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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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二十五話 フィーネ冒険者ギルドに行く

 冒険者ギルド、アクア支部。


 辺りはすっかり暗くなっており、広間は依頼帰りの冒険者と労いの宴を開くパーティでごった返していた。日が沈む前に戻ってきた者達などはすっかり出来上がっている。


 そんな中、無言で受付へと魔獣の死骸を運び込むフィーネ。台の上に乗っていた海洋魔獣の山に、ざわりと視線が集まった。


「……こ、これはまた随分と」


 受付嬢が目を丸くする。


 それも当然だ。仕留めにくい海の魔獣が数十体。Cランクの魔獣も混ざっている。並の冒険者パーティなら一週間は掛かるだろう。


「換金をお願いします」


 フィーネは簡潔に告げた。


 その瞬間、背後から甲高い笑い声が響く。


「おいおい、嬢ちゃん。まさか一人で仕留めたなんて言わねえよな?」

「そうそう。こんな量、横流しでもしなきゃ無理だっての」

「いるんだよなぁ。ランク上げやチヤホヤされたくてこういうことするやつ」


 振り返ると、酒臭い息を撒き散らしながらニヤつく三人組の冒険者が立っていた。


 周囲の冒険者達は苦笑しながら成り行きを見守る。どう対処するかも実力の見せ所であり、酒のつまみなのだ。結果次第で勧誘することも多い。


「その人はお前等じゃ相手にならないッスよ」


 フィーネが平和的解決に乗り出そうとしたその時、聞き覚えのある声が飛び込んできた。


「……ノッチさん?」


「さっきぶりッス」


 ひらひらと手を振りながら現れたのは、昼間の盗賊退治で出会った軽薄な青年――ノッチだった。


 彼の姿を見て、嘲笑していた三人組の顔色が変わる。


「ノッチって、まさか【旋風】か!?」


「どうしてもやりたいなら構わないッスけどね。この力がお前等に向くだけッスよ」


 そこでようやく男達は持ち込まれた魔獣の中にCランクのシーキャンサーがいることに気付く。その硬い甲羅は鉄盾にも劣らない。それがひび割れ一つなく貫かれている。


 それに加えて格上の知り合い。


「えーっと……し、失礼しましたー!」


 男は仲間を引き連れて酒場の奥へと消えていった。と思えば、飲食代だけ机の上において冒険者ギルドから出ていった。律儀な者達である。


 残された空気は奇妙な静寂。


 が、フィーネは何事もなかったかのように受付に視線を戻す。


「換金をお願いします」


「は、はい!」


 受付嬢は慌てて頷き、伝票を取り出した。



「いやぁ、悪かったッスね。冒険者の洗礼というか遊びみたいなもんなんで、気にしないでほしいッス」


「慣れていますから」


 フィーネはあっさりと答えた。


 冒険者としての活動こそ少ないが、生きてきた年月ではノッチの数十倍も長い。女、エルフ、顔を隠した不審者、いろいろな立場や格好で過ごしているので無礼な輩に絡まれるなど日常だ。


