百六十三話 仲が悪い女王達
王城生活3日目。
流石にこれだけの期間一緒に暮らせば、お忙しい王族の方々ともそれなりに顔を合わせる機会があるので名前も覚えてくるってもんだ。
その中でも初日の挨拶から俺が気になっていたのは2人。
第1女王様と第3女王様である。
以前、第2女王のユウナさんがウチに来た時に少し聞いたけど、国王には絶対に子供が必要なので奥さんが3人も居て、その全員が仲良しだと言っていた。
だからこそ聞きたかった。
ぶっちゃけ旦那のハーレムをどう思ってるのか?
そして本当に女王様同士の仲は良いのか?
その機会は予想外の形で訪れることになる。
「ワタクシとしましては、ルークさんを中心に回っているように思いますの」
「はぁ・・・・」
朝食後にイブ達と今日の予定について話し合っていたら、突然第1女王の『アンジェリカ』さんに呼び出され、今俺は彼女の寝室で1対1の相談を受けている。
その内容は「ユウナさん達だけズルいのではないか?」と言う驚きべきものだった。
イブを初め、ユウナさん、その子供達のマリーさん、コレットさん、レ、レクサス君(?)と言った第2女王一家を贔屓にしているのではないか。
エルフのフィーネや、精霊とはバレていないものの凄い人物であるユキ、神獣のアルテミス、遠く離れた王国にすら名が轟いているロア商会。それら全ては俺を中心としているのではないか。
そんな話だ。
まぁ婚約者の家族だから覚えようって言うのは間違いじゃないし、贔屓も何もイブと交流していたら自然に彼女達と顔を合わせる機会が増えるのでどうしようもない。
しかしそう伝えても一向に納得する様子のないアンジェリカさんは、俺にもっと自分の子供達とも親睦を深めて欲しいと言ってくる。
もちろん王族と交流するのを今更嫌がっても仕方ないので仲良くなれと言われればなるけど・・・・。
そもそも大会が終わった今、色んな人への挨拶周りで忙しい第1女王一家と顔を合わせることが出来ないのだ。
と言うか、イブ以外全員が忙しそうなので同じ城内に居ても1日1回顔を見るかってぐらい会わない。
ちなみにこのアンジェリカさん。聞くところによると結婚前は某国のお姫様だったらしく、ガウェインさんとは政略結婚したと言う話。
しかもユウナさんはガウェインさんの幼馴染らしいので、世間から見れば『王様から愛されてるのはユウナさん』と思うのは至極当然だろう。
だからなのか、先ほどから頻りに「ウチの子もどう?」というお誘いを受けるし、「会えないから無理」と理由を説明しても聞き入れてもらえない。
これ以上ユウナさんが優位に立つのは許せないって事か?
やっぱり女王様同士の仲はよろしくないようだ。
そしてそれを証明するようにアンジェリカさんが凄い事を言い出した。
「ルークさんと親しくなればワタクシの立場も変わるはずですわっ!
あの女狐、生意気にも役立たずのイブを使ってこんな素晴らしい人材を抱え込むなんて!
ユウナは昔からそう! いつも、いつもワタクシの邪魔ばかりする! 何度あの策士を追い出そうと思った事か・・・・」
はい、決定打が入りました~。
この人、腹黒な怖い人でした~。
「あ、あの・・・・何故そんな話をほぼ初対面のボクなんかに?」
いくら凄い知り合いが多いとは言え、現状どちらかと言えば女狐サイドの俺に内情を打ち明ける意味がわからない。
1人呼び出された時点で嫌な予感しかしなかったけど。
「もちろん友好的な関係を築きたかったからですわ」
真っ黒な腹の中をぶちまけた貴方と友好も何もない気がするんですが・・・・。
え? まさか本心を話したら仲良くなれるとでも思ったの? それがどんなに悪態でも? ないないない。
「時間はタップリありますから」
そうニコやかに言ったアンジェリカさんが指パッチンをすると、ドアの向こうで施錠の魔術が発動した。
イブとの初夜と同じ状況ではあるけど、あの時以上に危険な臭いがプンプンする。
「っ・・・・な、ななななぜ閉じ込めるんでしょうか!?」
「大事なお話を邪魔されたくありませんもの」
今日一番の素敵な笑顔を見せるアンジェリカさん。
でも俺にとっては古龍の興奮状態より怖い目をしていた。
大体邪魔されたくないなら最初から施錠してればいいじゃないか。何故今になって?
ここは逃げるべきだ! 絶対に!
「あ、あ~。急にトイレに行きたくなっちゃったな~。少し退席してもいいですか?」
「ダメですわ。粗相をしてもメイド達が綺麗にしてくれますのでそのままどうぞ」
漏らせとおっしゃる!?
