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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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二十三話 フィーネ町に着く

 ――今だ。


 援軍も到着し、盗賊の処理も始まった。これ以上ここに留まる理由はない。フィーネは静かに息を整え、気配を霧のように薄めていく。あとは人知れず背を向けるだけ。


「改めて……助かりました。正直、私達だけではいっぱいいっぱいで……」


 背後から投げ掛けられた声に、フィーネの足がぴたりと止まる。


 女護衛の発言が嘘であることはわかっている。彼等には余裕があったし、現に無傷で乗り切った。自分と交流を持つための方便だ。


 それでも足を止めてしまったのは、フィーネの優しさと、あまりにも絶妙な呼びかけのタイミング。そして逃げたところで必ず追い掛けてくるだろうクレアへの信頼である。


 その一瞬の迷いが彼女を泥沼へ引き込んだ。


「そうッス! 実はオレよりルーの方が真っ先に逃げようとしてたッス!」


 ゲシッ!!


 無言で青年の尻を蹴り飛ばす女護衛。


「あっ、自己紹介がまだでしたね!」


 ルーは咳払いしながら胸に手を当てる。


「私はルーと申します!」


「ノッチッス!」


「「よろしくお願いしまーす!!」」


 大仰に頭を下げる二人。 まるで嵐の渦に巻き込まれるように、フィーネの退路は塞がれていた。


 だが、聞き逃すわけにはいかない者が一人いた。


「逃げようとしていたじゃとォ~?」


「や、やだなぁ、クレア様。そんな本気にしないでくださいよ。ノッチのいつもの冗談ですって。この前の商品傷を私にチクられた腹いせですよ」


「え~? でもルー、いつも『盗賊なんて切り捨てればいいのに。クレア様は評判を気にするけど、悪を滅ぼした方が感謝されるわ。そのせいで怪我するのは御免よ』って言ってるッスよ?」


「やだわ、ノッチったら、盗賊に頭殴られて記憶がめちゃくちゃになってるのね」


「何言ってるッスか。アクア支部の連中ともよく笑いのネタに――」


 ゲシッ!


 ルーが再び無言でノッチの尻を蹴り上げた。


 反射で足が出る女と、反射で口が滑る男。相性は最悪で、同時に最良だった。


「二人共、後で話がある」


 クレアの一言に、二人はピタリと口を閉じる。


「「……はい」」


 後ではなく今すぐやってもらって構わない。


 目の前で繰り広げられる茶番を眺めながら、フィーネは礼儀も常識もかなぐり捨てて、この場から消えようかと真剣に考えていた。



「お主、アクアには立ち寄るつもりなんじゃろ? ならば共に行こうではないか。お礼の件は車内でゆっくり話すとしよう」


「……何故そう思われるのですか?」


 その場しのぎの提案が裏目に出た。少し前の自分の発言をそっくりそのまま使ってきたクレアに対し、フィーネは苦し紛れの反論をする。


 ここで違うと言ってしまうとアクアで再会した時に面倒なことになる。相手の発言や推測から反撃の糸口を見つける作戦だ。


「ふっ、簡単な推理じゃ。南から来たということは北……つまりここ、アクアへ向かっておるということ。遠方から来てこの街に立ち寄らんとも思えん」


「ガバガバじゃないッスか……」


「ええい、うるさいうるさい! 否定せんということは、合っておるということじゃろ! 違うというならそう申してみよ。それでもしアクアで見掛けたら……そうじゃな、意地でも住所を特定してやる。一直線に進んでいたとすればここから南にある町のいずれかじゃろ」


「この人、権力与えちゃ駄目なタイプッス……」


「嘘つきに人権はないんじゃ。商売の基本じゃぞ。顔も見せず名乗りもせず礼も受け取ろうとせん相手に、今すぐやらんだけ理性的じゃろ」


 などと言いながら誇らしげに胸を張るクレア。


 推理と拘束。二つを同時に成功させたことが嬉しいらしい。


(まあ町で別れればいいでしょう。ゼクト商会で塩樽を詰む荷台や竜も買えるかもしれませんし。もし塩づくりの邪魔になるようなら……)