 しかも先程絡んできた男達からは悪意は感じなかった。先輩ぶりたい気持ちと、好奇心と、冒険者同士の腕試し。そんな定番の戯れだと理解できる。


「ところで、フィーネさんはどうしてこんなところに?」


「魔獣を狩ったので売りに来ました」


「いや、それは見ればわかるッスけど……金が必要なら言ってくださいよ。お礼できたじゃないッスか」


「たかるような真似はしません」


「いやいや! こっちとしては恩返しできて助かるんスよ!」


「外敵駆除や素材提供で喜ぶ人もいます。それに私としても必要なことですから」


「え? じゃあ……もしかしてオレ、余計なことしたッスか?」


 ノッチが気まずそうに後頭部を掻く。


 周囲のわざつきは収まりつつあった。ちらほらと視線は向けられるが、先程のような喧騒ではない。少なくとも、冒険者ギルドで目立つことを目的にしていたなら失敗だ。


「いえ、目立つことは予想外だったのでお気になさらずに。ノッチさんが庇ってくれたお陰で、死骸の一つを炸裂させるより静かに済んだと思います」


「本当に目立ちたくなかったんスか!? もしかして落ち着いた雰囲気と口調に騙されてるだけで、結構常識なかったりします!? てか天然!?」


「時間、効果、被害、余計な交流、全てにおいて最も効率的な手段だと思ったのですが……」


「その反応がもう天然ッス!」


 周囲から安堵と失笑が巻き起こる。


「ノッチさんはどうしてここに?」


 何かにつけてお礼しようとしてくるクレアの二の舞はごめんだと、フィーネは話題を切り替えた。


 ゼクト商会の護衛が冒険者ギルドにいる理由がわからない。しかも妙に慣れた様子だ。


「オレ、元は冒険者だったんスよ。スカウトされて護衛やってるッス。時代は一攫千金の博打より、大手商会の安定ッスからね」


「はぁ……」


「ま、今でもたまに仕事抜け出して魔獣狩ってるッスけどね。良いストレス発散と小銭稼ぎになるッス」


(そんなことをするからクレアさんに怒られるのでは?)


 フィーネは心の中でこっそりツッコミを入れる。


「あ、今回はちゃんとした仕事ッスよ! サボってたのがバレて、無賃金残業させられてるんス。酷くないッスか?」


 そうだ。この男、魔獣に関係なく普段からサボっているんだった。もしかして護衛という職務を『敵が現れるまで自由時間』とでも思っているのではないだろうか。


「というか小銭稼ぎだって情報収集を兼ねてるから問題なしッス!」


 問題ないかどうかはクレアや商会が決めることだ。


 が、部外者である自分が口出しするのもどうかと思い、フィーネは黙ってノッチの話に耳を傾けた。査定が終わるまでの暇つぶしにもなる。


「売り物を見るに、海で作業してたみたいッスけど……もしかしてクラーケンの情報持ってたりしないッスか?」


「クラーケン、ですか?」


 フィーネの脳裏に厄介な魔獣の姿が浮かぶ。


 キングオークと同じくBランクだが、キングオークが群れの脅威込みでの評価なのに対し、クラーケンは単体でその評価を受けている存在。


 海上で戦いづらく、頑丈で、倒される前に海中へ逃げる。それでいて放っておくと甚大な被害をもたらす。組織的に動いてどうにか討伐する相手だ。


 だからこそフィーネの力を知る者は助力を乞う。実に厄介だ。


「その反応からするに持ってなさそうッスね。最近アクアの町を荒らしてるんスよ。交易や漁業にも影響が出てて、ゼクト商会も大損ッス」


「なるほど。それで冒険者ギルドで情報を集めているわけですか」


「そうッス。目撃情報や攻略情報、近隣の動きなんかも知れるし、人手も集められるッスからね。ただ実際に挑むとなると……みんな尻込みするんスよね。まあ、逃げ場のない海でアレと戦うなんて、正気の沙汰じゃないから気持ちはわかるんスけど」


 肩をすくめたノッチの視線につられて酒場を見れば、話を聞いていたであろう近くの冒険者達がサッと目を逸らした。後ろに並んでいた者達など露骨に離れていく。


 力があるやつは戦えと町の人々に嫌というほど言われているのだろう。


 町全体がクラーケンに神経質になっているのが伝わってきた。


「ゼクト商会も討伐に?」


「正確には協力ッスね。実は通信機の実験もその一環だったんス。海の上で連携を取るには遠距離通信が必須ッスから。他にも武器とか船とか、支援を頑張ってるッスよ」


 例の爆炎魔石もそれだろう。


 フィーネは一人納得し、軽く頭を下げた。


「情報感謝します。もし見掛けたら報告しますね」


 そう告げて助力を乞われる前に会話を切り上げる。


 町を挙げて討伐に取り組んでいるなら手を出せば絶対に目立つ。それに、クラーケン程度自力で対処できないようでは未来はない。もっと強い魔獣は海にいくらでもいる。


 協力して討伐した功績は後の関係や意欲に良い影響を与える。それを奪うことがどれほどの損害か、フィーネは長年の経験で理解していた。


「お待たせしました」


 絶妙なタイミングで受付嬢が戻ってきた。


「査定の結果、全部で金貨三十二枚です」


 聞き耳を立てていた周囲からどよめきが起こる。並みの労働者の三か月分だ。それだけの額を一日で稼げる冒険者などそうはいない。


「前回の活動が五年前ですか。もう少し活発に依頼をこなしてもらえたら、Bランクへのランクアップも――」


「興味ありません」


 昇格の勧誘を一蹴し、淡々と礼を述べる。何か言いたげにしているノッチを横目に素早く袋を受け取ると、冒険者ギルドを後にした。


 そして雑貨屋で樽を二つ買い、露店で名産の魚介料理を味わってから、再び秘密の作業場へ戻っていった。

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