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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十二章 王城生活
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閑話 猫の手食堂にて

 ここは猫の手食堂の奥にある従業員居住区。


 とある日の深夜。


 その中の一室、ニーナの自室で全従業員が集まって会議をしていた。


「第5回! ニーナをルークさんとくっつけよう会議~。司会進行はわたくしユチが担当します」


 パチパチパチ~。


 進行役のユチの他に、主役のニーナ、そして従業員のリリ、フェム、アン、アールが拍手で場を盛り上げる。


 ちなみに今回で5回目となるこの会議だが、『イブとの激闘後』はともかく『オルブライト家へ遊びに行ったら学校の友達と遊ぶからと断られた』など些細な事でも度々行われているので、ニーナ以外は全員お遊び感覚で参加している。



 全員の拍手が鳴りやんだところでニーナから話を聞いたユチが詳細を語り始めた。


「今回はなんと・・・・・・・・ニーナが旅行に連れて行ってもらえなかったと言う事です!」


「置いて行かれた」


 無駄にタメて周囲の緊張感を煽ったユチだが、その顔は笑っていたので今回もニーナで遊ぶ気満々のようだ。


 先日ルークと遊ぼうとしたニーナがオルブライト家へ行ったことから発覚した衝撃の事実。


 それはそれで楽しい時間が過ごせたものの、結局目的の人物とは会えなかった悲しみから帰った直後にその事をユチに愚痴ったニーナ。


 で、ユチが毎度の事ながら親友のために立ち上がったと言うわけである。


 ニーナはニーナで「行きたかった」「最近冷たい」と不満タラタラだ。


(((それは人手不足だから仕方ないんだけど・・・・)))


 忙しい食堂で連日働いているユチも当然理解しているが、それに関してはどうしようもないので内心で同情するしかなかった。


 直接は言わないだけで、大人達はニーナに長期休暇を取らせるわけにはいかないのだ。



 それでもニーナがルークと仲良くなることには大賛成な皆はそれぞれに意見を出し合う。


 それはそれ、これはこれ、なのである。


「やっぱりルークさんを落とすなら獣人って事を前面に押し出すべきだと思うんだよね~」


「語尾をニャにするかニャ? 恋愛対象外とか言いながらチラチラ私の方を見ることがあるのはきっとこのせいだニャ。獣人萌えだニャ」


「・・・・そんなことが?」


 どうやらリリの話からルークの変態性が垣間見えてしまったらしく、従業員全員が引いている。


 まぁ流石に母親と同年代の女性に性的興奮を覚えるのは変態としか言いようがない。


「それとルークさんと言えばツッコミ! キラーパスも華麗に拾うナイスなツッコミ!!

 つまりニーナがボケればルークさんはツッコまずにはいられないはずだよ。楽しい恋愛の始まりだね」


「ニーナ、何かボケてみるニャ」


 間違いなく重度なケモナーなルークだが、同時にツッコミ職人としても有名なのだ。


 ユチの言う事に賛同したリリが早速娘へ無茶ぶりをする。



「・・・・・・・・・・布団が吹っ飛んだ」



(((さ、寒い・・・・)))


 散々悩んだ末、ニーナは渾身のギャグを披露したが残念ながら部屋の空気は凍り付いてしまう。


 いくら口下手なニーナとは言え、流石にこの空気は察することができたらしくオタオタと慌て始めた。


「そ、それはちょっとツッコミづらいかな~。

 ハッ! 今気づいたけど喋るのが苦手なニーナは会話でのボケが出来ない!?」


 一言二言でボケるにはニーナは圧倒的にトーク力不足。


 まず根本的な解決をする必要がある、と全員がニーナの話術向上の方法を話し合い始めた。



 いの一番に解決策を思いついたのは食堂の中でも接客に定評のあるユチ。


 残念過ぎる親友を放って置くわけもなく彼女は救いの手を差し伸べる。


「仕方ない。私が将来彼氏に使おうと思っていた、とっておきのネタを授けよう!」


 ザワザワッ!!