元お姫様で現女王様の前で排泄しろと!?
・・・・・・ハッ、少しでもやってみたいと思った自分が恥ずかしい。
「ユキさんからお聞きしましたが、ロア商会の方でも画期的なアイデアを出されているそうで。あのリバーシにも一枚噛んでいるとか」
「ほぼ完成してる物を子供の視点から好き勝手に言ってるだけですよ」
俺はタダの子供です。だからここから出して。
あとジリジリ寄って来てるのはなんでですか?
「ルークさんはそう思っていても、周りにとっては素晴らしい意見なのですよ。しかもその年でイブ以上の魔道具製作者でもあるとか」
「いやいやいや、数が多いだけで役立つ物なんて1つもありませんよ」
ここで真実を伝えたら楽になるのかもしれないけど、その後が怖いので表向きの設定を貫き通す事にした。
俺の言い分を聞いたはずなのに、さらに距離を詰めるアンジェリカさんは俺に触れるほど近くまで来て耳元で囁く。
「ワタクシの娘達も一緒に娶ってもらえませんこと?」
「い、いや・・・・あの・・・・お美しい方々だとは思うんですけど!
ちょっとイブとの関係が近いと言いますか、今まさにアンジェリカさんが近いと言いますか」
詳しくは覚えてないけど王族はみんな美男美女だらけだったので美しい人なのは間違いない。
『美女、美少女と仲良くなる事には積極的』と有名な俺だけど、流石にイブの姉妹まで手を出すほど愚かではない。
それが例え母親公認で、娘さんが「是非!」と言っていたとしてもだ。
「ならワタクシの実家に居る従姉妹ならどうでしょう? セイルーン王家に劣らない王族達ばかりですわよ」
「イブの血縁はちょっと・・・・」
「あぁ~、なるほど。では代々使用人として尽くしてくれている獣人なら構いませんわね。丁度ルークさんと歳の近い娘が数人居ますわ」
じゅ、獣人だと!?
「・・・・・・・・・・お、お断りしまうっ!!」
噛んでない。俺は噛んでないんだ。
血の涙を流し、決死の覚悟で誘惑を断った時、自然とこうなってしまうものなのだから。
「本当に? 普段はメイドとしてお戯れをし、夜は妻としてモフモフ出来ますのよ?」
っ! そ、それだけは想像しない様にしていたのに・・・!
「・・・・み、皆を・・・・・・皆を裏切ることは出来ますぇん!」
今度は噛んだだけです。
「出来ます、と仰いました?」
『お前さっき断ったよな?』とでも言いたげに不信感を露にするアンジェリカさん。
肝心なところで噛んだので妙な雰囲気になってしまった。
俺に今一度チャンスをください!
「いえっ! 出来ません!」
よし言えたっ!
「そうですの・・・・」
部屋中に響くほど大声で拒否してしまったので、アンジェリカさんは悲しそうに身を引いた。
わ、悪い事したかな? もうちょっと良い言い方があったかもしれない。
相手は女王だぞ。失礼の無いように断るのが普通じゃないか! 俺の馬鹿!
「いや~、良かったですね~」
「ハラハラした」
「ルークってば獣人の件で迷ってたし」
すると突然部屋のドアが開いて王族達が次々に入って来た。
いや王族だけじゃない、よく見るとユキ達も混じっている。
「ど、どう言う事? 何? 俺、ドッキリ仕掛けられたの?」
まぁ既に見慣れた光景だけど、いつも通り俺を無視して勝手に盛り上がる一同。
「アンジェリカ、演技だと知っていてもドキドキしたぞ」
「私、本当に恨まれてるのかと思いましたよ」
事情を知っているガウェインさんとユウナさんですら冷や汗モノもだったらしい。
「全く・・・・心優しいワタクシが胸を痛めながら演技していたのに、何故そのような事をおっしゃるのですか?」
いえ、迫真の演技でしたよ。鬼気迫る物を感じました。
演技と言われた今でも内心では少し考えてたんじゃないかな~とか思ってます。
「ワタクシ達は仲良いですわ! お友達であり、良き理解者ですもの」
まぁそう言う事にしておこう。
人妻にあるまじき可愛い怒り方をしたアンジェリカさんは、疲れた様子で本日の仕事に取り掛かった。
このドッキリだけど、なんて事はない。
極一部の人間からハーレム王と呼ばれる俺がイブを大事にしないんじゃないか、と不安になったユウナさんやアンジェリカさんが一芝居打ったのである。
そんな事を心配するほど女王達は本当に仲は良いらしい。
「ワタクシの娘を娶ると言う話は本気にしていただいて構いませんのよ?」
アンジェリカさんが最後に変な事を言っていたけど、俺の甲斐性はそろそろリミットオーバーですので断ります。