「な、なんじゃ? 急に寒気が……」


 周囲をキョロキョロと見渡すクレア。フィーネは素知らぬ顔をして「では早く参りましょう」と言うのだった。




「では、我等は一足先に帰らせてもらう。あとは任せたぞ」


「「「うーっす」」」


 護送の準備を進める一同に別れを告げたクレアは、フィーネと護衛二人と共に馬車に乗り込んだ。御者はルーが担当する。


「こちらに座るのじゃ」


 差し出された席は後部座席に相当する位置。風景を俯瞰でき、進行に合わせて安定している。フィーネはため息をつきつつも、無言でその席に腰を下ろした。


「ふむ……悪くないですね」


 静かに車輪の軋む音や馬の息遣いを聞きながら、フィーネは視線を遠くの地平線に向ける。普段なら人目を避けるために空を飛ぶが、今回は背後を気にする必要もない。安心感は少しだけ肩の力を抜かせた。


「さて……お主、エルフじゃろ?」


 次の瞬間、クレアは一呼吸おき、核心を突いてきた。


「違いますが?」


 しかしフィーネは一瞬たりとも動揺することなくこれを否定。こういった場合、返答に詰まるのは肯定しているのと同じということを、彼女は長年の経験から理解していた。


「隠さずともよい。それだけの魔術を使える人間はよほど人生に絶望しておらん限り、一人旅などせん。冒険者としてパーティを組むか、王宮で優雅な暮らしか、地下で怪しげな研究をしておるわ」


「凄い偏見ッス……」


「事実じゃろ」


 たしかに力を持つ人間は変わり者が多い。変わり者でないのが変わっていると言われるほど。


 ノッチのツッコミを一蹴したクレアは、反論の有無を確認することなく、さらに根拠を突きつけていく。


「じゃがお主からは人生への迷いが一切感じられん。希望に満ち溢れておる」


(この方……直感に近いものですが精霊術を行使していますね……)


 精霊術とは世界を構成する精霊・微精霊と対話すること。極めれば新しい物質を創り出したり自然現象に干渉することすら可能になる。


 クレアは精霊術の入り口『雰囲気を感じ取る』をおこなっていた。


(今はまだ商人として培った技術としか思っていないようですが、もしかしたらいずれ……ふふっ、これは予想外の収穫ですね)


「む? なんじゃ? 何がおかしい?」


 フィーネは内心で笑っただけ。話を続きを聞く姿勢を見せていたのだが、そんな彼女の心の機微を感じ取ったクレアは眉をひそめる。


「私を人間でないと感じた理由はそれだけですか?」


 が、フィーネは説明されるのを待っていただけだと主張するように質問を無視し、話を続ける。


「いや、まだある。一般的な魔族なら八割は体躯で、二割は顔を見れば判別できるが、お主はこれにも当てはまらん。変装している様子もない。そして極めつけはその圧倒的な魔術。エルフか魔族だと考えるのは当然のこと。その落ち着きようと人助けの流れ――好戦的で一般常識に欠ける魔族より、エルフの可能性が高いというわけじゃ」


「交流を持ちたくないだけやハーフエルフという線も残っていますが?」


「それこそ冒険者か地下で怪しげな研究をしておるわ。少なくとも我の知っておる連中は、人類に興味が無いか、人類を見下しておるか、力に溺れておった。気まぐれで助けたりはせんし、助けたとしてもすぐに去るじゃろうな。いくら引き留められたからと言って大人しく従うことはない。違うというなら耳の部分だけでも見せてみよ」


「やれやれ……魔術一発で正体を見破られたのは初めてですよ」


 よほど人を見る目があるのだろう。年齢の割に裏のある人間と接する機会が多いのかもしれない。


 最後の砦のハーフエルフ策も潰されたフィーネは、諦めてフードを脱いで正体を明かした。


 何より彼女自身クレアという少女に興味があった。


「おおーっ! 噂には聞いてたスけどエルフって綺麗ッスね~!」


「せ、せ、精霊術を教えてもらえないかしら!?」


 フィーネの正体を知って沸き立つノッチとルー。


 ゼクト商会ほどの世界的大企業でも、エルフの知り合いは数人のみ。一族のクレアですら駆け出しというのもあって人間界で暮らしているハーフエルフと一時期交流を持つのが精々。滅多に隠れ里から出ない純血のエルフが、末端の彼等と無縁なのは言うまでもない。