 ユチの一言でリリ以外の大人達がざわつく。


 この猫の手食堂で既婚者はリリのみ。他の皆も焦ってはいないものの、子孫繁栄のためにもいずれ良い人と結婚したいと思うのは生き物として当然の感情だった。


 そしてまさかの最年少ユチから彼氏発言を聞いてしまったのだから、年上としてのプライドなども相まって動揺してしまうのは仕方のない事だろう。


 ちなみにニーナは皆のマスコットなので勘定から外されている。


「ユチ、彼氏居るの? 私は居ないのに? まさか10歳以上年上の私を差し置いて結婚したりしないよね? ね? ね?」


「ちょ、ちょっとアン、目が怖い」


 ユチに詰め寄る友達だけは多いアン。


 そんなたくさんの友達の中に彼女の御眼鏡に叶う男性は皆無だった。


「フン! フン!」


「アールさん、そのボディーブローは人形だけにしてくださいね」


 リリと同い年の元冒険者アールが、ニーナの部屋にあったデフォルメされたガルム人形(ガルム君 定価銀貨1枚)へドスンドスンと強烈な乱打を始めた。


 流石は冒険者だけあって素晴らしい切れ味だ。まだまだ現役で行けそうなほどである。


「・・・・ギリッ」


「フェムさん、フェムさん。尋常じゃない魔力が溢れ出てますから」


 一見興味なさげにそっぽを向いているフェムは歯軋りをしてイラ立ちを露にする。


 オルトロスと言う正体は隠して犬人族を名乗っているのだが、絶対に犬人族では出せないだろう量の魔力を体から放出させていた。



 怖いお姉様方に囲まれたユチは部屋の隅に追いやられ、


「しょ、将来だからぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」


 今は居ないと断言する彼女の叫びが部屋中に響き渡った。



「これは定期的に合コンを開いた方が良さそうだニャ~。とは言え、ロア商会中に食堂の怖さは知れ渡ってるニャ・・・・。他の知り合いを探すしかないかニャ」


 店長として部下の不満を解消するべくリリが色々計画立てているが、今は関係ない話である。




 妹のように思っていた子に先を越される恐怖を感じて暴動を起こしかける女性達をなんとか鎮めた後、その切っ掛けとなった渾身のギャグをニーナに伝えるため再びユチが話を進め始めた。


「これは獣人好きなルークさんなら一発で魅了出来る、必殺のボケ!」


「それは・・・・?」


 男を落とす技と聞いて静かに聞き入る大人達。


 もちろんニーナも真剣な表情だ。



「ずばり・・・・『猫が寝転んだ』っ!!

 ベッドに寝転びながら猫人族のニーナがそう言えばルークさんは間違いなく落ちる!」



 そう言って実際にニーナのベッドに横になって猫の様なセクシーポーズをとるユチ。


 チラリと見える腹や背中が非常に背徳感を醸し出す格好である。


「いいですか! 我々獣人の売りはこのスレンダーな体なんです!

 腰のくびれを見せつけて、尻尾を絡めて、こう体を丸める!」


 しかもその体勢のまま何やら熱く語り出した。


「場合によっては相当親密な関係にまで発展するニャ。ユチ、エロエロだニャ」


 男女が同じ部屋に居る状態で女の方からベッドに入ればエロエロではある。


 そんなツッコミをする人は誰もこの場に居なかったが・・・・。


「だから将来的にって言ったじゃないですか。あっ、ちなみにこれで母さんはソーマさんを落とせたそうです」


「「!?」」


 今明かされる驚愕の事実!


 猫好きな男性を落とせるテクニックは実用性抜群であることが証明された今、猫人族のアンとアールにとっては他人事ではない。


 何度も言うが大人な彼女達が異性と2人きりでベッドに寝転んだ時点で言葉など必要無いのだが・・・・。


 そんなことは考えず2人はユチの行動を脳内再生して予行演習を始めた。



 さらにユチの助力によって母親がゴールインした事を告げられたフェムが話しかける。


「犬人族用に何かないですか? いえ、ワタクシが使いたいわけではなく友人のために。そうワタクシではありません。ワタクシは焦ってなどいないのですから」


 やけに必死な彼女は「是非」とユチに教えを乞い始めた。


「ん~・・・・『犬の尻尾にワンタッチ』って言うのがあるけど、恋人同士なら尻尾じゃなくて耳にした方がエロいね。もちろんお尻好き相手なら尻尾だけど」


 獣人の耳とは胸と同じぐらい触らせないものなのだ。


 軽い気持ちで言ったユチのアドバイスを真顔に聞いているフェムの目からは計り知れない熱意を感じた。


 決して人のために覚えているわけではないだろう。



「ユチはボケ上手」


「だニャ~。よくスラスラ出てくるニャ~」


「ルークさんと話してたら自然と身に付くけどね。あ、いやいやニーナを差し置いてイチャイチャする気はないから『猫が寝転んだ』は使ってないよ。だから睨まないで」


 自分よりルークと楽しい会話をしていることが気に食わなかったのか、話し上手な親友を妬ましく思ったのか、どちらにしろユチに鋭い視線を向けるニーナ。


「・・・・・・(ボソッ)実は最近『な』が言いにくくなってきたのは言わない方がいいよね。これで私が『ニャ』とか言い出したらニーナに何されるか・・・・ブルブル」


 賢明な判断である。確実にルークを誘惑していると勘違いされるだろう。



「猫が寝転んだ・・・・猫が寝転んだ・・・・猫が」


 ニーナはニーナで想い人が帰ってきたら実践するつもりなのか、柔道の受け身でも特訓するように『ドッスン! ドッスン!』と大きな音を鳴らしながら自らのベットに飛び込んで忘れないよう同じセリフを繰り返していた。


「良いよ、良いよ~。もっとお尻を突き出したり、ぶりっ子なアドリブも入れて~」


 発案者としてユチが真面目半分、面白さ半分にニーナをからかっている。


(((たぶんニャって言いながら猫人族を前面に押し出した方が良いと思う)))


 教えられたことを忠実に再現するのに必死なニーナが、そんな従業員達の内心など知る由もない。


 そして誰もコンボ技を提案しないのは思いつかないのか、自分だけが使うつもりなのか・・・・。


 事の次第によっては今後の関係にヒビが入りそうである。

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