百六十六話 ハチミツ業界
プレゼントしたハチミツ製造機を非常に喜んでくれたクーさん達だったけど1つ問題があった。
俺の魔道具がハチミツの流通に大きな影響を与えるので、取り仕切っている魔王に話を通す必要があるらしいのだ。
もちろん俺が作ったとは言わずにクーさんが知り合いから貰ったとだけ伝える予定だけど、見ず知らずの魔王に会わなければならなくなったのである。
貴族とかならまだしも魔王って・・・・。
要は魔界にある国の王様だろ? 最高権力者だろ?
怖いじゃん。
「ブーン(大丈夫ですよ。良い人なのでお話は聞いてもらえると思います)」
と、クーさんは問題ないって言うけど王様初心者の俺からすれば新種の魔獣と同じようなもんだ。
何をされるかわかったもんじゃない。
「ガウェインさんも良い人だよ?」
「そうだな、若干影が薄いけど良い奴だ」
まぁセイルーンは平和だけど・・・・ほら、悪い人って絶対居るじゃんか。
魔王はそうじゃなくても息子とか大臣が黒幕ってパターンも含めて、法律で定められているかってぐらいテンプレな悪役がさ。
むしろ汚職も悪事もしてない城なんて城じゃないよな。
つまり俺的には最早セイルーン王城は『城』ではなく、ただの『イブの家』なのだ。
「そもそも初心者って子爵家の次男が王様と知り合う機会はまずないと思うけど、もしかして今後はそういう関係者増やすつもりなの?」
相変わらずヒカリは厳しいツッコミ入れてくるな~。
もちろん平穏大好きなのでノーサンキュー。
『では行くか』
魔界に来た時と同じくみっちゃんに乗る俺とヒカリとイブ。
「魔王城を攻め落とせー!」
「革命だー!」
「? ・・・・だー」
どうせ行くなら楽しもうって事で、龍に乗って王城に突撃すると言うファンタジー展開に興奮してちょっとわけのわからないテンションになってます。
「ゴーゴー!」
「ブーン(あ、暴れないでくださいっ)」
クーさんの足に捕まってパラシュートのように浮遊するユキも、俺達と同じくはやし立てている。
取り合えず楽しそうなので便乗したらしい。
その移動方法を聞いた俺がワンピースを下から覗いたら下着が丸見えになるんじゃないかと飛び立つ前に心配してやったら、
「あらぁ~? 独占欲ですか~? 『俺の女に色目使ってんじゃねぇ』みたいな。グフフ~。
下からは見えない結界を張っているから大丈夫ですよ~。グフフ~」
変な誤解をしたユキが俺の頭を撫でながらニヤニヤしつつ説明してきた。
珍しく気を使ったらこれだよ・・・・。
しかも普段なら「はいはい」と冷静に対応するヒカリも、今回は妙な信憑性があったらしくイブと一緒に「やっぱり年上好き!?」と戦々恐々していた。
もしかして俺が年上の女性を心配したら毎回これですか?
「止まれ! 何者だ!?」
俺が少女達に言い訳していたらいつの間にか領地へ入っていたらしく、魔王城まで辿り着く前に警備していた竜騎士によって止められてしまう。
クーさんはともかく、巨体なみっちゃんは目立つから仕方ないな。
そのみっちゃんが言うには彼らは飛んでいた訳じゃなくて、上空を監視していたら俺達の姿を発見して緊急発進してきたそうだ。迅速な対応ご苦労様です。
まぁそんな状況説明より彼らへの説明が先だな。
でもクーさんがやってくれてるから大丈夫。
「ブーン(魔王のバルさんに用事があるんですけど)」
「ふむふむ・・・・今から城に乗り込む! 魔王、覚悟していろ! って言ってます~」
「ブーン!? (ユキさん!? またですかっ! 違いますからね!)」
事情を知っている俺から見たら空中をバッテンで飛んで否定しているクーさんだけど、不審者から宣戦布告された竜騎士たちは戦闘態勢に入ってしまった。
彼女だけなら客人として扱われただろうけど、今回は俺達も居るし、何よりユキがわけのわからない翻訳をしたから本気で攻めに来たんだと思われてるっぽい。
クーさん、見た目以上に慌ててるんだろうな~。
あ、敵意向けられるのはみっちゃんの結界があるから怖くないです。
所詮はワイバーン。古龍の敵ではないわ! ハーッハッハッハ!!