「銀髪……? エルフは全員緑髪と聞いておるぞ?」


「ごく少数ですが緑髪以外のエルフもいるのですよ」


「そういうものか。まあ我もそれほどエルフについて知っておるわけではないしな」


「それで? クレアさんはエルフの私をどうするおつもりなのでしょう?」


 フィーネは定番のリアクションを取る二人に心の中で聖母の笑みを浮かべ、一切反応を示さないクレアにやや威圧的に問いかけた。


 それは間違いなく今後の関係を左右する質問だ。


「いや、どうもせんよ。助けてもらった人種がたまたまエルフだったと言うだけじゃ」


 しかしクレアは臆することなく即答。それどころか呆れた表情を浮かべる。


「意地の悪いヤツじゃな。我がこう答えることもわかっておったんじゃろ? この質問さえも」


「ふふふ……どうでしょうね」


(彼女にはルーク様とも関係を持っていただいた方が良さそうですね)


 こうしてフィーネは、クレアと、クレアを信じて傍観していたルーとノッチの評価をさらに上方修正すると共に、今後の末永い付き合いのために動き始めた。




 馬車は草原を滑るように進む。


 道の両脇に広がる野原を抜け、ゆるやかに丘を下り、次第にアクアの水辺が見え始める。空に反射する水面の輝きは、フィーネにとって久しぶりに見る穏やかな景色だ。魔力の流れも澄み渡り、風が耳元を撫でる。


 そして一行は水の都アクアに到着。


「この度は本当に助かった。困ったことがあればいつでもゼクト商会を頼ってくれ。まだまだ力不足じゃが出来る限りのことはさせてもらおう」


 短くも濃密な時間を過ごし、もはや友人と呼んでも差し支えない者との別れを、十歳という年齢からは想像もつかないほど大人な対応で惜しむクレア。


 その顔には、自分の恩返しはこんなものではないという逆パワハラと、再会を確信した、屈託のない笑みとは程遠いやる気に満ちた表情が浮かんでいる。


「私達各地を転々としてますけど、しばらくは町の中央の商店にいるので、困ったことがあれば気軽に頼ってください!」


「結構暇なんでいつでも来てほしいッス!」


「あっ、そうだ! もし良ければアクアを案内しましょうか!?」


「ついでに訓練場で精霊術を教えてもらおうなんて思ってないッス!」


 ゲシッ!


「イッテェ! 何するんスか!?」


 突然相棒に尻を蹴り上げられたノッチは、理解が追いつかず、当然のようにルーを批難。説明を求める。


「黙りなさい。それよりあっちを気にした方が良いわよ」


「……え?」


 本心を暴露されたルーにとっては当たり前の、悪気のないノッチにとっては理不尽な状況を『肩を竦める』という呆れの象徴で流したルーは、そのままの調子でアゴで後方を差す。


 八つ当たりかと思ったが違うらしい。怒りとはかけ離れた相棒の様子を不審に思いながら視線を向けると、そこには鬼の形相で睨むクレアの姿が。


「ひ、ま、じゃ、とぉぉ~~?」


「ひ、ひいいいいっ! ち、違うんス! ここの従業員が優秀過ぎるんッス! だから……だから……」


 荷台へと引きずられていく子羊は、そもそも「護衛に商品知識って必要なんスかね?」と度々愚痴を溢す問題児。これを機会にみっちりと商人魂を叩き込むつもりなのだろう。


 ルーも「最近ちょっと弛んでます。厳しくしておいた方が良いですよ」と、罰を重くするようクレアの耳元で進言。口元は当然ニンマリ。


「お元気で」


 最後まで“らしい”三人をフィーネは笑顔で見送る。


 フィーネとて名残惜しくはあるが、縁があれば再び出会い、なければ永遠の別れになるだけのこと。感謝も別れの言葉も道中で散々交わした。引き留める理由はない。


(予定より遅れてしまいましたが、それを補ってもあまりある有意義な時間でしたね)

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな奴と関係持ちたく無いぞ普通に関係持たせるならもう少しまともな性格にさせろよ。
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