百七十話 懐かしの少年
魔界を堪能した翌日。
今日はヨシュア組にとっては王都最終日なので、皆へのお土産を購入する目的で大会も終わりお祭りムードから普段の王都に戻りつつある城下町を歩いている。
「もっと居ればいい」
みっちゃんも俺達について来るので一人ぼっちになるイブが寂しそうにしながら引き留めるけど、彼女にも予定が入っているのを俺は知っていた。
と言うかガウェインさんから「何なら一緒にパーティに参加するかね?」と脅されたので逃げるってだけなんだけどね。
王女様の婚約者として社交界デビューとか恐怖でしかない。
「これがあればいつでも話せるし、みっちゃんに乗ってヨシュアに来ればいいさ」
「うん。お揃い」
そう言ってペアルックの携帯を見せ合う俺とイブ。
2人きりの空間で触れる手と手。そして近づく顔と顔。
「・・・・大人になって同じ事やったら殴ってるね」
「ああ、子供だから許される行為だな」
「リア充爆発しろ~ってやつですね~」
別れを悲しむはずのシーンでヒカリ達が怖い事を言い出した。
人の幸せを妬むの良くない。
「フィーネちゃんから聞いたけど、ルークも昔は同じような事言ってたんだよね?」
「いや? 今も変わらないけど? ヨシュアにデートスポット作らない理由それだし」
妬んでる当人が幸せになる分には良いんだよ。
さて肝心のお土産探しの方だけど、無難なお土産は父さん達が買って帰ってるので俺達は珍しい物を探してあっちこっち歩き回っていると・・・・。
「よっ。久しぶりだな」
前から歩いて来た同世代の少年に声を掛けられた。
・・・・誰だ? この様子からしてどうやら俺に話しかけているらしいけど、全く心当たりがない。
隣をチラ見するとイブとユキが『あぁ久しぶり』って顔で手を上げて挨拶していたので、人違いではなく俺達共通の知り合いであるのは確実だ。
その瞬間、名探偵ルークは推理した。
最近常に一緒に居るヒカリではなく、短期間しか一緒に居た事のないイブ&ユキのコンビだけが知っている男児。
即ち王城でのパーティで知り合った人物!
答えは2つに1つだ!
「久しぶりだな・・・・ワン!」
「スーリだっ!! 3人ひとまとめに覚えてるからそんな事になるんだよ!!
ったくどいつもこいつもトリオで覚えやがって」
紅一点のニコは覚えてるけど、男2人は顔を覚えていなかったのだから仕方ない。
でもそのセリフから察するに結構な割合で間違えられているようだ。
しかし俺が友人の顔と名前を覚えてなかったと言う事には変わりない。
まぁそんな時でも慌てず騒がず冷静にフォローすればノープログレム。
「いやいや、大人っぽく成長したからどっちかわからなかっただけだって。『男子三日会わざれば刮目して見よ』って言うだろ」
「それ見た目じゃなくて実力の話じゃないか?」
チッ・・・・子供のクセにことわざに詳しくなってんじゃねぇよ。
「あれれ~、そうだったっけ? 俺、間違って覚えてたな~」
はい、誤魔化せた~。
「ところでスーリはなんでこんなところに居るんだ?」
「・・・・・・変わってないな、お前・・・・まぁいいか。
夏休みなんだから子供が地元に居るのは普通だろ。むしろルークはなんで居るんだよ」
呆れながらも状況に流される事に決めたらしいスーリは俺との会話を続行した。
貴族は挨拶回りで忙しいって聞いてたんだけど、本家であるスーリは逆に来客を迎えるだけなので移動しないのかもしれない。
あ、本家とか分家ってのはファイ情報ね。思い返せばスーリもパーティの時にそんな話してた気がする。
「俺達は王都観光。知り合いが大会に出てたから応援もした」
「へぇ! スゲェじゃん!! 誰、誰? 俺も知ってる人?」
スーリは興味津々に聞いて来るけど、なんか長引きそうなので負けた事にして話を打ち切ってやった。
だって名前を出したらスーリ達の進学先である高校に通っているレオ兄の迷惑になりそうだし、派手な魔法を使ったアリシア姉の事も説明しなければならなくなる。
何より詳しく聞かれたら試合内容も選手名も覚えてないのがバレる、と言うか理解出来てなかっただけですけどね。
「今日は皆さんご一緒じゃないんですね~?」
「ど、ども・・・・」
丁度いい具合にユキが話題転換したので俺も乗る事にした。
「なんでユキにビビってんだよ。ただのバカだぞ。
クラスメイトなのに相変わらずイブにも他人行儀だしさ」
スーリが俺を見つけたのも真っ白なユキと、日頃から会っているイブが一緒だったかららしいのだ。
でも明らかに俺との対応が違い過ぎる。
ユキに対してはビクビクと、イブに対しては初対面の時から変わらない丁寧過ぎる言動なのだった。
「フッフッフ~。真の天才とは常人には理解されないものなんですよ~」
ついにバカであることを否定するどころか『自分は天才だ』と言い出したユキは無視するとして、先ほどからスーリがユキに萎縮しているので理由を聞いてみた。