・・・・強気になるのはしょうがないよね。だって実際ワイバーンさん小さいし、みっちゃんと比べたら弱いもん。
それにしても古龍に喧嘩を売るとか、この人達は最強生物の古龍を見たこと無いんだろうな。
もしかしたら負けるとわかっているけど主のために戦うって忠誠心かもしれない。
今にも戦闘が始まりそうな緊迫した状況で必死に弁解するクーさん。
そして謎の通訳で侵略者風に竜騎士を煽り続けるユキ。
「絶対ユキちゃん楽しんでるよね」
「さっきまでと違う口調」
「クーさんがそんな事を言う訳ないじゃんな」
完全に他人事な俺達は呑気にその光景を眺めるだけだった。
『鬱陶しいな。強行突破するぞ』
別にやりたくも無い魔王との面会イベントをさっさと済ませようとするみっちゃんが竜騎士を無視して移動を再開してしまう。
そもそも声を掛けられたから止まっただけで、拘束されたり周囲を囲まれてるわけではないのだ。
その結果、『魔王城に古龍が頭から突っ込む』と言うラストダンジョンさながらの最高にテンションの上がるファンタジー展開になりました。
みっちゃんの首を渡って城に踏み込んだ時は正直たまりませんでしたね。
剣とか持ってたらそこに居た魔族さんに切りかかってたかもしれない。
「な、なんだ!? 何が起こった!!」
「敵か!?」
「警備兵は何をやっている!」
あ、お邪魔します。
会議の真っ最中だったらしく、突然窓から侵入してきた俺達を見て魔族さんが敵意をむき出しにして睨んでいる。
「フッフッフ~。久しぶりのユキさんですよ~。皆さん元気そうですね~」
「「「ひぃぃぃぃーーーっ! 白い悪魔!!」」」
「ブーン(お邪魔しますね)」
「「「ひぎゃぁぁあああああ!! クイーンさんまでーーーっ!!!!」」」
しかし少し遅れて登場したユキとクーさんを見てその敵意は全て吹き飛ぶ。
どうやら昔ユキが色々やったことを覚えている人も居るみたいだ。
「ガクブルしてる」
「そうだね、半分ぐらい足震えてるね」
目に見えて戦意を失った魔族達の中でも1番ビビっていたのは偉そうなマント付けてる魔王らしき人物だった。
『魔王はどいつだ! 話がある!!』
「「「こ、こここ古龍が怒り狂ってるぅぅぅーーーーっ!!!!」」」
みっちゃんまでノリノリで脅迫し始めたからもう収集つかない。
そりゃ窓から首だけ突っ込んだ状態で怒鳴られたら怖いって。
止めてあげなよ。ほら、気弱なマントおじさん(たぶん魔王)が可哀そうなぐらい涙目で腰抜かしてんじゃん。
心なしか股間部分が変色しているような・・・・漏らしたか?
「ほほぉ・・・・つまりハチミツの質が格段に向上すると。その報告に来たのだな」
皆に仕事を言い渡すと言う名目で一時退出した魔王バルさんは、チワワのような小動物から一遍。魔王の威厳タップリに話し合いを始めた。
いや、アンタは散々痴態を晒してるから今更取り繕っても意味ないぞ。
ズボンが変わってるけど何故着替えた? 着替える必要あったのか? ん?
・・・・まぁいいか。それよりハチミツだ。
その業界を取り仕切っている当事者の魔王とクーさん、そして通訳としてユキの3人で話を始めた。
危険はないと判断した魔王軍幹部は逃げて・・・・もとい仕事があるので出て行ったし、俺達は話し合いに参加しても仕方ないので必要な事以外は喋らないようにしている。
「ブーン(流通量も格段に増やせるので一応連絡すべきかと思いまして)」
「こちらは量産体制に入っている! 問題はそちら側だぁ・・・・。この成果に見合った事はしてくれるんだろうな!? って言ってます~」
時に威勢よく、時に静かに威圧しながら通訳するユキは侵略者感たっぷりにバルさんへ説明する。
でもクーさんは間違いなく言ってない。
「・・・・(コソコソ)あの、本当に言ってます?」
「いやアイツの言ってることは気にしなくていい。クイーンはおそらく量産体制に入ったとしか言ってないはずだ」
バルさんもみっちゃんに確認取るんじゃない。さっきまでの威厳はどうした。
なんかこの人、常に下手だから魔王っぽくない。
俺達人間も全く見下してないし、ユキ達強者に至っては土下座しながら会話してないのが不思議なぐらいだ。
「でも強いよ。1人で王国騎士団を壊滅させられるかも」
「さすが魔王さん」
いや、イブは自分チが無くなるかもしれないんだからもうちょっと危機感持とうよ。
みっちゃん居れば問題ないだろうけど、一応ね。
「ほほぉ~貴様、セイルーン王国を壊滅させに来るか? 私はこの子の王城で厄介になってるアルテミスと言う者だが、今後戦争するなら相手になるぞ」
しかし2人の雑談を聞いたアルテミス様は、近寄っていたバルさんの首根っこを掴んで脅し始めてしまう。
「トンデモナイ! ハチミツ産業が忙しくて争い事なんてここ100年やってませんよ」
平和でなりより。
でも魔王としてはどうなんだろう? 人間の領地を求めて侵略とかやった方がいいんじゃないか?
俺が言うのもなんだけどさ。
「そう言う魔王も居ますけどね。俺は金の力で解決する方が好きなんですよ。昔クイーンさんに出会ってから改心しました」
圧倒的な武力の前に屈してしまったらしい。
物には限度と言う物があり、それを超えた時、魔王は金儲けに走る。
「それ教訓になるかな? どこで使うの?」
「バルさんが引退した時に」
クーさんが居る限りその連鎖は続くだろ?
それから何の問題も無く、むしろ歓迎された俺達はハチミツ業界の発展を願って別れる事となる。
その別れ際、魔界に来たら絶対聞こうと思っていた事をバルさん達に質問してみた。
「おふたりはベルフェゴールって知ってます?」
それは元魔王ベーさんの事だ。
今でこそのんびりまったり代表な彼女だけど、実は昔はブイブイ言わせていたとか何か武勇伝があれば聞いてみたかったのである。
「いや? その人は魔族なのか?」
「私も知りませんね」
しかし魔王バルさんも執事さんも知らないと言う。
「それならいいんです。知り合いの魔族が有名人なのかな~って思っただけなんで」
なんだ、元魔王って案外大したことないんだな。
まぁ働かなくてすぐ首にされたって言うぐらいだから知名度は低くて当然か。
『・・・・今度誰かに尋ねる時は『怠惰』を知ってるか、と聞くがいい』
森への帰り道で残念そうにしていた俺にみっちゃんが説明してきた。
あれ、二つ名が有名なパターンですか?
でもその展開からして絶対大騒ぎになるんで止めときます。
やっぱりベーさん凄い人みたいです。