言うものだ。


 事前受付も近々開始されるとの事で、このイベントのために数々の賞金や商品を用意していると言う。


 もちろん従業員達は情報を広めた。


 参加者は多い方が良いと言う会長からの勧めもあったが、ロア商会初となるイベント主催は誰もが待ち望んでいた事だったのだ。


 この突然の知らせに日々の生活を淡々と送っていたヨシュアの人々は湧いた。


 やる事成す事全て成功しているロア商会が次に手を出したのは『新イベント』だと。


 賞金を用意すると言う事は参加者同士で競い合う面白い競技だと。


 参加者は絶対に損しない超絶お得な1週間だと!



 開催を心待ちにする人々のもとに更なる続報が届いたのは、そこからさらに1週間後の事だった。


 ヨシュア中にある掲示板に張り出されたイベント詳細はこうだ。



<ハロウィン開催のお知らせ>

 ロア商会が主催する秋の新イベントは10月末までの1週間行います。

 イベント内容は参加者同士によるお菓子とポイントの奪い合いで優勝者を決める試合。

 上位10名には金貨10枚、上位3名には追加で特別な賞品、優勝者にはさらに希少な賞品。また最も面白い仮装をされた方にも特別賞を用意しています。

 参加方法はロア商店横に設置した特設会場で受付をしていただく事。

 参加費は10歳以下の子供は無料、11歳以上は銀貨1枚。

 ただし銀貨1枚以上のお菓子と商品券を配布するので敗北しても損はありません。

 場所はロア商店街のみ。


 詳細は特設会場にて。



 その日のうちに人々が行列を作ったのは言うまでもないだろう。


 腕自慢は優勝目指して、損得勘定をする主婦は商品券目当て、お菓子が無料でもらえる子供は己の食欲を満たすために。


 当然ルークの知り合い達も多く参戦することになる。




 そしてハロウィン当日。


 これから1週間行われる祭りの参加者で埋め尽くされた商店街に、主催者のフィーネとユキが開会宣言をするために姿を現した。


 その2人はハロウィン衣装に包まれていた。


 フィーネは黒いローブとカボチャのマークを散りばめたマント、頭にはトンガリ帽子、右手に箒と言う魔女っ子。


 ユキは頭に本物のカボチャを繰り抜いて作った被り物、体はオレンジ色のタイツと言う全身カボチャのコスプレ。


 どちらもルークから言われたハロウィンらしさを表現しているのだが、片方は今後誰も真似しないだろう。


 一応仮装パーティとも伝えてあるので参加者の中にはそれなりに珍妙な恰好の人も混じっているのだが、それにしてもユキは浮いていた。


 が、本人は楽しそうにカボチャダンスを踊り始め、辺りは失笑に包まれている。



 そんな隣の奇行を無視しつつ、フィーネはお得意の風魔術で商店街中に響き渡るよう声を拡張して挨拶を始めた。


「本日はハロウィンへのご参加、誠にありがとうございます。この1週間大いに楽しんでください。

 長い挨拶をするつもりはありません。最後にイベントの詳細を今一度確認します」


「よ~く聞いておいてくださいね~。ルール違反をして反則負けは悲しいですからね~。優勝逃しちゃいますよ~」


 どうやらフィーネが進行役をしてユキが茶々を入れる方式のようだ。


 それはヨシュア出身の参加者なら誰でも理解しているようで、集まった人々の8割が最初からフィーネの方しか向いていない。


 残る2割は街の外からの参加者だろう。


 それほど大きなイベントなのだ。



 参加者達の注目を集める中、フィーネが説明を続ける。


「参加者は必ずこの腕輪を付けてください。これは『マジックリング』と言う物で、本イベントの専用ポイントが表示されます。

 これがお菓子を買うために必要なポイントとなり、お互いお菓子とポイントを奪い合い優勝者を決めます。

 賭け試合開始の合図は『トリック・オア・トリート』」


「『お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ~』って意味です~。

 お菓子を持ってないと精霊さんがポイント取っちゃいますからね~」


 ルークがクレジットカード代わりに作り出したこの腕輪。


 普段は専用魔道具でのみポイントの増減が可能となるのだが、このイベント中はユキが呼び出した精霊達によって管理されるので言っている事は間違っていなかったりする。


「はい。基本的に賭けるのはお菓子です。

 ただし全てのお菓子を奪われると大量のポイントが勝者に移りますので常にお菓子を切らさない様に所持してください。つまりポイントでお菓子を交換した方がお得ですね。

 賭けの対象となるお菓子はこの印が入った物のみです」


「ロア商会オリジナルのハロウィンマークですよ~。

 カボチャが沢山出来たので一杯お菓子も作っちゃいました~。あ、もちろんカボチャ以外のお菓子もありますからね~」


 という建前だが、実際はハロウィンを行う事にしたルークが農場で大量に作ったのである。


 この事実を知っているのは発案者の3人以外は農場主のモームとルナマリアだけ。



「対戦方法はお互いで決めてください。勝てない戦いを避けることも大切ですが、だからと言って逃げ続けていてはポイントが増えませんからね。

 それと逃げる際は必ずお菓子を1つ渡してください。『お菓子をあげるから悪戯しないで』と言う逃げ方になります。

 イベント区域は猫の手食堂からロア公園までの商店街のみ。

 この区域でなら常識の範囲内で24時間どこでも試合を行ってください」


「公衆トイレに乱入したり、家の中に侵入したりは犯罪です~。

 ウチのイベントでそんな事をしたら一生後悔するような目に合わせますからね~」


「そうですね。ドラゴンスレイヤーであるこの私も微力ながら折檻に協力させていただこうと思います。ルールを守らない無法者にはキツイお仕置きが待っていますよ。

 主催者として皆様に楽しんでいただきたいですからね」


(((・・・・この人達、怖い)))


 恐怖で震える参加者達の顔を見るまでも無く、静まり返った会場から察するに間違いなく風紀を守ったイベントになるだろう。



「ポイントが無くなれば完全敗北となりイベントへの参加が出来なくなります。

 勝負以外に増やすことは出来ないのでお菓子交換とのバランスを慎重に考えてください」


「フッフッフ~。ちなみに我々が持っている特別なお菓子を奪えば優勝確定になりますよ~。

 勝負の方法はガチ戦闘のみですけどねーっ!」


「この手のイベントには一発逆転可能な『ボスミッション』が必要との事です。

 私とユキには商店街以外でも攻撃して構いませんのでドンドン挑戦してください。負けてもデメリットはありませんが、しばらく動けなくさせていただきます」


 そう開会宣言したユキとフィーネに襲い掛かる勇気ある人は居るのだろうか?


 敗北ペナルティ無しとは言え、回復までの時間をポイント稼ぎに費やした方が効率的であろう。




「ではでは! 行きますよー。

 皆さんご一緒に~。

 トリック・オアー」


「「「トリートォォォオオオオオーーーっ!!!」」」


 こうしてヨシュア史上最大のお祭りイベントが幕を開けた。


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