「いや・・・・だって・・・・あの魔術見て怖がらない方がおかしいだろ」
スーリの言う『あの魔術』とは、王城で試合をした際にユキが放ったブラックホールの事を言っているのだろう。
触れたもの全てを消滅させるとか怖すぎる。
「あんなの街中で使ったら捕まるだろ。目立つのも嫌いらしいから絶対安全だって。気にするだけ損、損」
「捕まるとか目立つとかそう言う問題じゃない気がするけど・・・・。出来る限り頑張ってみるよ」
よしそれでこそ3バカだ。
「で、ユキさんからの質問だけど、別に俺達はいつも一緒って訳じゃないですよ」
「そうなのか?」
「(プルプル)・・・・いつも一緒」
スーリ達の学校生活を唯一知っているイブに聞いてみたら、登下校も含めて常に3人組だと言い、首を小刻みに振ってスーリの話を否定した。
ちなみに学校では紅一点のニコが1番の友達なんだとか。
2番目を聞くのは酷と言うものなので割愛させていただく。
「ニコはモテる」
「そうですね。俺とワンのどっちが恋人かって話題をちょくちょく聞きます」
あぁ~、あるある。子供の頃に一緒にいた男女は絶対付き合ってると勘違いされるアレね。
どこの世界でもそれは変わらないらしい。
恋バナ好きな連中は同世代の三角関係が気になるご様子で、可愛い貴族令嬢の行く末を予想して楽しんでいるんだそうな。
「他人事みたいに言ってるけどルークはわたしとアリスちゃんで同じような噂されてるんだよ。ファイ君とシィちゃんは純愛カップルで」
アリスと恋愛? 無い無い。
彼女はイジメると楽しいドリルキャラなのだ。
怒ると『ですわ』を連呼するもんだから俺もそれに笑っちゃって、さらに逆上してまた『ですわ』が加速するのでアリスは延々怒りが収まらない。
連呼し過ぎてたまに噛むし、ツインドリルが動くこともあるしで楽しい事、楽しい事。
ファイとシィの間には誰も立ち入れない『ラブ空間』が見える時があるから、あれはもう恋人と言っても良いだろう。
次期領主の子供が魔族とのハーフってのが世間的にどうなのかは知らないけど。
「あっ! そうだそうだ。ファイからルークと知り合ったって連絡受けてたんだよ。入学式で出会ったんだろ? 凄い偶然もあったもんだな」
ヒカリの話から親戚の事を思い出したスーリが新たな話題を振って来た。
とは言え遠く離れた地で別々に出会ったってだけだぞ。地域に1つしかない学校だから親戚でいいなら結構な確率で知り合う事になるし。
・・・・親戚?
「最初に会った時ヨシュアってどこの田舎だよ、って言われた気がするんだが」
「・・・・・・親戚多すぎて近場の連中しか覚えてなかったです、スイマセン」
同い年で結構仲の良いファイの出身地を覚えてなかったと白状したスーリ。
そんなんだから3バカ呼ばわりされるんだよ。
「こ、今度! 今度は忘れない様にヨシュアに遊びに行くから!」
「その時はワンとニコも連れて来いよ。知り合いに『こんなに友達居るぞ』って自慢してやるから」
「ルーク・・・・友達3人増えたって自慢するのは恥ずかしいよ?」
「ルーク君・・・・スーリ君達以外にも友達が? ・・・・社交的」
ヒカリとイブ。『友達多い猫人族』と『おそらく3人しか友達が居ない王女様』は俺を注意し、褒め称えるのであった。
久しぶりに再会したスーリと思い出話に花を咲かせて別れた後、気を使って会話に入って来なかったみっちゃんがコッソリ俺に話しかけてきた。
「3人は少ないぞ」
「みっちゃん、勘違いするなよ。1年で3人だ。
つまり1000年生きてるアルテミスさんは3000人の友達が居ないと少ないって言ってるようなもんだからな?」
「・・・・多いな」
だろ?
だからそのコミュ障を憐れむような目をするのは即刻止めてもらおうか。
しかしここでまたもやユキがいらん事を言い出した。
「みっちゃん大丈夫ですよ~。ルークさんの生涯友人数は10人未満ですから~。去年がたままた豊作だっただけです~」
「なんだよその生涯賃金的なやつは!? しかも未満って言ったな!? 9人しか出来ないってか!? そんなもん余裕で超えるわ!!」
「じゃあ出来なかったら無限マヨネーズ製造機作ってくださいよ~」
「上等だオラ!! 余裕だし!!」
携帯に入ってるアドレスだけで20人近くいってた俺には簡単な事だ。
え? 少ない? そもそも友達じゃない?
ええ。会社関係や親戚関係、一度しか使ってないのも多いですけど何か?
アイツは・・・・社会人になってから連絡ないけど友達だし。
こっちは・・・・結婚した事を人づてに聞いたけど友達だな。
あっちは・・・・・・金貸してから音信不通になったけど友達のはずだ。
あの子は・・・・・・ノルマが厳しくてって一番連絡くれたから友達、友達。
「やりましたー! マヨネーズ食べ放題も近いですよ~」
その話を聞いてなんでユキさんは喜んでいらっしゃるのでしょうか?
何故勝ちを確信した笑みを浮かべているのでしょうか?
私にはわかりません。