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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十三章 怒涛の6歳
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百七十七話 運命の選択

 予期せぬ再会と和解があったものの、いい感じで時間が潰れたので時刻はとっくに夜だ。


 ってことは食堂は夜の酒場と化して賑わっているだろうけど、そこは大人だけがやってくる場なので確実に夕食時ほどは混雑してない。


 つまり俺がウェイトレスさんに話しかけたり、お土産を渡す時間もあるってもんだ。


 リリ達はもちろん、ニーナともご無沙汰だったのでモフモフ成分を補給しないとな。


 ただユキの話ではニーナが旅行に連れて行ってもらえなかった事を怒っているらしいのでどうなることやら・・・・。


「おかえり、ルーク」


「ただいま~。アリシア姉、剣の調子どう?」


「良いわよ、絶好調ね! 今日もダンジョンで大活躍!」


 ・・・・まぁ今から行くなんて言ってませんけどね。


 腹も減ったから自宅で夕食ですが何か?



「(モグモグ)・・・・そういやユキ、遅いな。移動は一瞬なんだから向こうで何かあったか?」


「彼女も知らない果実だったようですし、珍しがって遊んでいるのかもしれませんね。

 みっちゃんさんには帰ったら伝えると言ってあるので暴れ出す事はないと思いますが、この様子だと今日中に調理するのは難しいでしょう」


「んじゃ明日から取り掛かるか。食堂に行くのは当分先になりそうだな」


「そうですね」


 平穏な食事風景である。



「ってお姉ちゃん達、ずっと待ってたんだよ!?」



 てっきり夕食は食堂で取ってそのまま泊まるものだと思っていたヒカリが帰って来るなり食事中の俺達にツッコミを入れた。


「おかえり~。食事はどうする?」


「あ、食べてきたから要らない。ってそうじゃないよ! なんで来ないの!?」


 一瞬普段のヒカリに戻ったけど、またすぐに俺が悪い事をしたとでも言うかの様にプリプリ怒り始めてしまった。


「いやお腹空いたし。

 食堂の前を2回通ったけど忙しそうだったから後回しにしたんだよ」


「たしかに猫の手も借りたいほど忙しかったけどっ!

 あの時、お土産渡されても邪魔でしかなかったけどっ!!」


「猫の手食堂だけにな!」


「全然上手くないよぉぉぉーーーーっ!!」


 普通のツッコミからノリツッコミ、果てはこちらがツッコまざるを得ないボケまでこなすヒカリのセンスに脱帽しつつ、俺は店に行かなかった理由を説明した。


 でもボケじゃなかったらしい。ヒカリ様がお冠だ。


 え? そういうツッコミが欲しいから『猫の手』なんて言葉を選んだんじゃないのか? 誰がどう考えても今のはそう言うパスだろ。


「ルーク・・・・真面目に」


「はい」


 本当に違ったらしく、そこから話を広げることなく「待ってたのに」と元の話題に戻したヒカリ。


 そんなにお土産欲しかったのか? だったらヒカリに持って行かせたのに。


 そもそもドラゴンフルーツ調理するつもりだったので本来なら商店や農場にも行けてないんだから、食堂に行かなかったからって俺は悪くない。


「え~、普通は身近な人から渡すものだよ」


「ケースバイケース。空気を読んだ結果として後回しにしただけだ」


「空気読むなら真っ先に来ようよ・・・・」


 それ言ったら神様への挨拶を後回しにするって相当なんだけどな。


 まぁ俺しかわからない事だから言わないけど。




「んじゃユキも帰って来ないみたいだし、明日朝一で会いに行くか」


 一刻も早く行くべきだと必死に俺を説得するヒカリに免じて、予定を前倒しにして会いに行かせてもらおうじゃないか。


 開店前でも構わないだろう。


「そうだね! わたし、今からお姉ちゃんに伝えてくるね!

 本当に会えるの楽しみにしてたんだから」


 この吉報を早く姉に伝えたいと嬉しそうに家を出ていくヒカリ。


「おう。夜道だから気を付けてな」


「大丈夫だよ。今のヨシュアは治安維持が完璧なんだから悪い人なんて居ない・・・・」



「いや~、遅くなりました~。

 みっちゃんのために大量のドラゴンフルーツを手に入れていたらこんな時間になっちゃいましたよ~。でも見てください! お店開けるぐらい沢山持って帰りましたよ~。明日からはお料理教室の始まりですね~」



 流石だよ。


 本当に空気を読まないってのはこういうヤツの事を言うんだ。


 おかえりユキ。


「・・・・ユキちゃん。違うよ、そうじゃないよ」


「え? どうしたんですか~? あ、猫の手食堂の分もありますからお土産にどうぞ~」


 そう言って何も知らないユキは箱一杯のドラゴンフルーツをヒカリに持たせた。


「ユキちゃん・・・・・・ゴメン、ちょっとイラっとした」


 あの温厚なヒカリ様が苛立っている!?


 『人生楽しく』をモットウに、喜と楽の感情しか表に出さないってぐらいにいつもニコやかなヒカリが、ユキの馬鹿さ加減に苛立っている!!


 まぁ俺が同じ立場なら問答無用で引っ叩いてるので、「空気読んでくれ」って忠告するだけで止める辺り優しい猫さんだ。


「私の有能さに憧れるあまり憎さ百倍なんですねー!

 わかります、わかりますよ~。『憧れ』と『コンプレックス』は表裏一体。えぇ、えぇ、わかっていますとも。ヒカリさんの成長のために私はいくらでも憎まれ役となりましょう~。

 珍しい食材を調理するってお話で、まさかそれをお土産にしてもらえるなんて思いもしないですからね~。気の利きすぎる私に憧れるのは当然と言うものです~」


 そんな優しさも馬鹿ユキの前では何の意味もない。


 もはや何度目かわからない、殴りたいこの笑顔リターンズ。


「・・・・(ボソっ)本当に殴りたい」


「ユキ。マヨネーズ増し増しのから揚げを作りましたので食べてください。そして黙ってください」


「マヨ~」


 ダークサイドに落ちそうなヒカリがいよいよ戦闘態勢に入った所で、フィーネが超速で作った食事にありついてユキは無言になった。


 怒りの矛先を失った変わりに邪魔者を黙らせる事に成功したヒカリは何とも言えない表情をしている。


 今後も同じような事が続くだろうけど強く生きて欲しい。


 もう見てて可哀そうになったよ・・・・。



 そんな彼女に俺の言えることはただ1つだけだ。


「みっちゃんには悪いけどやっぱり明日朝一で行くよ」


「・・・・・・お願いね」


 こうして猫の手食堂へお土産を渡しに行くことが確定した。


 この状況で止めますなんて言えるわけないじゃないか。



「最初に約束してたのはみっちゃんですよー? 約束を破って新しい料理をいつまでも作らなくて怒ったらどうするんですか~。約束を守らないのは泥棒の始まりですよ~」


「「黙ってろ(て)」」


 これ以上何か言ったらマヨネーズを取り上げると脅して無理矢理黙らせた。


 だってヒカリが本気でキレそうだったから。『猫の手食堂 VS ユキ』って構図がありありと浮かんだから。


 しかもユキの圧勝で『力こそ正義』っていう理不尽な事になるのだ。


 そんな事になったら流石に戦闘嫌いな俺やフィーネも参戦せざるを得ないし、訳も分からずノリノリなユキも本気を出すだろう。


 俺のお土産から始まったいざこざで世界最大の戦争に発展しかねない。


 それだけは避けなければ・・・・。


 俺が猫の手食堂に行く事で全てが丸く収まるのならいくらでも早起きしてやろうじゃないか。


 そう、俺は今、世界の救世主となったのだ。

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